真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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隼人編 第6話 「白銀の銃弾」

 

1983年 1月15日 東ドイツ 

 

ナイセ川西岸~要塞陣地間

 

T-55戦車部隊の眼前には信じられない光景が広がっていた。地平線が迫るかのごとく押し寄せていた突撃級の群れが全て死骸と化していた。

 

巨大な白い機体が消えたかと思うと竜巻のような物が突撃級を吹き飛ばしていた。

 

皆、その竜巻が白い機動兵器の動いた跡だと気がついたのは突撃級の群れが死体となった後だった。

 

「班長! どうしますか? 後退しますか?」

 

戦車長は部下の呼びかけに我に返る。

 

BETA戦ではいかに後退をスピーディにするかにその後の戦況がかかっている。

 

この戦車隊も後退の準備をしていた。

 

「……しんだ」

 

「は?」

 

戦車長の答えを聞き取れなかった部下が聞き返す。

 

「前進だ! 前線を押し上げるぞ!」

 

BETA戦では非常に珍しい『前進』を戦車隊は選んだ。

 

 

 

 

 

ナイセ川東岸50キロ

 

北東から要撃級の群れが流れ込むのに対応しようとしていたハンニバル大隊に戦車部隊から通信が入る。

 

「我が戦車部隊前のBETA群が全滅。次の命令を!」

 

「こちらも前方のBETA群が消滅した! これからの作戦を求む」

 

ハンニバルの戦況ウインドのBETAマーカーが消えていく。渡河したBETA群が次々と消え去っているようだ。

 

ハンニバルのウインドにマライの顔が写し出される。

 

「大隊長! これは一体?」

 

「どうやら祈りが通じたらしいな」

 

「戦車部隊はナイセ川を突破したBETAと川を渡ろうとするBETAに引き続き迎撃を!」

 

その命令を出したところでナイセ川に水柱が次々と上がり、何かが川を渡ってきた。

 

その何かが急速にこちらに近づいてくる。

 

「まさか本当に? しかし、この速度は!?」

 

その物体の速度は秒速1キロ。およそマッハ3。

 

この速度だと1分足らずでここまでやってくる。

 

「こちらハンニバル1。所属不明機がまもなくこちらにやってくる。敵意が見られない場合は手を出すな!」

 

ハンニバルの命令に大隊内に衝撃が走った。

 

「所属不明機? 何だ? 何の冗談だ!?」

 

「例の白い奴か? 敵じゃないんだろうな!?」

 

「……おい!」

 

マライが大隊員に注意しようとしたところで所属不明機が西から一気にこちらにやってきた。

 

大隊のど真ん中におよそ全高40メートル―戦術機2倍の高さの白銀の機体が飛び込んできた。

 

「何なんだ! こいつは!?」

 

「シュタージの新兵器か!?」

 

その所属不明機は大隊長機の方に光を数回発して北東方から向かってくる要撃級の大群へとさらに進撃していった。

 

(ミ・ナ・ミ・ハ・マ・カ・セ・タ)

 

ハンニバルはその意味をすぐに理解した。

 

「こちらに敵意のない所属不明機は放っておけ。全機南東側のBETA梯団に突撃! 奴には近寄るな! 巻き込まれるぞ!」

 

大隊メンバーは隊長の命令に動揺しながら、先行する隊長機に追続していった。

 

 

 

 

ハンニバル戦術機大隊の中に「シュヴァルツェスマーケン」の9機もいた。

 

テオドールはカティアの9番機とコンビを組んで戦っていた。

 

「BETAの奴らがほとんど所属不明機に向かっているぞ!」

 

「神だ! ついに私たちに救いの手が現れたのよ!」

 

周りの衛士共がゲッター2によって消えていくBETAのマーカーに沸き返っている。

 

1番機 8番機に秘匿回線のコールがかかった。

 

シュヴァルツ13と書かれたそのコールを開くと目つきの悪いアジア人の顔が現れた。

 

「状況を説明しろ。」

 

「テメエいきなり出てきてなんだ!」

 

テオドールが叫ぶと隼人は肩をすくめた。

 

「一応、交戦中でな。手短にたのむ」

 

北東の方で数十のBETAが宙に吹き上がっていた。

 

テオドールの戦況ウインドの北東のBETA群マーカーが次々と消えていく。

 

(あのデカブツがこんなに速いのか。)

 

「存在しないはずの中隊13番機か面白い。」

 

アイリスディーナがさぞ興奮したように声を上げた。

 

「今回の貴様らの任務はレーザー狩りじゃないんだな?」

 

「ああ。この大隊の任務はBETAの遅延だ。」

 

どうやら隼人の機体にはデータリンクされてないらしい。ゲッター2の情報が東ドイツ軍に全て知れ渡ってしまうのでそれは仕方のないことであった。

 

「了解。俺が代行しよう。座標を教えてくれ。」

 

「わかった。北東15キロに光線級の一団があるはずだ。頼んだぞジン。」

 

奴は小さく頷くとウインドが消え、所属不明機を示すマーカーが消えた。

 

おそらく地中へと潜ったのであろう。

 

「シュヴァルツ各機我々も大隊に続くぞ!」

 

「了解!」

 

大隊は南東部のBETA群へと突入していった。

 

 

 

 

 

ナイセ川西岸より約100キロ

 

西岸に展開された要塞陣地さらにその西の丘に陣をとっていた武装警察軍には全てのデータリンク情報が集まっていた。

 

BETA群のマーカーが徐々に西方から消え去っていく。大隊の戦術機数も予定よりも大幅に残っていた。これは武装警察軍の描いたシナリオとは大きく異なっていた。

 

当初の予定では、人民軍の戦術機大隊が崩壊した後に「ヴェアヴォルフ」を含む武装警察軍が新型機チェボラシカ約100機をもって英雄的に人民軍を救うはずだった。

 

それによって、第666戦術機部隊に株を奪われていた東ドイツ最強の戦術機部隊の称号を取り戻し、欠陥機と評判の高いチェボラシカの評価を改めソ連に恩を売るというのが狙いだった。

 

その目論見をたった一機の所属不明機によって打ち砕かれた。

 

「ヴェアヴォルフ」の隊長ベアトリクスは唇を噛みしめ、震えていた。

 

(……こんなはずでは)

 

「大隊長どうされますか? 我々も救援に」

 

「このタイミングで救援に向かって、一体どうするの? それこそお笑い草よ。整備に時間がかかって出撃できなかったというしかないわ。」

 

欠陥機チェボラシカの整備不良というのを建て前に逃げるしかなかった。

 

(許さん。許さんぞ。所属不明機)

 

ベアトリクスの妖艶な顔が憤怒の表情に醜く変わっていた。

 

 

 

 

ナイセ川 東50キロ

 

光線級のレーザーもしなくなり、ハンニバル大隊にすっかり勝利の雰囲気が流れていた。

 

テオドールはその状態がたった1機によってもたらされたことに喜びよりも驚き、そして恐怖が生まれていた。

 

テオドールの戦況ウインドにアイリスディーナの顔が写し出された。

 

「エーベルバッハ少尉。どうした? 貴様だけ表情が強張っているぞ。」

 

テオドールだけが、そのゲッター2の素性を知っていることから他の者にない緊張を顔に出してしまっていたらしい。

 

「あんた……アイツを使って一体何がしたい?」

 

「私はこの東ドイツを救いたいだけだ。今回は計らずも人狼の鼻を明かせたようだがな」

 

(こいつ本当にシュタージのスパイじゃないのか。)

 

「中隊長! 要塞級です。」

 

大隊の前にBETA群のまるで先頭にたつように要塞級が現れた。

 

全高60メートルを超える要塞級が大隊の前に立ちはだかる。

 

「各機散開!」

 

要塞級を囲むような形で中隊機が散開する。

 

尾の鞭毛が中隊機に伸びようとした瞬間。

 

要塞級の胴体に巨大な風穴が空き、少し間を置いて奴が下りてきた。

 

隼人のゲッター2がちょうど要塞級の上に落下した。

 

「……要塞級が一撃で」

 

「信じられない。」

 

大隊もその衝撃的な再登場に目を奪われていた。

 

「ジン。十分だ。帰投してくれ」

 

アイリスディーナが隼人に戦況が決したのを見て帰投を命じた。

 

「了解。」

 

その姿が消えようとした。その瞬間。

 

ゲッター2をレーザーが貫いた。

 

要塞級は内部に光線級を内蔵していることがある。

 

要塞級から出ている光線級の姿をみつけ、テオドールとアイリスディーナのバラライカが突撃砲を放った。

 

光線級が突撃砲によって肉塊へと変貌した。

 

「「ジン!」」

 

ゲッター2の姿はそこになかった。

 

 

 

 

 

 

 

「ハンニバル大隊」が基地へと帰投する。

 

大勝利に終わるはずだったその戦闘で所属不明機がレーザーに貫かれたことでなぜだか雰囲気が悪かった。

 

テオドールもしっかりとその眼にその光景を捉えていた。

 

(短い間だったがおかげでこの大隊が救われた)

 

テオドールは軽く目を閉じた。

 

「……エーベルバッハ少尉。下りてもらえないだろうか、整備ができないんでな」

 

「は?」

 

目を開くと目つきの悪いアジア人の顔がそこにあった。

 

ゲッタービジョン―超高速移動で残像現象おこし、それによる分身でレーザーを回避した隼人はその状態を利用し、地面へと潜りそのまま基地へと帰投していたのだった。

 

 

 

 

 

 

ハンニバル少佐の作戦終了宣言がなされハンニバル大隊は帰投後、勝利の余韻に浸っていた。

 

衛士達がする話題は自分たちを救ってくれた「白い所属不明機」の事ばかりだった。

 

 

「奴は戦術機の何倍も速いんだ! 要塞級も一撃さ!」

 

「奴は生きているに違いない」

 

「いや死んだに決まっている」

 

そういった話題ばかりだった。

 

ほとんどがその圧倒的な戦闘力とその安否の事である。

 

基地内ではその無事を願う人の声も少なくなかった。

 

基地の外で当の本人―隼人は煙草を吸っていた。

 

その隼人にテオドールは近づいていく。

 

隼人は雪原の向こうを見つめていた。

 

「あ! テオドールさん! みつけましたよ!」

 

テオドールはカティアにみつかり、基地へと引き戻された。

 

カティアに手を取られながら、テオドールは隼人とゲッター2が人狼共―武装警察軍を倒す切り札「銀の銃弾」になるのではないかと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人は雪原を見つめながら、思案していた。

 

BETAの攻撃目標には優先順位があり、歩兵より戦車、戦車よりも戦術機といった具合に攻撃していく。だが、今回の出撃でわかったことがある。

 

BETAはそのどれよりもゲッター2に優先的に攻撃をしかけようとしていたのだった。

 

そして、ゲッターを確認したBETAは死ぬまで追い続けていた。

 

BETAはゲッターを諦めない。

 

(まさかBETAはゲッターを知っているのか?)

 

疑問は生まれたが、その答えはすぐには分かりそうにはなかった。

 

隼人編 6話 終

 


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