1983年3月1日 午後8時
グダンスク
海王星作戦成功を記念して、国家の垣根を超えた祝賀会がとり開かれた。
大騒ぎをする全ての陣営のなかで、一人の男が孤独を貫いていた。
頭に包帯を巻いた隼人だった。
隼人は、祝賀会の行われた会場の隅にいた。
「よう、隼人みつけたぜ」
隼人に声をかけた人物は、かつての仲間の一人、巴武蔵だった。
「武蔵か。久しぶりだな。2カ月ぶりか。」
「俺はお前とちがって4カ月だが、まあいいか。」
隼人は、2カ月と声に出したがそれ以上の長さに感じた。
隼人がチームを離れてから3年間顔を突き合わすことがなかったからだろうか。
隼人と武蔵はこれまであったことを互いに話した。
「つまり、隼人は東ドイツの奴らのために弁慶と闘ったのか。」
「ああ、そうだ。」
武蔵と弁慶は、隼人が全部隊強制参加のこの祝賀会にいるだろうと考えて探し回っていたのだった。
「俺は遅れてここに来たんだが、よくすぐに見つけたな。」
「いや、なんかこうピンと来たんだ! お前がここにいるってな。」
「……超能力はもう勘弁してくれ。」
「それで隼人、さっき話した俺のゲッターだが……」
武蔵と隼人は、祝賀会を抜け出した。ヴァンキッシュ試験小隊のドックを通り抜けて日本帝国の軍艦大隅までたどり着いていた。
ドック内には、ボロボロになったゲッター3とおそらく弁慶が回収したゲッター2の左腕がそこにあった。
大隅の中に入ってみると、もう1機の武蔵が乗ってきたゲッターロボがそこにあった。
「隼人、たのむぜ! こいつを直してくれ!」
「長い時間は見られんが、見てみよう」
隼人は、ゲッターロボの中に乗り込んだ。
機体の中にはどこか懐かしく、そして哀しい匂いがかすかにした。
隼人は、密室内で煙草に火を点けた。
その匂いを掻き消すために。
だが、その匂いは……きえなかった。
隼人が機体に乗り込んで約1時間が経過した。
武蔵は隼人を見つけたことを弁慶に教え、大隅まで戻ってきた。
「隼人がいま、俺のゲッターを見てる。これで俺もゲッターで暴れられるぜ!」
武蔵は興奮していたが、弁慶は対照的に冷静だった。
「たしかに、隼人が見てくれれば戦線復帰できそうだが」
「そうだろ!」
そんな会話をしていると、隼人がゲッターから出てきた。
「……弁慶。」
「隼人!」
二人は互いをみつめ、沈黙した。
つい数時間前まで戦っていた間柄だ。気まずい雰囲気が流れる。
「おい隼人! どうだった!?」
武蔵は、空気を読まず隼人に問いかけた。
「会場に戻るぞ、少し長居しすぎた。歩きながら話す。」
3人は急いで会場へと戻りながら、話し始めた。
「結論から言う。あのゲッターは使えない。」
「どういうことだ!?」
隼人の言葉に武蔵が驚いた。
「あのゲッターは……」
隼人は息を呑んだ。
「あのゲッターには、動作しない理由がない。」
「おい隼人言っていることがわからんぞ」
武蔵の反応を待たず、隼人が続ける。
「あのゲッターは俺が見る限り故障していない。それは確かだ。もし動かない理由があるとしたらそれは……」
「それはなんだ?隼人」
(もしも「ゲッター線」の意思があるという仮説が正しいのなら。)
「ゲッターが自らの「意思」で動くことを拒否している。」
祝賀会場に戻った武蔵は、すでに切り替えていた。
「動かないものは仕方ねえ。当分は瑞鶴が相棒だな。おっしゃ飲むぞ!巌谷と篁探してくる!」
武蔵が場を離れ、弁慶と隼人は二人になった。
「隼人、お前が正しかったんだな。」
「そいつはどういう意味だ?弁慶」
弁慶は、会場の様子を眺めて続ける。
「あれだけいがみ合っていた東と西が今じゃ仲良く酒を飲んでいる。」
隼人が、目を向けると東陣営と西陣営が笑いあっていた。
その中心は紛れもなく666だった。
「隼人、お前が俺から守りたかったこの光景。お前の考えが正しかったんだ。」
隼人は煙草の煙を大きく吐き出した。
「……馬鹿かお前は、今回はたまたま上手くいっただけだ。全滅する可能性もあった。命を守ろうとするお前の行動が間違いなはずない。」
「……隼人」
「それにあいつ等を……世界の爪はじきにされていたあいつ等を本気で守ろうとしてくれた。」
隼人は内心弁慶に感謝していたのだった。
「なあ隼人、お前が良ければ俺たちと一緒に行かないか?」
弁慶の誘いに隼人は首を振った。
「あいつ等は、今微妙な立ち位置にいる。あいつ等が障害を乗り越えるまでは見届けたい。余所者なりに手を貸すつもりだ。」
隼人の「仲間を守りたい」という言葉に弁慶はもう誘わなかった。
「隼人……竜馬は来ていると思うか?」
「ああ……来ているだろうな。だが竜馬が来ているには静かすぎる。武蔵のように時間がずれているかもしれんな」
「月とかに飛ばされてたりしてな!」
「……そいつは笑えるな。」
「俺は今のお前なら竜馬も許してくれると思うぜ。」
「…………………」
隼人と弁慶が話していると、隼人の姿を見つけたテオドールとカティアが駆け寄ってきた。
「ここにいたのかハヤト探したぞ!」
「ハヤトさんも飲みましょう!」
弁慶は隼人に駆け寄る東ドイツの衛士を見てその場を立ち去った。
「余所者ね。あれだけ慕われていて何が余所者なんだか。」
弁慶は新たな仲間に囲まれる隼人の姿を見て笑っていた。
「車さん!」
背後から弁慶を呼ぶ女性の声が聞こえた。
弁慶が振り向くと、弁慶が助けた東ドイツの少女がいた。
「たしか……」
「リィズです! ささ、今日は飲みましょう!」
リィズは、弁慶の手を引いた。
「いや、俺は。」
「命の恩人にお酌くらいさせてください。」
「それじゃあ、1杯だけだ。」
「はい!」
東ドイツの少女に手を引かれつつ、弁慶は先ほどまでの隼人との会話を思案する。
意思。
もしも本当に武蔵の乗っていたゲッターロボがその意思によって、その行動を封じているのなら。
一体「誰」の意思なのか。
弁慶ははじめて、「この機体」を見た日の夜を思い出した。
暗闇の中でみた確かな幻。その人影。
「早乙女ミチル」の幻影を。
隼人・弁慶編12話終
第3章「ゲッター2VSゲッター3」終了です。