真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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弁慶編 第2話 「BETA戦災難民」

月面戦争時

 

3号機ベアー号のパイロットを早乙女博士が連れてきた。

 

日本軍で暴れまわっていた男―巴武蔵だった。

 

体の頑強さが取り柄の男だった。

 

しかし、武蔵はインベーダーとの戦闘時でもよく突撃を繰り返して怪我を負うことが多かった。

 

そこで日本軍時代に武蔵の相棒だった後輩の車弁慶が予備メンバーとしてスカウトされた。

 

 

 

「弁慶!」

 

左腕を吊った武蔵がベアー号へと乗り込む弁慶に声をかける。

 

「先輩、俺なんかが先輩の代わりなんてできるのか?」

 

弁慶は不安そうに武蔵へと問いかけた。

 

「誰でも最初はそうさ。俺なんて初出撃はずっと鼻血垂れていたぞ?」

 

武蔵が弁慶に優しく声をかけた。

 

「先輩……竜馬先輩や隼人先輩に付いていける気がしないんです。」

 

「お前がそんなに嫌なら片手で俺が出撃するが?」

 

「そんな! ダメっすよ先輩! アンタ怪我してるじゃないか!」

 

「大丈夫だ。ずっと俺に付いてきたお前なら俺の代わりができる。俺は信じている。」

 

弁慶はしばし沈黙をした後

 

「俺…………乗ります!」

 

と力強く宣言した。

 

怪我人の武蔵を乗せるわけにもゲッターを二人で出撃させるわけにもいかない。

 

「それでこそ俺の後輩だ。それに……片手でゲッター操るのは正直厳しいからな」

 

その日、弁慶は武蔵の代わりに出撃し大活躍といかないまでも武蔵の代役を成し遂げた。

 

 

 

 

1983年 1月13日 旧フィンランド イヴァロ

 

 

 

「なんて懐かしい夢を」

 

弁慶は夢から目覚めた。

 

初出撃の時のまだ青臭かった自分を思い出す。

 

(あの頃は竜馬や隼人を先輩と呼んでいたんだったな。)

 

弁慶はこの3日。

 

ロヴァニエミハイブから来るBETAの迎撃に駆り出されていた。

 

イヴァロは現在人口約7000人。

 

7000人のうち500人ほどが軍人なり志願兵なりの戦力だ。

 

 

後の6500人は非戦闘員。難民である。

 

「避難は進まないのか?」

 

難民キャンプを歩く弁慶とテスレフ。

 

周囲の眼は諦めと憎しみに満ちていた。

 

「それが進んでいないんです少佐。食糧の配給も最近滞っているのが現状です。」

 

「それでこの町の様子か……」

 

「わかりますか?」

 

行く人来る人全ての人の目が険しい。

 

「治安もすこぶる悪いだろう。」

 

「ええ。盗みなんて毎日ひっきりなしで起こっています。」

 

BETAによる被害は最前線の兵士に限った問題ではない。

 

「物資も足りていません。スウェーデンのルーレオ国連基地に物資と人員を要求していますが…」

 

「現状まったく足りていないのか」

 

「10日からは弁慶少佐がここにいますから人員はいいから物資だけでもと申請をしています。」

 

「しかし、たった兵士が500人というのに驚いたな」

 

「衛士はもっといたのですが……」

 

テスレフは言い難そうに語る。

 

「衛士ってのは戦術機のパイロットだったな…死んだのか?」

 

「いえ……衛士は一般人と命の値段が違うんです。」

 

「まさか………」

 

「衛士とその家族は優先的に亡命できるのです。」

 

衛士は戦術機を操れる数少ない人間だ。

 

その中でも「死の8分」と呼ばれる初陣衛士の平均生存時間を超えた戦闘経験を持つ衛士は先進国、後進国を問わず大変貴重な人間である。

 

同じ難民が亡命する場合でも衛士がするのと、一般人がするのでは全く意味合いが異なる。

 

衛士が亡命した場合、その技術と体を新たな国に捧げることを条件に他国は比較的容易に亡命を受け入れるのだった。

 

そして軍人を見る周囲の眼が険しいのもそれが理由だった。

 

「少尉………家族は?」

 

弁慶がテスレフに聞く。

 

「妻と娘が二人です」

 

「少尉は……亡命を受けなかったのか?」

 

「ええ………父親失格ですよ。家族の命よりここで見ず知らない他人を守っているなんて…」

 

弁慶はその言葉の真意を理解した。

 

この男は家族を連れて、他の市民を見捨てるよりも、家族を含めた市民を守ることを選んだのだ。

 

「今の私には……とても家族に合わせる顔がないのです。」

 

 

テスレフの眼が遠くを見つめる。

 

その視線の先には難民の子供たちが元気いっぱい走り回っていた。

 

「あの中に……いるのか?」

 

「ええ………金髪の子が娘です。」

 

男の子顔負けにはしゃいでいる女の子だった。

 

「会ってやらないのか?」

 

テスレフが静かに首を振る。

 

「………もう死んでいるものと思っているでしょう。」

 

弁慶はそんなテスレフに

 

「娘に会える時に会ってやれ。……会えなくなってからでは遅いぞ」

 

と声をかけた。

 

「ええ………ここにいる人が全員逃げ出せる日が来たなら…きっと」

 

子供たちは使われていないだろう廃工場に入っていき、見えなくなった。

 

「もどりましょうか。ベンケイ少佐。」

 

「ああ………」

 

兵舎に戻ろうとするテスレフ。

 

弁慶は早乙女元気を思い出す。

 

目の前で父と姉を失い心を閉ざした少女を……。

 

「……君と娘。どっちがつらいんだろうな」

 

そっと呟いたその言葉がテスレフ少尉に届いているかは弁慶にはわからなかった。

 

力だけでは何も救えないそれを痛感した一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

スウェーデン フィンランド国境付近

 

 

 

「こちらヴァンキッシュ1。CP応答を……」

 

「こちらヴァンキッシュ0。どうした榮ニ?」

 

スウェーデンにあるルーレオ国連基地は北へと迫るBETA群を間引く作戦をしていた。

 

大勢のファントムの中一際目立つ黒い機体が2機、隊の端にいた。

 

日本帝国斯衛軍専用機「瑞鶴」だった。

 

「裕唯。もう一回この馬鹿に作戦を説明してくれ」

 

「仕方ないな。ヴァンキッシュ2。この作戦は北上するBETA群を砲撃により減らし、更に戦術機による強襲で全滅させる作戦だ。私たちはその作戦に参加し、瑞鶴の実戦データを得る。くれぐれも前みたいに無茶な突撃しないでくれよ」

 

2番機からの反応はなかった。

 

前方のファントム群が行動を開始した。

 

瑞鶴の1機も続く。

 

「おい! ヴァンキッシュ2!」

 

 

1機の黒の瑞鶴がファントム群と共に行動しようとする。

 

「俺たちは第二陣だ。って聞け!」

 

ヴァンキッシュ1の制止を振り切り、2番機がBETA群めがけて進行する。

 

「ヴァンキッシュ1 これより2番機を追う。」

 

1番機の衛士がCPに「承諾」というよりは「確認」をとる。

 

「こちらヴァンキッシュ0。了解。こうなる気はしていたよ。」

 

CPの男がやれやれと言った具合に言葉を漏らした。

 

もう一機の瑞鶴もファントムの軍勢に加わり、BETAの群れへと進撃していった。

 

北欧の地で弁慶が同じ「日本」の男たちと出会うのはもう少し先のことだった。

 

弁慶編 2話 終わり

 


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