月面戦争時
隼人達が所属する月面基地にインベーダーが襲撃をした。
隼人は、竜馬、武蔵とともにゲッターロボに搭乗し、弁慶とミチルは基地に残った。ゲッターロボは、基地を襲うインベーダーを殲滅した。
だが、信じられない報告がゲッターチームに飛び込んだ。
「隼人達の所属する月面基地からちょうど月の反対側に位置する基地がインベーダーに強襲されている。」との報だった。
「馬鹿な、インベーダー共が俺たちを陽動しただと!?」
ゲッター2に変形し、ゲッターロボがその基地に辿り着いたときには、全てが終わっていた。
基地には、無数のインベーダーが侵入していた。
「おい! 誰か生きている奴はいないのか!?」
武蔵が基地へ呼びかけた。ゲッターチームの予想を裏切り、基地からは応答があった。
「……たすけてくれえええええええええ!」
「我々はここだ!!」
生きている!
だが、そう安堵した瞬間。
それは絶望に変わった。
「おい! 竜馬、隼人! あれは!?」
武蔵は、目の前の光景を信じることができなかった。
「あれはもう……だめだ。」
隼人は、目の前のインベーダーを見てそう判断した。
助けの声は、インベーダーの体内から発生されていた。
インベーダーの体には、基地にいた幾人もの人の顔が張り付いていた。
そのどれもが、苦悶の顔を浮かべて、助けと痛みを請いていた。
そのインベーダーからいくつもの触手が伸びて、ゲッターを捕獲しようとした。その触手をゲッター2で抵抗することなく避け続けた。
「どうすればいい」
ゲッターチームの誰もがその答えを探していた。
「ジジイ! 隼人! インベーダーに寄生された人間を助ける方法は見つかったのか!!」
竜馬が叫ぶと戦況ウィンドウに基地にいる早乙女博士、ミチル、弁慶の顔が映し出された。
「残念だが、助ける方法は今のところ見つかっていない。」
博士の答えは残酷なものだった。
隼人は、無言で首を横に振った。
その答えを聞いた竜馬は……。
「隼人!俺に代われ。俺がやる。」
その通信を聞いた弁慶が回線に飛び込んできた。
「おい!竜馬!お前何する気だ!?お前まさか!?」
竜馬は通信を断った。
「オープンゲット!」
ゲッター2から3機分かれたゲットマシンがゲッター1へと変形した。
竜馬は一度、辛そうな顔をした後、顔を上げ、助けを求める人の声のする方を目を逸らすことなく真っすぐに見た。
「チ!…………ゲッッッタァァァァァビィィィィムウウウウ!!!」
ゲッター1の腹部から赤い光が発し、光線がインベーダーを貫いた。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
両手にトマホークを持ち、ゲッター1が基地へと突撃した。
隼人は目を伏せ、武蔵は帽子を目深に被り、竜馬の悲痛な叫びだけがコクピッドに響いていた。
1983年 2月28日 午後4時
旧ポーランド領 グダンスク
戦術機揚陸艦ペーネミュンデ内で戦術機整備の準備をしていた隼人に信じられない情報が飛び込んできた。
日本帝国の新型戦術機がBETAを何百匹も単機で倒しているとの情報だった。
隼人は、世界最強と言われる戦術機F14を見たが、F14ですらそんな戦果を挙げられるとは思っていなかった。
(単機でBETAを数百だと? まさかな)
だが、隼人の予想は当たっていた。
帰還した666戦術機中隊の口から語られた日本帝国所属機の特徴が、その機体がゲッター3であることを隼人に理解させた。
(不味いことになったな)
この戦いにおける666戦術機中隊―東ドイツの存在意義を示すという目的が困難になったのは言うまでもない。
東も西も突如現れた極東の島国がつくった戦術機(ゲッター3)に注目していた。
今や最先端のF14で構成されるアメリカの「ジョリーロジャース」のことすら誰も話題にしてはいない。
東ドイツの一個中隊など因縁ある西ドイツと他1隊以外に興味を引くものはいなかった。
隼人が戦闘で傷ついたリィズのバラライカを整備していると、アイリスディーナが訪ねてきた。
「全く予想外だった。まさか「もう1機」現れるなんてな。」
アイリスディーナは既に、その存在の正体に気がついていた。
この世界にとってイレギュラーな存在。
この世界に現れた新たな「ゲッターロボ」だということに。
「グダンスクは奴の話でもちきりさ。我らのことなど気にも留めてはいない。」
アイリスディーナはため息をつき、腕を組んだ。
「そんなことを言いにわざわざ声をかけにきたのか?」
隼人は、手を止めアイリスディーナの顔を見た。
「いや、貴様に言っていた「出撃禁止」命令を解こうと思ったまでだ。すでに私の描いた絵は崩れた。」
西側諸国が窮地に立たされれば、666戦術機中隊に加勢を頼むだろうというアイリスディーナの思惑は崩れた。
すでに、隼人のゲッター2を止めておく理由はなくなったのだ。
「あとは貴様の判断に委ねよう。より多くの命が救われるように動いてくれ。」
2機のゲッターが海王星作戦に加勢すれば作戦は容易に進むことになる。
だが、その戦場で666戦術機中隊は、自身の価値を知らしめることはできない。
「それでいいのか。」
「次のチャンスを待つさ。………もっとも次があればだが」
アイリスディーナはそう言うと去っていた。
次のチャンスまでに東ドイツと我々が生きていたら。と隼人はアイリスディーナがその言葉に含めているのを感じた。
「………次のチャンスか。」
そんなものがもう来ないことを彼女は知っている。
この戦場の他にチャンスはないのだ。
ゲッターのいる戦場で第666戦術機中隊が、世界にその名を示す方法が一つだけある。
作戦中、西側が「第666戦術機中隊」を頼る状況を、「虎の子の新型が所属不明機に襲われる」という形で生み出すことだ。
それは、「ゲッター2」で「ゲッター3」を止めることだ。
「問題は「ゲッター3」に乗っているのが誰かってことだ。」
隼人にとっては、乗っている奴の腕が悪ければ、悪いほど都合が良い。
「確かめる必要があるな。」
その時、格納庫で誰かが騒いでいることに気がついた。
隼人は、戦術機の陰から格納庫入口を覗いたところ、テオドール達と見知った顔を二つ見つけた。
他でもない、それはかつて隼人と共に戦い、共に世界を救った二人。
巴武蔵と車弁慶だった。
隼人は、すぐに彼らから見えない位置へと移動した。
隼人にとって、それは最悪という他なかった。
武蔵、弁慶どちらも「ゲッター3」の乗り手として、隼人の知る限り最強のパイロットだ。
それを止めなければならない。
隼人の脳裏にかつてその剛腕でインベーダーを駆逐していたゲッター3の記憶が呼び起こされる。
他人事などではない、隼人もその機体の中にいたからだ。
隼人の頬に汗がつたる。
「ゲッターロボ」3形態の中で最強のパワーを誇る「ゲッター3」を物理的に止めなければならない。
隼人も、この世界の他の衛士とともに「命」をかけなければならない場面が差し迫っていた。
二人が足早に、ハンガーを去っていった。
隼人は、その様子を眺めていた。
隼人の元に、テオドールが訪ねてきた。
「ハヤト……あんたに聞きたいことがある。あの機体は、「ゲッターロボ」だな。あいつらはあんたの知り合いじゃないのか?」
テオドールも、既に日本の「新型」が「ゲッターロボ」だということに気がついていた。
「ああ……。」
「ハヤト……お前はあいつ等といかなくていいのか? 仲間なんだろ?」
「今の俺には、他にすることがある。」
テオドールの顔に安堵がみえた。
「テオドール。アイリスディーナは、この戦いを東ドイツの「666戦術機中隊」の存在を西に知らしめる機会にするつもりだった。」
「ああ、俺もさっき聞いた。だが、この状況なら難しいだろう。今まで救われていたものにチャンスを潰されるとは……皮肉だよな。」
テオドールも諦めの兆しをみせていた。
「もしチャンスが……中隊の目的を達成できるチャンスが与えられたなら……命を賭して目的を達成できるか?」
隼人の珍しい問いかけにテオドールは目を見開いた。
「俺はこれまでと変わらない。もしあんたが……チャンスをくれるってんなら俺は、全力を尽くす。」
隼人は、その答えに頷いた。
「……わかった。俺も命を懸けよう。」
(お前達……俺の「仲間」の守りたいものを……「信念」を守るために)
ゲッター3を止めてみせる!!
隼人は、今の所属、立場を捨てて弁慶達とともに行くという衝動に駆られたが、そうするわけにはいかなかった。
隼人は、もう「第666戦術機中隊」の仲間であるのだから、仲間を裏切ることは、かつての自身の行いを繰り返すことに他ならなかった。
だから……。
1983年 3月1日 午後0時
グダンスク内陸部
アクティヴディフェンス失敗。
その報を聞いた隼人は、既に内陸部の地下に潜んでいた。
ゲッター3が新たなBETA梯団へ向かうのを待ち構えていた。
隼人はいくつかの偶然が重なるように、博打を打っていた。
一つ目の博打は、アクティヴディフェンスが失敗すること。
二つ目の博打は、作戦司令部がゲッター3に救援要請をすること。
三つ目の博打は、ゲッター3に乗っているパイロットが一人であること。
「ゲッターロボ」は3人乗ってはじめてその性能の真価を発揮することができる。
それは単独で乗る状態に対して3人ならおよそ9倍の出力である。2人でも4倍の出量である。
エネルギー量にそれだけの差があれば、いかにゲッター最速のゲッター2を操る隼人といえど、「ゲッター3を止めること」など不可能だった。
近づいてくるゲッター3のゲッター炉心のエネルギー数値は、隼人機とほぼ同値であった。
博打には勝った。それならばあとは!!
隼人はゲッター2を駆り、ゲッター3の前に飛び出した。
「こいつを止めればそれでいい!!」
隼人は、今の仲間の守りたいものを守るために、かつての仲間と戦うことを選んだ。
「行くぞ……ゲッター3!!」
ゲッター3の周りをゲッター2が高速移動する。
ゲッター3の最高速度は時速200キロメートル。
対して、ゲッター2の最高速度はマッハ3。
これだけの差があるが、隼人はスピードを緩める気などない。
ゲッター3の時速200キロメートルは足の話だ。手の速さは、それを遥かに超える。
音速レベルで飛び回るインベーダーを掴んで、叩き落したことすらある。
それを証拠に、ある一定の距離間を守らなければすぐに黄色の腕が飛び込んできた。
地中からの攻撃も不可能。本来、水中での活動を考慮されているゲッター3は、上下前後左右の空間把握、すなわち水面、水中、そして地中すべてにおいての把握が他の機より上だ。
飛び出した先に、モグラ叩きのように、黄色い腕が待ち構えているだろう。
追いすがる黄色い腕を避け、隼人はゲッター3の背後に回り、ゲッター3の背面へ向けてドリルストームを叩き込んだ。
ゲッター3は、後ろに振り返り、腕を十字にしてドリルストームを受け止めた。
ドリルストームでは、ゲッター3の強固な防御力では足止め程度にしかならない。
ゲッター3は、ゲッター2の攻撃を捌きながら、着実に梯団へと向かっていく。
「こいつに乗っているのは、どっちだ?武蔵か?弁慶か?」
武蔵の方がより動きが単純で読みやすい。
だが、四ツ目の博打は外れていた。
隼人は、ゲッター3の周りを高速移動しながら、ゲッター3の動向に注意を払っていたが、ゲッター3がなにか妙な動きをしたのを確認した。
その瞬間。
ゲッター2の前に、何かが飛んできた。
間一髪。
それを避けたが、それは要撃級の大挟みだった。
ゲッター3は、BETAの死骸を音速を越える速度でゲッター2に投げつけたのだった。
「チ!」
こいつは、臨機応変で読みづらい武蔵ではない……弁慶だ。
「てめえ何者だ! なぜ俺の邪魔をする!?」
オープンチャンネルで怒鳴りあげる弁慶の声が聞こえた。
隼人はその問いに応えない。
そうこうしながらも、ゲッター3はBETA梯団に迫っていた。
ドリルストームでは、ゲッター3を完全に抑えることなどできない。
それは、ゲッター2で弁慶の操るゲッター3に格闘戦を挑まなければならないということを示していた。
隼人の狙いは、ドリルアームでゲッター3の背面にあるミサイルタンクを破壊することだ。
あそこを破壊すれば、中のパイロットを傷つけることなく、ゲッター3に損傷を与えることができるだろう。
隼人は、気づいていなかった。
ゲッター3がBETAの死骸をゲッター2に投げつけることができるということに。
弁慶に動きを読み取られつつあるということに。
最高速でゲッター2を加速させ、背後に回りこむ。
「もらった。ドリルアーム!!」
ゲッター2がその右腕を容赦なくゲッター3へとたたきつけた。
「な!?」
思っていた衝撃とは、異なるものに隼人は驚いた。
ゲッター2とゲッター3の間には、突撃級の外殻が挟まっていた。
ドリルアームがゲッター3に突撃級の外殻を突き破って辿り着く前に、ゲッター3のゲッターパンチが思い切りゲッター2に叩き下ろされた。
「チ!」
間一髪。
隼人は、ゲッタービジョンでその一撃を避け、高速でその場を離れた。
隼人は、冷や汗を流していた。
ゲッター3は、ゲッター2が飛び込んでくるのを待っていたのだった。
ドリルアームを一瞬止めるために突撃級の外殻を利用した。
ゲッター2の最高速の一撃を待ち構えるなど不可能だ。その突撃のタイミングを事前に知っておくことでもできなければ……。
今度は、秘匿回線。ゲッターロボ同士でしか通信できない通信で弁慶の声が聞こえてきた。
「隼人!! お前なんだろう!? 一体なんのつもりだ!?」
その問いに隼人は……。
隼人編 第10話 終