いよいよエルロード決戦編の始まりです。
それではどうぞ!
アンノウンの出現を察知したアギトらはそれぞれのマシンで駆り現場へと向かっていた。場所は歩道橋のある道路の交差点。
視線の先にアンノウン三体を捉えるとすぐにバイクから降りて向かい合う。
敵は3体。
淡水エイの姿をしたスティングレイロード ポタモトリゴン・ククルス。
それに対しトビエイを彷彿させるスティングレイロード ポタモトリゴン・カッシス。
そしてその二体に指示を出しているシャチのアンノウン オルカロード ケトス・オルキヌス。
まず最初に戦いの火ぶたを切ったのはククルスとギルスだ。
互いにのこぎり型の剣と爪を出してぶつかり合う。それに遅れてほかの二人も各々の相手と一騎打ちとなった。
ギルスは腕の武器をギルスフィーラーに変化させ相手の剣を絡めとる。ククルスは放すまいと剣を強く握り抵抗するが片方の腕から伸ばしたギルスクロウを浴びて吹っ飛び剣を手放してしまう。
「ガァァァウッ!」
そこからはギルスの猛攻が始まった。鋭い牙で腕を噛みつき動けなくしたところを胴を目掛けて膝蹴りを三発浴びせる。そこからククルスの体を足場に飛び上がり踵の爪を引き伸ばす。
下へと落下しギルスヒールクロウを叩き付けると胸を蹴って一回転しながら地面へと着地する。
「グググ・・・」
ダメージに耐え切れなくなったククルスはその場に崩れ落ちて爆散する。その爆炎を背景にギルスは雄叫びを上げた。
同朋が倒されたことに憤怒したカッシスは頭部のヒレを鞭のように扱いG3-Xへと攻撃を仕掛ける。しかしそれを難無く躱したG3-Xは懐に飛び込み連続パンチを繰り出し、足からGM-01を引き抜いて至近距離からの連射でカッシスを怯ませる。体勢を立て直そうと頭上を跳躍しようとするカッシスだがそれをG3-Xが逃がさない。
「タァッ!」
飛び上がったカッシスの顎にアッパーを浴びせるG3-X。予想外のダメージを負って硬直している間にガードチェイサーからGX-05を取り出した。
「・・・撃つ!」
照準をカッシスへと合わせるとG3-Xは引き金を引き銃口からあめあられと放った。
蜂の巣にされたカッシスは頭から輪を浮かべて断末魔の叫びと共に弾け飛ぶのであった。
一方アギトもオルキヌスとの戦いの決着が近づいてきた。
「でやっ!とりゃぁ!」
「ギッ!ギギィ!!」
徒手空拳で戦うアギトに対し刃が波打つ形状の特殊な剣フランベルジェを持って接近戦を試みるオルキヌス。
武器の有無ゆえ優勢はオルキヌスかに思われたがアギトは相手の挙動を読み剣を躱して翻弄していく。
「ハッ!」
真正面からスレトートパンチを叩き込んで吹っ飛ばしたアギトはそのままライダーキックへと移行する。
「はぁぁぁぁぁ・・・」
呼吸に合わせてゆっくりと腰を落とし両足に紋章のエネルギーを染み込ませる。耐えかねたオルキヌスが突進を仕掛けてくるとアギトは飛び上がって迎撃した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ライダーキックを直撃したオルキヌスは地面を削りながら吹き飛びそのまま爆散する、かに思われたがオルキヌスは立ち上がった。
「何っ!?」
とはいえダメージは確実に受けておりよれよれの挙動ながらアギトは勝利を確信していたので予想外の行動に動揺し対応が遅れてしまった。
「ギィィィィィ!」
真上の歩道橋に飛び乗ったオルキヌスはそこで逃げ遅れた標的を発見する。
(まずい・・・!)
相手は道連れにするつもりだ。三人は駆け出すが間に合いそうにない。
万事休すと思われたその時、一つの影が振り下ろされたオルキヌスの剣を受け止めた。
「樹!?」
そう、間一髪を救ったのは樹次郎の変身するアナザーアギトだった。
「むぅん!」
剣を弾き飛ばしたアナザーアギトはオルキヌスの首根っこを掴み持ち上げる。
そしてそのまま地面へと叩き落した。
地に伏せたオルキヌスは力尽き派手な音を立てて爆散した。
「ひっ、ひぃぃぃぃ!」
オルキヌスに狙われていた者は悲鳴を上げて逃げ去っていった。その悲鳴は危うく命を落とすところだったためか、それともアナザーアギトの風貌に驚いたためなのかは分からない。
「・・・」
飛び降りたアナザーアギトは着地と共に変身を解除する。昴と斗真も変身を解除し弥生はG3-Xの頭部ユニットを外す。
向かい合う四人にやや近寄りがたい空気が漂う。変身を解除してから十秒ほど経ったとき樹は前へと歩き出し昴達の脇を通り抜ける。
「最後まで油断しないことです。今のままでは守れるものも守れませんよ」
昴とすれ違う際それだけの言葉を残して樹は愛車に跨りその場から去っていったのであった。
昴らの前から去って行った樹は街の片隅を歩いていた。その最中足を止めふと黄昏の空を見上げた。
「奇妙なものだな。今の私は人間の為に戦っている。少し前までの私であるならばあり得ないことだ」
昴らと和解した樹は今までしてきた自分の罪の償いとして行ったのはアンノウンから人を守ることであった。その際先程のように昴と合流することも多かったがそれ以上のことはなく互いの距離感に悩んでいるというのが実情である。
樹は顔を前に向けて再び歩き出そうとすると後ろから声を掛けられた。
「樹・・・先生ですよね?」
振り向くとそこには茜の姿があった。
「私に何か?」
「大したことじゃないんですが・・・その」
茜は何かにためらいながら樹に言った。
「栞から話は聞きました。アンノウンから守ってくれたんですよね?そのお礼が言いたくて・・・」
「ああ、そのことですか。私に礼を言う必要などありませんよ、元はと言えば私が彼女を攫ったのが原因ですから」
「それでも・・・」
茜は前を向いて自分の思いを言う。
「あなたは栞を、私の家族を守ったことには変わりありませんから。だから言わせてください。栞を助けてくれてありがとうございます」
「あなたも妙ですね。誘拐犯に礼を言おうと思うなんて・・・」
それだけを言って樹は踵を返した。
「え、あの・・・」
「もうじき暗くなります。早く帰宅するといいでしょう。夜は不審な輩が徘徊する時間帯ですからね・・・例えば昔の私のような」
困惑する茜を尻目に今度こそ樹は歩き出し彼女の視界から消えていった。
櫻田家
「えっ!あんた樹に会ったの!?」
家に帰り樹のことを話すと案の定兄弟らは仰天し茜の周りを囲みだした。
「それで、あいつはどうだったのよ?」
「どうもこうも無いよ。私はただ前のことについてお礼を言っただけで樹先生はすぐ去って行っちゃったの」
茜は本当のことを言い大したことではなかった安心する兄弟の中奏だけは警戒心を解いて無かった。
「本当に?どうもあいつは信用できないわ」
「奏・・・」
「だってあいつは今まで私達の命を狙ってきた男なのよ。そんな奴が急に心変わりしたなんて信じられると思う?安心させて隙をつこうとしているかもしれないのよ」
奏の言葉に周りは閉口する。少しだけでも奏に共感している証拠だ。
「確かにそれはありうるかもしれないけどさ・・・姉さんはどう思う?」
「え、私?」
修に話を振られ葵は目を瞬きさせる。
「姉さんは一度あいつに監禁されたことがあったわよね。その時あいつについて感じたことって何かあったの?」
「そうね・・・」
葵は記憶を巡らせあの時の樹の声や表情を思い出す。
「あの人の考えていることは常軌を逸していた。でもどこか虚しさを感じたの」
「虚しさ」
「うん。何というか過去に生きているとでも言うような・・・」
「過去に生きている・・・ねえ」
ここにきて今まで黙っていた昴が口を開き兄弟達は彼に目を向けた。
「俺決めたよ。もう一度樹と会ってみる。あいつと話をして信用していいか確かめてくる」
『『えっ!?』』
昴の突然の決断に兄弟は驚かざるを得なかった。
「それで、私を呼び出したというわけですか」
翌日昴は早速樹に連絡を取り現在二人は前方に海が広がる公園の中にいた。
「ああ、俺もあんたを信じていいかよくわからないからな。この際ハッキリさせたほうが後腐れもないと思ったんだ」
「そうですか。ですがそれは無駄なことですね」
不愛想に樹は視線を海を映した。
「私は人間に対して数え切れない罪を犯してきた。あなたの言った通りどんなことをしてもその罪が消えることはない。そんな十字架を背負う私を信じてはいけない。疑うべきなのですよ、それこそがこの罪に対する罰の一つなのですから」
「樹・・・」
それは彼なりのケジメのつもりなのだろう。今までしてきたであろう行いに対しての。それに対しては昴もとやかく言うつもりはない。彼もそれを拒むに違いないからだ。
「それはそうと・・・」
樹は振り向くと話の話題を自分から昴のものに変える。
「国王選挙、現在三位のようですね」
「ま、まあな・・・」
唐突に選挙のことを聞かれ昴は言葉を詰まらせる。
詳しくは公表されていないが以前の樹事件の際解決に一番貢献したのは昴だということが国民に話されそれ以降彼の票数は爆発的に増加しいた。その上昇率から計算すれば選挙当日のころには一位になっていてもおかしくないほどである。
「やはり国王になればアギトのことを考慮した政策をなさるおつもりで?」
「ああ、というか何で急にそんな話を?」
「いえ、そこまで深い意図はありません。私としてもアギトであるあなたに国王になって欲しいと思います。かつての計画としてではなく本心として」
樹は表情を緩めてそう言った。
アギトに関する多くの悲劇を見てきた樹にとってその一人である昴が国王となって国を動かしていくのは感慨深いものであるのだ。
しかし、と樹はそこでやや表情を固めて昴に問いかける。
「私はあなたが王になることを望んでいます。ですが・・・あなた自身のお気持ちはどのようなものなのでしょうか?」
その問いに意味に十分に理解するのに昴は少しの時間を要することになった。
「一体どういう意味だ?俺自身の気持ちって言われても・・・」
「そう聞かれてもすぐに答えることはできないでしょうね」
困惑する昴の心境に理解を示した樹は別の言葉で語りかける。
「人という生き物は成長や経験をしていくにつれて何かしらの重荷を背負っていくものです。地位、境遇、能力、責任・・・それは決してマイナスなものではありませんが道を狭めるものでもあるのです。例えば私は友を殺されたことにより復讐を背負い、そして今は罪を背負っています・・・」
「俺の場合、国王という立場が重荷になるというのか・・・」
「その通り、王の権力は絶大です。王という枠組みすらを消せるほどに。ですがそこには責任が生じます」
「責任?」
昴の漏らした声に樹は頷き話を続ける。昴がこれが自分にとって大きな転換点になるものだと悟り樹の声に耳を傾ける。
「はい。この国の全てを守るという責任が。それによって多くのもの犠牲にしなければならないのです」
「・・・」
王になればアギトに関する問題をすぐに解決できるだろうと昴は楽観視していた。だが樹は現実は簡単なものではないと語る。
「あなたの父、桜田総一郎は少々変わり者ではありますが優秀な人間であることには間違いありません。王としての責務と父としての義務を果たしている上に自分の思い描いていたものの実現を成し遂げて見せた人物なのですから・・・もっとも、それを壊そうとしていた私が言うのは妙なものですがね・・・」
父の若い頃の話は本人の口から少し聞いたことがある。
反対を押し切って念願の高校入学を果たした総一郎に対する周りの目は冷たかった。
嫌悪、恐怖、畏怖・・・それが能力によって見えたクラスメイトの感情だったそうだ。
本人は深く語ろうとはしなかったがそのほかにも苦悩や困難は絶えなかったのであろう。
現在、王家の者が町で暮らすことに対しての周りの偏見や抵抗感は皆無である。それはきっとあの父が過去の暗い部分を全て背負ったからかもしれない。
想像以上にすごい人物であると再認識した昴は彼に関するある事柄を樹に語った。
「・・・小さい頃、母さんの方のおじいちゃんに会ったことがある。その人は親父みたいによく笑う人だった。というか親父そのものだった」
「恐らくその人物の在りかたが彼の父親像に影響を与えたのでしょう。先代の国王陛下は国務に腐心するあまり家族への情が薄かったと聞きますからね・・・」
違う。かつて祖父の手記で彼の心の中を垣間見た昴は否定した。
彼はただ愛情表現が苦手だっただけなのだ。晩節に書かれた手記の中で彼は息子に父親らしいことをしてやれなかったことを後悔していた。だからこそせめてもの償いとして総一郎が一般校に入学したいと言い出した時、彼だけは止めなかった。そして祖父は生を全うしたのだ。
こうなってしまったのも祖父が国王としての責任に未確認生命体事件に関する全てをたった一人で背負ってしまったが故の結果なのだろう。
背負った重荷が道を狭める。樹の言葉がさらに重く感じてきた。
「話が逸れてしまいましたね。要点を言えば持つ権力が大きくなればなるほどその責任も大きなものとなっていく。その覚悟があなたにはありますか?この国の為に自分と言う個人を捧げる覚悟が」
「俺は・・・」
どうするべきか。疑問は頭の中を駆け巡り答えられず昴は口を閉じてしまう。
国王選挙のポスターで溢れる町中を秋原斗真はバイクを走らせていた。特に用事があるわけではない。何となく愛車で走りたい衝動に駆られた斗真は街の風景に目を向けている。
「国王選挙も後僅かか」
空に浮かぶ選挙の残り日程を示す飛行船を見て斗真は呟いた。
もうすぐ現国王の後を継ぐ者が決まる。それはひょっとしたら自分の親友なのかもしれない。
「まぁ、誰が王になろうとも俺のやるべきことは変わらない。この力を使ってアンノウンから人間を守り続けるだけさ」
決意を新たにする斗真の前に突然人影が現れる。慌ててブレーキをかけると飛び出して来た人物は鬼気迫る表情で斗真に掴みかかる。
「たっ、助けてくれ。あいつが来る!」
「落ち着け、何があったんだ?」
「あいつが・・・金色の化け物が突然地下道に現れて・・・うあぁぁぁっ!!」
恐慌状態の男は悲鳴を上げ転がるように逃げ去って行った。男が来た方を見るとそれは地下道の入り口であった。
あそこで何かが起きている。それを確かめるため斗真はバイクから降りて地下道へと入る。そこで彼は信じられないものを目撃した。
壁の一部がドロドロに溶け、周りには服だけが残され灰で床が覆われていた。
そこで倒れている女性を見て斗真は起こそうを触れた瞬間、女性の体は灰となって崩れた。
「どういうことだ・・・?」
今まで見たことのない状況に斗真はたじろぐ。その時、後ろから鋭い殺気を感じ取った。
「っ!?」
すぐに立ち上がって後ろを向くとそいつは居た。
「・・・・・」
昆虫のような金色の肉体を持った怪物がこちらを見据えていた。
「お前か、お前がやったのか!」
「・・・・・」
答える様子が無い金色の怪人に痺れを切らした斗真は両腕を交差させる。
「変身!」
斗真はギルスへと変身し怪人に飛び掛かりパンチを放つ。だが怪人によって拳を掴まれてしまう。引き離そうと腕を引くが怪人の力は強く、拳を掴んだまま腕を振り上げ壁へと叩きつける。
「一筋縄ではいかない相手のようだな。なら!」
壁が砕け粉塵に包まれながらギルスはエクシードギルスへと変化し破片を怪人目掛けて投げつける。それに対し怪人がした行動は手をかざすだけだ。それだけの行動であるはずなのだが破片は手の前で静止しアイスクリームのように溶け出した。
「何だと!?」
超常現象に驚愕するエクシードギルスに怪人は手から出した波動で吹き飛ばす。
地に伏すギルスを見下ろしながら金色の怪人は口を開いた。
「あのお方が警戒なさっていると聞きどのようなものかと思えば・・・所詮はその程度か」
「こいつも喋るアンノウンか!?」
斗真は以前遭遇したクラゲのアンノウンのことを思い出し目の前の敵もそれと同じタイプなのかと推測する。しかしそれを金色の怪人は失笑しだした。
「アンノウン?そうか、貴様らは我々のことをそう呼ぶのか・・・」
「何がおかしい!」
「呼称というものが無ければものを認識できない貴様らの浅慮さを笑っているだけだ」
上から目線で人を見下す態度に斗真は怒りを覚えるが金色の怪人はそれを無視してしゃべり続ける。
「だがここは貴様らに合わせて我の名を作るとするか」
「何だと?」
すると金色の怪人は宙を浮き高らかに名乗りを上げた。
「聞くが良い愚かな者よ。我はあの方により創られた七柱の使徒の一人『エルロード』。我が司るは『金』!!」
そう『金のエル』は声を上げ体から矢を射出する。それをギルススティンガーで弾きながら金のエルの言ったことを反芻する。
「七柱の使徒だと!?」
「その通り。我を今まで倒して来たロードと同じだとは思わないことだ。格が違うからな」
その瞬間金のエルの姿が消えたかと思えばエクシードギルスの頭部に強い衝撃が走る。金のエルが背後に瞬間移動し携えた金色のメイスでギルスの頭を殴り付けたのだ。
「ぐっ・・・!」
頭を抑えながら立ち上がり再び金のエルに攻撃を仕掛けるも強固な体には通らず逆に跳ね返った衝撃がギルスを怯ませる。
「無駄だ。貴様如きに我を滅ぼすことなど天地がひっくり返ってもあり得ぬ」
「・・・それはどうかな!」
尊大な態度で見下す金のエルに対しエクシードギルスは背中の触手で締め上げた。
「むう・・・鬱陶しいな」
全身を雁字搦めにされながらも鬱陶しいの一言で済ます金のエル。だがエクシードギルスはその余裕を崩してやろうと跳躍し踵を上げる。
「ウォォォォォォォォォォォォ!!」
ギロチンの如く踵の振り落とす。エクシードヒールクロウが炸裂し金のエルが絶叫を上げる
というのが斗真の予想であったが・・・
「この程度か?」
斗真は目を見開いた。爪が肩に刺さった途端根元からへし折れ金のエルには傷一つついていない。
(なんて硬さだ、怯むどころか傷もつかないなんて・・・)
異常なまでの硬さに動揺している金のエルがギルスの体に手を当てた。触れられた瞬間ギルスは宙に浮かされ身動きが取れなくなってしまう。
まずい、と斗真が危機感を覚えたのも束の間瓦礫が全身を襲いさらにそのまま天井に叩きつけた。
「ガッ!?」
天井で念力を解かれ地面に落ちたギルスは苦悶の声を上げる。立ち上がろうとするが全身の骨にひびが入ったような感覚がして思うように体が動かない。
「なんて奴だ・・・全く歯が立たない」
仰向けにされ斗真は目の前の相手が今までのアンノウンとはレベルが段違いの強敵なのだと認識し体を強張らせる。どうすれば奴に一泡吹かせられるのか、そのことだけを考えていると突然耳に不思議な声が突き刺さってきた。
「どうやら決着はついたようですね」
声を聞こえると目の前に突然黒い服を着た長髪の青年が現れた。青年を見るや金のエルは彼の横に跪いて青年の道を開ける。
(何だこいつは?)
ゆっくりと歩を進めてくる青年に斗真は警戒心を高める。それを察知した青年は斗真に声をかけた。
「恐れることはありません。私はあなたを含める人間を愛する者です。しかしそれと同時に私は人間のある部分を憎んでいる。その部分を今あなたから取り除いて差し上げましょう」
その声は優しく、穏やかな声色で不思議と安らぎを感じる。そこが恐ろしいと斗真は感じた。何故なら何一つ理解できない男に無条件の安心感を抱いてしまったからだ。
そんな斗真に対して青年がしたことはただ一つ、手の甲に刻まれた謎の文字を光らせた。
その瞬間、ギルスの体から光は飛び出し変身が解ける。光はそのまま青年の元へと吸い込まれていった。
「何が起こったんだ?」
体には異常を感じない。そこで斗真は解けてしまった変身を再度行おうと声を上げる。
「変身!」
しかし変化はやってこない。何度も構えをとって声を上げてもやはり結果は同じでギルスに変身することはできなかった。斗真は悟った。
「力を・・・奪われた!?」
「はい、あなたの持つ力は人が持つには過ぎたるものです。だから私が取り上げました。他の者達にも同じ処置をするつもりです」
青年の言葉を聞いて斗真は震え上がった。
アンノウンとの戦いの中で様々な強敵と渡り合い勝利してきた。しかしそれはギルスの力があってからこそのものだ。青年はそれそのものを奪い取ることができる。そんな相手にどう太刀打ちすればよいのだろうか。
斗真は思った。伝えなければ。この未曽有の脅威を一刻も早く仲間に知らせなければ。さもないと・・・
「うわああああああああああああああああ!!」
全身が悲鳴を上げる感覚を感じながら斗真は立ち上がって出口に向かって走り出す。背を向けた斗真を相手は追って来ようとしない。力を奪ったのでもう敵とは認識していないのか、とにかく斗真は軋む骨に悶えながら階段を上り出口にたどり着く。そこで足から危険な音が鳴り響きそのまま地面に倒れ込もうとした。
「斗真君!?」
だがそれは偶然通りかかった茜によって支えられる。
「一体どうしたの!?こんな酷い怪我をして。待っててすぐに病院に・・・」
「いや、それよりも・・・」
携帯で救急車を呼ぼうとする茜の手を斗真は抑えた。
「昴に会うことが先だ。俺をあいつの所まで連れてってくれ」
「でも・・・その怪我は早く治療しないと・・・」
「頼む!何として伝えなきゃならないことがあるんだ!!」
「う・・・うん」
斗真の気迫に押され茜は重力制御を発動。斗真を抱えて昴がいるはずの公園へと飛び立った。
「昴・・・お前は絶対に力を奪われるなよ・・・」
薄れそうになる意識を留め斗真は近くにいる茜ですら聞き取れないほど弱々しい声で呟いた。
既に異変は昴達の前にも起こり始めていた。
会話をしていた昴と樹の目の前に三体のアンノウンが立ちはだかる。
「ギギギ」
「グシュウゥゥゥ・・・」
「シャア!」
牙を尖らせ今にも飛び掛かろうとしているのはイナゴの姿をしたアンノウン ローカストロード ロクスタ・カーススだ。それぞれの個体に差異はない。恐らくアントロードと同じタイプなのだろう。
「・・・まさかあんたと背中を合わせることになるとは思わなかったぜ」
「奇遇ですね。私も同じ気持ちですよ」
「「変身!」」
背中合わせの二人は互いの構えを取ってアギトへと変身する。変身した姿を見るやローカストロードはアギトの元へ飛び出していく。
アギトは二体をアナザーアギトが一体と戦闘していく。
しかしアントロードとは違いバッタ特有の逆関節の足を利用した多面的な攻撃に思わず二人は苦戦を強いられる。しかし咄嗟にアギトはストームフォームへとチェンジしローカストロードに合わせて飛び上がる。
「樹!」
驚く様を尻目にアギトはストームハルバードでローカストロードの一体を叩き落した。昴の声を聞くとすぐにアナザーアギトは飛び上がってくるローカストロードの足を掴み空へと投げ飛ばす。高スピードで衝突した二体はそのまま空中で爆散する。その爆風を切り裂いてアギトはもう一体のローカストロードの所に着地し刃に風を集約させる。
「はぁっ!!」
駒のように回転してハルバードスピンを炸裂させ残りの個体も撃破したその時突然衝撃波が二人に襲い掛かる。
「ぐっ!?」
「何!?」
防ぎきれず吹っ飛んだ二人は変身を解除させてしまう。波動が放たれた先を見るとそこには金のエルが居た。その姿を見て昴は目を見開かせる。
「あいつはあの時の・・・」
そう、石切り場の戦いの際アギト達にアントロードを仕向けた怪人の正体こそ金のエルであったのだ。
いよいよアンノウンも本腰を入れて自分を狙いに来たのかと思えば金のエルの後ろから青年が現れた。
その時、茜に抱えられた斗真が到着し昴達に警告する。
「気を付けろ!そいつは今までの奴らとは格が違う!とくに黒服の奴の姿に惑わされるな!力を奪われるぞ!!」
それだけを叫んで斗真はその場に崩れ落ちた。
「斗真!?くっ・・・茜、斗真を頼む」
茜は頷き斗真を抱えてその場を離脱していく。そこで改めて謎の青年と昴は対峙する。
「直接顔を合わせるのは初めてですね。この世で一番進化しているアギトよ」
「その声は!?」
忘れるはずもない。弥生がG4と決着をつけた後に響いてきたあの時の声と今青年の口から発せられる声は完全に一致していた。
「あの時は好き勝手にしてくれたな。お前は・・・一体・・・何者だ!!」
大きく張り上げた声で昴が叫ぶ。それに対して青年は怯むことなく答えた。
「・・・あなた達の言葉で表現するなら・・・
神、と呼ばれる者です」
さも当然のように答えられた回答に昴は頭が真っ白になった。
「神・・・だと?」
樹もまた驚愕し声を漏らすと青年はそれに頷く。
「はい。私はこの世界を、この宇宙を、この星を、そしてあなた達人間を創造した者です」
「そんな話が信じられると思うか」
「信じなくても構いません。重要なのはそこではない。あなた達の持つ力のことです」
そう言い青年は金のエルを控えさせ語り出す。
「あなた達アギトの力は私の持つそれと同一の物です。それは人間が持っていれば災いの種となる。だから私はあなた達が言うアンノウンを操りアギトとアギトになるべき者達を消していったのです」
その言葉に昴はさらに驚愕する。言っていることが正しければ彼こそがアンノウンの首領であり一連のアンノウンの不可能殺人の黒幕でもあるのだ。
「うおおおおおおおお!!」
これまでアンノウンに殺されてきた者達、残された者達の顔がフラッシュバックした昴は叫び声を上げながらアギトシャイニングフォームと化しシャイニングカリバーを青年に向けて振り落とす。金のエルの持つメイスによってそれは防がれたが勢いは止まらない。
「お前知ってんのか!これまでアンノウンによって殺された者人達の無念を!残された人達の悲しみを!」
「ええ。私は全てを知っています。人の命が潰えるということはいつ見ても悲しいことです。ですがそれによって人の世が保たれるのであればそれでいいのでしょう」
その時昴は察した。この青年と対話で和解することは不可能であると。考え方の根本が違うのだ。
「アギトの力が人の世に生まれいづれば争いが起こるのは必至。それは世界を渡り歩いてきたあなたが一番理解していますよね」
アギトの猛攻を金のエルに守らせ青年は樹の方へと目を向ける。樹は既にアナザーアギトに変身して臨戦態勢を取っている。
「どうやらあなたを倒せばアンノウンは全て滅びるようですね」
そう言いアナザーアギトは青年に向けて拳の一撃を繰り出した。しかし、
「何!?」
突然青年の前に見えない壁のようなものが現れアナザーアギトの拳を妨げたのだ。拳の力を強めていくがとても壁を破れるような気配がない。アナザーアギトの力をもってしても拳が届くことさえままならないことに樹は青年の底知れぬ力を思い知らされる。
「あなたにはもう一度知ってもらう必要があります。人の持つ本性というものを。そして知りなさい、人が診な等しく愚かであることを」
青年は壁の一部をすり抜けアナザーアギトの頭に手を当てる。甲の文字が光った瞬間アナザーアギトは頭を抑えて絶叫を上げた。
「おいどうした!何をされた!?」
金のエルの攻撃を凌ぎながらアギトが呼び掛けるもアナザーアギトはそれをかき消すほどの大絶叫を上げる。
「ぐわあああああああああああああ!!」
昴が知る由もないがこの時樹は青年の力によって多くの人間の心の声を聞かされていた。
何で自分ばかりこんな目に
あいつばっかり良い思いしやがって
死ねばいいのに
殺してやる
死にたくない
だからお前が死ね・・・
様々な悪意や殺意が一度に樹の脳内に叩き込まれ彼は発狂寸前まで追い込まれているのだ。
「うるさいぞ。下等な人間風情が!」
いつまで上げられる叫びに苛立ちを感じた金のエルがアギトの攻撃をすり抜けアナザーアギトの頭にメイスを思い切りスイングを放つ。防ぐどころではないアナザーアギトはそのまま柱を貫通して吹っ飛び海の中へと落ちて行った。
「てめえ!!」
金のエルの行為に怒りを覚えたアギトは体を捻り目前に紋章を発現させる。シャイニングライダーキックの構えだ。
「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
飛び上がって紋章を貫き爆発的に加速したキックが金のエルに突き刺さる。
が・・・
「嘘だろ・・・!?」
「無駄だ」
胸に直撃はしたものの金のエルは仰け反ることすらしなかった。
(どうすれば勝てるんだよ・・・こんな化け物相手に!!)
金のエルに畏怖の感情を覚える昴に更なる絶望が襲い掛かる。
「あなたの力ももらいましょうか」
青年の手の甲が光昴は先程斗真の言っていたことを思い出す。
(やばい・・・このままだと・・・)
アギトはすぐに回避行動に移ろうとするが後ろに瞬間移動した金のエルに羽交い絞めされ動きを封じられる。
焦燥に駆られる昴とは対象的に青年は微笑みを浮かべている。
「拒む必要はありません。アギトの力を失うだけであなたの命に別状はないのですから」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
思い切り声を上げるも青年は無情にもアギトに向けて手をかざし体から這い出ていく光を吸い込んでいく。
そして昴はアギトの力を失った・・・
金のエル
闇の力の配下であるエルロードの内の一体。尋常じゃないほどの頑丈な肉体に他のアンノウンとは比較にならない程の戦闘能力を有しているほか様々な超常現象を引き起こすことができる。
勝利するには三人の力だけじゃとても足りない。
オリジナルエルロードの紹介です。
五行を形成する五つの元素の金から名前を取りました。金色の水のエルって感じのデザインです。他と被らないように金属性を選んでみました。
それともう一つの新アンノウンの紹介をしましょう。
ローカストロード ロクスタ・カースス
殺害方法 対象を掴んだまま空高く跳躍しそのまま地面に落とす。そのことで対象は何もない場所で転落死をすることになる。
逆関節をした真っ黒いイナゴのアンノウン。アントロードと同じく複数いるが跳躍力と身のこなしにより個々の強さは段違いである。
蟻に変わる新戦闘員のイナゴです。それ以上でもそれ以下でもありません。
それはそうと果たして昴達は金のエルに勝てるのだろうか・・・次回をお待ちください。
PS 次回、あいつがまさかの・・・