1973年 4月19日
BETAと月面で戦争をしていた国連宇宙総軍にとんでもない知らせが届いた。
BETA着陸ユニット中国領カシュガル落着。
その知らせにおよそ7年続いた月の戦闘で人類が敗北したのは誰の眼にも明らかだった。
国際恒久月面基地プラトー1を人類は放棄するしかなかった。
「撤退するしかないだろう」
アメリカ軍の将軍が提案をする。
「BETAが地球にいるのだ。ここで戦って何になるのだ?」
満場一致でプラトー1の放棄が確定した。
しかし、ここで新たな問題が生じた。
一体どこの軍隊から撤退するか。
当然国連宇宙総軍とはいってもそれぞれの国軍の寄せ集めに過ぎなかった。
撤退の最後尾を務めなければならない国の軍は壊滅的な被害を受ける。
どこの国もそれを嫌がった。
何時間もの沈黙とにらみ合いの中やがて一人の指揮官が手を挙げた。
当時、日本帝国航空宇宙軍御剣雷電少将だった。
斯衛軍から航空宇宙軍に転属願いを出した御剣少将は航空宇宙軍の指揮官としてこの月へと派遣されていた。
その日から帝国航空宇宙軍は地獄の中の更にひどい状況に晒された。
日が経つごとに減る味方の数。
虎の子の機械化歩兵装甲をあるだけ投入し、最後は御剣雷電少将の直属の精鋭がプラトー1を爆発させ、精鋭たちは仲間と指揮官を逃がすために命を投げ打った。
その中には当時大尉であった御剣雷電少将の子息も含まれていた。
敗軍の将として悪戯に自国の兵を死なせたこと。
その事を責められることを覚悟して国に帰った少将を待っていたのは、
「月撤退戦を最小限の被害で成し遂げた伝説の男」という称賛だった。
1983年 1月13日
核投射プラットフォームスペース1「L1」付近の駆逐艦の中に現在国連宇宙軍中将となった御剣雷電がいた。
「儂はどれくらい仮眠をとった? 月詠?」
「ハッ! 3時間くらいであります。中将。」
副官である月詠大尉が報告をする。
「そんなにか……。相変わらず月に動きはないか?」
「ハッ! 相変わらず奴らのハイブから飛来物が太陽系外または太陽系内に向けて飛んでいます。」
BETAと未確認兵器が接触をしたとみられる9日から月面にある唯一のハイブが活発に活動し、一時間に数十回太陽系外、太陽系内問わず小型の飛来物を射出していた。
地球に向けて放たれたものもあったが、L1からの迎撃によって撃ち落とされた。
それが計算上、月に人工建造物が現れた直後だということがわかった。
「中将。進展といえば例の未確認兵器の呼称が正式に決まったと入電がありました。赤い戦鬼―<レッド・オーガ>だそうです。」
「赤い戦鬼か。そのままだな。月詠どう思う? BETAはこれまでも我々の理解を超える行動をしてきた。だが今回はさらに異常だ。」
月詠大尉は少し考えると
「例の赤い戦鬼がBETAか。BETAでないかで分かれると思います。」
「聞こう。」
「まずBETAであった場合。これは真空間飛行能力をもった新種です。我々がこれまで有効活用してきた衛星を無効果するのに非常に役立ちます。この技術を他星にいる仲間に伝えているというのがこの行動の理由でしょう。」
「ふむ……」
雷電が顎髭を触りながら納得したように頷く。
「次にBETAでない場合。BETAにとって非常に高い戦闘能力をもった敵となります。
これに対してBETAが脅威を感じ、他星にいる仲間に助けを求めているのがこの行動の理由だと考えます。」
「ふむ……つまり伝令もしくは救援要請ということか」
先程と同じように雷電はうなずく。
「しかし、どちらも異なります。なぜなら前者の場合はBETAが光線級を生み出したのがBETAに我々の飛行戦力が敵に多大な脅威を与えたことに由来することから否定されます。我々は月のBETAにこの10年何もしていません」
「そのとおりだ。大尉。」
「そして後者の場合。我々の飛行戦力がBETAに脅威を与えた折にBETAが新種を生み出すのに2週間かけたことにより否定されます。対抗手段の新種を生み出さずにBETAが白旗を上げるとは考えにくいです。」
「つまり…………?」
雷電が月詠大尉にまるで続きをはやく言えというように聞く。
「我々の理解を超えるBETAの突発的行動。つまりわかりません。」
「ハハハハハハハ!!!」
雷電が大声で笑う。
「そのとおり…此度の奴らの行動もわからん。だがわかっていることが一つある。それはBETAにとって赤い戦鬼の出現は予定外ということだ。そうでなければあんな行動はとらん。」
「では中将。これよりどうされますか?」
雷電は大声で宣言する。
「駆逐艦を月に向けろ。我々が赤い戦鬼と人類で初のコンタクトを試みる。有るだけハーディマンを使うぞ!」
駆逐艦は月へと進路を変えた。
雷電はBETAの行動に何かしら感じるものがあったが、それが何なのかまだ自分でも説明できなかった。
「月詠。今さらだが、斯衛を離れてよかったのか?」
「ええ。兄がいますから。国内のことはアイツにまかせればよいのです。」
と月詠大尉が言う。
月詠大尉には双子の兄がいるのだった。
「地球に下りてきた時、娘には会ったか?」
「ええ元気でしたよ。」
「そうか。…………そうか。」
月詠大尉には子供の話をした時に雷電がどこか寂しげな表情をしていたような気がしてならなかった。
一方月面
流竜馬のゲッター1のゲッターウイングの修理はまったくと言っていいほど進んでなかった。
なぜなら、数時間に一度は未確認生物の接近を基地がサイレンで告げ、それの迎撃に駆り出されるからだった。
「またか! ふざけやがって!」
また竜馬は出撃をする。
奴らが出てくるのは、アリ塚のように巨大な建造物だろうということは竜馬もわかっていた。
「先に巣から壊してやろうか!」
とも考えたが、巣を壊している間に基地を破壊されては地球に下りられなくなるので竜馬は基地を出たり、入ったりを繰り返すほかなかった。
しかし、その基地襲撃の頻度は少しずつだが確実に減っていた。
竜馬編 2話終わり