城下町のAGITΩ   作:オエージ

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第50話 Begins of AnotherAGITΩ

樹がこの村に住みついてから三日が経過した。彼は村から少し離れた場所にテントを張り時折来る患者の看護をしながら例の病原菌の研究を行っていた(不幸中の幸いに医療具系統は現地のガイドにとって価値が分からなかったのか奪われずにすんだ)。だが研究の成果は芳しくなかった。

何故ならラフィキが自身の持つ超能力で患者をたちまち治癒させてしまうからだ。

 

(これではかたなしだな・・・)

 

樹のすることといえば彼の力による治癒待ちの人間の看病ぐらいである。

そんな彼だがどういうわけか樹に迷惑なくらい気にかけてくるのだ。

 

「あ、起きましたかジロウ。今朝川で獲れた魚です。焼いて食べると美味しいですよ」

 

その日もまた早朝から樹の寝床の近くで魚を焼いている。樹は彼の底なしのお人好しさにげんなりしていた。

 

「もう俺のことに構うなって言ったよな」

 

「あれ?もしかして魚嫌いでしたか?それなら畑でとれた野菜が・・・」

 

「だーかーらー!なんでそんなに俺に構うんだよ!」

 

そう言い速足でラフィキから距離を取って背を向ける。

 

「本当のことを言うとな、俺はお前を信用していない」

 

「へ?」

 

突然の言葉にラフィキはポカンと口を開けている。

元来人と強く関わりを持ちたがらない性格に加え先日信頼していたはずのガイドに裏切られた経験から樹の猜疑心は普段以上のものと化していたのだ。

 

「いつもヘラヘラして何考えてるか分かんないくせに大した理由もなく俺に優しくしてきて・・・何というかお前不気味なんだよ。その上よく分からない力も持ってるし」

 

「・・・・・」

 

流石にそれには答えたのか彼は下を向いて黙りこくってしまう。

少し言い過ぎたかと思っているとラフィキは小声で呟いた。

 

「理由もなく人に親切にすることはいけないことなのですか・・・?」

 

「・・・ちっ!」

 

樹は舌打ちをして逃げるようにその場から去って行った。

 

(それにしてもあいつの持つは超能力のようなものは一体何なんだ?)

 

疑問に感じた樹は気になって仕方がなかったので村の老人に尋ねてみることにした。

 

「あれは代々村の長に授けられる力じゃ。わしらはそれを『アギト』と呼んでいるがね」

 

「アギト?」

 

樹の言葉に相槌を打った老人はそこからアギトにまつわる村の言い伝えを語り始める。

そういう伝承に興味がない樹はアギトというのは太古に人知を超えた何者かが人間に授けた力ということだけを把握していた。

 

「というわけでわしらは古くからアギトを祀りその力を持つ者に村を収める権利を与えているのじゃ」

 

「そういうことか・・・じゃああいつの底なしのお人好しさは何なんだ?」

 

「それはじゃな・・・」

 

老人は切ない表情を見せ彼についての考えを話す。

 

「恐らくあやつは己の力を恐れているのじゃろう」

 

「己の力を?そんな風には見えなかったが?」

 

「それは見せないようにしていたからじゃよ。アギトの力は絶大じゃ、その気になれば木々を焼き尽くし川も干からびさせることができるほどに・・・」

 

だとしたらアギトは恐ろしい生物であると樹は背筋を凍らせる。そんな奴がここにいるのだから。

 

「あんたらは怖くないのか?」

 

「心配はないさ、あやつは己の力の恐ろしさを知っている。だからこそ誰よりも自らを律し誰にでも優しく振舞うのであろう」

 

「でもそれは・・・」

 

アギトの力を持つ責任からではないか?もし彼がアギトでなければそうではなくなってしまうのか?樹の頭にまた別の疑問が芽生え始めていた。

 

 

 

 

夕暮れ時に樹は寝床に戻るとやはり例の少年はたくさんの野菜か果実を持って待っていた。

 

「お前・・・」

 

「今朝の事は憶えています。でもあなたを放って置くことはできません。こういう性分ですから」

 

「・・・それはお前が人よりも強い力を持っているからか?」

 

そう言い樹は老人から聞いた話をそのまんまキラフィに伝え、樹が抱いていた疑問も彼にぶつけた。ラフィキは答える。

 

「そうかもしれませんね。かつてアギトの力を授けられた時私は体全体で感じる自分の力に恐れ悩みました。一歩間違えれば多く人を不幸にしてしまうこの力を。ですが気付いたのです。私が人を愛し続ければ間違った道にはいかない。だから私は私であるために多くの人を救い続けているのです」

 

「全く、どこまで人が良いんだお前は・・・」

 

口とは裏腹に樹の顔は安らいでいた。彼の本心を知った今だからこそ樹は彼を信じることができたからである。

それから樹はラフィキのお節介を拒むことはなくなり、彼はキラフィをはじめとした村の者達とも親密な関係になっていった。それは人を信じることが苦手だった樹にとって大きな変化であった。

そんなある日、いつもの如くラフィキが持ってきた食物を彼と共に食べていると不意に彼は問い掛けてきた。

 

「ところでジロウ、前から気になっていたのですがあなたが持っているそれは何なのですか?」

 

「ん、これか?」

 

キラフィが指を指したのは首にかけていたカメラだった。元々調査資料用の写真を撮るために持ってきたものだが今まで使わずじまいで何となく首にかけていたのである。それを知ったラフィキはカメラニ強い興味を示したようだ。

 

「それでしたら私と一緒に写真を撮ってくれませんか?」

 

「いや何故そうなる?」

 

「折角の機会です。あなたと私が一緒にいたという記録を残しておきたいですから」

 

そう言い小さな子供のように催促するラフィキに押され樹は渋々カメラをタイマーにセットし、彼と二人で写っている写真を撮ったのであった。

 

(まぁ・・・こんなのも悪くは無いか・・・)

 

その時樹はラフィキに確かな友情を感じていた。それがやがて彼を歪ませる大きな事件の前触れであることを知らずに・・・

 

 

 

 

 

謎の病原菌による病はラフィキの力によって治癒されていったが原因を突き止めるために樹は治療待ちの者から採取した菌の研究に力を注いでいた。

そして今、その菌の不可思議な点に気付いたのだ。

 

「おかしい・・・この病原菌の構造は自然界ではあり得ない。とするとまさか・・・」

 

次の言葉を呟こうとしたその時、樹の耳に轟音が突き刺さる。自然界の物ではない。明らかに人為的な音だ。

 

「な、何だ!何が起きているというのだ!?」

 

樹はテントから飛び出し村へと急行するとそこは正に地獄絵図であった。

村の家は無残に崩れ去りその残骸は夥しい数の鉄の塊が踏み潰して行進している。

さらにその隙間から黒に統一された謎の兵士達が現れ見渡す限りに銃弾をばら撒いていく。

 

(こいつらは一体何者だ?)

 

樹は呆然としている間にも兵士達は黒光りした銃火器を持って村を蹂躙していく。このままでは被害は広がる一方だと思い樹は飛び出して兵士の一人に掴みかかった。

 

「おい止せ!自分達が何をしてる分かってるのか!」

 

しかし一介の医師でしかない樹に屈強な兵士を止められるはずもなくあっという間に地面へ組み伏せられてしまった。

 

「お前はこの村の奴ではないようだな」

 

「何?」

 

「顔から見るに確かどこかの・・・まあいい。我々の駆除の邪魔をしなければ生かしてやらんこともないぞ」

 

「駆除だと!?一体何を駆除するっていうんだ!」

 

樹は剣幕を浮かべて問いただすとその男は答えた。

 

「アギトをだよ。奴らの持つ力はいずれ災厄をもたらす。だから我々がこうして奴らが増えすぎないように数を減らしているのだよ」

 

「何だと・・・ということはこの周辺にウイルスをばら撒いたのもお前達が!?」

 

「ご名答。だが折角金をかけて精製したウイルスもこの村のアギトが余計なことをしてくれたせいで無駄になっちまったがな」

 

「貴様ぁ!」

 

樹は男の胸倉を掴み彼の目の前で糾弾する。

 

「あいつが何もしなければこの村の人間は死に絶えてたんぞ!」

 

「だからどうした?アギトという世界を脅かす存在の駆除という崇高な目的にしてみればたかだがこんな集落のやつらが何人死のうがそれは些細な犠牲に過ぎない。むしろ感謝して死ぬべきだと思うがね」

 

この時樹は悟った。

こいつらは正気ではない。自分の正義に酔っている者達に何を言ったとしても彼らにとっては耳障りな戯言でしかないことに。

そして男は樹を投げ飛ばし銃口を向ける。

 

「お前のその口ぶりだとアギトの居場所を知っているようだな。教えてもらおうか」

 

「誰が言うものか。お前らのようないかれた連中に」

 

「残念だよ・・・折角生き残れるチャンスだったというのになぁ!」

 

そう言い男は手に持った拳銃の引き金を引く。樹は思わず目を閉じ死を覚悟するが放たれた鉛玉は彼の体を貫くことはなかった。不思議に思って目を開けると目前にはアギトに変身したラフィキが立っており翳した手から発生した見えない壁のようなもので銃弾を弾いていた。

 

「出やがったなアギト。死ねっ!!」

 

アギトの存在に気付いた周りの兵士達は一斉に一点に向けて発砲する。しかしそれがラフィキの作り出した壁を破壊するには至らなかった。

 

「立ち去るのです。異国の侵略者達よ・・・」

 

普段とは違うそのトーンから樹はラフィキが静かに怒りを覚えていることに気付いた。だがそれを知らない兵士らは発狂したような叫びを上げて銃弾を放ち続けていく。

それらを防ぎながらラフィキは樹の方へ振り向く。

 

「皆はここから少し離れた場所にある祭壇へ避難しています。さあジロウも早くそちらへ」

 

「大丈夫なのか。お前は逃げなくて」

 

心配いりませんよ、とラフィキはいつもの穏やかな口調に戻っていった。

 

「私が村の皆を、あなたを守って見せますから」

 

やせ我慢をしていたのは明らかであったが自分にはどうすることもできず樹はラフィキを置いて祭壇の方へと走り出した。

 

言われた通り祭壇へ行くとやはり村の者達は皆そこに隠れていた。幸い犠牲者はいないようだ。だがそれは死んだ者がいないというだけで、撃たれた腕を抑える老婆や焼けた肌を見て呆然とする青年、抱き合って恐怖心を和らげようとする子供達など無傷の者は誰一人いない。

 

(何てことを・・・)

 

せめて自分にできることをと怪我を負った者達の手当てを始める樹に村の者達はラフィキが今どうしているかを尋ねた。樹は先程の状況をありのまま伝えると村の誰かが呟いた。

 

「助けに行かなきゃ」

 

その一言が発端となって段々と村人達の熱気は広がっていく。

 

「村長はいつも俺達のために頑張ってくれた。今度は俺達が救う番だ!」

「そうだ!俺達が力を合わせればあんな奴らなんて怖くないんだ!」

「よし皆行くぞ!!」

 

これはラフィキの人望や村人の純粋さのあってのことだろうがこれはまずいと樹は感じた。

彼らはあの集団が所持している兵器の恐ろしさを知らない。そんな彼らが無鉄砲に突撃すれば何が起きるのかは明白。

 

「ま、待つんだ!」

 

樹は静止させようと声を張り上げるが熱狂している村人達には届かず皆ラフィキの元へと駆け出してしまう。樹はそれただ後ろからついて届かない声を上げるだけで精一杯であった。

 

 

 

 

そして恐れていたことが起きた。

 

「俺達の村から出ていけ!」

「村長を傷つける奴はオラ達が許さねえど!」

「分かったらほらさっさと尻尾巻いて逃げていくだなこの野郎!」

 

ラフィキを囲んだ兵士達を見るやいなや村人は彼らを非難し石を投げ始める。それに対し兵士のリーダーと思わしき男が呟いた。

 

「目障りだな」

 

そう言い男が手を上げた瞬間家を踏み潰して待機していた一台の戦車の砲身が村人に向けられる。そのことの意味を知らない村人達は首を傾げる一方だ。だが樹は違う。

 

「止めろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

 

 

悲痛な叫びも空しく戦車から砲弾は放たれ周囲に粉塵が吹き荒れる。樹は宙へと吹き飛ばされ地面に強く激突し体から危険な音が連鎖的に鳴り響き絶叫を上げた。

痛みに苦しみながら粉塵が晴れるのを見るとそこには何もなかった。

 

先程まで自分達を導いてくれた長を救おうと必死で戦うとした数十人の村人達の命は無慈悲な砲弾によって跡形も残らず吹き飛んでしまった。

 

「間に合わなかったか・・・!」

 

樹は彼らを止めれなかったことに強く後悔の念を感じていた。一方ラフィキは石造のように固まり呆然と立ち尽くしている。

二人の耳に笑い声が聞こえてくる。兵士の声だ。失笑の声だった。

 

「まあ自業自得だな。我々の崇高な使命の邪魔するものは悪だ。悪は人間だとしても滅ぼさなければならない。それが世界を平和に保つただ一つの術だ。そして今悪が一つ滅びたことにより平和は保たれたというわけだ」

 

「貴様らぁ・・・!!」

 

何も知らない者達を殺めたことを悔いるどころかそれを誇らしげに語る兵士達の言葉に樹は全身の血管が切れてしまいそうなほど憤った。だが彼以上に憤りを感じている者がいた。

 

「・・・許さない・・・」

 

ラフィキである。

 

「心配するな。お前もあいつらのところに送ってあるせいぜい地獄で楽しくやってることだな!」

 

すべての戦車の砲身がラフィキに向けられ、轟音を響かせラフィキ目掛けて飛んでいく。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

泣き叫ぶような咆哮をしたラフィキを中心に爆発が起こった。だがそれは砲弾が彼に直撃したからではない。叫びと共に放たれた強烈な熱気が砲弾に当たり焼き尽くしたのだ。

 

「な・・・何だ!?何が起こったんだ!?」

 

突然の出来事に先程まで優越感に浸っていた兵士達の仕草に動揺が見え隠れする。その中で一番最初に異変に気付いた兵士はそれを見るや青ざめて一歩下がった。

爆風の中から何かが飛び出して一歩下がった兵士を殴る。殴られた兵士はバットに当たったボールの如く吹っ飛び息絶えた。奇妙な表現であるがそれ以外の今起きたことへの表し方を樹や驚愕している兵士達は知らない。

 

「フゥゥゥ・・・!」

 

ラフィキの姿は先程までの金色の肉体から一転、マグマのような真っ赤な姿になる獣のような唸り声を鳴らしている。

 

「な、なにを呆けている!撃て!」

 

そう指示したリーダー格の男は次の瞬間、両腕を合わせハンマーのように振り下ろしたアギトの手によって地面にめり込んだ。

 

「ひぃっ!」

 

凄まじい怪力を目の当たりにした兵士達は戦意を喪失し我先にと逃げ出そうとする。だがそれをアギトは逃がさず一人一人撲殺していく。その姿を樹は瞬きせずに見ていた。

 

「本当にあれがラフィキなのか?」

 

その時樹は老人の言葉を思い出した。アギトの力はその気になれば森を焼き川を干からびさせることも容易いのだと。炎を纏って暴れ回るアギトの姿を見てその言葉が偽りないと決定づけさせていた。

 

「あいつはあんな恐ろしい力を今まで抑え続けていたというのか・・・」

 

樹は改めてラフィキという少年の心の強さを実感した。だがそれも大切な者達を無残に殺された怒りにより枷が外れて目に写るものすべて攻撃する殺戮マシンへと変貌してしまっている。

そんな彼の視線にある男が写る。それは村を蹂躙していた兵士の一人であり、すでにアギトに殴り飛ばされ両足がへし折れ身動きが取れない状態にあった。にも関わらずアギトはオルタリングから双刃の剣を取り出し振り上げる。虫の息である彼を切り刻むきであろう。

 

その時樹は悪寒を感じた。このまま彼が暴走を続ければやがて彼は本物の怪物に成り下がってしまうのではないか。そう思った瞬間樹は迷わず痛む体を押し切って走り今にも振り下ろそうとするアギトを羽交い絞めで捕らえる。彼に触った瞬間ものすごい体熱が樹の体に襲い掛かったがそれも耐えて樹は彼を抑えた。

これ以上彼が壊れていくのを耐えられなかったからだ。

 

「もう止せ!村の皆を殺した連中はほぼ全員死んだ!そいつだってもう動けない、手を下す必要はないんだ!」

 

「ウガァァァァァァ!!」

 

樹の呼びかけに耳を貸さずラフィキは叫び声を上げる。激怒しているような号泣しているような叫びだ。

 

「だからもう戦わなくていいんだ!頼むからいつものお前に戻ってくれ!」

 

樹の必死の懇願も空しく依然叫び続けるラフィキは樹を木へと投げ飛ばし狙いを定める。

叫びながら走ってくるアギトを見て樹は今度こそ死を悟った。

その時樹はせめて最後にラフィキの笑顔をもう一度見てみたかったと思った。

短い間ながらお節介な彼との交流は孤独な樹の心に深く変化をもたらしていたのだ。

 

だが無情にもアギトは目の前まで来て剣を樹に向けた。

 

(もう・・・駄目か・・・)

 

剣が体を貫く音が響き血が樹の体を赤く塗りあげる。

だが樹は死ななかった。

 

 

何故ならアギトは突然剣先を自分の胸に変え自身を貫いたからだ。返り血で真っ赤に染まった樹は目を見開かせる。

自ら貫ぬいたことによりラフィキの変身が解け倒れこむ彼の体を樹が支える。

 

「ラフィキ!おい返事をしてくれ!ラフィキ!!」

 

樹の声に反応したラフィキは目を開き弱々しく笑った。

 

「やっと・・・名前で呼んでくれましたね」

 

「そんなことはどうでもいい!何で自分を貫くような真似をしたんだ!?このままだとお前は大量出血で死ぬんだぞ!」

 

そう言い何とか止血しようと胸を布で抑えつけようとする樹の手をラフィキはどかした。

 

「いいんですこれで。私は自らの怒りに負け私であることを止めた。もう私は生きていく資格などないんです・・・」

 

「そんなこと言うな!俺はお前に死んで欲しく無いと思っている!俺はお前に生きていて欲しいと思っている!だから死ぬな!お前は生きるんだ!俺と一緒に生きるんだ!!」

 

「ははは・・・そこまで言ってくれるなんて、ジロウは本当にいい人ですね・・・そんなあなたにならこの力を託すことができる・・・」

 

そう言いラフィキは樹の胸に手を当てる。すると彼の体から光が手を伝って樹の体に入り込み、気付けばラフィキの腰にあったはずのオルタリングが消え、代わりに樹の腰にオルタリングは現れていた。

 

「古くから村に伝わる風習です。長が死ぬ時自身の力を最も親しき者へと託す。そうしてこの村は代々受け継いできたのです。もうこの村に人はいませんがせめてこの力をあなたに受け継いでほしい」

 

「縁起でもないことを言うな!俺はまだお前に何もしてやれない・・・そんな状態でお前に死なれてたまるか!」

 

「それなら、こうしませんか・・・」

 

ラフィキは樹の目を見て提案した。

 

「この世界にはアギトとそれに近い者達が少なからず増え始めているのを感じます。その者達が自身の力に正しく向き合えるように、私のように過ちを犯すことがないように、あなたが彼らを導いてくれませんか?」

 

「お前って奴は・・・何で最後まで他人の事を・・・」

 

「引き受けてくれますか?」

 

樹は震えながら首を縦に振り、ラフィキは顔を綻ばせた。

 

「ありがとう・・・ジロ・・・」

 

最後の言葉を言おうとしたその時、鳴り響いた銃声がそれを拒んだ。先程命拾いした兵士の拳銃から煙が上っている。

 

「おい・・・おい!」

 

何度も声を掛けるがラフィキはもう返事をしない。銃弾で貫かれラフィキは事切れていたのだ。

 

「うあああああああああああああああああああああああ!!」

 

死んだことを確信した樹は体中の水分が尽きるのではないかというほど涙を流し叫んだ。

 

 

「へっ、ざまぁねえな」

 

ラフィキを撃ち抜いた男は樹を彼を侮辱するかのように嘲笑った。

 

「何聖人面して死のうとしてんだ俺達のことを散々ぶちのめしておいて。俺らが何をしたっていうんだよ!俺らはただこの世界が平和でいられるようにそれを脅かすアギトを殺しに来ただけだ!なのにここの愚民どもはアギトを庇いそいつらを粛正したと思えば逆ギレして俺達を嬲りやがって・・・殺してやる!貴様らアギトは俺の仲間の仇だ!!一人残らず引きずり出して人間様に盾突いたことを後悔させながら嬲り殺してやるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 

その男の言葉に樹の何かが切れた。それは良心か優しさか、とにかくその時の樹の中に胸の中は憎悪と怒りで膨張していた。

 

「・・・・・」

 

ゆっくりと立ち上がった樹は男を見据え呟いた。

 

「変身・・・」

 

その瞬間、樹の体を光が包み彼をアギトへと変えた。

だが憎悪や怒りなど歪んだ感情を持って変身したせいかアギトの姿はたちまち金色から深緑に色を変え腰のオルタリングもまたアンクポントへと変貌した。

 

「・・・フンっ!」

 

異形へと変身を遂げた樹はクラッシャーを展開、足元の紋章を集約して飛び上がり男の顔面目掛けてキックを放った。

以前まで恨み言を叫んでいた男はキックが当たった瞬間その命を異形に踏み潰された。

 

「はは・・・はははは・・・はははははははははははははは!!!」

 

男の呆気ない最後を見届けた樹は大声で笑いだした。

 

(ラフィキ、君の約束は必ず果たすよ。この力を持つ者達の心を救って見せる。だけど・・・)

 

 

 

 

 

「それには人間は邪魔だな」




後編は近いうちに投稿するつもりですのでお待ちください。

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