真ゲッターロボ BETA最後の日   作:公園と針

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隼人編 第1話 「見知らぬ銀世界」

神隼人は暗闇の中で目覚めた。

 

目を開いても真っ暗。

 

しかし、自分が腰かけている場所に心当たりがあった。

 

慣れ親しんだシートの感触。

 

ジャガー号のコックピッド内にいるようだ。

 

隼人はコックピッド内の明かりをつけた。

 

明るくなったが、外は暗闇だった。

 

(状況を整理しろ。俺はなぜここにいる?)

 

隼人は自問した。

 

 

共にインベーダーに対抗する研究をしていた博士が暴走し、竜馬が釈放され、重陽子ミサイルが発射された。

 

あの時、俺たちは重陽子ミサイルを撃ち落とせなかった。

 

だが、思い出せるのはそこまでだった。

 

何もかもがうまくいかなかった。

 

上手くいったのは、かけがえのない友を刑務所へと送り込んだことそれだけだ。

 

隼人はレバーを操作し、この暗闇を抜けようとする。

 

どうやらこのゲッターロボはゲッター2になっているらしい。

ドリルの感触で自分がどこにいるのかがわかった。

 

隼人はゲッター2と共にどこかの地中にいたのだった。

 

ゲッター2を操作し、地表へと顔を出す。

 

 

 

1983年 1月9日 東ドイツ ポーランド国境付近

 

地中から出た隼人を待っていたのは一面、白銀の世界だった。

 

(どうやら地球にいるらしいな)

 

しかし、ロシアの北部かグリーンランドか。

 

とりあえず、ツンドラ地帯並みの極寒地にいるようだった。

 

隼人は気候よりも「ゲッター線」の濃度を指し示す機器の値がありえない程低いのが気になった。

 

(もしかしたら地球じゃないのかもしれんな)

 

状況を確認しようと少し小高い丘を探す。

 

丘にたどり着きそこから見下ろすと眼下にとんでもない景色が広がった。

 

見たことのない生物が白い世界を違う色に染め上げるほどそこにはいたのだった。

 

「こいつは……………いったい?」

 

隼人はその景色をみて悟った。

 

自分がまったく異なる世界に来たのだと。

 

 

 

 

 

 

1983年 1月10日 東ドイツ ポーランド国境付近

 

目覚めてから約数時間がたった。

 

隼人は謎の生物の行軍に地下からついて行っていた。

 

なにか得体のしれない物を感じたので、生物との接触は避けた。

 

(この星の支配者がこいつらなのだとしたら元の世界に戻るにはどうしたらいいのかまったくわからんな)

 

「どうみても言葉が通じる相手じゃなさそうだ」

 

隼人は溜息とともにそうぼやく。

 

明らかに意思疎通のできない相手との対話などする価値がない。

 

まだインベーダーの方が話せるだろう。

 

隼人がそう思っていると地上が騒がしいことになっていることに気がついた。

 

(これは爆音? 爆撃の音だ。)

 

ゲッター2を未確認生物の群れから離れさせて地上に浮上させる。

 

隼人の見た景色は、想像を絶するものだった。

 

未確認生物のおびただしい群れに蹂躙される戦車、ロボット、歩兵。

 

その光景は隼人に月面でのインベーダーとの闘いを思い出させていた。

 

地球外生命体と人類との生存競争。

 

この世界でもまた人類は異生命体との戦いを繰り広げていたのだった。

 

地上にも、空中にも逃げ場はなかった。

 

少しでも高度を上げた機体は光線のようなものに次から次へと撃ち落とされていく。

 

砲撃も同様に撃破されていった。

 

その中を這うように飛んでいくロボットたち。

 

隼人は瞬時に理解した。

 

あのロボットたちは光線を発する個体の排除に向かっている。

 

そうすることで空からの攻撃を有効にしようとしているのだ。

 

つまり、あのロボットたちが戦線のカギということだ。

 

そのロボットたちの中でも一際敵の深部へと踏み入っている8機の機影を隼人は確認した。

 

隼人はゲッター2を走らせた。

 

なぜなら、その8機が敵の群れのど真ん中で攻めあぐねていたからだった。

 

安易に接触するのははばかられるが、状況が状況だ。

 

介入せずにはいられない。

 

 

 

隼人はゲッター2を地中へと再び潜らせ、その8機と敵の間に浮上した。

 

硬そうな外殻を前面部に展開している生物が今にも襲いかかろうとしている。

 

「ドリルアーム!!」

 

ゲッター2の右腕のドリルが音速を超えるスピードで得体のしれない生物を貫いていく。

 

ここまで来られた部隊なら少し突破口を開けば後は大丈夫だろう。

 

一度見られたら後は同じことだ。

 

隼人は他の部隊を支援するためにゲッター2を走らせる。

 

 

 

 

 

隼人はしばらく、例の生物に襲われているロボットを助けてまわった。

 

隼人は理解した。

 

この戦いおそらく人類側に勝機はあまりない。

 

敵の数が多すぎる。

 

そしてあのレーザーを放つやつに対抗する手段があのロボットによる突撃しかないのだとしたら………。

 

単純に数の問題で人類側は敗ける。

 

確認したところ奴らの種類は5種。

 

小型の素早いやつが一種。

 

もっとも数の多い赤く中途半端な大きさの奴が一種。

 

鋏のようなものでロボットに襲っている大型のやつが一種。

 

一番厄介と思われるレーザーを放つ小さいやつが一種。

 

そして約時速170キロで俺のゲッター2を追い回している前面部が外殻に覆われている大型。

 

こいつが不可解だった。

 

音速を超えているゲッター2に追いつけるはずがない。

 

なぜ俺を追い回すのか。

 

まあ下等生物に計算などあるはずもないか……。

 

転進し、ドリルを奴らに向ける。

 

「ドリルストーム!!!!」

 

ドリルの先から衝撃波が生じ、奴らを上空へ巻き上げる。

前面部の外殻の重量がそのままやつらを押しつぶす。

 

「うん…………?」

 

レーダーに救援要請が移る。

 

どうやら例のロボットが出しているものらしい。

 

隼人はゲッター2をそちらに向かわせる。

 

 

救難信号は放棄された市街地から出ているものだった。

 

隼人のゲッター2が救難信号を出しているロボットに近づいたときには既に別の機体が張り付いていた。

 

それは最初に隼人が戦闘に介入したもっともロボットの操縦の技量が高かった8機のうちの1機だった。

 

「この状況下で機外に出て救助活動か」

 

隼人は少年が少女を救いだすのを苦笑しながら見届けた。

 

 

 

 

東ドイツ軍第666中隊「シュバルツェスマーケン」の一員テオドール・エーベルバッハ少尉は中隊長であるアイリスディーナ・ベルンハルト大尉と共に救難信号を出した戦術機部隊の救援に向かい、無事に一人の西ドイツ兵の救出に成功した。

 

テオドールの任務は隊長と合流し後は基地に帰還するだけだった。

 

帰還前の合流地点でアイリスディーナ中隊長は12名の定員を下回っていることからこの少女を新たに中隊メンバーにひき入れようという提案をテオドールにし、彼を説得した。

 

テオドールは不安だった。

西ドイツは東陣営ではなく西側陣営である。

 

西ドイツ兵を中隊に入れることは「シュタージ」にスパイ容疑をかけられて、下手をすると中隊員全てが粛清対象になってもおかしくない火種を抱えることになるのだ。

 

そう考えていたときに彼は再び例の音に気づいた。

 

「シュバルツ01!! またアイツだ!!!」

 

「散開!!」

 

アイリスディーナが声を挙げて、2機が二手に分かれる。

 

その中央から例の白い機体が地中から出てきた。

 

白い機体は2機の前で動きを静止すると、中から男が十数メートルの高さから飛び降りた。

 

男は着地し、何事もなかったかのように立ち、こちらに敵意は無いというように大きく手を上げた。

 

テオドールは目を見開いた。

 

 

「……シュバルツ01? どうする…?」

 

テオドールはどうしていいかわからず上官に尋ねる。

 

「……降りるしかあるまい。いいか私が合図したらすぐに銃を撃て」

 

「了解」

 

気を失った少女を安静に保ち、テオドールは覚悟を決めた。

 

まずテオドールがそしてそのすぐ後にアイリスディーナが地上に下りた。

 

そして所属不明機から降りてきた男に銃をかまえながら向き直る。

 

 

 

 

 

 

 

 

隼人は初めてこの世界の住人とコミュニケーションをとるのに、あの戦術機のパイロットを選んだ。

 

化け物がひしめく状況下で人命救助をした人物ならいきなり襲われることはないだろうと踏んだのだった。

 

隼人は驚いた。

 

どんな屈強な男が指揮官機から出てくるかという想像をしていたら、中から出てきたのはとんでもない恰好をしていた。

 

少年はさっき見たから別にいい。問題は女の方だ。

 

あんな体のラインがはっきりとわかるパイロットスーツは見たことがなかった。

 

隼人は思わず目を見開き、銃を二人が構えていることに気がついた。

 

どちらも丸腰の隼人に対して銃を向けながら近寄ってくる。

 

(この距離なら避けられるだろうが、あまりいい気分ではない。)

 

女が銃口を隼人に向けながら尋ねてくる。

 

「私は東ドイツ軍第666戦術機中隊長アイリスディーナ・ベルンハルト大尉だ。

貴官の所属および目的それからあの機体について説明を求める。」

 

隼人は言葉が通じることに安堵した。

 

「俺の名は神隼人。今はただの民間人だ。そしてあれは「ゲッター2」というスーパーロボットだ。」

 

(民間人だと……? それに一体なんだ「スーパーロボット」というのは?)

 

アイリスディーナは隼人の言った言葉の意味が理解できずに戸惑っていた。

 

一方、隼人の方はアイリスディーナがいった言葉からここがどこか推測する。

 

(東ドイツ? 東ドイツは20世紀の冷戦期に分かれたドイツの片割れだったな)

 

「そうかここは20世紀のヨーロッパか」

 

隼人はそう結論をだした。

 

隼人の呟きにアイリスディーナがわずかに反応する。

 

「質問をひとつするごとに質問を返すことにしよう」

 

隼人が質問を交互にすることを提案する。

 

アイリスディーナがかすかにうなずいた。

 

「では俺からさせてもらおう。今年は何年だ?」

 

「1983年だが……?」

 

アイリスディーナはその突拍子もない質問にうろたえながら答える。

 

(やはりか、しかしあんな化け物が存在したという話は聞いていない)

 

「ではそちらの番だ。」

 

アイリスディーナに質問を促す。

 

アイリスディーナは思案した。

 

今の質問からこの男は場所、そして時すら知らないことがわかった。

 

しかし、東ドイツを知っている。

 

そして、既存の戦術機とは異なるはるかに強力なロボット「スーパーロボット」に乗っている。

 

このことから導かれることは……

 

「貴様は未来から来たのか?」

 

「中隊長!?」

 

横の男―テオドールが今までの沈黙を破る。

 

それだけアイリスディーナの出した答えが予想外だったのだろう。

 

「肯定する。が、俺はあんな生物を知らない。あれは何だ?」

 

アイリスディーナは驚く。

 

「BETAを知らないだと? では貴様のあの機体は何と戦うものだ?」

 

「BETA? 聞いたことがないな、アレはもともと宇宙開発用の機体だ。武装はインベーダーという怪物と戦うものだ。」

 

隼人は自分たちの過去にはBETAは存在しておらず、異なる敵と戦っているということを告げた。

 

「こちらの番だ。BETAはなんのために地球を攻めている?」

 

隼人が次の質問をする。

 

「それはこちらの知ることではない。BETAに聞いてくれ。」

 

アイリスディーナが淡白に答える。

 

「待ってくれ。中隊長。俺はアンタたちが何を言っているのかまったくわからない。アイツが仮に未来からタイムスリップしてきたとしてなぜBETAを知らないんだ?」

 

テオドールが頭を押さえながら言う。

 

「本で読んだことがある俗にいう………」

 

「パラレルワールド。平行世界というやつだろう。」

 

アイリスディーナが言葉を出す前に隼人がその言葉を引き継いだ。

 

「パラレルワールドだと? そんなあり得ない!」

 

テオドールが信じられないといった表情で叫ぶ。

 

「いや私は納得したぞ。あんな機体作り出す国が仮にあったとしよう。BETAは即地球から追い出されるが、東も西も関係なく世界はその国が征服するだろう。わかるかエーベルバッハ少尉。可能性で考えればとなりの世界の未来からやってきたという方が信じられる。」

 

アイリスディーナが言葉を出すがその言葉は少し震えていた。

 

冷静に考えてみれば、テオドールの反応が至極まっとうである。

 

しかし、自分たちはBETAを軽く一蹴するこの機体を見ていたのである。証拠がある以上隼人の言葉には説得力があった。

 

彼女も内心夢を見ているような心持ちなのだった。

 

「それで人類は勝機の薄い戦いを東と西と別れたままでしているのか?」

 

隼人が二人に尋ねる。

 

「そこまでわかるか?……たしかジンといったな」

 

「あのビームを放つやつに有効手段がないのだろう? そしてあの圧倒的な数に蹂躙される。

少し戦闘に参加すればわかるさ。そして貴様らの所属が東ドイツ、そうなると当然西ドイツも存在している。」

 

「そのとおりだ。」

 

どうやらこの男かなり頭の方もいいようだとアイリスディーナは関心した。

 

(この男の頭脳と力があれば……)

 

「ジン…あの機体遠隔操作はできるか?」

 

アイリスディーナが隼人に尋ねる。

 

「できるが……それがどうした?」

 

「私にいい考えがある。貴様が承諾してくれれば情報と寝床を与えよう。」

 

不敵に笑う中隊長にテオドールはこれから増えるであろう厄介事が自分に降りかからないように祈った。

 

 

隼人編 1話終わり

 


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