真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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弁慶編 第7話 「帝国の特型戦術機」

 

1983年 2月28日 午前7時 

バルト海

 

日本帝国軍戦術機揚陸艦「大隅」の甲板上で弁慶は、周りに一面に広がる多国籍の軍艦を眺めていた。

 

弁慶は、海を覆うほどの軍艦を見つめつつ、複雑な表情を浮かべていた。

 

瞼に浮かぶのは、難民キャンプと故障した戦術機で出撃しなければならない半数以下になった大隊だった。

 

これだけの戦力があれば、イヴァロの難民7000人を容易に救えるはずだ。

 

だが、この「世界」は、弱者に対してあまりにも厳しかった。

 

それだけ、余裕がなかったのだ。

 

「車少佐。ブリーフィングルームに来てくれ。」

 

巌谷中尉に呼ばれて、弁慶は作戦室に入った。

 

「我々は、戦術機1個小隊のみの参加となる。この戦闘に参加する全ての軍の中で最小規模だ。」

 

巌谷中尉が作戦内容の説明を始めた。

 

「よって、我々は、作戦内で最大規模の戦力を持つアメリカ軍と行動する。」

 

「北」海岸を制圧する米軍との合同作戦。

 

「米軍からの指示は……、「後ろに下がってみていろ。」だ。」

 

アメリカにとって、日本の戦術機1個小隊の戦力などあってないようなものだ。

 

ヴァンキッシュ小隊に戦場に出てこられた方が迷惑ということだろう。

 

「だが、我々は後ろで指を咥えてみることはできない。」

 

弁慶は、「ゲッターロボ」の有用性を日本帝国に知らしめなければならない。

 

篁達は、次代の戦術機のために「瑞鶴」の実戦データを集めなければならない。

 

小隊にも後方待機などする余裕はなかったのだ。

 

突如、艦内に爆音が走った。

 

「はじまったか。」

 

多国籍軍による艦砲射撃が開始された。

 

「海王星作戦」のゴングが鳴ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グダンスク沿岸のBETAは艦砲射撃によって撃破されていた。

 

いよいよ戦術機による橋頭保の拡張。40キロメートルの縦深が始まろうとしていた。

 

橋頭保には続々と、アメリカ軍の最新鋭機F14「トムキャット」が上陸していた。

 

F14に搭乗したアメリカ海軍第103戦術歩行戦闘隊「ジョリー・ロジャース」の隊員が軽口をたたいていた。

 

「なんだってジャップと組まなきゃいけないんだ?」

 

「お荷物がないと赤の連中との差が開く一方だろ」

 

「見ろよ! 日本の新型が出るぞ!」

 

「大隅」から2機の黒色の瑞鶴が飛び立った。

 

「ジーザス! 日本の噂の新型はF4だ!」

 

瑞鶴はファントムの改修機である。

 

F14に乗る彼らからすれば、最も古い戦術機の改修機が日本の最新鋭機など恰好の笑い話に他ならなかった。

 

だが、笑い話では終わらなかった。

 

「大隅」から彼らの想像を遥かに上回るものが現れたのだった。

 

「ジャップそりゃ一体何だ!? お前らは何を造った?」

 

その物体は、「大隅」から海中へ飛び込むとグダンスク海岸に浮上した。

 

彼らは知る「世界最強の戦術機部隊」の称号を返上しなければならないということを。

 

 

 

 

 

 

弁慶は先行していた巌谷、武蔵と共にグダンスク沿岸に到着した。

 

作戦に参加する3機の中で、指揮をとるのは巌谷の役目である。

 

巌谷は、初めて光線級の存在する戦場に立った。加えて、話だけでは戦局を1機で左右することも可能だという「ゲッターロボ」の存在が嫌でも頭をよぎる。

 

しかし、巌谷は実際にゲッターロボの戦いを見たわけではない。

 

現場指揮官として「ゲッターロボ」の真価を見極めなければならなかった。

 

そんな,巌谷をよそに、かつて世界を救った二人は、落ち着いていた。

 

「懐かしいな。この空気。」

 

武蔵は、弁慶にそう語りかけた。

 

世界を変えて、機体を変えても、仲間と共に戦うことに変わりはない。

 

「先輩! ゲッターチームの恐ろしさを見せてやろうぜ!」

 

弁慶は、今この場にいないチームリーダーの口癖をまねた。

 

「こちら、ヴァンキッシュ0」

 

一人、艦に残った篁から通信が入った。

 

篁は,コマンドポストとして指令台に立ったのだった。

 

「さて我々に下った指令は後方待機だが? 榮二どうする?」

 

「知れたこと。命令違反はうちの専売特許だ。」

 

巌谷はそう笑うと、部下の乗る瑞鶴とゲッター3を見た。

 

「君もかなり部下に毒されているようだね」

 

「行くぞ!! 新生ヴァンキッシュ試験小隊出撃だ!」

 

ゲッター3を先頭にヴァンキッシュ試験小隊はBETAの群れへと飛び込んだ。

 

「先陣は俺が切る。二人はサポートを頼む!」

 

弁慶が叫び、ゲッター3が目前のBETA群に突撃した。

 

要撃級がゲッター3に向かってとびかかり、大挟みをゲッター3に向かってふるった。

 

だが、大挟みはゲッター3の左手に難なく受け止められ、反対にBETA群へと投げつけられた。

 

要撃級は他の要撃級、戦車級と衝突し、動かなくなった。

 

「は!?」

 

巌谷は自分の目が信じられなかった。

 

ゲッター3は、片手で要撃級の攻撃を受け止め、投げ飛ばしたのだった。

 

間髪いれず、ゲッター3の周囲のBETAがゲッター3を取り囲み、一斉に襲い掛かった。

 

その数、およそ50。

 

「うおおおおおおおおおおお!!」

 

ゲッター3の腕が戦車級数体をまとめて払い飛ばし、伸びた腕で要撃級を掴み上げ、ジャイアントスイングの様に周りのBETAを薙ぎ払った。

 

「シシシ、絶好調だな。弁慶」

 

後続の瑞鶴が突撃砲を発射しながら、ゲッター3に追随するが、あまり効果はない。

 

ゲッター3の通った跡にBETAなど1匹たりとも残っていないからだ。

 

光線級がゲッター3にレーザーを放つが、装甲は傷一つつかなかった。

 

弁慶は、足元の潰れた戦車級を拾い上げて、その光線級に向けて投げつけた。同胞の死骸が目の前に現れたことによって照射を止めた光線級と死骸が衝突し、光線級は潰れた。

 

ゲッター3はゲッターロボの3形態の中でも攻撃力、防御力に優れた形態である。

 

光線級の照射を数秒受けた程度では、ゲッター3の装甲を貫通することなど不可能だった。

 

その光景を目の前で見て絶句する巌谷だったが、巌谷以上に驚いていたのは米軍である。

 

BETAとの近接戦闘など言語道断の米軍にとって、群れの中で大立ち回りを繰り広げるゲッター3は想像を絶した。

 

「ジーザス! ジャップはなんてものを造ったんだ!?」

 

「信じられない。たった1機でBETAの群れに風穴を開けやがった」

 

「負けていられん! 我々も追いかけるぞ」

 

群れの外周から砲撃をしていた彼らだったが、群れの中に飛び込んでいった弁慶達の後を追い始めた。

 

BETAは一目散にゲッター3に向かっていく、その集団を横から瑞鶴とF14が突撃砲で狙い撃つ。

 

ゲッター3は向かってくるBETAをちぎっては、投げて、突撃していく。

 

弁慶は気が付けば、40kmの縦深を終えていた。

 

予定の時間よりも、早くに目標を達成した。

 

「よし目標達成だ。車少佐、巴、小休止だ。」

 

巌谷は、「ゲッターロボ」の戦闘力に驚愕しつつ、冷静に指示をしたが、もう1機の瑞鶴は止まらなかった。

 

「先輩? どうしたんですか?」

 

弁慶の呼びかけすら無視し、瑞鶴は欧州連合軍の担当する「中央」へと向かったのだった。

 

「先輩!?」

 

「チ! 暴走癖がまた出たか!」

 

「中央」へと進行した武蔵を弁慶と巌谷が追いかける。

 

「どうしたんですか!? 先輩!?」

 

その時、ゲッター3が武蔵の声を通信で拾った。

 

「人類……敵は絶滅……未来のため」

 

武蔵の瑞鶴からは意味不明な言葉が飛び込んだ。

 

「先輩!? チィィィィ!!」

 

武蔵の瑞鶴は機体限界値のスピードを保ったまま、方向転換、急上昇、急降下を繰り広げた。

 

武蔵機はBETAを見つけては、突撃砲を連射し、BETAを殲滅した。その武蔵機に追随する巌谷機そしてゲッター3。

 

3機は、「中央」のBETA群に飛び込んでいた。

 

「日本機!? どうしてこんなところに」

 

「なんだアレは? 戦術機か!?」

 

欧州連合の戦術機部隊が突如現れた日本の瑞鶴とゲッター3に驚いた。

 

瑞鶴はまだいい、一目見ればF4の系列だということがわかる。

 

だが、もう1機はBETAの死骸の転がる戦地をキャタピラで高速走行する機体は彼らの想像を超えていた。

 

米軍のF14も到着し、「中央」は、日米連合軍、欧州連合軍が入り乱れる戦場となった。

 

「中央」も40kmの縦深を完了させていた。

 

「先輩! 何考えて!」

 

弁慶が武蔵へ呼びかけたが、武蔵は先ほどの様子とはうって変わっていた。

 

「弁慶。どうした?」

 

「あんたそんな機体で単機で突撃したら命がいくつあってもたりねえぞ!」

 

弁慶は武蔵を怒鳴りつけたが、武蔵は気にしていない。

 

「お前がいるからな。多少の無理はするさ」

 

「先輩、さっきのあれは?」

 

武蔵のあのうわ言のような言は一体なんだったのか?

 

「あれ? あれってなんだ?」

 

武蔵は覚えていないようだった。

 

モニターに巌谷の顔が映った。

 

「巴、てめえ」

 

「隊長、俺たちの瑞鶴の存在を世界に示したぜ」

 

武蔵の上機嫌なセリフに巌谷は呆れた。

 

「瑞鶴よりも……」

 

他の部隊は、何かを警戒していた。

 

言うまでもない。

 

彼らの警戒対象はゲッター3だった。

 

未だBETA戦の戦場となっていない国がとんでもない対BETA兵器を造っていたのだ。

 

味方であるうちはいい。だが敵になれば、先ほどのBETAのように素手で叩き潰されるのは自分達だ。

 

その時、「中央」と「南」の境目、欧州連合軍とワルシャワ条約機構軍との担当区の境目にBETA群が大挙として押し寄せグダンスク沿岸に進行しているとの情報が入った。

 

「欧州連合軍司令部より各部隊へ、「中央」と「南」の境界線上にこれより艦砲射撃を行う。各部隊は境界線上から離れろ」

 

だが、ゲッター3に乗る弁慶だけは、その「境界」に飛び込む10機の戦術機を捉えていた。

 

ゲッターの探知機能は、重金属雲の影響を受けない。他の戦術機よりも圧倒的に探査機能範囲が優れていた。

 

「ヴァンキッシュ3より欧州連合司令部。先ほどの境界線上にすでに部隊が入っている。砲撃は待たれたい。」

 

弁慶は「欧州司令部」に対して砲撃を待つように呼びかけた。

 

「こちらからは確認できない。砲撃は予定通り行う」

 

だが、司令部は弁慶の意見を取り入れなかった。

 

データリンクを共有していない両軍では他の軍の機体を把握することはできなかった。

 

否、把握していたとしても、「東側」の機体を守るために砲撃を止めることはなかっただろう。

 

だが、そんな背景など知らない弁慶には関係がなかった。

 

「先輩、巌谷中佐、そこで待っていてくれ!」

 

弁慶はゲッター3を「境界」へと走らせた。

 

弁慶は敵群に飛び込んだ「勇者」をフレンドリーファイヤで見殺しにするのは絶対に嫌だった。

 

「うおおおおおおおおお」

 

ゲッター3を視認したBETAが進路を遮るように立ちふさがった。

 

「どけええええええええええ」

 

ゲッター3の剛腕がBETAを投げ飛ばした。

 

米軍機、欧州機ともいずれとも異なる6機がゲッター3とすれ違い境界線上から離れていく。

 

「あとの4機はどうした?」

 

レーダーを確認すると、4機は依然として境界線上に向けて進行していた。

 

「間に合えよ!」

 

ゲッター3は最高速で境界線上へ向かった。

 

3機の機体とすれ違った。1機は、機体トラブルを抱えているのか全く動きを見せない。

 

その時、レーダーがグダンスクからの砲撃を捉えた。

 

砲撃は一直線に「境界」へと向かってきた。

 

エンジントラブルで動きを見せなかった1機が視界に入った。

 

「届けえええええ!」

 

弁慶はゲッター3の腕をその機体に向かって伸ばした。

 

ゲッター3の腕がその機体を抱えた瞬間、砲撃が彼らの頭上へ降り注いだ。

 

ゲッター3は機体を抱え込んだまま、地面にうつ伏せになり、砲撃からその機体を守った。

 

「大丈夫か! あんた!」

 

「え? 何があったの? 私生きてるの?」

 

弁慶の呼びかけにその機体の衛士が答えた。

 

信じられないことに、その衛士は10代の少女だった。

 

(こんな若い少女がこんな最前線に!)

 

弁慶には衝撃が隠せなかった。

 

「嬢ちゃん! 逃げるぞ!」

 

だが、「生きている」そのことに安堵した弁慶は、その機体を抱き上げたまま、「境界線上」から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 2月28日 午後4時 

 

 

グダンスクには簡易ながらも前線基地が展開されていた。

 

弁慶は、その手際に感心していた。

 

日本帝国の格納庫には人が溢れかえっていた。

 

その理由は一つ、「ゲッター3」を見るためだった。

 

「こいつが突撃級を真正面から殴り飛ばしたって?」

 

「動力はなんだ? 戦術機とは根本から違うぞ」

 

日本帝国本国でも作戦に参加した軍から問い合わせがひっきりなしに行われていた。

 

紅蓮中将は「機密事項なので回答は拒否する」と全ての国を門前払いしていた。

 

弁慶と武蔵は居心地が悪くハンガーから離れた。

 

あてもなく他の戦術機ハンガーを回っていると、どこからか言い争っている声が聞こえた。

 

それは「境界」に飛び込んでいた例の部隊だった。

 

言い争いに割って入る形で弁慶がその部隊に声をかけた。

 

「よう! 東の「勇者」達!」

 

突然現れた日本帝国軍人に東と西のドイツ兵は言い争いを止めた。

 

「あんた達は何者だ!?」

 

東ドイツの赤毛の少年が弁慶の前に立ち問いただした。

 

「俺か? 俺は日本軍……じゃなくて日本帝国斯衛軍の車弁慶少尉だ。」

 

「俺は巴武蔵少尉だ。お前らあんな10機くらいでBETAに飛び込むたあ大した腕だな!」

 

「な!?」

 

日本帝国はアメリカの庇護下にある「西側」の国である。そんな国からの称賛に東ドイツの衛士は驚いた。

 

「なんなのあんた達!突然やってきて日本は西側なのに何言ってるかわかってるの!?」

 

西ドイツの少女は弁慶達にかみついた。

 

「知るかよ。レーザー避けながらBETA群に切り込む奴らを凄いって言って何が悪い!」

 

武蔵は、同じような戦い方をしている隊を見てうれしかったのか、彼らを庇った。

 

しばらく言い争いをしていると、西ドイツの方の上官が現れて引き下がっていた。

 

弁慶達は改めて東ドイツの若すぎる衛士達へと向き直った。

 

(先の西ドイツの兵士も若かったが、こいつらは若い奴ばかりだな)

 

「日本帝国の衛士ですか? 私を助けてくれたのはどちらですか?」

 

金髪の青いリボンをした少女はあの時弁慶が助けた衛士だった。

 

「俺だが?」

 

「ありがとうございました!おかげでお兄ちゃんとまた会えました!」

 

金髪の少女―リィズは弁慶の両手を掴み、謝辞を述べた。

 

「お前があの時の衛士か。兄貴と再会できてよかったな」

 

「俺からも礼を言う。妹を助けてくれてありがとう。」

 

赤毛の少年―テオドールも礼を言った。

 

「同じ戦場で戦う味方だろ。気にするな」

 

その弁慶の発言に彼らは驚いたのだった。

 

まさか西側から東側へ「味方」と言われるとは思っていなかったのだ。

 

「あんた達は一体?」

 

茶髪の小さい少女兵士が飛び跳ねるように喜んでいた。

 

だが、その時巌谷中尉が場に飛び込んできた。

 

「不味いことになった。車少佐、巴!」

 

「……少佐?」

 

東ドイツの衛士は意味がわからないようだった。

 

「どうした? 巌谷。」

 

「ハンガーに戻るぞ!」

 

「おう!?じゃあな。嬢ちゃんたち」

 

弁慶、武蔵は巌谷と共にその場から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

去っていく彼らを見ていたテオドールは思った。

 

(聞きそびれたな)

 

「お前達のあの機体は「ゲッターロボ」なのか」と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その光景を眺めていた一人の人物がいたことに誰も気づいてはいなかった。

 

 

 

弁慶編7話終

 




お久しぶりです。

ようやく柴犬アニメ円盤全巻そろいました。やったぜ。
ゲームの第2部も楽しみです。


第一部 第3章のサブタイトルは「海王星作戦」ではないのですが、しばらくはネタバレ回避のためこのままでいきます。




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