真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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第一部 第5章 「北欧にそびえる大雪山」
弁慶編 第13話 「始まりにして……」


1983年 3月2日

 

旧ポーランド領 グダンスク

 

東側陣営の船がグダンスクを離れ、本国へと帰っていく。

 

闘いの後、本当の意味で同志となった英雄たちを見送りに西側陣営の国の部隊が集結していた。

 

その中に、日本帝国に所属することとなった車弁慶の姿があった。

 

「弁慶、隼人はもう大丈夫だろうか?」

 

武蔵は、心配している様子で弁慶へと話かけた。

 

隼人は、ミチルさんを失って、一番取り乱していた。そのことを武蔵は言っているのだろう。

 

弁慶は、自信を持って武蔵の問いに答えた。

 

「あいつはもう大丈夫だ。」

 

結局、隼人と話をしたのはあのパーティの後だけだったが、弁慶には確信があった。

 

仲間を守るためにゲッター3と格闘戦を挑むなんて生半可な覚悟できるはずがない。

 

「あいつはもう仲間を裏切るような真似はしないと思いますぜ。」

 

「そうか。」

 

武蔵は、目を閉じ頷いた。

 

 

(心配なのはむしろ)

 

弁慶は満足げな武蔵の横顔を見て、武蔵の奇行を思い出した。

 

戦闘中の暴走、その時に言っていた何かそして、これは隼人と話してわかったことだが……。

 

弁慶と隼人は、ほぼ同時にこの世界に来ていたことがわかった。

 

なぜ先輩だけが時間がずれているのか?

 

「後は竜馬だけだな。あいつは今ごろ何しているか。」

 

そんな疑念を持つ弁慶の心は知らず、武蔵は残りの一人のことを話し始めた。

 

「先輩は、この世界に来る前に竜馬に会ったんですよね?あいつどんな感じでした?」

 

「ああ、それだがいまいち思い出せねえんだ。この世界に来た前後の記憶が曖昧でな。」

 

武蔵は、そう言うと立ち上がり駐屯地へと歩き出した。

 

その言葉にウソはないのだろう。

 

「竜馬、お前は今どこにいる?」

 

寒空を見上げ、竜馬を想った。

 

艦へと戻った弁慶は、巌谷中尉と篁少尉に呼び出された。

 

「車少佐、少佐はこの作戦を持って日本帝国斯衛軍の少尉として俺の隊に入ることになった。これからは部下として扱わしていただく。」

 

軍としての規律を保持する以上それは当然のことだ。

 

弁慶は、それについては異議などない。

 

「それはつまり、俺の要求は受け入れられたってことでいいのか?」

 

「ああ、君は「ゲッターロボ」の有用性を示した。それこそ戦術機開発に携わる人間全ての自信を叩き潰してね。」

 

篁少尉が、笑みと悔しさを感じさせる声で巌谷中尉の言葉を引き継いだ。

 

「むしろ、目立ちすぎじゃと儂は言いたい。」

 

艦に設置されたモニターから年寄りの男性の姿が映った。

 

気骨溢れる老齢の軍人が文字通り真剣な眼差しで見つめていた。

 

「儂は斯衛の紅蓮という。弁慶といったかのお前は目立ちすぎじゃ。」

 

紅蓮の話では、日本帝国内では「ゲッター3」の強さより、謎の白い機動兵器つまり「ゲッター2」の脅威論が持ち上がっているようだ。

 

何せ音速を超えるスピードで移動する「スーパーロボット」だ。そのカウンターとして、「ゲッター3」が必要というのが日本帝国上層部の決定だった。

 

「ゲッター2」が「ゲッター3」と全く同じ機体であること。

 

「ゲッター2」を操る人物が弁慶、武蔵と同様この世界にやってきた異邦人であること。

 

この2つの秘密は、巌谷、篁の両名には話していたが、巌谷はこの話を軍上層部へと報告はしなかった。

 

余計な詮索、疑いを招くことが明らかであったからだ。

 

「それから儂は、国内外から昼夜問わず「G」について問い合わせされているんじゃ……」

 

紅蓮中将が突然画面からいなくなった。

 

「量産できるものならとっくにしとる!って言っておけ!」

 

そんな声がした後、紅蓮中将は画面へと戻ってきた。

 

「それで貴様もゲッターロボも儂の預かりになった。」

 

「それはいいが、難民たちは受け入れてくれるんだろうな?」

 

「無論だ。だが、どこからか噂を聞きつけたのか、難民の総数は5倍に膨れ上がった。

すでに受け入れを開始しているが、時間がかかる。」

 

難民都市イヴァロを日本帝国が独自に人道的に支援しているという話。

 

加えて、謎の守護神が現れたという噂によって周辺の難民がこぞってイヴァロを目指したのだった。

 

「もしかしたらこのユーラシアから脱出できるかもしれない」

 

そんな期待感を難民都市に寄せていた。

 

「具体的な期間は?」

 

紅蓮が険しい顔をさらにしかめた。

 

「最短でも1週間。」

 

「1週間だと!?」

 

避難の期間としては長いが、数万人を受け入れる舟を北欧に派遣するだけでも時間がかかる。

 

だが、「はいそうですか」と弁慶には了承できない。

 

何のために弁慶はかつての仲間と拳を交えたのか。

 

「その間の守りは!?難民たちは誰が守る?」

 

弁慶は激昂していた。

 

顔は紅潮し、握りこんだ拳から血が滲む。

 

「都市防衛隊と我々が守る。幸いにも直近のエヴァンスクハイブは沈静化している。」

 

そう紅蓮は言ったが、弁慶は納得などできなかった。

 

結論として、弁慶は自身が難民の避難を完了させるまでフィンランドへと再び戻ることを紅蓮に了承させた。

 

「大隅」は、フィンランドへと進行を開始したのだった。

 

その間、弁慶は、ゲッター2との戦いで傷ついた「ゲッター3」の修繕をすることにした。

 

そしてもう一つ、弁慶の心は「武蔵」へと向いていた。

 

なぜ武蔵だけが時間がずれているのか。

 

武蔵がこの世界に来た時のことを当人以外から聞く必要があった。

 

「篁少尉、一つ聞きたいことがある。」

 

紅蓮との通信が終わり、いつものように武蔵と巌谷がシミュレーション訓練に入った。

 

膨大な実験データを前に腕を組んでいた篁裕唯を弁慶は尋ねたのだった。

 

「なんですか?車少尉。」

 

「先輩がこの世界に来た時の状況について聞きたい」

 

篁は快諾し、武蔵を保護した時の状況について話した。

 

概ね武蔵の話したとおりだったが、一点気になったことがあった。

 

それは武蔵がゲッター3から出て意識を失う前に話した言葉だった。

 

その言葉とは「早く、………合流しなければ」というものであった。

 

武蔵は、誰かと合流する気だったということだ。

 

だが、その後に武蔵にそのことを問いかけても覚えておらず、その言はいつのまにか忘れ去られることとなったというのだった。

 

(先輩の言葉が本当なのだとしたら。)

 

武蔵は……あらかじめこの世界に来ることを知っていたことになる。

 

「先輩は知っているのか……いや知っていたのか。」

 

失われた記憶。そこに答えがあるような気がしてならない。

 

訓練を終えた武蔵にそれとなく尋ねたが、「覚えていない。」としか返ってこなかった。

 

武蔵と分かれた後、弁慶は格納庫の2機並んだゲッター3の前に立った。

 

「ミチルさん教えてくれ」

 

弁慶は、一度見たミチルの幻影に問いかける。

 

もし先輩が誰かとこの世界で合流しようとしていたのだとしたら……

 

「それは誰だ?」

 

高まる武蔵への猜疑心。弁慶は、もっとも信頼できると感じていた昔ながらの戦友への疑いに激しく動揺していた。

 

弁慶の心に闇を生んだまま、「大隅」はフィンランドへと向かって進行する。

 

「竜馬、隼人、これは俺だけではとても……」

 

だがここには、竜馬も隼人もいなかった。

 

そしてミチルの幻影も現れることも……

 

弁慶はたった一人で向き合うほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

次の日、ある報告がもたらされた。

 

沈静化していたロヴァニエミハイブが再び活性化しつつあると。

 

 

 

弁慶編 第13話 終




やっと続き書けたー。やったー。

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