真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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弁慶編 第3話 「北欧に渡った鶴」

 

1983年 1月25日 スウェーデン領 ルーレオ

 

ルーレオ国連基地は北欧戦線を守備する拠点基地であり、ロヴァニエミハイブから西へと攻めてくるBETAへの侵攻を抑えるためスウェーデン軍、ノルウェー軍、旧フィンランド軍を中心とする多国籍軍の基地である。

 

そんな中、日本人で構成されている一派があった。

 

「先日の戦闘では大層無理をしてくれたじゃないか。榮ニ。」

 

「局地戦闘用の瑞鶴を使って寒冷地で戦っているんだ。多少の無理はするさ。」

 

日本帝国斯衛軍開発衛士の巌谷榮ニ中尉が報告書を手渡す。

 

「整備兵に聞かせてやりたいな。そのセリフ。」

 

もう一方の男が軽口をたたく。

 

「おまけに随伴機とキルスコアが同数ってどういうことだい?」

 

「アイツが勝手に突っ込んだんだ。俺のせいじゃない。」

 

「やれやれ、部下を抑えるのも隊長の仕事だよ?」

 

「裕唯。お前がやってみろ。」

 

巌谷がもう一人の男 篁裕唯少尉を睨みつけた。

 

「私が彼を? 無理に決まっている。君だから彼を抑えられるんだよ。」

 

日本帝国は今年から官民一体で純国産の戦術機開発計画「耀光計画」を開始していた。

 

第3世代の戦術機の自国生産にはどうしてもBETAとの実戦データが必要だった。

そこで日本帝国は戦地での実地実験をするために部隊を大陸に送り込んだのだった。

 

一人は篁裕唯 82式戦術歩行戦闘機「瑞鶴」を生み出した男。

 

一人は巌谷榮ニ 篁の設計した「瑞鶴」をテストして正式採用にまで持ち込んだ男。

 

「しかし、変な話ですね。正式採用した機体の実戦テストを後からするなんて」

 

もう一人。三人目の声が加わる。

 

「今回のメインは『瑞鶴』じゃないからね。なにせ第2世代を飛び越えた「第三世代」の開発だ。データは多ければ多いほどいい。」

 

「ふむ。それはそうと火をもらえますか? ライター忘れてしまって」

 

その男はスーツに帽子を被った少々風変りな男だった。

 

「何者だ! いつからそこにいる?」

 

巌谷が拳銃を抜き、男に向ける。

 

「おや、そっちの火じゃあありませんよ。」

 

男は余裕で受け応える。

 

「初めまして斯衛の若き衛士 巌谷榮ニ中尉。私は鎧衣左近。情報省外務二課の者です。」

 

巌谷が銃を下ろす。

 

「その情報省のものがなんのようだ? どこから入った?」

 

「彼に入れてもらいましたが?」

 

鎧衣は篁を指さす。

 

「すまない榮ニ。言い忘れていた。」

 

篁がすまなさそうに謝る。

 

「そういう事は先に言えっていつも言っているだろ!」

 

巌谷が篁に向けて怒鳴った。

 

「さて君たち3人に極秘指令を持ってきました。おや……一人足りない」

 

鎧衣が不思議そうに篁と巌谷を見る。

 

「ああもう一人は衛士として練度がまだ浅くてな。出撃の無い日はずっとシミュレーターだ。」

 

巌谷が応える。

 

「そんな衛士が実戦データ収集を?」

 

「彼は体がとても頑丈だから機体がどの程度の負担に耐えられるのかを計測してもらっているんだよ。」

 

こちらは篁が応える。

 

(Gを感じないとか頑丈で済むレベルじゃないがな)

 

巌谷が口に出かけた言葉を飲み込んだ。

 

「ふむ……そちらの方も気になりますが、いないならば仕方ない。さて斯衛の紅蓮中将より指令です。旧フィンランドの難民都市イヴァロで調査してきてください。詳細はこの封筒に入っています」

 

巌谷に鎧衣が密書を渡す。

 

「イヴァロ? 確かしょっちゅう救援要請とか物資要請とかしている難民基地だな。

なにかそこにあるのか?」

 

巌谷が鎧衣に質問をする。

 

鎧衣が首を振る。

 

「いいえ。ですが今月の10日から連日続いていた救援要請がしなくなったんですよ。

物資要請は続いているのに。」

 

「そんな理由で実戦データ収集を切り上げて私たちに調査してこいと?」

 

篁がそれまでの軽い態度から一変して鎧衣を睨みつける。

 

(裕唯の奴。本気になっているな)

 

巌谷がごくりと唾を飲み込む。

 

「貴方たちならわかるでしょう? 今、我々の世界にイレギュラーが起きていることに。上と東はさらに大変なようですよ?」

 

「上と東だと?」

 

「東は東側諸国。上は宇宙ですか?」

 

「ええ……察しがよくて助かります。」

 

そこで鎧衣がタメを作り、ダメ押しを言う。

 

「身近なところで言えば、衛士3人だけしかいない艦に4つの機体を抱えているこの艦とか。」

 

巌谷と篁の背筋がすこし伸びた。

 

「あと珍しい衛士がいるそうですね。強化装備を着ない衛士。実に興味深い。」

 

巌谷と篁が沈黙した。

 

「わかってくれて幸いです。それでは私はここで」

 

鎧衣が去り、巌谷と篁がお互いを見やる。

 

「情報省にとんでもない新人がいるという噂を聞いたが」

 

「ああ……間違いなく彼だろうね」

 

「おや。隠密行動が噂になるのは考えものですね。」

 

鎧衣がまた話に割り込む。戻ってきたようだ。

 

「貴様まだいたのか?」

 

「ええ伝え忘れました。この指令は紅蓮中将からですが、背後には政府、帝国軍の有力者もいるようです。どれだけ重要なものか。わかりますね?」

どうやら念を押しにだけ戻ってきたらしい。

 

帝国軍、斯衛軍、そして政府のトップレベルが注目しているようだ。

 

今度こそ、鎧衣が出て行った。

 

「榮ニ。何かとんでもない事に巻き込まれている気がするんだが……」

 

「諦めろ。俺はそうする。」

 

巌谷がため息をついた。

 

「というよりも彼を拾った段階でこんな事になるんじゃないかと私は思っていたんだ。」

 

「おいおい、今さら何を。」

 

篁と巌谷は貧乏くじを引かされた心地でもう一人が待つシミュレーター室へと向かったのだった。

 

 

弁慶編 3話 終

 


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