真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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弁慶編 第15話 「生き残った意味」

・・・あの時、俺がポセイドンに乗っていれば

 

ミチルさんが死ぬことも、チームが崩壊することも。

 

 

 

 

そして……元気が独りになることもなかった。

 

 

 

 

 

1983年 3月7日

旧フィンランド領 イヴァロ

 

 

廃工場内の弁慶は、愕然としていた。

 

「馬鹿な、なぜ戦車級が」

 

戦車級が武蔵の操るゲッター2を越えてきた可能性は低い。

 

「斥候か? 奴らにそんな知恵が?」

 

弁慶は、巨大な敵の前で冷静に分析する。

 

敵の数は!?

 

後続のBETAはない。目の前の戦車級は1匹のみ。

 

武器になりそうな物は?

 

工場内には缶詰運ぶベルトコンベアの機械の他には何もなかった。

 

「嬢ちゃんを連れて、ここを脱出する!! それしかねえ!」

 

弁慶は戦車級に向かって突撃する。

 

巨象、否それよりはるかに凶悪な獣に挑んだ。

 

戦車級が弁慶に向かって腕を振り、その腕が弁慶の体に手を伸ばした。

 

弁慶はその巨体からは想像できないほど素早く、戦車級の丸太のような腕をかいくぐり、巨大な口の前に立った。

 

彼もゲッターチームの一員。決して愚鈍なのではない。

 

「その顎貰ったあああああああ!!」

 

弁慶は、戦車級の顎に強烈な左アッパーを叩き込んだ。

 

戦車級の動きは一瞬止まったように思えたが、やはり質量が違いすぎた。

 

戦車級は、動じることなく、その腕で弁慶を薙ぎ払う。

 

弁慶は、投げとばされ、地面へと叩きつけられた。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおお!」

 

戦車級は弁慶を投げ飛ばすと、次はイルマへと向かっていく。

 

少女は、初めて見るBETAの恐怖に逃げ出すこともできなかった。

 

「うおおおおおおおお!!」

 

弁慶は、すぐに立ち上がり、100キロはありそうな機械を持ち上げて戦車級へと投げつけた。

 

機械を猛スピードで投げつけられた戦車級はよろめいた。

 

「お前の相手は俺だ! 間違えるんじゃねえ!」

 

その声を理解したのか、さだかではないが戦車級は再び弁慶に狙いを定めた。

 

ゲッターに乗ればどうということもない戦車級もこの場ではとんでもない怪物に他なかった。

 

弁慶は、はじめて身をもってこの世界におけるBETAの脅威を感じている。

 

戦車級の巨大な手が弁慶に向かって振り下ろされる。

 

「ぐおおおおおおおおおおお」

 

避け切れなかった弁慶は、巨大な掌底を二つの腕で受け止めた。

 

受け止めた衝撃が弁慶の頭からつま先まで響き、一瞬で弁慶の意識を奪った。

 

弁慶の薄れゆく意識は、過去へと誘われた。

 

全てを無くした「あの日」へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日

 

あの日の空は青く澄み渡っていた。

 

ゲッターロボの後継機。

 

その試作機の合体実験をするとの報告を受けて、弁慶は早乙女研究所に呼び出された。

 

任務で海外まで行っていた弁慶は急遽研究所へと急いだ。

 

弁慶が早乙女研究所に訪れると竜馬、隼人、ミチルそして博士の四人が待ち構えていた。

 

ゲッター線の研究者になった隼人はともかく、実家の空手道場を継いで田舎に引きこもっていた竜馬すら呼んでいた。

 

「よし、これで全員揃ったの。」

 

武蔵の姿はない。

 

「先輩はこねえんですか?」

 

「アイツは、別の任務だ。だが待ってはいられない。竜馬、隼人、弁慶!貴様を再び集めたのは他でもない。」

 

博士が一際息を吸いこんだ。

 

「これよりゲッターロボGの合体実験を行う!」

 

三人の眼光が鋭くなった。

 

竜馬は、最初了承しなかったらしいが、ミチルに諭されてしぶしぶドラゴン号に乗ることを呑み研究所まで来たのだった。

 

当初の予定では、ポセイドン号には弁慶が乗る予定であったが、ミチルたっての頼みでポセイドンにはミチルが乗ることになった。

 

 

弁慶は、鬼気迫るミチルの様子に違和感を覚えたが、自身の設計したゲッターに乗りたいのだと思い、ミチルにポセイドンを譲った。

 

 

 

 

 

 

 

そして事故が起きた。

 

合体に失敗したポセイドン号は、ドラゴン号とライガー号に潰されたのだ。

 

あの日、弁慶がポセイドンに乗らなかったことがミチルを殺したのだった。

 

その直後、帰らなかった姉の代わりに元気を迎えに行った弁慶だったが……。

 

名前通りの元気っ子は姉の死に打ちひしがれていた。

 

思い出すのは、元気にポセイドン号に弁慶の代わりにミチルが乗ったことを伝えた時のこと。

 

「弁慶。」

 

元気は、目に涙を浮かべ体を強張らせていた。

 

「どうして、3号機に乗らなかったの?」

 

弁慶は、震える元気を抱きしめた。

 

「すまない。元気すまない! 俺が、俺が代わりに乗っていれば!! お前の姉ちゃんは!」

 

悲痛な声で叫ぶ弁慶。

 

元気は、その弁慶の様子にはっとした。

 

自身が言ってる言葉の残酷さに気がついたのだ。

 

それは、なぜ代わりに死んでくれなかったのかと聞いているに他ならない。

 

「違う、違う、俺が言ってるのはそうじゃないんだ。なんでなんでこうなったんだ! う、う、うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

元気も弁慶を抱きしめ返した。

 

元気は何も弁慶に代わりに死んで欲しかったわけではない。

 

幼い子が姉の死ななかった方法を考えただけだ。

 

それが分かるから弁慶も悲しいのだ。

 

この時はまだ泣けるだけマシだったのだ。

 

その後、父を失った元気は、完全に心を閉ざした。

 

いつも弁慶は武蔵の代わりだった。

 

だから、あの時ポセイドンに乗らなかった武蔵の代わりはミチルではなく、弁慶だったはずだった。

 

ゲッターロボGを操縦し、事故を引き起こした竜馬、隼人と同様に弁慶にも十字架が架されたのだった。

 

武蔵が元気を引き取ったのも、唯一事故に関わってなかったからだった。

 

弁慶は、あの日からずっとポセイドンに乗らなかった理由を自身に問いかけていた。

 

弁慶はゲッターを降り、この世界に来るまでゲッターに決して乗ろうとはしなかった。

 

否、乗れなかった。

 

だが、不思議とこの世界に来てからは、乗って戦うことができた。

 

なぜ?

 

あの日ポセイドンに乗らなかった理由。

 

この世界に来た理由。

 

この世界に来てからゲッターに乗れた理由。

 

薄れゆく意識は全てを一つにする。

 

俺は生き残った。

 

あの時、ポセイドンに乗らずに生き残った。

 

なぜ?

 

それは、まだ生きて戦うため。

 

なぜ戦わなければならないのか。

 

それはきっと……。

 

絶たれた意識を気合いで繋ぎ止め、目を薄目に開くと少女の姿が見えた。

 

少女の姿が元気と重なる。

 

家族を失い、絶望に堕ちた子。

 

あの過ちは、もう繰り返さない!!

 

弁慶は戦車級の手を振り払った。

 

「俺はあの日、ポセイドンには乗らなかった!だから今はここに!この世界にいる!」

 

弁慶が意識を失ったのはおよそ半秒だった。

 

意識を取り戻した弁慶は再び戦車級の正面へと立った。

 

引きちぎれそうなほど腕は傷んでいたが、そんなことは気にならなかった。

 

「汚ねえ手で嬢ちゃんに触るんじゃねえ!!!」

 

弁慶は、戦車級の手をかいくぐって少女を片手で抱き上げた。

 

今、この場で戦車級を倒すことは不可能。

 

だがそれでも少女を連れて脱出することはできる。

 

「嬢ちゃんしっかりつかまってろ!」

 

「おじちゃん危ない!!」

 

瞬間。戦車級が腕でイルマごと弁慶を薙ぎ払った。

 

咄嗟に弁慶は、少女を庇う。

 

吹き飛ばされた2人は、壁に激突するはずだった。

 

弁慶は、少女を左手に抱えたままで右手を壁に向かって突き出し衝撃を殺した。

 

鈍い音とともに、既に傷んだ弁慶の右腕があらぬ方向に曲がった。

 

「ぐおおお!」

 

弁慶は痛みで呻いたが、あの日守ることのできなかったものを守るために立つ。

 

片手で少女を支える弁慶に迷いは一塵もない。

 

「おじちゃん大丈夫?」

 

「大丈夫だ。パパにあわせてやるさ。すぐにな。」

 

だが、戦車級は2人に追撃の手を掛けようと迫った。

 

その時だった。

 

「車! 伏せろ!」

 

その声を聞いた瞬間。

 

弁慶は少女を、下にして地に伏せた。

 

上空から突撃砲が降り注ぎ、屋根ごと戦車級を肉塊にした。

 

黒色の瑞鶴がそこに降り立つ。

 

「早かったな巌谷中尉。」

 

「少女も無事か?」

 

「ああ、今度は守り切れたぜ。」

 

弁慶は痛みはずの腕を抑えたまま、柔和に笑った。

 

「今度は?」

 

巌谷は弁慶の答えの意味は分からなかったが、大丈夫そうなので安心した。

 

「車少尉。奴ら地下を掘り進んでいたみたいだ。トンネルから戦車級が吹き出している」

 

黄色の瑞鶴に乗った篁が巌谷機のすぐ側に降りた。

 

「祐唯。二人を回収してすぐに帰還だ。」

 

「そのつもりだが、巴は何してる?」

 

「先輩ならBETA梯団を止めてるぜ。」

 

「祐唯。先に少女をお前の機に乗せろ。」

 

「了解。さっさと脱出しよう。」

 

弁慶とイルマは、それぞれ戦術機に乗り、町を離れた。

 

弁慶は腕の痛みに意識を失ったが、その表情はどこか朗らかだった。

 

 

 

 

その12時間後。

 

イヴァロからエブァンスクハイブに50キロの位置。

 

BETA梯団は、全滅した。

 

武蔵の操る「ゲッターロボ」たった1機に全滅させられたのだ。

 

だが戦闘を終えた武蔵の様子はどこかおかしかった。

 

興奮や疲れではない。

 

ただ震えていた。

 

コックピットの中で武蔵は頭を抱えていた。

 

「俺は知らない!俺はそんなゲッターは知らない!!」

 

弁慶や巌谷達から連絡があるまで武蔵はそこから動くことはできなかった。

 

 

 

1983年3月9日

旧フィンランド領

ウツヨキ

 

「パパー!」

 

少女は父の姿を見つけて駆け寄った。

 

「イルマごめんな。父さんのせいで」

 

「いいの。帰っきてくれたから」

 

父と娘は泣きながら抱きしめ合った。

 

「あのおじちゃんが助けてくれたの。」

 

イルマは、弁慶を指差した。

 

ミカ・テスレフは弁慶に何度も頭を下げた。

 

その姿を見た弁慶はミカに手を振って満足気にその場を立ち去った。

 

(そうだ。俺はこれからも戦い続ける。)

 

きっとこの光景も「あの日」ポセイドンに乗らなかったからこそあったものだ。

 

俺はこれからも「あの日」ポセイドンに乗らなかった意味を戦いに見出す。

 

「それでいいよな。元気、ミチルさん。」

 

応えはなかった。

 

だが、答えは出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年3月10日

バレンツ海

 

難民の救出が無事終了し、グダニスクに帰還しようとする弁慶は武蔵にゲッターに乗ったことで記憶に変化がないかと聞くことにした。

 

結論だけを言えば、特に変化はなかった。

 

ただ武蔵は、ゲッターでBETAと戦闘を開始した瞬間にある言葉が浮かんだという。

 

それを言った時。武蔵は震えていた。

 

生身でインベーダーと戦った時でさえ恐れを知らなかった武蔵が。

 

その言葉を教えるのをためらう武蔵を説得したが弁慶も聞き覚えはなかった。

 

だが不思議とその言葉を聞いた瞬間。

 

体が震えるのを感じた。

 

それは恐怖なのか、言葉には表せないモノだった。

 

その荘厳の名とは裏腹に。

 

その名は。

 

 

 

 

「ゲッターセイントドラゴン」

 


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