城下町のAGITΩ   作:オエージ

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謎の青年によって力を奪われてしまった斗真と昴。
アンノウンの横行を止めるために昴が下した決断は!?
そして人の闇を直接教え込まれた樹は・・・

大波乱の53話です。
それではどうぞ!


第53話 金色VS豪炎

青年の手から放たれた閃光がオルタリングを貫き力が抜けていくのを感じて昴は悟った。

 

力を奪われた。

何度も変身しようとするがアギトへ変わることができなかった。

このままでは抵抗もできず目の前のアンノウンに攻撃を受けてしまう。そう危惧する昴だったが金のエルはアギトの力が青年の元に渡ったと知るや踵を返す。

助かった、と思ったのも束の間青年の口からとんでもないことが話される。

 

「二人のアギトの力を奪いました。次はもう一人のアギト。その次はこの国の王族達です」

 

「何だって!?」

 

「彼らはアギトではありませんがあの特異な力を野放しにすればいずれ人の世は乱れる。だから私がその芽を摘むのです」

 

「そんなことさせるか!」

 

青年に近付こうとするが手前の金のエルに殴り飛ばされてしまう。

咳き込む昴にメイスを構えゆっくりと近づいていく金のエル。

万事休すと思われたが突然金のエルが引き下がる。彼の主である青年が胸を抑えて呻きだしたからだ。昴は知る由もなかったがこの時青年はアギトの力を吸い込んだ反動により苦しんでいた。

その時G3-Xが駆けつけ昴の前に立った。G3-Xの通信機越しに白井の声が昴に伝わる。

 

『先程の戦いは監視カメラを通して見た。一度退くぞ』

 

「ちょっと待て!見ていたならあいつらが何をしようしてるのかも知ってんだろ」

 

『ああ、だが今の君が向かったところで何ができる?冷静になりたまえ』

 

歯ぎしりをしながらも白井の言っていることは間違っていないと昴はこの場から脱するためにガードチェイサーの後ろに乗る。それに気付いた金のエルが近づいてくるがG3-XがGX-05を足元に向けて発射し土煙を巻き起こすことで相手の足を止める。

その隙にガードチェイサーを発進させ何とか離脱することに成功した。

悔しがる金のエルを青年が静止する。

 

「彼の力は既に私の手にあります。追うよりも他の者を優先するのです」

 

青年の命に応じた金のエルはメイスを天に掲げローカストロードの群れを召喚し始めた。

 

「そうです。それでいいのです。アギトの力はこの世から抹消しなければならないのですから・・・」

 

飛び立っていくローカストロードの群れを見て闇の青年はほくそ笑む。

 

 

 

 

桜華中央病院

 

昴が病室に入ると既に斗真は昏睡状態になってベッドで横たわっていた。

金のエルとの戦いで重症を負い、それでいてなお危機を自分に知らせるためにボロボロの体に鞭を打って駆けつけたことによって斗真の傷口はさらに開いてしまっていたのだ。

病室の中には六野や白井の他に兄弟達も居て全員斗真の身を案じている。

中でも光は彼の隣に寄り添って少しも離れる気配がない。

 

「ここに来た時からずっとあの調子なんだよあいつ。自分を支えてくれたファンがあんな目にあってよっぽどショックだったんだろうな・・・」

 

そっとしておこうと言うことで一同は病室を離れることにした。

 

「それにしてもどういうことなの。今までアンノウンを操ってきたのが神様だったなんて」

 

「それは・・・」

 

昴も相手の口からしか聞いていないので奏の問いに困っていると後ろから声がかけられる。

 

「それは私が説明しましょう」

 

振り返るとそこには樹が立っていた(一応指名手配されている身なのでサングラスで顔を隠している)。

 

「あんた、無事だったのか」

 

「無事というわけではありませんね、私もそれなりの怪我を負いましたので。それは置いておくとして昴様の前に現れた男と金色のアンノウンについて心当たりがあります」

 

『『っ!?』』

 

樹の発言に全員が目を見開き彼を見つめる。そして彼は謎の青年と金のエルについて話し出す。

 

それは十年前、ラフィキの力について老人に訊ねた時のことだった。

今の今まで記憶の片隅で眠っていたが今回の件により樹はそのことを鮮明に思い出したのだ。

 

老人は語る。

遥か昔虚無の中に神はいた。ずっと虚無を彷徨い続けるのに辟易した神はその身から7体の使徒を生み彼らに世界を創るよう命じた。

陰の使徒はまず虚無を宇宙に変えた。

続いて陽の使徒が時間を創生し、金の使徒が世の事象を定めた。

土の使徒は大地を、水の使徒は海を、風の使徒が空を創った。

そうして出来上がった世界に神は生き物を作り出した。使徒達に模した動物や昆虫、自分自身に似せて創った人間を。

そして最後に火の使徒が生き物に知恵を与え全てが成就した。

と思われた。

火の使徒が人間に知恵を与え過ぎたのだ。神の子であることを自覚した人間は傲慢になり他の生き物を貪り食らうようになった。自身の模した生き物達が野蛮に屠られる様を見て使徒達は怒り人間に戦争を仕掛けた。

その最中両陣営に多くの者が犠牲なっていくのを悲しんだ神は箱舟にひとつがいの獣と力に目覚めていない人間を乗せ大洪水を引き起こし大洪水を引き起こした。

争いを大地ごと洗い流した後神はこの一件の発端である火の使徒を処刑する。

だが今際の火の使徒は自らの力の粒子を生き残った人間達に埋め込み神に言った。

 

「やがて人は私が宿した力に目覚めお前の支配から外れる時が来るだろう」

 

それを聞いて神は人を愛しながら人の持つ火の力を憎み地上に使いを放っては目覚めかけた人間を殺しているのだという・・・

あの村でアギトが長を務めるのも徳を積み神の怒りを和らげるためだったという。

 

「これが私はあの時聞いた全てです」

 

樹の話を聞き昴は驚愕し絶句した。

あの時見た青年の異様なオーラ、背後に控える金色のアンノウン、そして他を寄せ付けない底知れずの強さ。

その全てが樹の言うことを強く根拠づけていたのだ。

 

「あの者の強さは規格外です。戦うからには相応の覚悟が必要となることをお忘れなく」

 

それだけを言って樹は踵を返して去って行った。

 

「それでも・・・アンノウンが人を襲うのを見過ごすわけにはいかない」

 

周りが再び沈黙に包まれる。

 

「・・・でもさ」

 

沈黙の殻を破るように岬が口を開いた。

 

「本当にどうするの?力が奪われたってことは戦うことができなくなったってことだよね」

 

「いや、そういうわけではない。アギトの力が無くたって戦うことはできる」

 

そう言い昴は弥生に目を向けた。彼女はアギトの力を持っていないが今まで自分と共に戦い続けた仲間の一人なのだ。

 

「そう言えば前にG3が直ったんだよな?あれを貸してくれないか」

 

「昴・・・」

 

「頼む。今の俺があいつらと戦うためにはどうしても必要なものなんだ」

 

「しかし・・・」

 

言い淀む弥生の代わりに白井は事情を説明した。

 

「残念ながらそれは難しい。G3にはXのようなオートフィット機能が存在していないからな。調整するには長い時間を要することになる」

 

「そうか・・・」

 

だが、と白井は別の案を提示する。

 

「G3を調整するのには時間はかかる。だが、別のスーツを一から創るのは一瞬だ。そうだろう?櫻田奏」

 

『!』

 

その発言に全員が仰天する中白井はポケットから白いUSBメモリを取り出し奏に託した。

 

「これは?」

 

「以前祖母のパソコンのデータを調べていたら面白い物があってな。今ならそれが力になるだろう」

 

そう聞かされた奏は渡されたメモリを見据える。この中に逆転のデータが載っているかもしれないのだ。

 

 

 

 

その頃樹は病院の屋上で立ち尽くしていた。彼の脳裏に先ほどの出来事がフラッシュバックを起こしていく。

復讐のために世界を渡り歩いていた樹は人の持つ悪意などとうの昔知り尽くした気でいた。だがあの時謎の青年によって大勢の人間の悪意が頭に流れ込み狂いそうになってしまった自分がいた。

 

「これで気付きましたか?人はみな等しく愚かなものなのです」

 

自分にだけ囁かれた神の言葉が樹の耳にこだまし続ける。

それは青年の超常的な力に対する恐怖が植え付けられた証である。それともう一つ、自分はまだ人間への恨みを消し切っていないからかもしれないと樹は感じていた。

友を殺したあの男の身勝手で無責任な言葉は今でも心に根付いている。それが神の言葉を裏付けて否定するのを困難にさせていた。

自分はどうすればいいのか尋ねようとラフィキの写真を取り出そうとしたその時、視線がぐらつきよろめく。先ほど金のエルに受けたダメージが今になって体に表れたのだ。

態勢を保とうと手すりに手を伸ばすも間に合わずそのまま地面に倒れかける。しかしその時横から出てきた誰かに支えられ樹は踏みとどまった。

 

「大丈夫ですか?」

 

心配する声を聞き顔を横に向けるとそこには葵がいた。それは樹にとって解せぬことであった。以前したことを鑑みれば自分のことを一番恨んでいるであろう彼女が自分の元へ来たのだから。

 

「何故、私を気遣うのです?よもや忘れたわけではありませんよね、私があなたにしたことを」

 

「はい、もちろん覚えています。例え未遂に終わったとしてもあなたが私の家族を引き裂こうとしたことを許すことはないのでしょう・・・それでも」

 

厳しげな表情で言い放つ葵。しかし次につぐまれた言葉は樹にとって意外なものであった。

 

「罪を許せなくても過去と向き合い罪を償おうとする今のあなたの心を信じたいと思う自分がいることも事実です」

 

樹は葵の懐の深さに驚かされた。

かつて計画のために調べ上げた櫻田家の者達の心理情報において葵は最も繊細な心を持つと結論づけていた。だが今の彼女は違っていた。彼女はここ短期間の内に著しい成長を遂げていたのだ。

それに比べて自分はどうだろうか。過去の悲劇に固執するあまり多くの過ちを犯しそれに償おうとしている今もまた青年の力に怯えラフィキにすがろうとしていた。

 

(私は何も変わっていなかったのだな・・・)

 

ならば変わらねばなるまい。それに関して自分がやるべきことは・・・

 

「あなたのおかげで漸く真に自分がなすべきことを見つけることができました。感謝します」

 

それだけを言って樹は葵に一礼して病院から出て行くのであった。

 

 

 

 

 

街ではローカストロードの群れが暴れ出していた。場所はスタジアム付近。

逃げ惑う人々、怯えて足がすくむ人々を無視して彼らが狙うのはアギトの力に目覚めつつある者達だ。

 

「きゃっ!」

 

ターゲットにされた少女が転ぶと一体のローカストロードが目の前に着地し少女の首を目掛けて腕を伸ばす。

死を悟った少女は目尻に涙を浮かべながらただ迫る来る異形の手を見つめることしかできない。

だがその腕が少女の首に達することは無かった。何故なら横から放たれた弾丸がローカストロードに直撃し怯ませたから。少女はその隙に一目散に逃げだす際視界に隅にそれを捉えた。

 

青色の装甲の戦士と並び立つ銀色の装甲の戦士を。

 

「ビギギッ!」

 

怒気の入った唸り声を噛みつこうとするのを昴はパンチで迎撃する。その際彼の視界には銀色の装甲で覆われた腕が写り出す。今彼はG3システムとは別の強化スーツを着込んでいるのだ。頭部ユニットに設備された通信機から白井の声が届く。

 

『調子はどうだ?』

 

「問題はない。これなら十分戦えそうだぜ」

 

『そうか、それは良かった。君はもう馴染んだようだな、V-1システムに』

 

V-1システム

それが今昴が着ている強化スーツの名である。

ゆっくりと構えを取ったV-1は殴り飛ばされこちらに敵対心を向けるローカストロードと対峙する。

 

「はっ!」

 

早撃ちの如く専用の銃V-1ショットを構えると相手の羽や足を撃ち抜き機動力をそぎ落とす。そこから懐に飛び込めば昴の独壇場だ。いつも通りのインファイトが炸裂しローカストロードは宙へと舞う。そこからさらにV-1の飛び蹴りが胴に突き刺さった。アギトの力の付加はかかっていないが昴にとってはこれが一番力を込めやすい攻撃でありローカストロードは地面に叩き落され爆散した。哀れにもその爆発に巻き込まれ周りのローカストロードも連鎖的に爆発を起こす。

逃れられた複数の個体も待ち伏せていたG3-XのGA-04に絡めとられる。身動きな取れなくなったローカストロードの群れにG3-XはGXランチャーの砲弾を叩き込み一掃した。

 

だがまだ安心はできない。

強い殺気が降りかかったと思えば突然前から金のエルが現れこちらに向けて得物を構える。

 

「我々の邪魔をするのであればアギトの力を持たぬ者でも容赦はせん。覚悟しろ」

 

そう言うと突然金のエルが視界から消失した。次の瞬間V-1の後ろに現れた。

G3-XはすぐさまGX-05を金のエルに向けて放つ。

しかし金のエルが手をかざすと弾丸は手前で止まり一塊となってG3-Xのところまで戻っていく。

 

「ぐわぁぁぁぁぁ!」

 

弾き飛ばされたG3-Xはそのまま壁へ激突し意識を消失してしまう。

 

「この野郎!」

 

ワンテンポ遅れてV-1が怒りの拳を繰り出すと金のエルは避けずに受け止めた。

その瞬間、蒸発するような音がV-1の腕部から出始めた。よくみると腕のパーツから蒸気が噴き出ているではないか。

 

『まずい、奴はV-1を溶かす気だ。すぐに脱げ!さもないとV-1と一緒に君も溶けることになるぞ!!』

 

白井の警告を受け昴は慌てて解除ボタンを押しV-1をパージする。体から装甲が外されると同時にV-1システムは原型を留めていない程無残な形に変容させられていた。

 

(一歩遅れていたら俺も・・・)

 

間一髪と思うのも束の間金のエルから放たれた波動がぶつかり昴は吹っ飛ばされてしまう。V-1の残骸を見せつけるように一つづつ手に持ったメイスで砕くとこちらを見て嘲笑する。

 

「貴様の頼みの綱もこの程度か。最も、我を敵にした時点で人間に勝ち目など万に一つもないのだがな」

 

最後の希望であったV-1も砕かれ抗う術を失った。そう思われた時、遥か彼方からバイクのエンジン音が響き渡る。音は近づいていくが影は見えない。

金のエルが見回すしいると突然物資が敷き詰められた段ボールの壁を破って樹が現れる。

 

「変身」

 

樹はアナザーアギトへと変身しバイクもまたダークホッパーとなって金のエルの元へ前輪を上げながら突進する。

 

「ぐっ!?」

 

突発的なことゆえ対処に間に合わずバイクの衝突を許し跳ね飛ばされる金のエル。

 

「樹!」

 

「遅れてしまい申し訳ございません。ここからは私が奴と相手をしますので昴様はお体を休めていてください」

 

バイクから降りるとアナザーアギトは飛び出し態勢を整えていない金のエルに畳み掛けていく。

パンチキックチョップと次々と重い一撃を繰り出していくが打たれている金のエルは呻き声一つも上げない。

 

「ぬるいわ!そんな攻撃で我が身を砕けるものか!」

 

金のエルはメイスを相手の頭部に目掛けて突き出した。しかしアナザーアギトはそれを予知して上半身を反らして回避しメイスを奪い取った。

 

「ぬぅぅんっ!」

 

奪い取ったメイスを金のエルの胴にフルスイングで叩きつける。さすがの金のエルもこれには思わず仰け反り強固な表皮にひびが入った。

好機と見たアナザーアギトはゆっくりと腰を落としアサルトキックの構えを取る。狙いはひび一点のみ。地面の紋章が足に集約していき力が溜まるのを実感していく。

だが急に感じていた紋章の力が消失した。下を見るとそこにあるはずの紋章が歪み始めていたのだ。そして炎へと変わりアナザーアギトに襲い掛かる。

 

「何っ!?」

 

炎に飲み込まれるアナザーアギト。少しづつ近づいていく足音。

現れたのはやはりあの青年だ。炎に苦しむアナザーアギトに青年は手をかざした。

そこから出た光がアンクポイントを貫き樹から力を奪った。昴は絶句した。樹も変身できなくなった今もうアンノウンを止める者がいない。

樹は力を奪われたショックなのかガクリと膝を落とす。

 

「これで、この世からアギトの力を持つ者はいなくなりました」

 

淡々と話される事実に昴は歯ぎしりをする。しかし今の彼に戦う力は無く青年の言葉が耳に突き刺さってくる。

 

「人は人のままでいい。人は誰もが自身の欲のために他者を犠牲にしようとする。そこにアギトの力が食われれば災いになるのは必須。人はみな等しく愚かである。だから、上に立つ私が人間を導く。人は変わる必要はありません。ただ私に愛され導かれればよいのです」

 

「フフッ・・・」

 

ここで樹の口から笑いがこぼれる。諦めの意かと勘ぐるが昴はそれが違うことにすぐに気付いた。樹の笑いには嘲りが込められていたのだ。人間の理解を超えた超常的な存在である神に対して。

 

「人はみな等しく愚か・・・ですか。確かに人間には利己的で他者のことをどうとも思わないクズが多すぎる・・・」

 

ですが、とそこで樹は立ち上がる。変身できなくとも彼の体から凄まじいほどの闘志が溢れ青年の傍に控える金のエルをたじろがせる。そして樹は神に反論した。

 

「それが全てではない!!アギトの力に苦悩しながらも愛する者のために力を尽くした者がいた!人間にもまた他者の痛みを理解し救おうとする者がいた!己の弱さを克服しようとしている者はいる!それらの存在を知った上でみな等しく愚かというのなら私は言おう!愚かなのは貴様の方だ!!」

 

樹の脳裏にラフィキや栞、葵が浮かび上がる。それだけではない近くにいる少年もまた挫折を乗り越えかつての自分から大切な家族を救い出した者である。再び樹は青年に目を向ける。人を全て愚かと言い張り圧倒的な力を持って支配しようと目論む彼と昔の自分が重なり合う。だからこそ樹は彼を弾劾する。過去の自分と決別し変わるために。

 

「こんなにも人間の中に高潔な精神を持った者がいるというのにあなたが気付かなかった理由はただ一つ、見ようともしなかったからだ」

 

「口を慎むのです。今のあなたは私に命を握られているのを気付いていないのですか」

 

「アンノウンを仕向け続け今まで高みの見物をしていたあなたにそう凄まれても何の説得力も感じませんよ」

 

「黙りなさい・・・」

 

二人の間には埋めようがないほどの差がある。だが今上に立っているのは間違いなく樹である。相手の深層心理を見抜き突き付けることで自分の領域に相手を引き釣りこむ。かつて昴もやられたあの特技に神はかかっていた。

 

「あなたは怯えていただけだ。人間がアギトの力を進化させ自分の手から離れていくことを。だからこうして可能性の種を摘み取ろうとしていのだな!!」

 

「黙れ!!」

 

今まで能面のように変化のない顔に怒りが現れる。抑揚のなかった声が荒げる。神は自分の心理を取るに足らないはずの人間に見抜かれ激怒していた。

激情のまま神は控える金のエルに命ずる。

 

「あの男の口を永遠に塞げ」

 

命を受けた金のエルは超能力を駆使して樹の首を絞める。樹の目の前に立つ金のエルの手にメイスが戻っていた。

執行人はこの状況下においても口を開こうとする樹に向かって二文字の言葉を告げた。

 

「死ね」

 

昴が走り出そうとするも間に合わずメイスが横なぎに樹の頭部を殴り付けた。

 

その頃斗真の病室では栞が病室の花瓶の水を交換しようと手を伸ばしたその時触れてもいないのに突然割れた。輝が慌てて栞を庇うが栞がこれが何か不吉なことを予兆していると感じていた。

 

その予感通りメイスが頭部にぶつかり樹は倒れる

 

 

 

ところをギリギリで踏みとどまった。

 

「っ!?」

 

その自体には敵味方問わず目を見開いた。

今度はメイスを体中に打ち付けていくが樹は倒れない。しびれを切らした青年が以前のように樹の脳内に大勢の人間の悪意を流れ込ませる。

絶叫は響き樹は頭を抑えるがその闘志は消えずに目の前の敵を見据える。人間は自分のペットだと思い人間の可能性を否定する傲慢な神を見据え樹は気付けば苦しみを紛らわすためではなく己を奮い立たせるために叫んでいた。

樹は自身の体の変化を感じ取っていた。今にも灰になってしまいそうなほどの熱が体を駆け巡る。今にも全身から弾け飛びそうな熱気の正体を樹は悟った。

 

(もう私は奴の恐怖に屈したりはしない。過去にすがったりはしない。変わるんだ私は!同じく変わろうとする者達を守るために!だからっ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身!!!!」

 

その時、消えたはずのアンクポイントが樹の腰に出現した。力を奪われたはずなのにだ。

いや、合点はいく。

 

今まで樹の体に宿っていたアギトの力は親友ラフィキから受け継いだ物だ。つまりあれは借り物の力であったのだ。それを奪われた今その力を持って変身することはできない。

 

だがアギトは全ての人間に潜在的に宿るものである。当然樹自身にもアギトの力は眠っていた。それが彼の変わろうという決意に応じて覚醒した。

 

 

金のエルが押しつぶそうとメイスを振り上げたその時、樹の体が爆発を起こし爆風で周囲を吹っ飛ばした。

煙が巻き上がりそれをかき分け現れたのはアギト。

 

その姿はアナザーアギトの禍々しさを残しながら紫の角に銀色の肉体と神々しさも混同している。まるで罪を背負い償いのために変わろうとする樹の意志を表現するかのような姿の腰についているアンクポイントにはドラゴンネイルが刻まれている。

これこそが樹の覚醒した姿 アナザーアギトバーニングフォームだ。

 

「はぁっ!!」

 

迫りくる金のエルに対しアナザーアギトは拳を突き出す。

金のエルは吹っ飛びその強力な一撃に仰天する。

自身の僕と互角の戦いを繰り広げていくアナザーアギトを青年はもう一度力を奪おうと手を伸ばす。

 

「させるか!」

 

しかしそれを見過ごす昴ではない。彼は青年の元へと駆け出し手を握り締める。

 

(樹は力を失った状態でもあいつに真正面から立ち向かって見せた。だったら俺も!力を失ったとしても俺は戦う!!)

 

青年に殴りかかる昴だが目の前に現れた壁に阻まれる。だがそれでも壁を破ろうと何度も叩く。手に血が滲むほど叩き続ける昴を見て青年の心は揺らいでいた。

 

「何故私に歯向かうのです。私があなた達を導こうというのに・・・何故私の手から離れたがる!」

 

その時、一つの銃声が鳴り響いた。意識を取り戻したG3-Xから放たれた銃声であった。

青年は銃口を向けるG3-Xを信じられないといった目で見ていた。自分にとって愛すべき存在であるはずの人間が自分に対し牙をむいたことは青年にとって落雷の如き衝撃であった。

 

「人間はあなたのおもちゃじゃない!人間の道を決めるのは人間自身だ!」

 

ただの人間の口から放たれる明確な拒絶の言葉。青年は驚愕のあまり身を守る壁を引っ込めてしまう。金のエルはアナザーアギトと戦っている。

今青年を守るものはなく昴は一気に彼の目と鼻の先まで接近した。

 

「歯を食いしばれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

昴の熱い拳が青年の頬に当たり倒れこむ。

 

「そんな馬鹿な・・・人間が私を・・・っ!しまった!」

 

その時青年は体に閉じ込めていたアギトの力を思わず手放してしまう。再度を引き込もうとするも時すでに遅し、解放された光はそれぞれの持ち主の元へと戻っていく。

一つは昴の体に。もう一つは天へと上り本来の持ち主の魂に帰還する。アナザーアギトは金のエルと戦っている最中それを見届けた。そして三つめの光は病院に向かって一直線で飛んで行った。

 

 

 

斗真の傍らに立ち彼の回復を待っていた光は突然窓から物凄い速度で何かが斗真の体へ入り込んでいくのを見た。何が起きたのか分からない内に斗真の目は開き起き上がった。

この時斗真は直感で悟った。力が戻ってきた、そして今遠くで同じく力を取り戻した友が戦っている。

 

行かなければ。

 

そう思いベッドから抜け出すと前に光がいることに気付く。昏睡していた間近くで待ってくれていた彼女になんと言えばいいか悩む斗真だが先に光が話しかけてきた。

 

「行っちゃうの?」

 

「あぁ・・・」

 

「今度は怪我しないでね」

 

「勿論だ」

 

短い会話だが両者の思いはすぐに伝わり光は斗真を通し、斗真は窓から飛び降りる。

 

「変身!」

 

落下の途中でギルスに変身し愛車ギルスレイダーを呼び寄せ斗真は仲間が待つ場へと向かった。

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

己の思惑が外れた神は絶叫しその場から離脱する。

場に残った金のエルは二人のアギトと一人の人間を睨み付ける。

 

「貴様らよくもあのお方を・・・報いを受けるがいい!!」

 

咆哮と同時に放たれた覇気が足元のコンクリートを砕く。金のエルは無数の破片となったコンクリートを念力で戦士達に向けて発射する。あれほどの物量を捌き切れるのかと危惧する昴達。

 

しかしコンクリートは背後から伸ばされた赤い触手によって一つ残らず撃ち落とされた。

 

「待たせたな!」

 

バイクから降りてギルスが昴の横に立つ。

 

「怪我は大丈夫か?」

 

「お前が力を取り戻してくれたおかげ治ったぜ。ありがとよ」

 

「そうか、じゃあ皆行くぞ!変身!!」

 

昴がアギトバーニングフォームへと変身し役者は揃った。

並び立つ4人の戦士。その姿に統一感はなくとも同じ目的のために並び立つ四人に勝てるものなどいない。例えそれが神話に出てくる超越した存在であっても。

 

「ウォォォォォォォォォォ!!」

 

「ハァァァァァァァァァァ!!」

 

エクシードギルスのギルススティンガーとG3-XのGA-04が金のエルの体に巻き付いた。振り回そうと体を揺さぶるが二人は両足で大地を踏みしめ決して揺るがない。

今がチャンスだ!

 

「あの頑丈な表皮を打ち破るには私とあなたの最大の一撃を同時に叩き込む必要があります。できますね」

 

「当然だ!タイミング外すなよ、樹!!」

 

前へと出た二つの豪炎を纏ったアギトはその炎全てを拳に注ぎ共に叫ぶ。

 

「「ハァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」」

 

『ダブルバーニングライダーパンチ』が金のエルのひびの入った胴に爆裂。

 

「これで勝ったと思うなよ・・・我々を敵に回した時点で・・・お前達人間に未来はないのだ・・・せいぜい来たる終末に脅えるがいい!ヌワァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

呪詛に近い断末魔を残し強敵金のエルは大爆発を起こして散った。

 

「これで・・・勝てたのですね・・・」

 

爆風が収まると同時にアナザーアギトはその場に崩れ落ちた。

他の三人は驚き近くへとよるがすぐにアナザーアギトは立ち上がりダークホッパーへと跨った。

 

「お前・・・大丈夫か?」

 

「私は医者です。自分の状態は自分で理解できます。それでは」

 

そう言い残しアナザーアギトは走り去っていった。

昴は何故かその後ろ姿が自分が最後に見る樹の姿のような気がしていた。

 

 

 

 

 

昴らと別れた樹はおぼろげな足取りでいつぞやの雑木林まで来ていた。

彼が歩いた後にはおびただしい量の血が染みついていた。あの時金のエルによって受けた傷は常人ならとっくに死亡しているレベルのものだったのだ。

医者であるゆえに自分の状態が理解できる。だからこそ死を悟った樹はこうして満身創痍でありながらある場所へと目指していた。

そこは雑木林の中にある一つの木。その木陰にあの時と同じく栞はいた。虫の知らせを感じた彼女は居ても立っても居られず直観でここに来ていたのだ。

 

「やはり、ここに来ていましたか」

 

「っ!」

 

体中から血が噴き出ている樹を見た栞は驚愕しなんとかしなければとハンカチで傷の一つを抑えようとするのを樹は手で制した。

 

「止してください。私はもう助からないのですから・・・」

 

「そんな・・・」

 

「悲しい顔はしないでください。間違いばかりだった私の人生でやっと最後に正しい選択をできたのです。もう悔いはありません・・・」

 

ですが、と樹は木を背に寄り座り目線を合わせる。

 

「私には伝えたい言葉があります。聞いてくれますか?」

 

栞が頷くと樹はこれまでの人生で見つけ出した思いを語る。

 

「人は成長していくにつれて重荷を背負う。そしてそれが人生を狭めていく。では、人に荷を背負わせるのは誰だと思いますか」

 

「それは決して他人ではない自分自身なのです。人生というのはたった一つの決断で左右されてしまうものであるのです」

 

「私もまたラフィキを殺されたあの時違う決断をしていたのならもう少しまともな人間になれたかもしれません」

 

「一度決断すれば修正することはできない。だからこそ何かを決める時は安易な感情に惑わされず心にある思いと向き合い正しい答えを見つけてください。あなた方に私のように後悔にまみれた生き方をして欲しくないのです」

 

「この言葉をなるべく多くの人広めてくれませんか?」

 

「・・・はい。家族に、友達に・・・皆にあなたが生きてきた証を伝えていきます」

 

涙をこらえながら栞は樹の思いに応えた。今彼の命の灯は消えようとしている。そうした中で彼は自分を信じ託そうしているのを感じ栞の心は熱く揺さぶられる。

 

「それはうれしい。これで私は、死んでも償い続けれる・・・」

 

樹は感覚が消えた手を最後に残った力で栞の頬まで運ぶ。次第に冷えていく樹の手の感触を心に刻みながら栞は樹の目を見る。そして震えながら表情を緩ませ笑顔を見せる。

 

「ありがとう」

 

栞に応えるように樹も笑顔を作った。強面の彼には不釣り合いだがかえって温かさを感じる。

 

 

そして手は栞の頬からゆっくり落ちた。

何度も呼びかけるがもう彼は答えない。

 

「栞・・・」

 

突然居なくなった栞を追って葵が雑木林にたどり着く。

安らかな表情で瞳を閉じた樹を見て察した彼女は優しく栞の肩に手を当てる。

 

「お姉さまぁ・・・」

 

振り向くとすぐに栞は葵に抱き着いた。

姉の温もりを感じながら栞はこらえていた目の雫を流していく。

 

「最期の時まで泣かなかったのね」

 

「だって、目が涙で濡れていたら見送れないから・・・」

 

栞を胸に抱きながら葵はもう一度彼の骸を見据え両手で栞を強く抱きしめた。

 

「せめて私達だけでもあの人を弔ってあげようか」

 

「うん・・・」

 

 

長年自身を曇らせていた心の闇を晴らした男は今その生涯を終えた・・・




V-1にアナザーバーニングに金のエルとの決着等色々詰め込んだ53話如何でしたでしょうか

原作アギト通りアナザーアギトの死は最終決戦の前触れ
次回をお楽しみにしていてください。

それではまた次回お会いしましょう・・・



PS,もしかしてハーメルン内でV-1出したのって僕が初めて?

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