真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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竜馬編 第13話「瞳の向こうに」

1983年3月2日

ソ連 ハバロフスク オルタネィティヴ研究所

 

「何がどうなってやがる? なんでゲッター2とゲッター3が戦っている? これはいつの映像だ!? ジジイ!?」

 

竜馬は、目の前の映像が信じられず、国連本部にいる雷電に問いただした。

 

両ゲッターの周りにいる生物はBETAだ。つまり、この2機のゲッターは、竜馬と同じ世界に来ていることは明白だった。

 

竜馬の頭に先ほどまで、おそらくこの世界に来ているのではないかと考えていた「武蔵」そしてその次に「隼人」の顔を思い浮かべた。

 

武蔵の乗ったゲッター3を相手にできるゲッター2など、隼人以外にはいないだろう。

 

その逆もそうだ。

 

「映像はつい昨日の国連主導の作戦中のものだ。場所は、旧ポーランド領グダンスク。」

 

「ポーランドだと!? ユーラシアの反対側じゃねえか。」

 

昨日見た宇宙船団のこともあり竜馬は激しく混乱していた。

 

「落ち着くのじゃ、今ここで貴様が慌てても何も変わらない。」

 

そして雷電は、竜馬に現在日本帝国の新型の特型戦術機「G」としてゲッター3が発表されていることを伝えた。

 

「武蔵はやはり日本帝国にいるのか? ゲッター2の隼人の方はどうなっている? ジジイ!?」

 

「そちらの方は全く情報がない。貴様の方が詳しいのではないか?」

 

作戦中の不測の事態に陥った司令部がゲッター3に支援要請をしたところ、突如ゲッター2がそこに現れ、その進行を阻んだということ。

 

作戦自体は成功し、ゲッター2の方はいずこかへ消え去ったということ。

 

その2点、作戦中のゲッターロボ出現の経緯を雷電は竜馬に伝えた。

 

「ポーランドで何か起こっているのは間違いねえな。」

 

(武蔵、隼人お前達はそこにいるのか? なぜお前達が争う、俺の次は武蔵か隼人?)

 

無数の武蔵を見た昨日の記憶が嫌でも引き起こされた。

 

「竜馬、月詠から昨日の研究所視察からお前の様子がおかしいと聞いている? 何があった?」

 

「どうせ信じねえよ。俺も信じられねえくらいだ。」

 

竜馬は、雷電に巨大な宇宙船と無数の武蔵のことを話すのをためらった。

 

あまりにも荒唐無稽だったからだ。

 

「酒を組み交わしたお前の言葉ならそれが何であれ信じよう。話してみよ。」

 

雷電の竜馬への語りかけは、父が子に諭すような優しいものだった。

 

「……ジジイ。」

 

竜馬は、口を開いた。竜馬はこの老人を信じることにしたのだ。

 

ESP能力者の生成工場で見た一瞬の幻。

 

巨大な宇宙船、その内部にあった無数の仲間。

 

そしておそらく自身が知らないことにもかかわらず、その光景を見たことがあるということ。

 

その既視感については、竜馬はこの世界を訪れる際に感じた「ゲッター線」の力に包まれた時に見たもの。

 

つまり未来に起こることだと感じとっていた。

 

「それでお前はどうする?」

 

竜馬は少し考え、言葉を発した。

 

「ゲッターが、それともゲッター以外の何かが武蔵を利用しているのなら俺は許さねえ。必ずそのすべてを潰す。」

 

「つまり、お前はかつての仲間を救うために戦うということか。」

 

「武蔵は仲間だ。あんな命を弄ばれるような目に合わせてたまるか。」

 

雷電は、安心したような顔をした。

 

竜馬と雷電の生命への倫理観はそう乖離していないことがわかったからだった。

 

ソ連のオルタネイティヴ研究所の研究員よりも異世界からきた人間との方がより認識を共有できることに安堵したのだった。

 

(この男なら我々人類の背中を任せられる。)そう確信した。

 

後は、この男の心の奥底にある憎しみと悲しみさえ癒すことができれば……。

 

「もしこの世界に来ている「巴武蔵」がお前の知っている「巴武蔵」でなかったらどうする?」

 

「偽者は殺す。」

 

竜馬は、そう断言した。

 

「……お前は仲間を救うために仲間を殺すのか。」

 

「そいつは、仲間じゃねえ!」

 

確かにそうだろう。竜馬にとって、それは仲間の顔をしたほかの何かに他ならない。

 

では?

 

「神隼人についてはどうだ?おそらくこのゲッター2に乗っているのは隼人なのだろう?」

 

「隼人は、俺を裏切り、A級刑務所に送りやがった。ミチルさんを裏切った。だから殺す。」

 

「神隼人こそ貴様の仲間であろう?」

 

そう問いをかけた竜馬の顔は、真っ赤になっていた。

 

そして絞り出すように声を出した。

 

「あいつはもう……俺の仲間じゃねえ。ジジイ!! 俺をグダンスクへ連れていけ。隼人も武蔵も俺が片をつける!」

 

雷電は、声を荒げた。

 

「馬鹿者が! 儂は貴様に仲間殺しをさせるつもりはない!!」

 

「ジジイ! 話が違うじゃねえか。俺がこの世界にいる間は協力する約束だったはずだ!」

 

雷電は、先ほどまでとは対照的に声のトーンを落とした。

 

「……それがお前に協力することにはならんからじゃ。」

 

「何だそれは!? てめえに俺の何かがわかる?」

 

「竜馬、儂は貴様よりも貴様のことをわかっているつもりだ。少し頭を冷やせ。昨日、今日といろいろあったからな。鏡でも見てこい。」

 

「クソジジイが!!」

 

竜馬は、扉を破壊するかのごとくいきおいよくドアを閉め、自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一人残った月詠少佐は、雷電へと疑問を投げかけた。

 

「中将。流を刺激してどうなされるおつもりで?」

 

「儂は、あやつに真に我らの仲間となってほしいだけじゃ、このままではいずれ独りになる。」

 

雷電は、竜馬に対し目先の戦力としてではなく、本当の仲間になってほしいとおもっていたのである。

 

「流の気持ちの整理がつくでしょうか?」

 

「きっかけ次第じゃろうな。昨日、今日ですでにサイは投げられた。後なにか一つ。」

 

(なにか一つあれば、きっといい方に転ぶ。)

 

「しかし、にわかには信じがたいですね。星より大きな宇宙船とは、」

 

「少し前なら信じられなかったじゃろうな。だが、」

 

「中将?」

 

「儂は信じるよ。あやつが儂らを信じてくれたように」

 

雷電は将としてではなく、年相応に微笑んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻った竜馬は、鏡を見た。

 

そこにはひどい顔をした自身の顔が映っていた。

 

竜馬は、部屋を飛び出し格納庫へと向かった。

 

「ゲッターに乗ってポーランドへ行けば!」

 

(行って一体どうする?また仲間を殺すのか?)

 

その時、雷電の顔が浮かんだ。

 

「うるせえ! てめえらに何がわかる?」

 

誰もいないであろう深夜の格納庫へと着いた竜馬だったが、なんと先客がいた。

 

眼鏡を外し、白衣を脱ぎ普段着となっていたエヴァだった。

 

「流大尉? どうしましたこんな夜更けに」

 

「お前こそどうしてここにいる?」

 

「いえ、特に理由はないんですが」

 

「「…………………。」」

 

二人の間に沈黙が流れた。

 

「流大尉は、ゲッターロボに乗っていて不思議なことが起こったことはないですか?」

 

沈黙を破ったのは、エヴァだった。

 

「不思議なことだと!?」

 

エヴァの言った意味がわからず、質問に質問で返した。

 

「ええ例えば、星よりも巨大なゲッターロボや宇宙戦争の映像を見たことはありますか?」

 

「お前なぜ俺がゲッターに乗っていると知っている? 何者だ!?」

 

エヴァは、その正体を隠そうとはしなかった。

 

「私もESP能力を持っています。ゲッターロボが私にそのような映像を見せてくるのです。」

 

「ゲッターがお前に?」

 

エヴァは、これまで彼女の能力で知り得た「未来の竜馬」以外のことを話した。

 

「私は、知りたいのです。ゲッターロボが……「ゲッター線」が人類に何をしているのか、何をさせようとしているのか、そして我々はどこに行こうとしているのか。」

 

エヴァは竜馬の返答を待たずに続ける。

 

「彼女達は……ゲッターに魅入られた彼女達は救われたのですか? この中に彼女達がいるのかと思いましたが、私には見つけることができません。」

 

この超能力者の女性は、ゲッターが明確な意思を持って、人類に何かをさせようとしていると言っている。

 

(それが武蔵を使う理由なのか? ゲッターは武蔵を使って何をする気だ)

 

「そしてゲッターの描く未来にとって、この世界の今、最も邪魔な存在はBETAなのだろうと私は感じました。」

 

「お前は結局、何がしたいんだ?それがソ連の狙いなのか?」

 

「言ったはずです。私はゲッターを知りたい、ゲッターを知るには、貴方の信頼を得るのが一番の近道だと思いました。これは私の意思です国は関係ありません。」

 

「俺はもう誰も信じねえよ。」

 

隼人にA級刑務所にぶち込まれ、武蔵は生死不明な上に「ゲッター線」にいいように使われているのかもしれない。竜馬は仲間を信じることができなかった。

 

「それは貴方が仲間に裏切られたからですか?」

 

「お前に何がわかる!?」

 

竜馬は他人に心を土足で踏み入られて憤慨した。

 

「私にはわかります。仲間に裏切られた悲しみが、貴方を苦しめています。」

 

「違う!違う! 俺は隼人にA級刑務所で見た地獄をアイツに返すだけだ。それが俺の復讐だ。」

 

「怒りで目を曇らせて、また仲間を失うのですか? 今度こそ貴方の手で」

 

「てめえ!」

 

こいつは、ミチルさんのことも知っている。いや俺から感じとっている。

 

「私には貴方の仲間や失った物はわかりません。ですが、私には貴方の心だけはわかります。貴方は仲間を今も信じているから辛いんです。」

 

「俺は……」

 

エヴァに気圧され、竜馬は言葉を続けられなくなっていた。

 

「貴方の仲間をもう一度信じてみてください。私のことはそれからでいいです。」

 

暗い格納庫の中、黒きゲッターロボの下、二人は再び沈黙に包まれた。

 

竜馬は、何も言わずにその場を立ち去った。

 

彼女も沈黙していた。

 

なぜなら彼女には竜馬が変わったことがわかったから。

 

それは、彼女が夢で見た狂気に染まった目でも、先ほどまでの怒りと悲しみに染まった目でもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜馬は、再び駆逐艦内司令室へと訪れていた。

 

「月詠、御剣のジジイを呼んでくれ。」

 

先ほどまでの打って変わって落ち着いていた竜馬に月詠少佐は異を唱えなかった。

 

「どうした竜馬?」

 

雷電の姿が、モニター上に映し出された。

 

「俺は、あいつ等に……俺の仲間に会いに行こうと思う。どうするかは会って話をしてみてから決める。」

 

「……竜馬。」

 

友と再び向き合うと告げた竜馬の瞳は澄んでいた。

 

これまでの友に裏切られた怒りと悲しみに染まった瞳ではなかった。

 

自身の本当の心の声を、暴かれた竜馬は、過去と向き合い、前に進むことを決めた。

 

雷電は、その瞳にかつてそこに在ったであろう、「友と人類のために戦い世界を救った若き青年」の姿を見た。

 

「わかった。儂が責任を持って貴様をグダンスクへと送ろう。」

 

今なら、また違う選択を生むだろうと雷電は感じたのだった

 

雷電は、月詠の方を見て頷いた。月詠は何か言いたそうだったが、それを押し殺した。

 

「流、貴様が西欧に行っている間ゲッターロボは任せろ」

 

「頼んだぜ、御剣のジジイ。月詠。」

 

竜馬は、新たな1歩を踏み出すこととした。

 

「今日はもう遅い休め。」

 

雷電は、竜馬にそう言い、竜馬は自室へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜馬がいなくなった司令室。

 

 

 

「何があったのでしょうね。突然変わりました。」

 

「フン、きっかけはそこら中に転がっていたんだろうよ。」

 

雷電は竜馬の選択に満足そうであった。

 

「中将、実は気になることがあるのですが、」

 

月詠は、ポーランドからもたらされた映像に気がついたことを話し始めた。

 

「この映像に映っている2機は、流の乗っている物と同じゲッターロボですよね。」

 

「そう聞いている。さきほど、竜馬も言ったであろう。」

 

月詠少佐の声は震えた。

 

「ではなぜ、ゲッターロボと接触したはずのBETAは地球から消えないのですか?」

 

「…………!?」

 

月のBETAはわずか竜馬のゲッターと接触した5日後には、消え失せていた。

 

だが、地球のBETAにその兆候は何もない。

 

「地球のBETAは何か違うのか、それとも地球が違うのか。」

 

答えはまだ出そうにはなかった。

 

 

 

 

 

 

竜馬編 第13話 終

 




お久しぶりです。早く全員そろってくれないかなー。まだ当分かかりそう。

実際は、隼人と戦ったゲッター3に乗っているのは、弁慶です。竜馬は「武蔵」だろうと思い込んでいます。(念のため)

これにて第4章「侵蝕する深淵」終了です。


次回は第5章「北欧にそびえる大雪山」です。

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