竜馬編 第6話 「復讐の果て」
「こんなところで伝説の男に会えるとはな……」
手足を拘束されて、逃げ出せられないようにされた流竜馬がその留置所にいた。
「おい お前がどんな罪で捕らえられたかわかっているんだろうな?」
竜馬は早乙女博士殺害の容疑で逮捕されたのだった。
「……俺じゃない。」
「ん?」
「俺じゃないんだ。俺が研究所についたときに既に早乙女のジジイは殺されていた。」
怒りに身を震わせながら、竜馬は言葉をしぼりだした。
「誰に?」
「隼人だ。」
「神隼人か。確かに目下捜索中だが、銃には貴様の指紋さらにお前のその体には硝煙反応が出ている」
竜馬は早乙女博士の死体の傍らに置いてあった銃を拾い上げて確かに発砲していた。
「それは俺が隼人に向かって撃ったからだ!」
「貴様が早乙女博士の遺体を隠したせいで拳銃が何発使用されたかわからないのでその発言を証明できないな」
「俺がジジイの死体を隠しただと……? 俺は指一本触れてねえ!」
「現場で見つかったのは致死量をはるかに超える早乙女博士の血液と目撃者早乙女元気と銃を持った貴様だけだ。言い逃れができると思っているのか?」
竜馬の頭にはなぜ?という疑問しかなかった。
なぜ隼人が博士を殺したのか。
そしてなぜ博士の遺体は消えた。
「貴様には二人の殺害容疑がある。」
二人。
その発言に竜馬は我に返る。
「二人ってのはどういうことだ!? ジジイだけのはずだろ!」
「早乙女博士。そして貴様が罪をなすりつけようとした神隼人の二人だ。」
竜馬が神隼人を殺害し遺体を隠してその後早乙女博士を殺害、早乙女元気に見つかるもそれに気づかずにさらに早乙女博士の遺体を隠したものと判断された。
「仲間亡くしたばかりの俺が仲間を殺すような真似するとでも思ってんのか!」
「それすらもお前の仕業だったとしたら?」
「な!?」
博士との不仲の原因となった早乙女ミチルの事故も故意であった可能性があると捜査もなされたが、こちらは証拠不十分となった。
二人しかも世界を救ったゲッターロボを開発した早乙女博士とそのパイロットである神隼人を殺害した罪を重くみた軍は流竜馬をA級刑務所に仮出所なしの無期懲役の刑に秘密裏に処した。
口と手それに足に枷をかけられた竜馬が護送車へと乗り込まされた。
流竜馬は早乙女博士が再び現れるまで約3年間A級刑務所に投獄されたのだった。
仲間をバラバラにし、A級刑務所に竜馬を追い込んだ隼人と早乙女博士を殺す。
それが流竜馬の復讐であり原動力だった。
1983年 1月25日
月面
竜馬が雷電と出会って10日が経った。
ゲッターロボの修理そして改修は予定よりも……順調すぎるぐらい進んでいた。
ゲッターロボの左腕に従来のより巨大化したゲッターレザーが装着され、両手にはスパイクが付いた。
予定では修理だけでひと月、それに加えて改修となるとさらに時間がかかるはずだった。
それを考えてみれば人が増えたといえ驚異的なスピードでゲッターウイングの修理は完全に終了した。
竜馬はそれに猛烈な違和感を覚えていた。
例えるなら、頭の中から消えた経験を手が覚えていて、昔やった工程を繰り返している。
そんな感じだった。
宇宙ステーションへとひとまず国連総本部への報告、オルタネイティヴ第3研究所への訪問申請へと行っていた雷電が月面基地に戻ってきた。
「流。調子はどうだ?」
雷電が竜馬にゲッターロボの状況を確認する。
「順調だ。あと半月もあれば地球に降下できるようになる。そっちこそ、あの舌噛みそうな研究所には行けるようになったのか?」
「ああ、二つ返事で了承された。もっとも少し準備するから待ってくれと言われたが、大方見られたくない物を処分しているんじゃろうな。」
秘密機関であるオルタネイティヴ機関が所属の違う人物を招き入れるのは異例中の異例であり、
「それはそうと後で話があるから儂の部屋に来てくれ」
そういって雷電はゲッターロボから離れていった。
竜馬は改修作業がひと段落した後、雷電の部屋を訪れた。
そこで待っていたのは酒瓶を持った雷電だった。
「お前とまだ酒を交わしてなかったからな。」
新たな仲間と酒を飲む。御剣組ではこうした事がなされ、入隊を歓迎していたのだった。
竜馬は昔、仲間と戦闘の後よく飲んでいたのを思い出した。
竜馬が雷電と酒を飲み始めたころ。
月詠が竜馬の改修を手伝っている技術者と話をしていた。
「どうだ? 何か盗めそうか?」
国連宇宙軍はゲッターロボから何かこちらの技術に流用できないかと考えていた。
「難しいですね。 我々とは考え方がまるで異なります。」
「というと?」
「信じられない程の力を持つ動力源、それによる反動やGは全て操縦者にそのまま伝わります。」
ゲッターロボの機動性や構造から操縦者にまるで配慮がされてないことがわかった。
「それを扱うことのできる者がかなり限られるということか?」
「そんなレベルじゃないですよ。乗れる方がおかしいです。」
この世界の人間に耐えられるような代物ではなかった。
「量産は可能か?」
「動力源の詳細も何もかもわかってないですし、流もどうやら改造はできるようですが生産はできないようです。それに量産できても乗れる人間がいません。」
「無理か」
「我々にも乗れるように誰かが設計から見直してくれればいいんですが。」
現状ではゲッターロボの増産、量産は難しかった。
雷電はこれまでのBETAとの戦いを竜馬にあの月面戦争を含めて語った。
「……………………………」
息子を含めた部下を失った月面での戦闘について竜馬は何も言わなかった。
「貴様は何も言わないんじゃな」
「英雄扱いされてる負け犬に何言えってんだ?」
「こいつは手厳しい。」
雷電は苦笑する。
「その手の事は言われ続けて耳ダコだろ? 余所者の俺が言う事じゃねえよ」
月から帰還した雷電を待っていたのは称賛と同情だった。
自分の負け戦がまるで美談のように語られ、その戦いを知りもしない人間に同情された。
雷電にとっては耐えがたい屈辱だったに違いない。
「それに……死んだ奴は何があっても返ってこねえからな」
竜馬はまるで自分に言い聞かせるように口に出した。
「さて次はお前の番だ。元の世界でしなくてはいけない事を含めて話せ」
「ジジイ……謀ったな。」
先に話しておけば竜馬も話さざるを得ないと見なしての行動だった。
酒の勢いもあって竜馬はこれまでの事を話し始めた。
早乙女博士に拉致され、はじめてゲッターロボに乗ったこと。
神隼人、巴武蔵、車弁慶、早乙女ミチルとの出会い。
約10年にも及ぶ月面でのインベーダーとの激戦そして勝利。
ゲッターGの実験でミチルを失ったこと。
そのすぐあとに早乙女博士が隼人に殺され、濡れ衣でA級刑務所に3年間閉じ込められたこと。
そして早乙女博士とインベーダーの復活。隼人、武蔵との再会。
話を終えるまでかなりの時間がかかった。
「俺は仲間をバラバラにしたジジイとA級刑務所に追い込んだ隼人を殺す。それが俺の目的だ」
「ククク……ハッハッハハハハハ!!!」
竜馬が話を終えると雷電が顔をしかめ笑い始めた。
「何がおかしい! ジジイ!」
竜馬が目をむいて激怒した。
「いや、済まぬ。ただ感情と行動が相反していると思ったのでな」
「どういう意味だ?」
雷電の返事の意味が竜馬には分からなかった。
「その博士と隼人とやらも仲間だったのだろう?」
「……何が言いたい?」
「貴様は……仲間をバラバラにされた腹いせに仲間を殺すのか?」
竜馬の怒りが頂点に達した。
「アイツ等が! 俺を裏切ったんだ!」
竜馬は信じていた仲間に裏切られ、訳もわからぬまま暗闇の中で過ごした。
その3年間、彼が自身の意志を保つにはその責め苦に耐えうるだけの何かが必要だった。
それが隼人と博士を殺すという目的だった。
「ジジイ! てめえに俺の何が分かる!?
余所者に、仲間でもない者に言われる筋合いのないことである。
竜馬の怒りは止まらなかった。
「わからんさ。」
雷電の返答に竜馬は席を立ち、その口を黙らすために飛び上がった。
「ただわかるのは、復讐を成し遂げた後のお前の姿だ。」
竜馬は机の上にたったまま、雷電を睨み続けた。
「その復讐の果てに何がある? あるのは永遠に別れたままの仲間と……今度は本当に友の血で濡れた貴様の手だけじゃ。」
「ジジイ……てめえ」
雷電は竜馬に復讐の意義を問いかけた。
「流。貴様は沸き立つ激情をただ目の前にある物にぶつけているだけにすぎん。貴様の怒りの本当の理由とこれから為すべきことを今一度考えてみるんじゃな」
「チ!」
竜馬は机の上から飛び降りると部屋から出ようと扉に近づいた。
「お前の言った通り、死んだ者は帰って来ない。だが生きているのなら、心を通わせることができる。リーダーならばもう一度仲間を一つにしてみるんじゃな。」
扉は大きな音をたてて、閉じられた。
雷電の部屋の扉を誰かが叩いた。
「入れ」
技術者との話を終え、戻ってきた月詠だった。
「流と廊下ですれちがったんですが……中将何をおっしゃられたのですか?」
どうやら、竜馬に思い切り睨みつけられたらしい。
「世間話じゃよ。存外、奴も普通の人間らしい」
「普通の人間は月重力下といえ、20メートル以上の高さから降りて無事じゃすみませんよ」
(中身の話じゃよ)
雷電はそう思ったが、口には出さなかった。
「中将。本部に「ゲッターロボ」について報告してきたのですか?」
「ああ。適当にごまかしておいた」
異世界の未来から兵器とパイロットがやってきたと言っても信じられるわけがないので雷電は報告に虚偽を混ぜた。
「ついでに「ゲッターロボ」を加えた反抗作戦を国連総本部に提案してきた。」
「中将。奴を降ろせばそれで済むのでは?」
ゲッターロボと接触した月のBETAは月から撤退した。それと同じことが起きるはずである。
「念には念を入れておかねばならん。それにどうもそれだけで終わるとは思えん」
「勘ですか?」
「勘じゃ、うまくいけば、ゲッターロボをだしにしてアメリカを引っ張り出し、東西陣営の垣根を超えた反抗作戦が再び実行される」
パレオロゴス作戦。
かつて行われたNATO軍とワルシャワ条約機構軍の合同作戦。
あの作戦は失敗に終わった。
だが、今度こそは……
「バンクーバー協定の下でパレオロゴスのリベンジマッチといこうじゃないか。」
雷電の言葉には再び人類を一つにするという強い意志が込められていた。
月詠が雷電の部屋を去り、雷電はもう一度竜馬の話を思い返していた。
竜馬の話にいくつか竜馬の仲間の名前が出たが、当然雷電の知っている筈のない者ばかりだった。
一人を除いて。
「……巴武蔵」
どこかで確かに聞いたことのある名前だったがどこで聞いたかは思い出せなかった。
竜馬は自室に戻り、落ち着きを取り戻そうとしていた。
赤の他人に自分の原動力を否定されたこと。
そして、このまま隼人を殺すという目的を持ったままでよいのかということ。
(俺の感情を隼人を殺すという分かり易い目的でごまかしていたのなら)
竜馬の中に確かにある隼人への怒りは、一体どこから来たというのか。
竜馬にはわからなかった。
竜馬編 6話 終