真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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竜馬編 第4話 「空虚な闇の底」

1983年 1月15日 月面

 

竜馬は謎の赤い甲冑ジジイの乗ってきたと思われる宇宙船とともに月面基地へと近づいた例の赤蜘蛛を倒しながらある疑念を感じていた。

 

(……おかしいぜ。 何なんだこいつらは?)

 

この基地に初めてやってきた時に比べて動きに敏捷性が感じられなかったのだ。

 

群れから外れた最後の一体に止めを刺そうとゲッター1を駆る。

 

トマホークを振り下ろす段階で竜馬はソレに気づいた。

 

「こいつ! 死んでいるのか!?」

 

その個体はまるで死んだように活動を停止していた。

 

BETA撃退のため機械化装甲ハーディマンを装備した国連兵を竜馬は無視してゲッター1を基地へと戻らせる。

 

(死んだ虫野郎のことはどうでもいい)

 

この月に飛ばされて初めてあった人間との喧嘩の方がよっぽど竜馬の興味を引いていた。

 

(ジジイに日本刀……胸糞悪い。)

 

竜馬は月面基地へと戻り、ゲッター1を下りた。

 

「続きだ! ジジイ!!」

 

竜馬が勇んで雷電との喧嘩を続けようとするが、そこには刀を置いて、正座した雷電が待っていた。

 

雷電にはもう敵対する意思がなかった。

 

敵対する意思のない奴に攻撃しても仕方がないので竜馬はその態度に拳を下ろす。

 

この世界の状況をこの男から聞きだそうと竜馬は口を開いた。

 

「おいジジイ! 俺にわかるように説明しろ! ここは何処だ? あいつらは何だ! 真ドラゴンは一体どうなった!?」

 

雷電に近づき、竜馬が問いただした。

 

「儂は国連宇宙軍御剣雷電中将だ。まずは名を聞こうか。」

 

自己紹介が先だと言わんばかりの有無を言わさない態度だ。

 

「チッ! 俺は流竜馬だ。」

 

相手にならって竜馬も自分の名前を告げた、しばしの後。

 

「ここは月面だ」

 

「ンなことはわかってんだよ! あの気味の悪い生物は何だ!?」

 

「貴様BETAを知らないのか?」

 

雷電と名乗った老人は信じられないといった表情をした。

 

「知るか! あんなモノに知り合いなんていねえ!」

 

「あれはBETAという生命体で儂ら人類の敵だ。」

 

雷電と竜馬はお互いの情報を伝え合った。

 

竜馬はここが20世紀で人類がBETAと呼ばれる地球外生命体の侵略によって存亡の危機に瀕していることそしてやはりあの建造物が奴らの巣「ハイブ」という事を知った。

 

「信じられねえが……俺は別世界に飛ばされてきたようだな」

 

「信じられないのはこちらじゃ。新たな宇宙生命体だと思っていたのが異世界から来た日本人とは」

 

竜馬は雷電に対しておそらく自分が異なる世界の未来から来たことと「ゲッターロボ」という兵器であることを伝えた。

 

「流。部下も呼んでよいか?」

 

「ああ。いいぜ。あの船ごと基地に入れな。」

 

返事をしながら、竜馬は思案していた。

 

(異世界だと!? ゲッターを修理して地球に戻っても何の意味もねえじゃねえか!)

 

 

竜馬はどうやって元の世界に戻るかということでいっぱいだった。

 

そうこうしている内に駆逐艦は月のドッグへと入り、ゲッター1の隣に着艦した。

 

「中将! 御無事でしたか!」

 

「どうした月詠? 何を涙ぐんでおる?」

 

月詠大尉が雷電へと駆け寄った。

 

「中将? あの男はもしや?」

 

月詠大尉が竜馬へと視線を向ける。

 

「ああ。赤い戦鬼―ゲッター1のパイロットの流竜馬じゃ。」

 

(「ゲッター線」の力で俺はこの世界に飛ばされた。なら同じようにあれと同じクラスの「ゲッター線」の力をこの世界で発生させれば元の世界に戻れるのか?)

 

だが無数のゲッター炉心を同化させた真ドラゴンと重陽子爆弾を合わせたようなエネルギーを生みだすのが果たして可能だろうか。

 

相変わらず考えていた竜馬に雷電が近づいた。

 

「流。話がある艦に来てくれ」

 

艦内の部屋に案内された竜馬。

 

そこで竜馬は雷電と月詠大尉とテーブルに腰を掛けた。

 

「この男は月詠大尉。儂の副官をしてもらっている。」

 

「月詠だ。よろしく頼む流。」

 

竜馬はその男に目をやる。隙のない身のこなしのまさしく武士といった精悍な男だった。

 

 

雷電が身を乗り出した。

 

「流竜馬。単刀直入に言う。貴公の力を貸してほしい。BETAを地球から排除するのに協力してほしいのだ」

 

そんなことだろうと思っていた竜馬は力強く言い放った。

 

「断る!」

 

竜馬の一言で場が沈黙する。

 

「俺には元の世界でやらなきゃいけねえことがあるんだよ!」

 

「貴様! 中将が自ら頼んでいるというのに何と失礼な!」

 

月詠大尉が飛びかかろうとする。

 

「よさんか! 月詠!」

 

雷電が月詠を制する。

 

「お前の力が必要だ。世界を救うのにあの「ゲッターロボ」を貸してくれ」

 

今度は頭を下げて雷電が頼む。

 

「チッ知るか! テメエらの地球が滅ぼされそうなのはテメエらの問題だろうが、俺を巻き込むんじゃねえ!」

 

「……うぐ」

 

竜馬の発言が大きく彼らの心に突き刺さる。

 

「……貴様」

 

今度こそ竜馬に飛びかかろうと月詠が身構えた。

 

だがその彼の行動を雷電の檄が遮った。

 

「儂らだけで解決できるなら貴様に頼んだりはしない!!!」

 

雷電が大声を発し、竜馬の眼が見開く、そのまま竜馬と雷電はにらみ合った。

 

「それにおかしいだろ? 20世紀後半の科学力なら航空兵器かなにかで上から爆撃すりゃBETAだが何だが知らねえが楽勝だろうが!」

 

月でBETAとしか戦闘をしていない竜馬は光線級の存在を知らない。

 

「奴らには航空兵器はほぼ通用しない。奴らの中には貴様のゲッターロボのように光線の発する個体が存在する。」

 

雷電は竜馬に月にいない光線級について伝えた。

 

「地球に落ちた着陸ユニットそれを基にした奴らの前線基地それが「ハイブ」。あの月の裏側にもある巨大な建造物とそこから這い出るBETAを中国軍は航空戦力で蹂躙していたが、その個体に全て撃破された。」

 

そこで竜馬に一つの疑問が生まれた。

 

「待て。御剣のジジイ、なぜこの月にそいつらはいない!?」

 

「諸説あるが、儂らはBETAが新種を生み出したと考えている。あの生物は自身が危機に陥るとそれに対抗できうる能力を持った個体を生み出すのだ。」

 

「……それを生み出すのはだいたい何日かかる?」

 

「光線級の時は2週間だ。」

 

それを聞いた瞬間、竜馬は部屋を飛び出した。

 

雷電と月詠は部屋に残された。

 

「一体どうしたというのでしょうか?」

 

「わからぬ。」

 

 

 

 

 

 

ドックのゲッター1に乗り込んだ竜馬はゲッター1を発進させる。

 

(奴らがゲッターを超える個体を生み出すとは考えにくいが用心にこしたことはない!)

 

竜馬はBETAが新種を生み出す前にハイブを叩くことに決めたのだった。

 

月面へと飛び出たゲッター1。

 

一直線にハイブへとゲッター1を進撃させる。

 

だが、竜馬の目の前に広がるのは力を失い、動きを止めたBETAの群れだった。

 

「どうなっているんだ? わけが……わけがわからんぞ」

 

竜馬はゲッター1を巨大な建造物ハイブへと急がせる。

 

徐々にその姿が顕わになっていく、地表構造物の高さはおよそ1キロメートル。

 

蟻塚のように大きな奴らの巣がそこにはあった。

 

あまりに大きく、その最深部へたどり着くことへの困難さが窺える。

 

「流! 応答しろ! 流!」

 

そこで雷電から通信があった。

 

「御剣のジジイ!! この奴らの巣にはどこから入ればいい!?」

 

「貴様、やはりハイブに……たった1機でハイブが落とせると思っているのか!?」

 

雷電は竜馬が考えもなしにハイブへと突撃したことに異を唱える。

 

ハイブは彼らの常識の中では単機で落とせるようなものではなかった。

 

「うるせえええええ!! やってみなけりゃわからねえだろうが!!」

 

「今奴らはハイブの周りにいるのか?」

 

「ああ? 一匹もいねえよ!」

 

ここは、あの男が無事に帰ってくると信じてハイブへと向かわせるのが吉ではないかと雷電は考えた。

 

「わかった。流。そのハイブの地表建造物は通称モニュメントと呼ばれている。そしてその地下は蟻の巣のようにいくつもの坑道と広間が存在している。」

 

「つまり、この地下は迷路だってことか?」

 

ハイブの坑道は半径100キロに近い網状になっている。

 

この迷宮を前準備なしに突破することは不可能。

 

だが、光線級のいないこの月なら可能にする方法がある。

 

「流。モニュメントの中央部の地下にはスタブと呼ばれる巨大なメイン通路があるはずだ。そこを下りろ。そうすれば最深部へと行けるはずだ。」

 

本来、光線級はハイブ内でレーザーを照射することはない。だが、スタブの主縦路の上空へと向けてはレーザーを発射し、敵を迎撃する。

 

主縦路は巨大なレーザー砲台と化す。だが、月には光線級がいない。

 

だからこそ可能な方法だった。

 

「よく知ってんじゃねえか。御剣のジジイ。」

 

BETAにほとんど勝利したことがないにしてはいろいろ知っている。

 

「感謝ならソ連のヴォールク共に言ってくれ。幸運を祈る。」

 

そこで通信が切れた。

 

竜馬は地表へと下りる。

 

相変わらず代わり映えのしない灰色の大地。

 

竜馬はハイブ内にいるBETAが迎撃に来るのではないかと用心していたが、そんなそぶりはなかった。

 

「ゲッタアアアアビィィィムウゥウ!!」

 

竜馬はモニュメントにゲッタービームで風穴を開けて、ハイブ内に飛び込んだ。

 

暗闇。

 

竜馬はレーダーとライトを用いて潜っていく。

 

不思議なのは奴らの巣なのにもかかわらずBETAが1匹もいないことだ。

 

暗闇の中をひたすら落ちていった。

 

底などないのではないかと思えるほど落ちたころにようやく底へとたどり着いた。

 

そこは広大な空間となっていた。

 

「チッ! 底にたどり着いたのはいいがここから最深部へはどうやっていけばいいんだ!?」

 

竜馬は暗闇の中を彷徨う他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月面基地

 

 

「中将。あんな貴重な物をみすみす失うようなことをなぜ!?」

 

月詠大尉が御剣中将に問いかけた。

 

御剣中将は頭に手を当て、考えていた。

 

ここでBETAに勝てる可能性のある新たな力を失うわけにはいかない。だが、無理に止めてその後に協力しろと説き伏せても果たしてあの激情的な性格の男が納得しないだろう。

 

「儂の考えが正しければアレは無傷で戻ってくる。」

 

月詠大尉にはその発言の真意が掴めなかった。

 

「おかしいとは思わんか。儂らがここで奴らと戦った時は月面覆い尽くす程の数がいた。だがここを攻めてくる奴もハイブ周辺にも奴らの姿はない。」

 

雷電は10年前の自分たちのしたことを思い出していた。

 

「同じだ。儂等がこの月から逃げ帰った時と………」

 

「中将! まさか!」

 

月面部隊はプラトー1という基地から地球の各国へと撤退した。

 

わずかな兵を残して。

 

「奴らは少数の兵を残して月を捨てたのだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハイブ最深部周辺

 

 

竜馬は広間を何時間も彷徨った。

 

そして壁に巨大な穴を見つけた。

 

その隔壁は無理矢理こじあけたような形状をしていた。

 

竜馬はゲッター1をその隔壁へと侵入させる。

 

そこには何もなかった。

 

明らかに最深部であるそこにはただ空虚な空間が広がっているだけだった。

 

竜馬がその中央部に目をやると大きなそこにいた何かの跡が残っていた。

 

まるで玉座のような台座のような奇妙な物だった。

 

そこにあったはずの何かが消えていたのだった。

 

動いているBETAはこの月から消え去っていた。

 

だが、竜馬にとって何の思い入れのない生物がどこへ行こうと知ったことではない。

 

ここには何もない。

 

脅威になりうる新種のBETAなどいない。

 

「なんだと!?」

 

だが、基地へと戻ろうとした竜馬はあることに気がついた。

 

ゲッターロボは宇宙に溢れるエネルギー「ゲッター線」によって動いている。

 

放射線をもつこのエネルギーは大変危険であるが、効果的に使えば人類に恩恵をもたらす。

 

確証はないが、人類が進化した原因という説もある。

 

インベーダーもこの「ゲッター線」を獲得するのが狙いだった。

 

宇宙線である「ゲッター線」は星へと降り注ぎ、それが地下であろうが、鉱物の中であろうがそこへ留まる。

 

この世界は竜馬たちのいた元の世界と比べればゲッター線の濃度は薄かった。

 

それに対して、竜馬は疑問を持っていたが世界が違えばそれもあり得ることだろうと納得していた。

 

だが、その空間だけは異常だった。

 

「……あ、ありえんぞ」

 

ゲッター線計の数値は0を示していたのだった。

 

その空間には「ゲッター線」は一切存在していなかった。

 

竜馬編 4話 終

 


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