城下町のAGITΩ   作:オエージ

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第7話 アイドル活動

昴は目の前の相手と対峙していた。

隙を見せたらやられる。

互いに様子を見て動かず一時間が経過した時、

 

相手が少しこちらから視線を逸らした。

 

(しめた、今だ!)

 

昴は一瞬で相手の後ろに回り込んだ。

 

しかし、相手はすでジャンプし、昴の顔を爪で引っ掻いた。

 

「フニャー!」

 

「ギャー!」

 

「またやってる・・・」

 

奏は飼い猫のボルシチに引っ掻かれる昴を呆れた目で見ていた。

 

「いってぇ、ボルシチこの野郎!人がブラッシングしてやろうと思ったのに!」

 

「あんたには全然懐かないよねこの子」

 

ボルシチは最近光が拾ってきた猫で現在は櫻田家のペットとなっている。

ややわがままな所を除けば基本的におとなしく、兄弟たちにも懐いているが昴には何故か懐くどころかこのように攻撃してくるのだ。

 

そうしている間にもボルシチは昴の手を噛む。

 

「イテテ、これがホントの『飼い猫に手を噛まれる』ってか」

 

「それを言うなら『飼い犬に手を噛まれる』でしょ」

 

「えっ、どう見てもボルシチは猫だろ」

 

「・・・特につっこまないわ、後で辞書引いて調べなさい」

 

昴の手を噛んでいたボルシチだが、風呂から上がってきた茜を見るとすぐに茜の元に飛び込んだ。

 

「なんで、茜にはあんなに懐いてんのに双子の俺には懐かないんだよ・・・」

 

「さぁ?光に聞いてみたら?拾ったのはあの子だし、何か近づくコツでも知ってるじゃないの?」

 

「おう、そうするわ」

 

昴はトボトボと二階に上がった。

 

 

「オーイ光いるかー?」

 

昴は茜と光の部屋の扉をノックするが返事がない。元々一階にはいなかったので少し廊下を回っていると、岬と遥の部屋で声が聞こえた。

 

「光だって自分の物を勝手にいじられたら嫌だろ」

「はい、ごめんなさい」

 

どうやら光が遥に怒られているらしい。

 

「光がどうかしたのか?」

 

「あっ、兄さん。光が岬の服をあさってたんだ」

 

「光が岬の服を?サイズも合うはずないのにどうして・・・ッハ!わかったぞおさがりの下見だな!」

 

「いや、違うから」

 

「えっ、違うの、じゃあ一体なんで服をあさってんだ?」

 

「・・・実は・・・」

 

 

 

 

 

「「アイドルをやりたい?」」

 

「うん、小学生の募集は保護者同伴だから中学生くらいに変身していこう思ってさ、岬ちゃんの借りようとしたところをはる君に見つかっちゃたの」

 

光の能力は生命操作(ゴッドハンド)。触れたものの成長を自由に変化させる(ただし、一度変化させたものは二十四時間経過するまで戻すことは出来ない)その能力を使えば光自身の姿を変えることも容易いのである。

 

「ちょっと待ってよ光。王族がアイドルになるなんて前代未聞のことだよ」

 

「いいじゃん、私が最初の王族アイドルになるんだから」

 

「あのさぁ光、アイドルってのはテレビで見るような楽しいものではないんだよ」

 

「むぅ、でも絶対にやるって決めたもん!」

 

光は頬を膨らませて固い決意を表明した。

 

「もう、兄さんも何か言ってよ。兄さんだってムリだって思うでしょ」

 

「いいんじゃねぇの?」

 

「ホラ、兄さんだっていいって言って・・・エェェェェェェェェ!?」

 

遥は驚きのあまり跳び跳ね、天井に頭をぶつける。

「おい大丈夫か?」と心配して頭をさする兄の手を掃い弟はシャウトした。

 

「バカなのぉ!?今の流れでそれ言うかなぁ!?兄さんって本当に空気読まないよね!」

 

「お前俺に対してすげぇ厳しいよな・・・」

 

とりあえず遥の頭は無事なようなので昴は自分の意見を述べる。

 

「別に王族がアイドルやっちゃダメなんて決まりはないんだしさ、光がやりたいことなら喜んで手を貸すぜ」

 

「ホントォ!?」

 

「当然だぜ、妹が困っていたら手を差し伸べるのが兄貴の務めってもんさ」

 

「すーちゃんありがとう!この前すーちゃんのカップアイス食べてごめんね!」

 

「あれお前の仕業だったのか!?」

 

やれやれ、といった感じで溜め息をつく遥、どうもこの人には勝てないなと素直に認めた

 

「待ってよ、僕も協力する」

 

「え、お前は反対じゃなかったのか?」

 

「じゃあ聞くけど兄さんは光をどうやってアイドルにするつもりなのさ」

 

「えっと、まずはアクセルの回し方を教えるかな?」

 

「いやアイドルと全然関係ないよねそれ」

 

「オートレーサーに転向した時の事を考えてさ」

 

「特定の誰かを指定するような事を言うなぁ!第一光はまだ免許取れないだろ!」

 

「あ、そうか、じゃあレスラーに転向した時のためにパイルドライバーのかけ方を・・・」

 

「お前は光をどうしたいんだよぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

遥の叫びが部屋に響く。どうやらこいつに任せればとんでもないことになりそうだ。

 

「とにかく僕が特訓メニューを考えるから、兄さんは周りに内緒にすることだけ徹底して」

 

「はる君!」

 

光が遥をキラキラした目で見る。遥も協力してくれるようで嬉しいのだ。

 

「ただし、やるからには徹底的にやるぞ」

 

ギラギラと燃える遥の目を見て二人は思った。

 

((めんどくさくなりそう))

 

 

 

それから光をアイドルにするための特訓の日々が始まった。

 

ボイストレーニングは当然だが、それ以外はタイヤをくくりつけて走ったり、うさぎ跳びで公園十周したりとあまりアイドルと関係ないようなことばかりであった。だが三人は特に疑問を感じなかった。ただ同じ目標に向かって走り、努力することの大切さ、楽しさを彼らは学んだのだから・・・

 

「よし、今日の特訓はここまで、早く家に帰ろう」

 

「ふえぇ~、疲れた~。すーちゃんおぶって~」

 

「言う前から乗るなよ・・・ってもう寝てるし」

 

文句を言いながらも昴は光を背負う。特訓の事は遥が考えるので昴ができることといえばこれくらいなのである。

 

「それにしても、僕は驚いたよ」

 

「何がだ?」

 

「光の事だよ。正直三日でへばると思ってたから」

 

「俺は思わなかったな」

 

「え、どうして?」

 

「こいつは一度やるって決めたら、他の事を考えずにまっすぐ突き進むタイプだからな、やる気さえあればなんだって出来るんだよ、こいつは」

 

遥は昴の評価に驚いていた。

普段はアホな事ばっかりして、家族を困らせるトラブルメーカー的な存在だと思っていたが意外にも家族の事をちゃんと見ていたのだ。

 

(本当によく分からない人だなこの人は・・・)

 

バカやる時もあれば、家族や他人のために無茶をする時もあり、このように鋭い一面も持ち合わせている。

どれが本当の昴の姿なのだろうか、それとも全て本当の昴の姿なのかは本人にしか知らないだろう。

 

「アイドルかぁ、なぁ遥、兄貴と輝を呼んでアイドルグループ「SSHT」とか結成したら売れるかな?」

 

「断固断る」

 

「四人じゃ恥ずかしいか?じゃあ俺とお前で仮面シンガーでも・・・」

 

「断る」

 

「俺がソロデビューしたらさ・・・」

 

「成功する確率を教えてあげようか」

 

遥の能力確率予知(ロッツオブネクスト)はあらゆる確率を計算できる能力で昴がアイドルデビューして成功する確率も計算出来るわけだが・・・

 

「やっぱ・・・いいや・・・」

 

遥の様子から察したのか昴は黙った。

 

(やっぱバカだコイツ・・・)

 

 

 

 

 

特訓開始から二週間後

 

「明日は光のオーディションか・・・」

 

昴は自分の部屋の中で呟いた。自分が受けるわけではないの緊張している。

 

「まあ、俺が緊張しても意味ないか」

 

そう言って昴は電気を消して寝ようとするとドアからノックが聞こえた。

こんな時間に誰だ?と考えながらドアを開けると、

 

「光・・・?」

 

「すーちゃん、ちょっと空いてる?」

 

 

 

二人は一階に下りて、リビングのソファーに向かい合って座っていた、夜中なので誰かに聞かれる心配はないはずであると昴は判断したのだ。

 

「どうしたんだこんな夜中に?明日は早いんだろ?」

 

「そうだけど、相談できるのは今しかないからさ・・・」

 

いつもの陽気さがないと昴は感じ取り、真面目に話を聞く。

 

「もし、オーディション受からなかったらって思っちゃってね・・・」

 

「遥には相談したのか?」

 

「したよ、『そうだとしても恥じることはないよ、失敗の先に光あり!』って言われた・・・」

 

ダジャレかよ・・・と心の中でつっこむ。

 

「確かに、はる君の言ってることも正しいと思うけどさ、やっぱりアイドルになるための努力を三人でしてきたわけだし、それが無駄になると考えるとどうも眠れなくて・・・」

 

「だったら成功した姿を考えるといい」

 

「え?」

 

昴は光の横に座る。

 

「想像してみろよ、今お前がいるのがライブのステージで、目の前の人間は皆お前のファンだ。こういう風に自分がアイドルになった姿を思い描いて後はそれに向かって走ればいい、そのための力はもう身に着けてるだろ」

 

そう言って昴は光の頭を撫でた。

 

「前向きに行けば必ずうまくいくわけではないけどさ、後ろ向きに考えていくよりも遥かにいいぜ」

 

「そうだね、なんかすーちゃんと話してたら不安とか全部吹っ飛んじゃった。よぉーし明日のオーディション頑張るぞー!」

 

「「おー!」」

 

イエイッ、と二人はハイタッチし、光はいつもの元気を取り戻して部屋に戻っていった。

 

「光は自信を取り戻したようだな」

 

「まぁ最初から答えは自分の中にあったんだろうけどね・・・て、えっ?」

 

恐る恐る後ろを向くとそこには総一郎の姿があった。

 

「親父・・・聞いてたの?」

 

「聞いたも何もお前達がこっそり特訓に行ってたことだってわかってたぞ」

 

「マジかよ・・・」

 

昴は冷や汗をかいた。うっかりしてると自分の秘密もバレかねない。

 

「でも止めるつもりはないぞ。子供が本当にやりたいことを見守るのが親と務めだからな」

 

これじゃ隠す意味なかったんじゃ?と昴はちょっと損な気分になった。

 

「それにしても・・・」

 

「?」

 

総一郎は息子の目を見て話す。

 

「やはりお前には王の素質が兄弟の中で一番あるかもな昴」

 

「えっ?」

 

昴は父の言葉に戸惑いを隠せなかった。

 

「どうした?『当然だぜ、なんたって未来の国王だからな!』とぐらいは言うと思ったぞ」

 

「いや、まさかこんなあっさり認められるとは思わなくてさ・・・でもなんで俺なんだ?」

 

「私は思うんだ。王は人の『上』に立つのではなくて『前』に立つものだと」

 

「人の、前?」

 

「ああそうだ。人の前に立ち、人々の盾にも道しるべにもなる存在、それが王のあるべき姿だと私は思う。それに一番適しているのが、昴お前だ」

 

「俺が・・・適している?」

 

「お前は昔から兄弟を引っ張っていこう、支えていこうという気持ちが一番強い。今日光を励ましたのもその一例だろう」

 

「よ、よしてくれ親父。褒めたってなんも出ないぜ。それに俺が王になる動機というのも個人的な理由だしさ、ぶっちゃけ一番向いてないと思うんだよね」

 

言葉とは裏腹に昴の声色は明るかった。認められたことが嬉しかったのだろう。

そのまま昴は照れを隠したまま部屋を出る所を見て総一郎は呟いた。

 

「だが無理はするなよ・・・お前は人の事を思うあまり自分の事を顧みない。それで傷つくのは自分だけじゃないんだ・・・」

 

 

 

 

 

翌日 

 

三人はバス停の前に最後の確認を行っていた。

 

「いよいよ二次審査だぞ、光」

 

「うん」

 

声は落ち着いていたがそこには自信に溢れていた。昨日の昴の言葉で吹っ切れたのだ。

 

「芸能事務所の奴らに圧倒的魅力を見せつけてやれ、正体がバレた時に光を手放すのが惜しくなるほどの!後は光次第だ・・・」

 

「なぁに、お前には見えてるんだろ?アイドルになったお前の姿が?なら大丈夫だ」

 

「はい、コーチ、師匠」

 

コーチは遥のことで師匠は昴のことだ。

 

「俺がついていけるのはここまでだけどお前の合格祝いのとっておきのパインサラダを作って待ってるぜ!」

 

「兄さんそれ死亡フラグ!」

 

「ありがとうすーちゃん!今まで黙ってたけど、このオーディションが終わったらあたし結婚するんだ!」

 

「光のそれも死亡フラグ!ってかまだ十年早いよ!」

 

死亡フラグラッシュは続く

 

「俺に構わず先に行け!」

 

「別に倒しても構わんのだろう?」

 

「わざとだよね!?これ完全にわざとだよね!?」

 

「よく言われるじゃないか、死亡フラグも立てまくれば生存フラグだって、ホレ、遥も言ってみ?」

 

「え、僕も?」

 

「はる君早くー。バスが来ちゃうよ」

 

「えっと・・・も、もう何も怖くないっ!!」

 

「遥お前!それ死亡フラグじゃねぇか!」

 

「はる君ヒドイよ!死亡フラグ立てるなんて!」

 

「何この理不尽!?」

 

死亡フラグをつっこむこともまた生存フラグに繋がる。遥は完全に兄妹にハメられたのだ。

 

そうこうしている間にもバスが来て光と遥を乗せて出発した。

 

それと同時に昴はアンノウンを察知する。

 

「さてと、俺もぼちぼち行きますか。変身!」

 

昴はポーズを構え仮面ライダーアギトに変身した。

 

「バイクは置いてきたんだっけ。じゃあこれで決まりだな!」

 

アギトはストームフォームに変身し、そのスピードで現場に向かって行った。

 

 

 

 

橋の真ん中で人間を襲うアンノウンをアギトは発見した。

 

「させるかよっ!」

 

アギトは飛び上がり、ストームハルバードをアンノウン目掛けて投げた。

 

「ズガッ!?」

 

アンノウンがとっさに腕を振るいストームハルバードは弾かれたがその隙に人は逃げた。

救出を成功させアギトは改めて敵の姿を見た。

 

「お前、あの時のカメか?」

 

かつて戦った敵トータスロード テストゥード・オケアヌスだ。

しかし、その姿はウミガメの似た前の姿とは一転、甲羅には棘は生え、鋭い爪や牙を持った今の姿はワニガメのようだ。

 

「見た目が変わったってお前の攻略法はもう知ってるんだよ!」

 

アギトは啖呵を切るとすぐにライダーキックの構えを取り、飛んだ。

オケアヌスも背中を向けるがそれを飛び越え、橋の柱を蹴って、目の前でライダーキックを放つ。

 

この時、アギトは勝利を確信した。だが・・・

 

ガシッ!、とアギトの足がオケアヌスの手の中で止まった。

 

「!?」

 

声を上げる暇もなく、アギトは投げ飛ばされる。

 

「くっ・・・強くなったのは見た目だけじゃないのか」

 

その力は以前よりも強くなっていた。名前をつけるなら強化オケアヌスといったところか。

アギトが立ち上がると、横には例の青い戦士がバイクに乗って降りてきた。

 

「おい、気を付けろ!前回とはまるで違うぜっ!」

 

しかし、青い戦士は返事をせずバイクに積んだ武器を装着、刃を展開し、強化オケアヌスに向かって走り出した。

 

『GS-03 アクティブ!』

 

通信の声と同時に刃が振動し強化オケアヌスの甲羅に目掛けて振るわれる。

 

 

しかし、その刃は強化オケアヌスの甲羅に当たった瞬間、バキッ!、っと音を立て折れてしまった。

 

「!?」

 

自分の必殺武器が通じず動揺する青い戦士の隙を逃さず強化オケアヌスは青い戦士を右手で掴み、左手で滅多打ちにする。青い戦士も抵抗するがその力に耐え切れず、装甲が火花を散らす。

 

「ズガァァァァ!」

 

とどめを刺すべく左手を上げる強化オケアヌスの脳裏に激痛と声が走る。

 

『その者を殺してはいけません。その者はアギトではない、アギトになるべき人間でもありません』

 

強化オケアヌスは左手を下し、かわりに右手で青い戦士を投げ飛ばして川へと落とし、頭を抑えながら去って行った。

 

「おい!待て!」

 

アギトの言葉を聞くはずもなく敵は姿を消した。

何故突然攻撃をやめたのか疑問に残ったが今は青い戦士を助けることが最優先と判断しアギトは川へと飛び込んだ。

 

 

 

「おいあんた大丈夫か!?」

 

昴は青い戦士を橋裏に引き上げ、起こそうと体を叩く。

その時、偶然に青い戦士の装甲の解除ボタンを押し、パージされ露わになった素顔を見て昴は驚愕した。見覚えのある顔だった。

 

 

 

「・・・弥生?」

 

そうその正体は四葉弥生であった。

昴のクラスメイトで何度言っても自分の事を様付けで呼ぶ堅物風紀委員の彼女が青い戦士の正体だとは露にも思わなかった。

 

「・・・バレてしまったか」

 

後ろの声に反応して振り向くとそこには白井咲子とその後ろには青いトレーラーがあった。

 

「ついてこい、話はGトレーラーでしようか」

 




今回は半オリジナルのアンノウンを出してみました。
これからもこういうのは増えると思います。

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