真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

21 / 48
竜馬編 第8話 「意思を持つ機械1 接触」

パレオロゴス作戦にて初めて人工的に作られたESP発現体が実戦投入された。

 

複座型の戦術機に衛士と共に発現体を乗せ、BETAとの意思疎通を図った。その計画は失敗し、帰還率は6%だった。だが、その6%の帰還は発現体の能力がなければさらに減少していただろうとソ連は認識していた。

 

このことに着目し、発現体そのものを衛士にするため、ワルシャワ条約機構加盟国全土で天然のESP発現体なおかつ衛士適正のある者の捜索がはじまった。

 

衛士適正があり、ESP能力者である人物はただ一人だけだった。

 

その人物は「ESP能力衛士素体第零号」と呼称された。

 

その人物の遺伝子と「第ニ世代」になっていた人工ESP発現体の遺伝子を組み合わせることによって人工的に100%ESP能力者でありながら衛士になれる存在を作り出した。

 

「第三世代」である。

 

計画はさらに進行し、その実験体を複座型の戦術機に乗せることで飛躍的に戦闘能力を上げることを目的としていた。

 

4本の手、4本の足が一体の戦術機を操れば、一人の時より効率的に動かせる。

 

複座による戦術機の操作は何よりチームワークが重要である。

 

だが、二つの脳。司令塔が二つである限り、必ず齟齬が生まれる。

 

このことから戦術機は1機につき一人というのが原則となっていた。

 

だが、もしもその司令塔を一つにできたなら話は異なる。

 

ESP能力者によるリーディングとプロジェクッション。それを同時にすることによって意識を同一化する。そうすることで意識を一つの状態にしたまま戦術機を操るのである。

 

それがこの実験の目的だった。

 

「第三世代」同士の意識同一化は上手くいかなかった。

 

リーディングとプロジェクッションの二つの能力が基準に満たなかったのである。

 

ソビエトは片方の衛士を「遺伝子提供者」つまり「零号」にすることで能力を基準値まで上げることに成功した。

 

実験は成功。異なる意識の同一化に成功し、戦術機の操作一時的に格段に上がった。

 

だが、今度は別の問題が生じた。

 

同一化した意識からまた二つの意識に戻る際に強く結合すればするほど同一化時よりもより強い能力がいることがわかったのだった。

 

実験の終了後いつも目覚めるのは一人だった。

 

溶けあった意識から戻ることのできない実験体は意識を取り戻すことなくそのまま息を引き取った。

 

「第三世代」では同一化はできても解離ができない。よってより能力が強化された「第四世代」が作られたのだった。

 

 

 

 

1983年 2月10日

 

ハバロフスク オルタネイティヴ研究所

 

大破したゲッターロボはなんとか研究所近くの施設に移送された。

 

竜馬はそのゲッターロボの状態を確認していた。

 

「どうだ! 流! ゲッターロボの状態は?」

 

下では月詠がコックピッドを窺っていた。

 

竜馬が地面へと何食わぬ顔で飛び降りて言う。

 

「ダメだ。当分、動かせそうにねえ。」

 

「……ここは月の6倍の重力だぞ」

 

月詠はあきれたように言葉を漏らした。もう慣れたらしい。

 

「月面基地なら三か月くらいでなおせるだろうが、こいつはもっとかかるな」

 

「腕がなるってもんだな!」

 

月詠の後ろに控えていた技術兵、整備兵が力強く声を上げた。

 

「直したばかりだってのにわりいな また頼むぜ!」

 

「おおおお!!」

 

竜馬の返答に他の技術班達も応えた。

 

その受け答えを見てこの部隊は極端に入れ替わりがないのでどこか閉鎖的な部隊だと自認していた月詠は驚いた。

 

特に技術班は雷電の下、月面でBETAとの戦闘を経験した人も多い、だが不思議と竜馬は受け入れられていたのだった。

 

「中将から通信が入っている。ついてこい。」

 

「部下になったわけじゃない」だの何だの言いながら竜馬はおとなしく着いていった。

 

司令室に入るとモニターに御剣雷電が映っていた。

 

「ジジイ。俺は敵はBETAだけだと思っていたんだがどうやら違うらしいな」

 

竜馬が開口一番に雷電にかみついた。

 

大気圏突入の折のミサイル攻撃。

 

竜馬からすれば背後からの強襲に他ならなかった。

 

「まさか、核まで使ってくるとはな。もう貴様の知っているところだと思うが、この世界は貴様のいた世界のように敵に対して一つになれなかった。」

 

竜馬のいた世界では日本のゲッターロボを中心にして全ての国がインベーダーという敵に立ち向かった。その結果、勝利した。

 

「アメリカとソビエトを中心として東と西に分かれ覇権を取り合っている。そこにBETAという障害が生まれたにすぎないのじゃ。」

 

「人類の3割が喰われているのにずいぶんと余裕だな」

 

竜馬の目が鋭く、雷電を睨みつけた。

 

「地球外の侵略者を前にしても人類は手を取り合うことができなかった!!」

 

雷電は拳を机に打ち付けた。

 

切り札をもう少しで失うところだったということに雷電は怒りに震えていた。

 

「ジジイ。アメリカの狙いは何だ?」

 

竜馬は、BETAとの戦争での被害が月面での戦闘とユーラシア各地で国連軍としての人的損失のみに留まっているアメリカによる攻撃だと予想を立てていた。

 

雷電は、BETAが生み出す「G元素」と呼ばれる人類が発見することのできない元素。

 

そしてアメリカがBETA戦争勝利後の世界の覇権とユーラシア各地にあるハイブを確保するためにユーラシア大陸にある国家が弱体化していた方が都合がよいことを話した。

 

「そんな奴らにとって俺のゲッターは都合の悪い存在ということか。」

 

「アメリカの全ての人間がそうではないが、国の態勢としてはまだBETAにいてもらわねば困ると考えているといっても過言ではないだろう。」

 

「そんなんで世界を一つにした反抗作戦とかできるのか?」

 

「それは儂ら、国連軍にかかっている。」

 

「チ! 俺には関係ねえ。敵は根こそぎ薙ぎ払う。それだけだ。」

 

竜馬は指令室から立ち去った。

 

「月詠。研究所の者達の様子はどうだ?」

 

「現状は規定通り我々の誰かが傍についた状態でのゲッターロボの視察をしています。」

 

オルタネイティヴ研究所と御剣組は互いの施設に入る際は必ず立ち入られる側の人物が立ち会うのを条件に施設の立ち入りを許可したのだった。

 

当然、研究所の関心はゲッターロボにある。

 

研究所側はゲッターロボの存在を恐れているのか、中破したゲッターロボに強奪する価値をみいだせないのか、国連と事を荒立てなくのかは不明だが、大人しく条件を守っていた。

 

「しかし、竜馬は相変わらずですね。」

 

月詠がため息をついた。

 

「そうでもない。奴は関係ないと口癖のように言っておるが、この世界の事を気にかけておる。

この世界の現状を理解しようとしているのが証拠じゃ」

 

月詠は竜馬と竜馬の周りの変化を思い出した。

 

そして雷電が竜馬という存在を「未知の力を持つ異邦人」以上に扱っていることに気がついた。

 

「中将。中将は竜馬のことをいたく気にかけているようですが、何か理由があるのでしょうか。」

 

雷電は少し動揺したように目を見開いた。

 

そして、見透かされていたことを素直に認めた。

 

「儂はどうやら……あの男に息子の影を重ねているようだ」

 

月詠は息を呑んだ。

 

「中将。それは……あの男とご子息では似ているところなど」

 

雷電はその言葉に頷いた。

 

「そうだ。竜馬と奴は似ていない。だがな、儂は気づいたのだ。似ていないと判断するのは儂があの二人を比べているからなのだと。」

 

そもそも比べなければ、その違いなどには気がつかないのだ。

 

「儂はどこか頭の片隅であの二人の共通点を見出そうとしていた。」

 

月で息子を失い、10年の時を経てまた同じ月で男と出会った。

 

比べるなという方が無理なのかもしれない。

 

両者の共通点、相違点を雷電は無意識的に探していた。異なる点を見つけては「違う」と己に言い聞かせることができた。

 

だが共通点を見つければ、何か繋がりがあるのではと思ってしまう。

 

「どうも息子の代わりに現れたんじゃないか……等と有り得ない妄想に囚われるようになった。だから距離をおくことにしたのじゃ。」

 

月詠の脳裏に先程の技術班達の顔が浮かんだ。

 

彼らもまた竜馬を通して懐かしい戻らぬ人を思い返していたのかもしれない。

 

暗い顔をしていた雷電の顔が元に戻った。

 

「それと紅蓮の奴がどうやら動いているようじゃ。」

 

「紅蓮中将が?」

 

日本帝国斯衛軍中将 紅蓮醍三郎

 

かつては雷電とともに帝国斯衛軍の双璧と呼ばれていた男だった。

 

「奴め。北欧の方で何か企んでいるらしい。」

 

「北欧?ずいぶん、日本から遠いですね?」

 

「ああ、おかげで情報がほとんど入らない。」

 

「オルタネイティヴ研究所には機を見て竜馬と共に入れ。よいな」

 

「了解しました。」

 

それから、隊のこれからの動きについて話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

竜馬は指令室のすぐ側に背を預けていた。

 

「チッ!」

 

自分でもよくわからない舌打ちをしてゲッターロボの方へと進んだ。

 

「ん?」

 

ゲッターロボの置いてある格納庫が騒がしかった。

 

 

 

 

 

 

 

白衣の男と年端もいかない銀髪の少女が格納庫の前に立っていた。

 

が、白衣の男が少女に促すが一向に入ろうとしない。

 

「どうした? なぜ命令を聞かない!!」

 

「……嫌。……怖い」

 

少女は言葉少なくだが絶対の拒絶を示した。

 

どうやら白衣の男は予想外だったらしく狼狽していた。

 

「理由をいえ! 理由を!」

 

少女は静かに黒いゲッターロボを指さし、震えながら声を出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……中に『何か』がいっぱいいる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1983年 2月12日 ウラジオストク

新型戦術機実験場

 

「ESP能力衛士素体第零号」という呼称を与えられた女性はその実験場の責任者に呼び出されていた。

 

先日の実験失敗から待機を命じられていた彼女は憂鬱な気分のまま、司令室に向かった。

 

司令室に入った途端、いつもとは違う様子を彼女は「色」で感じた。

 

「零号。貴様にはハバロフスクのオルタネイティヴ研究所へ行ってもらう」

 

「……オルタネイティヴ研究所? なんでまた?」

 

彼女にとってそこは古巣だ。彼女はそこで「人工ESP発現体衛士」の親としてありとあらゆる研究、実験を受けた。

 

当然、いい思い出など一つとしてない。

 

「貴様の疑問に答える余地などない」

 

司令官は彼女の質問に答える気などないようだ。

 

「……任務の内容は?」

 

「任務内容はある人物の特定。及びその監視。そしてある機械の調査だ。」

 

彼女は興味なさそうに首を振った。

 

「そんな物は人形共にやらせればいいだろう? なんで私が?」

 

彼女は自分の子供とも言える存在を人形と言い放った。

 

「貴様にしか出来ないからだ。人形共はその命令を拒否した。」

 

女性は首をかしげた。

 

「人形共に自我が?」

 

「わからない。だが、その機械に近づくことすらもできんようだ」

 

どうやらより強い能力を持つ自分に白羽の矢が立ったようだ。

 

「お前は研究者として研究所に戻ってもらうことになる。」

 

「話は終わりか? では失礼する。」

 

部屋から出ていこうとする女性に司令官は声をかけた。

 

「零号。生き物でない物に「色」を感じたことはあるか?」

 

女性は眉をひそめた。

 

「動物以外に「色」を感じたことはないが?」

 

責任者は笑みを浮かべたが、それ以上何も言葉を出さず女性は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

女性はその言葉の意味を理解することになる。

 

 

 

竜馬編 8話 終

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。