真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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第2話「忘れがたきもの」

 

10年前

 

月の地獄から国に帰った雷電を待っていたのは称賛の嵐。

 

「よくやってくれた。」

 

「日本男児の鑑だ」

 

後継者を失ったことも悲劇の英雄としてプロパガンダとして使われた。

 

帝国及び国際社会は地球にBETAが襲来した暗い不安な未来に明るい話題を探していたのだった。

 

「後継者を失いつつも、地獄を生き残った雷電将軍」

 

「戦おう! BETAに! 雷電少将のように!」

 

雷電は耐えられなかった。

 

息子を置いて見殺しにして負けておめおめと帰ってきた自分に称賛が与えられることに。

 

退役を申し込んだが受諾されなかった。

 

雷電は少なくとも国内にはいられないとかねてから誘いのあった国連軍への異動を申し出た。

 

帝国軍は日本の英傑が世界へ羽ばたくいい宣伝としてこれを受諾。

 

御剣雷電の国連転属が正式に決まった。

 

 

 

 

 

京都城内省

 

「此度の栄転。まことにめでたい。」

 

「ありがとうございます。殿下」

 

将軍によびだされた雷電は最後の挨拶へと覗った。

 

雷電の国連への栄転を祝すというのが表向きの要件だったが、本当は違った。

 

「すまないな、雷電少将。政治の実権を奪われた私には今回の件止めることができなかった。」

 

「もったいなきお言葉。」

 

将軍は雷電を政府がプロパガンダとして利用したこと。それを止められなかったことを謝りたかったのだった。

 

「そなたにこれを贈りたい。もってきておくれ。」

 

側の者が持ってきたのは新調された深紅の斯衛軍の強化装備だった。

 

「しかし殿下! これは斯衛にのみ許された物でしょう!」

 

斯衛軍の衛士にのみ使用されている強化装備を日本帝国から離れ、衛士でもない雷電に贈るというのは本来許されないことである。

 

「私が国内及び国際的に大変影響力を持つ雷電少将が帝国の斯衛の装備を着るというのは帝国の威光を国内外に示すことになると通した。」

 

「殿下………」

 

「私の魂は常に貴公の側にある。それだけは忘れないでくれ。」

 

「……ありがたく頂戴します」

 

日本を去り、国連軍に入った雷電を待っていたのは、国連事務局で働いていた珠瀬玄丞斎だった。

 

「御剣少将……他の誰が貴官を誉めようとも私は貴官を認めませんぞ。子供を置いてみすみすと帰ってくるなど」

 

珠瀬はなかなか子供が出来ないこともあり既知の間柄であった雷電を辛辣な言葉で迎えたが、珠瀬の顔はひどく心配していた。

 

「…辛かったな」

 

誰も言ってくれなかった言葉。

 

その言葉に雷電は救われたのだった。

 

日本を離れることに未練はなかった。

 

亡き息子との約束を果たすため。

 

ただ気がかりだったのは、五摂家の姫であった。

 

義理の娘になるはずだった齢15の少女。

 

そう本家煌武院の姫である。

 

 

 

1983年

3月15日 国連本部

 

国連主導のハイブ攻略戦について会議が秘密裏に開かれていた。

 

だがどの国も時期早々と取り合わなかった。

 

特にアメリカ大陸とアフリカ大陸の国々は冷ややかであった。

 

来たるBETAとの決戦にどの国も備えて国力を蓄えることが急務だった。

 

ハイブを抱えるユーラシアの大国中国でさえ未だ準備不足と言い放った。

 

ゲッター2とゲッター3の映像を見るまでは。

 

映像の一幕。

 

襲い掛かるBETA要撃級をちぎっては投げるゲッター3。

 

BETA突撃級の群れをかき分けて突き進むゲッター2。

 

2機は要撃級や突撃級の度重なる攻撃を迎撃しつつ戦っていた。

 

まるでBETAが存在していないかのように激突しあう超兵器の登場に各国はどよめいた。

 

「ポーランドのグダンスクに基地を造るなど正気かと思ったがこいつは」

 

「いけるかもしれない。」

 

二機とも日本帝国が開発し、一機はコントロールを失い、暴走したと説明された。

 

国連は白い機動兵器を確保できた場合年内でのハイブ攻略作戦に乗り出したいと提案した。

 

攻略目標はH5ミンスクハイブ。

 

1978年に「パレオロゴス作戦」で攻略に失敗したハイブだ。

 

初めてハイブ内部にまで攻め込めた作戦。

 

勝機が見えたからか、アメリカ以外の国が全てハイブ攻略に賛成した。

 

アメリカは持ち帰って検討するとのことだ。

 

ロシアはアメリカの支援なしでも攻略に乗り気だった。

 

世界が急速に動き始めていた。

 

雷電が作戦を急いだのは異邦の力「ゲッターロボ」がいつまでこの世界にあるかわからないからだ。

 

「珠瀬も水面下で動いてくれている」

 

国連事務で働いている珠瀬も雷電の提案に乗っていた。

 

後は、ゲッターを何体確保できるかが問題であった。

 

雷電は懐から写真を取り出しそこに写った亡き息子を憶った。

 

「日本には1匹たりとも上陸などさせん。それが約束だったからな」

 

雷電を突き動かすのは亡き息子への想いゆえだった。

 

忘れたくとも忘れられぬもの。

 

息子を思うと次に竜馬のことが浮かんできた。

 

彼もまた孤独を知っている男だった。

 

「頼んだぞ竜馬。全てはお前にかかっている」

 

あの男は危うい、だが信に足りる男だ。

 

雷電はゲッターチームリーダーを信じていた。

 

 

1983年 3月18日

東ドイツ

 

リィズを失ってからのテオドールの様子は酷いものだった。

 

顔からは生気が抜けていたが、反面殺気立っていた。

 

彼の側には常にカティアがいた。

 

2人が夜同じ部屋で過ごしているらしいと噂も立っていた。

 

カティアの様子もまた違っていた。

 

幼かった彼女からどこか幼さが消えていた。

 

アネットとイングヒルトがテオドールのことを気にしていたが、

 

「テオドールさんのことは私に任せてください」

 

とカティアに言われ、それ以上何も言えなかった。

 

カティアの大人びた様子はアネットをたじろがせた。

 

イングヒルトが何かを察したようにアネットの肩を叩いた。

 

「男はBETAの数ぐらいいるからね」

 

「人が失恋したみたいに言うな!!」

 

今日もまた2人は同じ部屋で夜を過ごす。

 

部屋では傷心したテオドールがカティアに抱き止められていた。

 

隼人の拳銃を強く握りしめたまま。

 

 

 

 

一方、隼人は誰も来なくなった雪原でタバコを吸っていた。

 

アイリスディーナが残した紙に目をやった。

 

その紙には今後の作戦が書かれていた。

 

隼人はそれを読んだ後、ライターで火を点け燃やした。

 

東ドイツ人民軍と武装警察軍決戦が迫っていた。

 

隼人は早乙女ミチルのことを考えていた。

 

海王星作戦の時に頭に浮かんだミチルとは違い雪原に現れた彼女は確実に存在していた。

 

弁慶も観たと言っていた。

 

何か意味があるはずだと考えたが答えは見えなかった。

 

だが、隼人の心は澄んでいた。

 

テオドールに罪悪感は感じていたが隼人は選択を誤ったとは思ってはいなかった。

 

竜馬の時とは違った。

 

ミチルさんが止めてくれたから。

 

 

 

 

 

1983年

3月18日 旧ポーランド グダンスク

 

新設された基地では各国の軍が軍備を増強していた。

 

弁慶は、隼人に託されたリィズの様子を見ていた。

 

リィズは重傷だった。

 

隼人に殴られたことが原因ではない。

 

ゲッターに乗った影響で内臓がボロボロになっていた。

 

戦術機開発に携わる篁は、この世界の人間がゲッターに乗るのは現状厳しいと判断した。

 

リィズは静かに寝ていた。

 

否、狸寝入りをしていた。

 

リィズは、現状をすでに把握していた。

 

自分が日本帝国の船にいること、おそらく東ドイツ外にいることは理解していた。

 

戦術機がいる。

 

東ドイツまで戻るために。

 

なんのために?

 

それは他ならぬ兄のため。

 

テオドールがリィズをスパイとして活動させるための駒だったことは理解していた。

 

自分がスパイとしての価値をあげるほど、兄は安全になる。

 

そう思って生きてきた。

 

そう思って祖父と同じくらいの年齢の男にすら抱かれた。

 

ここで終わるわけにはいかない。

 

兄が死ねば私が畜生にまで堕ちた意味がなくなる。

 

弁慶が部屋を出た後、頃合いをみてリィズは医務室から逃げた。

 

リィズは弁慶のことについて考えていた。

 

隼人がここに連れてきたということはおそらく知り合いなのだろうと予想した。

 

だが隼人の冷たい目と対称的に弁慶の目はリィズを憂いていた。

 

その目がリィズの心に残った。

 

次の瞬間、船が警報を鳴らした。

 

逃げ出したことがバレたらしい。

 

リィズはぼろぼろの体で格納庫へと急いだ。

 

格納庫へなんとかたどり着くと弁慶が待っていた。

 

「どこいくんだ? 嬢ちゃん」

 

「ベンケイさん、そこをどいてください!私はお兄ちゃんを守らないといけないの!」

 

リィズはできるだけ自分の状態を悪く見せるために咳き込み、息を荒げた。

 

無論、弁慶を油断させるためだ。

 

急所に医務室にあったペンを突き立てればただではすまないだろう。

 

「もういい! お前はもう秘密警察じゃないんだ!戦わなくてもいいんだ!」

 

何も知らないくせに耳障りの良いことを言ってくれる。

 

兄を守る。兄を自分のモノにする。

 

それだけのために3年間地獄を生きた。

 

弁慶がリィズの二歩手前に立つ。

 

ここでペンで目を刺せばスキが生まれるだろう。

 

いや、ここはこの異能の力を持つこの男を取り込む方が先決だ。

 

リィズは、弁慶の胸に飛び込んだ。

 

「うぉ!?」

 

弁慶は驚いたようだがリィズを抱きとめた。

 

(かかった。)

 

リィズは弁慶の信を得ようとする。

 

そのためには肌を合わせることもやぶさかではない。

 

だがリィズの予期しないことが体に起きていた。

 

溢れていた。

 

頬を伝っていたのは涙だった。

 

この3年他人を騙すために流した涙は数えきれない。

 

だがそのどれとも違っていた。

 

涙が溢れ、リィズの頬を流れる。

 

なぜ自分が涙しているのか分からなかった。

 

リィズは驚愕した。

 

自分にこんな感情が残っていたことに。

 

ただ一度救われた男の手に抱かれているだけだというのに。

 

否。

 

この3年間、幾度も男と肌を重ねたがどれとも違う。

 

リィズは思い出す。

 

この温もりを。

 

不自由ながらも幸せだった日々を。

 

兄がいて、母がいて、父がいたあの日々を。

 

そう弁慶を重ねて思い出していた。

 

自分が変わる前を。

 

ただ1人愛する兄のために自分と同じような亡命しようとする者を捕縛し、殺し、好きでもない男と肌を合わせ骨抜きにし情報を吸い出すような畜生に落ちる前を。

 

もう戻らない日々を。

 

「あああああああああああああ」

 

声にならない叫びも彼女から溢れていた。

 

スマートだった父と似ても似つかない無骨な東洋人の抱擁。

 

男は何も語らなかった。ただリィズを受け止めていた。

 

だが、地獄に変わった日から今まで抱かれてたどんなものより暖かった。

 

忘れようとしたものを思い出させていた。

 

涙は溢れていた。

 

失った3年間の思いと共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 3月19日

 

衛星がH5ミンスクハイブ周辺に前例にないほどのBETAの大群を捉えた、それは東ドイツに迫ろうとしていた。

 

 

 

 

 

 


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