真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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竜馬編 第9話 「皇帝の影」

1983年 2月16日

アメリカ 国連本部

 

 

御剣雷電中将はゲッターロボを登用したBETAに対する反攻作戦の準備をしていた。

 

月のハイブをたった1機で攻略したゲッターロボなら各国を動かせるという考えだった。

 

だが、竜馬のゲッターロボが核攻撃を受けたことによる破損のため、その戦力を各国に証明する機会を失い予定よりも大幅に遅れていた。

 

ゲッターロボが修繕されるのに数カ月、それから反攻作戦への準備にさらに数カ月かかると雷電は考えていた。

 

(それでは遅すぎる)

 

竜馬は元の世界に帰る方法が見つかれば即この世界から立ち去るだろう。

 

雷電が考えあぐねているところ、部下の者が雷電宛ての手紙をいくつか持ってきた。

 

ほとんどの手紙は挨拶めいたものだったが、そのなかに一つ雷電の目を引く物があった。

 

それは月で亡くした部下の妻からの手紙だった。

 

雷電がその手紙を開くと、中からは便せんと写真が出てきた。

 

その女性の文には夫の死を乗り越えて、息子と共にこれからの人生を歩もうという強い意志が記されていた。

 

写真には、5歳になるかといった息子とその女性が写っていた。

 

雷電が月でBETAと戦っていたのは10年前の1973年以前である。

 

普通に考えれば、その子供は夫の子ではない。

 

だが、その子供は間違いなく部下の実子だった。

 

日本帝国城内省には、BETAとの月面戦争に参加した全ての斯衛軍の兵士の遺伝子情報が保管されていた。

 

斯衛軍は武家の嫡子、つまり家を継ぐ者がいなくなってしまった場合の救済措置として彼らの血を遺した。

 

手紙の女性は嫁いだ家を守るためにこの遺伝子情報を用いたのだった。

 

当然、御剣雷電の息子もその中にある。

 

(我々もソビエトの奴らと何も変わらんな。)

 

雷電はその手法を使う者にどうこう言うつもりはないが、好んではいなかった。

 

それはソ連のオルタネイティヴ計画の実情を知っているからなのかもしれない。

 

(竜馬はあの計画を見てどう思うだろうか)

 

 

 

 

 

 

 

同日

ソ連 オルタネイティヴ研究所

 

 

 

黒く焦げた中破したゲッターロボに御剣組とソ連の技術者が群がっていた。

 

月詠少佐がその様子を見ていた。

 

御剣組の技術者はソ連の技術者がゲッターロボを見ても問題ないと判断した。

 

「ソ連の奴らがアレを造ることができるのなら、やってみろ」

 

とのことらしい。

 

「おでましか」

 

月詠少佐は技術者でない白衣の集団が銀髪の年端もいかない少女達を連れて、ゲッターロボに近づくのを見た。

 

少女達は明らかにゲッターロボに怯えていた。

 

月詠少佐は自身の娘ぐらいの年の少女を物のように扱う白衣の集団を睨みつけた。

 

その白衣の集団に一際、目を引く金髪の20歳代の若い美女がいた。

 

その女性は月詠少佐に近づいてきた。

 

「初めまして、エヴァ・ノーリといいます。」

 

女性は作り笑いを浮かべて、月詠少佐に挨拶をした。

 

「我々もあの機械に近づいてもよろしいですか?」

 

と月詠少佐に許可を求めた。

 

月詠少佐はかまわないと許可すると白衣の集団はゲッターロボに近づいて行った。

 

竜馬はこの場にはいなかった。

 

予め、雷電は竜馬に「銀髪の女には不必要に近づくな」と言ってあったのだった。

 

白衣の集団がゲッターロボの真下に着いたときにそれが起きた。

 

 

 

 

 

 

 

エヴァ・ノーリと名乗った女性―「零号」はその機械をまじまじと見た。

 

既存の戦術機とは何もかもが異なるその機械。

 

彼女はその機械を彼女達にしか使えない「眼」で見てみた。

 

彼女達の「眼」は通常、人の心の動きや考えを色や光で感じとる。

 

その機械は確かに光を発していた。

 

光はまるで星空のように無数に輝いていた。

 

色や光はそれぞれに全く異なり、大小もまた異なっていた。

 

その光は機械の中心部が密集し輝き、中心部から離れれば離れるほど光と色の数は減っていった。

 

さながらそれは銀河であった。

 

彼女は一瞬だけその光景をみた後、能力を使うのを止めた。

 

これ以上のリーディングを行えば、危険だと判断したのだった。

 

無数の光それぞれが何かを訴えかけてくるような、得体のしれない気持ち悪さを感じていた。

 

エヴァは能力を安定して使えない人形達がリーディングを使うのは危険だと判断したが、白衣を着た人でなし共はその機械を捉えた時点でリーディングを使うように調整していた。

 

人形達はすでにその機械の意思に触れていた。

 

人形の一人は、突然失禁し白目を向いて倒れた。

 

もう一人の人形は、立ったまま痙攣し、うわ言を繰り返した。

 

ゲッターロボの周りにいた御剣組、ソ連兵がその異常に騒ぎ出した。

 

エヴァは倒れた一人に駆け寄り、彼女の目を見た。

 

その瞬間、彼女のプロジェクション能力により、エヴァの脳裏に「ソレ」が映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヴァは裸で暗闇の中で浮かんでいた。

 

「ここはいったい?」

 

よく見ると、微かな光の点が縦横無尽に散在していた。

 

「ここは宇宙なのか?」

 

彼女が、その空間を宇宙なのだと感じとった瞬間に後ろから巨大な光が現れた。

 

それは、例の機械を信じられない位巨大化したような機械達の軍勢だった。

 

明らかに星よりも大きい物もあった。

 

「一体何なのだ。これは? 私はどこに来たんだ?」

 

軍勢が向かう先に新たな何かが現れた。

 

「BETA?」

 

それはBETAに似ている巨大な生物のような物の群れだった。

 

軍勢と群れは戦闘をはじめ、いくつもの星がその戦闘に巻き込まれて消え去った。

 

エヴァはあまりの迫力に目を奪われ、他に考えが回らなかった。

 

軍勢と群れは激しい戦闘を繰り返し、終わりなどないように思えた。

 

すると、軍勢の中の一際巨大な赤い機械が前に出て、まるで宇宙を照らすような巨大な光を出したかと思うと、巨大な生物の群れは消え去っていた。

 

その機械が出した光の一撃によって、全て消し飛んだのだった。

 

その機械が軍勢のリーダーなのだと彼女は理解した。

 

彼女はその赤い機械の中心部に人間の男が立っているのを見つけた。

 

彼女はその男の顔を見た。

 

男の眼は狂気に染まっている眼をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 2月18日

ソ連 オルタネイティヴ研究所

 

 

エヴァは、オルタネイティヴ研究所の医療室で眼を覚ました。

 

医師の話ではほぼ丸二日彼女は眠っていたようだ。

 

エヴァと一緒にいた二人の人形はどちらも亡くなったようだ。

 

倒れた方は死ぬまで痙攣を繰り返し、立ってなにかうわ言を言っていた方は「そうか」と一言呟くと息を引き取ったようだ。

 

エヴァはあの時、見た夢の光景に心を奪われていた。

 

絶対的な力を持つあの機械、そしてそれを操る男。

 

きっとあれほどの力をもつ男は、心に迷いを持たず、自由に宇宙を蹂躙していくのだろう。

 

鳥かごの中で自身の命を使い潰される彼女や彼女から出来た子供達とは何もかもが違う。

 

あの機械は一体何なのだろう。

 

無感動に生きていた彼女に興味という物が芽生えた。

 

今では、ソ連に連れ去られた時に離れ離れになった家族のことでさえ考えなくなっていたというのに。

 

あれほどの力があれば、BETAもソ連も関係ない。

 

自由を手にすることができるだろう。

 

そうすれば奪われた人生を取り戻せるのかもしれない。

 

奇しくも、自身に与えられた任務が彼女自身の求める物そのものになっていた。

 

オルタネイティヴ研究所の人間は人形達を飲み込んだゲッターロボを恐れ、あまり近づかなくなっていた。

 

彼女は独自に調査を開始した。

 

ゲッターロボが収められている格納庫に彼女は再び足を踏み入れた。

 

男が一人、そのゲッターロボの真下に立っていた。

 

彼女は自身の眼を疑った。

 

まさかと思ったが、彼女はその男に近づく足を止めることができなかった。

 

その男が彼女の方に向き直った。

 

その男は夢に現れ、巨大な軍勢を率いていたその男。

 

その人だった。

 

彼女は能力を使うまでもなく、その男がゲッターロボのパイロットなのだと直感した。

 

だが、彼女はその男の心を覗かずにはいられなかった。

 

彼女は男の心に迷いなど無いと予想していた。

 

しかし、彼女の予想を裏切り、男の心には怒りと悲しみの色が強く現れていた。

 

その瞳も狂気ではなく、何かに、いやここにいない誰かに囚われていた。

 

 

 

竜馬編 9話 終

 




竜馬が一言も喋ってないですね。

零号さんの名前は「イブ」と「零」から。本名は・・・。
容姿は金髪のクリスカだと思っていただければ。

柴犬アニメのBD1巻購入しました。
「突撃級ならギリギリ飼える」等大変コメンタリーが面白かったです。


次の話の後書きで少し設定めいた話をしようと思います。

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