真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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隼人編 第14話 「黒の宣告」

隼人は最初からリィズを疑い続けていた。

 

だがリィズを疑っていたのは隼人だけではない。

 

誰がどう見ても彼女は怪しかった。

 

では、なぜそんな見えすいた者を送り込んだのか。

 

もちろんテオドールの枷にするという理由もあるが、何より本命の情報提供者が他にいるのだろうと隼人は睨んでいた。

 

整備兵に紛れていたそいつは中隊の動きを収集し、それをアクスマンに報告していたのだった。

 

その本命を事故に見せかけて殺すことができたのは幸いだった。

 

そして、隼人が盗聴していたリィズとベアトリクスの会話からリィズがシュタージのスパイなのは確定した。

 

それまでは何も痕跡を残していなかったが、確かな証拠を得た隼人はついにリィズの排除に乗り出そうとしていた。

 

隼人の仲間となった第666中隊のために。

 

「二度と仲間を裏切らない」その誓いの下に。

 

テオドールのたった一人の生き残った家族を手にかけようとしていた。

 

仲間を守るためと言う誓いとその信頼を裏切ることの「矛盾」は考えなかった。

 

否、目をそむけた。

 

海王戦作戦の時は止めてくれる者がいた。

 

しかし、ここには誰もいなかったのだ。

 

武蔵も弁慶もそして竜馬も。

 

 

 

誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

1983年

3月15日 東ドイツ

 

 

その日の天候は吹雪だった。

 

食堂でカティア一人震えていた。

 

あのリィズの一件から隊内にはどこか妙な空気が漂っている。

 

海王星作戦の時の一体感などまるでなかったことのようだ。

 

最近は、1人かもしくはアネットとイングヒルトに加わって食事を摂ることが多い。

 

この日は、チェボラシカでの初飛行訓練が行われる予定だ。

 

だがカティアが震えている原因は、その緊張ではない。

 

カティアが朝食を早めに済まそうと思い一人で食べていると、目の前に隼人が座ったのだった。

 

「‥‥‥」

 

隼人は無言のままカティアを見つめていた。

 

カティアはお世辞にも美味しいとは言えないその料理の味がさらに何も感じなくなっていた。

 

カティアには幾分か慣れていた東ドイツの環境にもはや余裕は感じられなかった。

 

常にシュタージの情報提供者に見張られているように感じる。

 

だが、それすらも凌駕する隼人の視線にカティアは緊張を強く感じられた。

 

隼人は静かにうなづいた。

 

「もしテオドールが人をまた信じられなくなっても、側にいられるか?」

 

カティアは質問の意図はよく分からなかったが、隼人の真剣な眼に初めて目を合わせた。

 

「はい! 私はテオドールさんから離れることはありません!」

 

「そうか‥‥ならいい。頼んだぞ。」

 

隼人は席を立ち去っていった。

 

カティアは「隼人さんも」と声をかけられなかった。

 

立ち去る隼人の背が何かを告げていたから。

 

 

 

 

3時間後。

 

10機のチェボラシカが基地から飛び立った。

 

悪天候下においてのmig23の慣熟訓練を目的に中隊は出撃していた。

 

「出力が全然違う」

 

アネットが舌を巻いた。

 

バラライカしか知らなかった彼女にとって後継機慣れるまで時間がかかりそうだ。

 

テオドールもシュタージの悪評と整備面の使いづらさを聞いていたため、最初は欠陥機というイメージもあったが認識を改めていた。

 

機体性能はバラライカよりも格段にいい。

 

来たる武装警察軍との戦いに備えなければと、操縦桿に力がこもった。

 

東ドイツ、仲間、そしてカティア、義妹を守るために。

 

士気が高い中隊員の中で、リィズとカティアだけが暗かった。

 

リィズはシュタージの接触から暗いままだった。

 

チェボラシカに慣れないのか顔はさらに険しい。

 

カティアは今朝の隼人と会話からかどこかしら元気がなかった。

 

アイリスディーナの隊長機のレーダーが何かを捉えた。

 

「総員傾注、西に30キロに小規模のBETA群を確認。全機迎撃に移る」

 

「「「了解!!!」」」

 

群れから外れたBETAとは珍しい。

 

普通は群れの中で活動するはずだ。

 

何かイレギュラーなことが発生したのか。

 

そう例えば無視できない何かを発見したとか。

 

中隊がBETA群へ向かおうとした瞬間だった。

 

「くっ、出力が安定しない!」

 

リィズ機のエンジンバーニアが火を吹いた。

 

「リィズ!?」

 

テオドールがリィズ機への目をやるとそこには片方のエンジンバーニアが燃えていた。

 

目に見える危機が義妹に迫っていた。

 

「中隊長! 自分がリィズ機のカバーに入ります!」

 

アイリスディーナは少し悩んでいた。

 

テオドールを残し、ただでさえ欠員のいる中隊をさらに分けるかそれともシュタージのスパイの恐れがあるを置いていくか。

 

「中隊長! ここは私を置いて行ってください! 機体には異常ありますが自力で基地へと戻れます。」

 

「リィズ! 何を言って」

 

「ホーエンシュタイン少尉自身で基地へと帰投しろ! 各員は私に続け!」

 

アイリスディーナはテオドールの言葉を遮った。

 

リィズ機を残し、中隊はBETA軍へと向かう。

 

リィズは中隊での信頼を得るためあんな発言を行なったわけだが、テオドールがすぐに引き下がったことに違和感を強めた。

 

兄は絶対に残ろうとしたはずだ。

 

そこでダメ押しの演技で信頼を得るつもりであった。

 

なぜ兄は私を置いて行った?

 

疑問を抱きつつ、リィズは片方のエンジンバーニアを吹かせ基地へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

BETA群へ向かうテオドールはできるだけ早くBETAを殲滅し、リィズの元へと戻る気だった。

 

だが、安心していた。

 

「お前の妹は任せろ」

 

と隼人が通信をしてきたから。

 

リィズは大丈夫だ。

 

ハヤトがいるなら。

 

そう信じていた。

 

この時はまだ。

 

 

 

 

 

 

 

隼人はジャガー号のコックピッドの中で息を呑んだ。

 

(これでいいのか? 本当にリィズをテオドールの妹を殺していいのか?)

 

隼人が自問した瞬間。

 

竜馬の声が頭に響いた。

 

「また奪うのか? 元気からジジイを、そして俺から仲間を奪ったように」

 

「違う! 俺は仲間を守ろうとしている! あの日できなかったことをこの世界でやる!」

 

隼人はコックピッドで1人で叫んだ。 

 

「それが独りよがりなんだよ! お前は自分が必要とされる世界で都合よく解釈しているだけに過ぎねえんだよ!」

 

「違う、竜馬。俺は仲間をまた裏切りたくないだけなんだ。」

 

隼人は心の中の竜馬に負けじと言い返した。

 

「お前はまた裏切るんだよ隼人、お前はあのガキを「俺」にするのか。」

 

隼人は復讐心に囚われて、気が狂ったようにゲッターロボGの軍団に1人で戦った「竜馬」を思い出した。

 

この竜馬は、テオドールをあのようにするなと言っている。

 

家族を失ったテオドールの行く末を案じている。

 

テオドールがまた人を信じられなくなってしまってもいいのか?

 

隼人に迷いが生じた。

 

否、リイズを殺すと決めたその時から生まれていた隼人の迷いが「竜馬」となって現れたにすぎない。

 

だが、隼人は知っていた。

 

テオドールに対するカティアの想いを知っていた。

 

東ドイツや中隊の仲間に対するアイリスディーナの想いを知っていた。

 

彼女達ならきっとテオドールを守れる。

 

「俺はやるぞ竜馬。俺は知っているあいつの仲間を、カティアやアイリスを!」

 

あの2人ならたとえテオドールが復讐に心を囚われても立ち直させることができるはずだと隼人は確信していた。

 

それにテオドールも。

 

彼は立ち直った。

 

家族を失い、消耗品の衛士にされ、それでも戦っている。

 

ただ生き残るためではない。

 

東ドイツを彼の国を守るという大義のために。

 

「最初はそうだった。ただ俺を必要とする都合の良い存在だった。だが今は違う。アイツ等は月で戦っていた俺達と同じだ!」

 

テオドールを信じている。あの時の竜馬と変わりはない。

 

竜馬の心の炎が隼人への怒りを糧に燃え続けていたように。

 

隼人がそう宣言すると、もう竜馬の声は聞こえなくなっていた。

 

「俺は仲間を守る、そして信じる。今度こそ!」

 

隼人はゲッター2を地上に浮上させた。

 

目的は、武装警察軍リィズ・ホーエンシュタインの抹殺だった。

 

 

 

 

 

 

 

基地へと向かうリィズの前に突如、隻腕のゲッター2が地中から現れた。

 

「白モグラ? なぜ今?」

 

突然のこととゲッター2が味方であるという認識。

 

それが反応を遅らせた。

 

瞬き一瞬。

 

次の瞬間とんでもない衝撃を受けた。

 

「きゃああああああ」

 

リィズ機は機体の半分を一瞬で失った。

 

リィズは瞬時に理解した。

 

自身がゲッター2に襲われているということに。

 

「やはりこいつ中隊と繋がっていたか!」

 

残った右腕の突撃砲をゲッター2に向ける。

 

だが瞬時にゲッター2はまた音速を超え、リィズの視界から消えた。

 

「どこに!」

 

また衝撃。

 

今度は右腕が吹き飛んだ。

 

勝ち目などあるはずがない。

 

武装警察軍にいた時にすでに知っていた。

 

一瞬で大隊の半分を失ったあのシュミーレーター訓練そこにリィズもいたのだ。

 

リィズは緊急脱出を行い逃亡を図った。

 

「私は生きる。私がお兄ちゃんを守らないと」

 

隠し持っていた拳銃を手に、雪原へと投げ出された。

 

直立するゲッター2の大きさにたじろぐ。

 

男が1人ゲッター2の中から出てきた。

 

神隼人である。

 

「ハヤトジン! やはり何かあると思ったが貴様が!」

 

間髪入れず拳銃を隼人に向けて撃つも、隼人は全て見切って避けた。

 

「ホーエンシュタイン少尉いや中尉。貴様にはここで死んでもらう」

 

今の発言で完全にシュタージのスパイとバレているとわかった。

 

「私はタダではやられませんよ」

 

なぜこの男はわざわざ降りてきたのか。

 

「今から俺がすることは俺の独断だ。テオドールもアイリスも知らない。」

 

「そんなことをわざわざ言いに降りてきたのですか?」

 

舐められたものだ。

 

リィズは隼人へと走り込み、強烈な蹴りを放った。

 

だが、相手が悪すぎた。

 

隼人はその蹴りを見切り逆に首筋に手刀を繰り出した。

 

「がっ!」

 

雪原に倒れたが、リィズは意識が飛びそうになりつつもなんとか繋ぎ止める。

 

彼女はなんとか命を長らえさせる方法を思案する。

 

「わ、私は兄のためなら何でもする。シュタージから兄を守るためにはこうするしかなかった」

 

(たとえどんなことをしても)

 

リィズはできるだけしおらしく、弱っているように演技を見せた。

 

強化装備は隼人の手刀の威力を軽減していた。

 

リィズは涙を流し、泣き始めた。

 

「全部お兄ちゃんのためだったの! 私の知ってることは全て話すわ、これからの戦い必要になるはずだわ」

 

命乞いに生じた隙を狙う。それしかリィズの生き残る方法はなかった。

 

「何なら私のこの体も好きにしていい。誰でも満足させられる自信もあるわ」

 

色目を使って隼人を見上げた。

 

だが隼人の目は暗くひどく冷めていた。

 

獲物を見る目そのものだった。

 

リィズは知っていた武装警察軍として逃亡犯を殺害したリィズ自身の目と似ていた。

 

命乞いなど意味のないことを知った。

 

「ヒッ」

 

恐怖。リィズの心を恐怖が支配した。

 

「テオドールにお前を殺させはしない。俺がお前を殺す。」

 

(この男。兄自身に私を殺させないために)

 

「どうせ殺されるならお兄ちゃんに殺されたかった!!そうすればお兄ちゃんは私のことをずっと覚えてくれる。

他の女に盗られることもない!」

 

リィズは観念したのか叫び始めた。

 

それは兄への妄執。

 

兄への狂愛。

 

それだけが彼女の生きる目的そして凶行へ駆り立てていた原因だった。

 

(テオドール。やはりお前の妹は3年前に死んでいた。)

 

隼人はあの拳銃をリィズの頭に向ける。

 

 

 

 

 

吹き荒ぶ雪の音が銃声を掻き消した。

 

 

 




祝アークアニメ化。
できれば近いうちにもう1話更新します。

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