真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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第一部 第4章 「侵蝕する深淵」
竜馬編 第10話「鏡像」


 

 

 

 

銀河の中に無数の巨大な艦隊が進軍していく。

 

無数の巨大な怪物がそれを阻もうとするが、艦隊を止めることなどできない。

 

艦隊と怪物は宇宙の至るところで衝突を繰り返す。

 

無数の戦闘の中に、怪物たちが勝利する場面も中にはあった。

 

だが、怪物たちが勝利した瞬間に、空間を突き破り、星よりも巨大なソレが現れた。

 

巨大なソレが光を放つと怪物は光に飲み込まれた。

 

ソレの強大な力が怪物を殲滅したのだ。

 

なんという一方的な蹂躙であろうか。

 

 

 

 

幾星霜にもおよぶ年月と衝突を繰り返し、やがて艦隊は怪物を追い詰めた。

 

怪物の中にもソレと並ぶ巨大さを持つものが数十、数百もいた。

 

おそらくこれが、艦隊と怪物の最後の戦いとなるのだろう。

 

巨大なソレの中にいる「男」がなにか声を発した。

 

「男」の眼には、その戦場の敵のみが映っていた。

 

するとソレと同クラスの大きさのものが2つ空間を突き破り現れた。

 

巨大な三つのソレは、近づきやがて「一つ」になる。

 

三つの圧倒的な力を持つものが、「一つ」になった瞬間。

 

巨大な閃光が場を飲んだ。

 

光が収まると、怪物も艦隊も消え去っていた。

 

そして、巨大な「一つ」が残っていた。

 

「一つ」の発する光に消滅されたのか。

 

否、「一つ」と一つになったのだ。

 

「一つ」もまた空間を飛ぶ。

 

新たな戦場、新たな宿敵を求めて。

 

それは未来永劫続く戦い、無数にある戦いの結末の一つにすぎない。

 

この場には静寂が残された。

 

だが、怪物の群れの中にいたひときわ矮小なただ一匹が身を潜めて生き残った。

 

「一つ」の圧倒的な巨大さ、強さに比べれば細胞の一片にもならないちっぽけな存在。

 

 

 

 

 

 

 

 

……だが

 

 

 

 

 

だが、生き残ったのだ!!

 

 

 

 

 

 

1983年 2月22日 

ソ連 ハバロフスク オルタネィティヴ研究所

 

 

 

研究所で休んでいたエヴァは飛び起きた。

 

彼女から流れる冷や汗が止まらなかった。

 

「なんだ! あれは一体!?」

 

彼女は、先ほどまで見ていた夢に恐怖した。

 

大宇宙は巨大な戦場であった。

 

あまりにもスケールが違いすぎる。

 

彼女は、あの「意思をもつ機械」すなわちゲッターロボにリーディングをかけて以来、不思議な夢を見るようになった。

 

それは、あの巨大な「ゲッターロボ」を中心とした宇宙戦争の光景であった。

 

それが未来のことなのか、それとも過去のことなのか、それもわからない。

 

ただわかるのは……

 

わかることは、その夢と「ゲッターロボ」そしてあの男「流竜馬」と関係があるということだ。

 

「ゲッターロボ」にリーディングをかけてその意思に触れてから、彼女の超能力はさらに強化され、新たな能力を開花させていた。

 

それは、対象者の体験した過去を観ることができるという能力だった。

 

だが、この能力は彼女のコントロール下にはなく、突然、目の前の人物が強く印象に残った体験が彼女の脳内に流れ込んでくるのだ。

 

その能力で、オルタネィティヴ研究所の白衣を着た人でなし共が、人形を殺した「ゲッターロボ」に恐れをなしていることを視っていた。

 

彼女の報告した「ゲッターロボ」のパイロット「リョウマ・ナガレ」なる人物を監視することそれだけが彼女に求められていたことだった。

 

彼女は、夢で見た宇宙での戦闘については報告しなかった。

 

報告する義務もなく、あまりにも現実的ではないことだから彼女は報告しなかったのではない。

 

彼女は、自分だけがそれを知っていることを望んだのだ。

 

彼女は今日も、着慣れぬ白衣を身に包みあの格納庫へと向かう。

 

「ゲッターロボ」とあの男に会うために。

 

 

 

 

 

 

同日

オルタネィティヴ研究所 御剣組 駆逐艦内

 

 

 

竜馬は、依然として進まない研究所視察に苛立ちを募らせていた。

 

さらに、「ゲッターロボ」の修理も捗ってはいなかった。

 

御剣組の技術者は、よくやってくれている。

 

しかし、なんせ扱うモノが今まで見たことも聞いたこともない「ゲッターロボ」だ。

 

指示する竜馬も技術者や研究者でもないのだ。

 

全てがスローペースだった。

 

地球に降りてきたというのに、月にいた頃と何も変わっていなかった。

 

変わったことと言えば、「ゲッターロボ」を研究しようとする研究者が一人増えたことだ。

 

まだ若い金髪の女性だった。

 

竜馬にとっては若い女の研究者と言うだけで近づきたくなどなかった。

 

嫌でも、彼女を思い起こさせる。

 

「早乙女ミチル」を。

 

今日も彼女が、格納庫へと足を踏み入れた。

 

「おはようございます。流大尉。」

 

「……エヴァ・ノーリ」

 

「エヴァと呼んでいただいて構いませんよ。」

 

白衣を身に包んだ女性が竜馬へと話しかけた。

 

表向きは、竜馬は大尉として活動をすることになっていた。

 

「お前はこいつが好きなのか。」

 

竜馬は黒色のゲッターロボを見上げ、エヴァもつられて見上げた。

 

「ええ、とても興味深いと思っています。流大尉は違うのですか?」

 

「ああ、俺は嫌いだ。こいつの顔なんざ見たくねえ。」

 

エヴァはすでに竜馬の真意を観ていた。

 

この機に乗ることで仲間と友を得て、そしてこの機に乗ることで仲間と友を失った。

 

好きとか嫌いとかで言い表すことのできないその業というものを竜馬は感じていた。

 

「エヴァ・ノーリ」

 

竜馬はゲッターロボを見るのを止め、彼女を見ていた。

 

「一昨日、ここで倒れていたガキ共がいたはずだ。あいつ等はどうなった?」

 

竜馬の眼が鋭くなっていた。

 

「……………………。」

 

エヴァが答えに困っていると竜馬は続けた。

 

「あいつらが超能力者だってことは知っている。なぜ倒れた?」

 

「……それは」

 

「あいつらに会わせろ」

 

エヴァは迷った後、研究所から少し離れた丘に案内した。

 

そこには、無数の墓標が立っていた。

 

竜馬は、彼女達がすでに亡くなっていることを理解した。

 

竜馬は無数の墓標を前に言葉を失っていた。

 

「流大尉、あの機体はなんなのですか?」

 

「何だと?」

 

「あの機械には、不思議な力が備わっているのはわかります。その正体は何なのですか?」

 

竜馬は首を振った。

 

「俺が聞きたいくらいだ。ゲッター線が進化の力を持っているくらいしかわかっていねえ。」

 

「ではあの夢は?」

 

「夢? 一体何のことだ!?」

 

竜馬はさっぱりわからないといった感じだった。ただ墓標を見つめていた。

 

エヴァは、研究所へ戻ろうと竜馬に呼びかけたが竜馬は「考え事がしたい」と断った。

 

エヴァが竜馬と別れ、丘を降りようとした時だった。

 

「うっっっっっ!」

 

そのとき、彼の記憶が彼女に流れ込んできた。

 

それは葬式だった。

 

遺体も、遺影も飾りもない、仲間うちだけでの寂しい式だった。

 

参列者は竜馬を含めわずか3人。

 

竜馬が仲間になにかを呼びかけていた。

 

仲間の死を乗り越え、前を向こうと呼びかけていた。

 

竜馬は、自身に言い聞かせていた。

 

あれは事故だったのだと。

 

自身が仲間を殺めたこと、仲間をバラバラにしたこと。

 

その眼は狂気ではなく、苦悩の色が映っていた。

 

 

 

 

 

 

エヴァは、我に返ると竜馬の方を振り返った。

 

竜馬は相変わらず、墓標を見つめていた。

 

彼の心はここにゲッターロボを連れてきたせいで人が亡くなったことに動揺していた。

 

竜馬は、墓標と若い女性の研究者を見たことで「早乙女ミチル」を思い出していたのだった。

 

今みた竜馬と夢で見た竜馬は、あまりにも違っていた。

 

どちらも同じ姿。

 

だが、エヴァにはとても同一人物とは思えなかった。

 

仲間の死を悼み、苦悶する彼。

 

宇宙戦争で敵を撃滅する彼。

 

この場にいる彼と夢の彼では、鏡に映したように正反対だった。

 

人と人の姿をした「何か」。

 

「……進化。」

 

彼女はそのフレーズを聞いて、気がついた。

 

彼が同一人物なのであれば、その機械も同一ではないのだろうか。

 

この「ゲッターロボ」がやがて……。

 

宇宙を破壊する機械の怪物になるのではないか。

 

「私は……未来を見ていたのか?」

 

ではなぜ?

 

なぜあそこまで感情豊かで人間らしいあの男が、狂気の眼をした人ではない「なにか」になったのだろうか。

 

その答えは今はまだ誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

竜馬編 第10話終

 


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