それではどうぞ!
正月明けの事務所にて人気急上昇中のアイドルさっちゃんこと米沢紗千子は手元にある今後のスケジュール表を凝視していた。
一週間後に控えた国立武道館でのらいととのツインライブに思考を巡らせていた。
(国立武道館でライブが成功すればトップアイドルとして認められるということになる。いつも以上、いや、今まで以上に気を引き締めないと・・・)
熱く決意を固める紗千子の耳に能天気な声が届く。
「さっちゃんあけおめ~!正月はどう過ごしてたのー?あたしはねー、おせち食べてお餅食べてお雑煮食べてそれから・・・あっそうだ!カニ食べたんだよ!それであたし達の友達も呼んだんだけどすーちゃんの友達がカニ食べるのすっごいヘタでさー、その人開き直ってこう言ったの『第一なんですかカニって、こんなの甲羅ごと食べればいい話じゃないですか』って」
全くと言っていい程緊張感の感じられないらいとの声を聞いて紗千子は頭を抑える。
身分を明かしてからというものらいとは家の近況を毎度自分に報告してきてくるのだ。
「一応ここではあなたは光様じゃなくてらいとなんだからそういうことはあまり・・・えっ?」
紗智子は振り向くとそこにはらいとの隣に見知らぬ青年が立っていて思わず閉口した。
「紹介するね。この人はすーちゃんの友達の秋原斗真君。一昨日からあたしのボディガードをしてるんだよ。あ、言っとくけどさっきの話に出たカニ食べられなかった友達とは別の人だからね」
その後予め事情を聞かされていた松岡から説明を受け紗千子や他の従業員達は斗真が光の兄昴に頼まれ光のボディガードを務めているということを理解した。
「まぁそういうわけでこの子のボディガードを務めているというわけだ。急な話で困惑することもあるだろうがこの子を守ろうという気持ちは本気だから安心して欲しい」
「はい・・・よろしくお願いします・・・(やっぱりらいとって本当に王族なんだ・・・)」
ぶっきらぼうな仕草で挨拶をした斗真は早速事務所近辺の見回りに向かおうとする。
「でも見回りといってもここ結構広いですし一人だけでは大変だと思いますよ?」
「ああ、そのことなら心配無い。なんたって俺は・・・」
そう言い斗真はいきなり着ていたコートを放り投げるように脱ぎ捨てる。
全身を包んでいたコートが消えたことによりあらわになったのは『らいと命』と大きく書かれた黄色い法被を着こんだ男の姿だ。
「桜庭らいとファンクラブ会員№001であり桜庭らいと親衛隊隊長の称号を持つ男だからな!!怪しい奴がいたら速攻でとっ捕まえてやるぜ!!」
(この場で一番怪しい恰好してるのは間違いなくあなたなのですが・・・)
この時、らいと以外の事務所の者達の考えが一致していたのであった。
「いいかお前ら!!よく聞け!!」
『『サーイエッサー!』』
現在斗真は事務所の前で他の親衛隊のメンバーとミーティングを行っていた。
「国立武道館のライブまで後少し、我らが姫桜庭らいとの身に危険が及ぶことないように今から事務所周辺のパトロールを行う!怪しい奴を見つけ次第俺に報告しろ!分かったかこのう○○○共!」
『『サーイエッサー!』』
「声が小せぇぞゴラぁ!!○をどっかに落っことしたか!もっと腹から声だせ!!」
『『サーイエッサー!!』』
「やればできるじゃねえか!!よし!そこのお前!桜庭らいと親衛隊五つの誓いを順に言ってみろ!!」
「サー!一つ!朝晩必ず桜庭らいとの曲を清聴すること!二つ!ライブ中他のファンの迷惑になることは決してしないこと!三つ!会場内にて喧嘩沙汰を起こさないこ・・・」
「馬鹿野郎それは四番目だろ!!三番目は『会場内でのゴミは誰のでも片づけておくこと』だろうが!!それに朝晩だけじゃねえ!朝『昼』晩だ!!今度誓いを間違ったり破ったりしてみろ・・・泣いたり笑ったりできなくしてやるからな!!!」
「さ・・・サーイエッサー!!」
その様子はさながら新兵をシゴく鬼軍曹そのものであった。
紗智子と松岡はその姿を事務所の窓から眺め困惑していた。
「・・・昔見た映画のワンシーンと下の光景が完全に一致しているのですが・・・」
「あはは・・・でもらいとがここまでこれたのは彼の力によるところも大きいだろうけどね」
「えっ?どういうことですか?」
「だってほら、らいとや紗千子のファン絡みの騒動って今まで一度も無かったじゃないか」
「あ・・・そういえば確かに・・・」
ファン(fan)の語源は狂信者(fanatic)という話がある。
対象のことを神のごとく崇拝する彼らは時にその熱意を悪い方向に発揮してしまうことがある。ここの事務所に所属しているアイドル達もそんなファンの問題行動に悩まされている者も少なくない。だがらいとだけがその手の問題を抱えたことが一度も無かったのである。そして彼女と組む機会の多いファン層が共通している紗千子も同様であった。
松岡の目線が熱く五つの誓いの意味を語る斗真に向けられる。
「秋原斗真。通称親衛番長。彼がらいとのファンをまとめ上げたおかげでファンはマナーを遵守し彼女の人気上昇に一役買ってくれているんだ」
「そう・・・ですか」
紗智子は自分のファンについても思いをはせていた。
ライブは決してアイドル一人の力で成功できるものではない。場所やスケジュールの手配をしてくれる事務所の面々、会場の準備を整えてくれるスタッフ、そしてそれを見に行く大勢のファン、それらが一つに纏まってこそライブは真に成功できるものであるのだ。
頭では分かりきっていたはずのことが改めて近くでファンを見て強く実感させられていた。
「らいと、あの人達に恥じないようなアイドルにならないといけないわね・・・アレ?居ない・・・」
ついさっきまでソファーでゴロゴロしていたらいとの姿がいつの間にか消えていた。
「もしかして・・・」
まさかと思って再び窓を見下ろしてみる。
予想通りらいとはファンの前に立っていた。案の定ファンから歓喜の声が湧き出てきている。
「何やってるのよあの子は・・・」
二人は自由奔放過ぎる王族アイドルに頭を抱えていた。
一方、下の事務所玄関は即席交流会の会場と化していた。
「あ、あの・・・サイン、貰っても、いいでしょうか・・・」
「うんいいよー」
軽い感じでらいとは色紙にスラスラとサインを書いてファンの一人に手渡してた。
「いつも応援ありがとね」
真正面から満面の笑みを向けられたファンは鼻から赤い液体を噴出して恍惚の表情でその場で倒れこんだ。
「僕・・・もう、死んでも、いいです」
「あっ、あいつ抜け駆けしやがって!俺だってサイン欲しいのに!」
「皆慌てないでよ、ちゃんと全員分書くからさ。さぁ並んで並んでー」
『『おー!流石は我らが姫!!』』
早速前に長蛇の列が出来上がりらいとは一人一人丁寧にサインを書き言葉をかけていく。
その日以降事務所前では毎日のように親衛隊の周辺のパトロール及びらいととの交流会が行われるのであった。
そして念願の武道館ライブを明日に控えた日、らいと達は会場となる国立武道館に足を運んでいた。当然ボディガードを務める斗真も一緒である。
「そう言えば前から斗真君に聞きたかったことがあるんだけどさ」
「ん?」
紗智子達と別行動し二人きりになったらいとが斗真にあることを尋ねた。
「斗真君もアンノウンと戦ってきたんだよね?」
「あ、ああ、そうだ」
「それじゃあさ、斗真君もすーちゃんみたいに変身できるの?」
「っ!?え、いや、その・・・」
予想外な質問に斗真は困惑する。
「変身できるなら見た目はどんな感じなの?すーちゃんと似てるの?それとも全く違うの?」
「あ、あの・・・何というか・・・」
「やっぱり変身できるの!?一回だけでいいから見せて見せて!」
らいとは好奇心あふれる瞳を斗真に向けるが当の本人は彼女から視線を逸らし続けている。
(あんなん見せたらなんて言われるか・・・)
実をいうと斗真は自分が変身するギルスの容貌をあまり気に入っていない。むしろその逆の感情の方が強いのだ。
初の変身の際、目撃された小雪に猛烈に拒絶を受けその後も何度か姿を一般人に見られたこともあるがどれもが化け物を見るような目で自分から逃げ去っていった。
そのことがトラウマになり彼はあの姿を故意に見せることに戸惑いを感じているのだ。
ましてや相手は自分が憧れるアイドル桜庭らいと、彼女の期待に応えたい思いと彼女にあの姿を見られて拒絶されたくないという二つの思いが斗真の脳内に駆け巡る。
そんなこともつゆ知らずらいとは斗真の顔をじっと見つめ続けている。
そのような状況にて斗真は近くにアンノウンの気配を察知した。
彼女に背を向け斗真は走り出す。
「え?ちょっと、斗真君!?」
突然の行動に理解できずらいとは置いてきぼりにされてしまった。
「あれは・・・!」
感知した通りに疾走していると思いの外早く敵のアンノウンを発見した。
以前昴に倒されたシーホースロードの同族ドゥオが強化された姿で現れ、標的であろうスタッフの女性に襲い掛かる寸前である。
「止めろ!」
斗真は飛び掛かり強化ドゥオの腰を掴み女性から引き離した。
邪魔をされて憤怒した強化ドゥオは頭上に浮かんだ輪から刺又に似た形状の槍を取り出し、斗真の首を槍で挟み壁へと押し付ける。斗真は槍の柄を掴んで押し返そうと試みるが強化されたドゥオの力には歯が立たない。
(こいつを倒すには変身しかない!)
変身を決意し両手をクロスさせ隣にギルスのビジョンを召喚させる。あとはそのビジョンが重なれば変身完了である。その時だ。
「斗真君!」
斗真を心配して歩いていたらいとが偶然にもアンノウンと戦っている斗真と遭遇してしまったのだ。
「早く逃げろ!」
らいとに逃げるよう促す斗真だが彼の頭の中で一瞬、このまま変身すれば彼女にギルスの姿を見られ、今までの者達のように拒絶されてしまうのではないかという恐怖が過った。恐怖が葛藤になり変身するのを躊躇してしまう。結果、ギルスのビジョンが消滅し変身は中断されてしまった。
「ニ゛ィィィィ!」
口元を歪ませ強化ドゥオは斗真の無防備な胴に右手を当てる。瞬間、斗真の全身を強烈な電流が襲い掛かる。
「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」
絶叫する斗真を抑えて混んでいた槍を振り回し投げ捨てる。それに満足したのか強化ドゥオは瞬く間にその姿を消していった。
「う・・・」
近くで自分を呼ぶ声が聞こえるが電流を浴びたその体では返事をすることは出来ず、斗真の瞼は弱々しく閉じていった。
斗真が目を覚ますとそこは武道館の医務室の中だった。隣にはらいとは心配そうな目で見つめていた。
(何とか無事だったってことか・・・)
安堵するも斗真は先程の自分を恥じていた。
あの時、ギルスの姿をらいとに見られてしまうことを恐れて変身するのを躊躇ってしまった。その結果アンノウンに負傷させられらいとも危険にさらしてしまったのだ。
(何やってんだよ俺は!俺は彼女のボディガードしてるんじゃなかったのかよ!これじゃ全然守れねぇじゃねぇかよ!!)
強く拳を握りしめていると部屋の外で何やら言い争っている声が聞こえる。紗千子と松岡の声だ。
「どういうことですか!?ライブを中止にするなんて!」
「お、落ち着いてくれ紗千子。何も中止と決まったわけじゃない。ただちょっと今回はあんな非常事態が起こったからライブの実行が難しくなってしまっただけなんだ・・・」
幸いアンノウンが出現した場所は人気の少ない場所でその姿を目撃されず、暴漢が準備中の会場に侵入して斗真がらいとを庇い怪我を負った、ということにされていた。
だがしかし、ライブ前にこのような事件が発生したことにより明日のライブの実行が困難になってしまったのだ。
「とにかく、今回は諦めて事件のほとぼりが冷めた時にライブを再開すれば・・・」
「ですが!」
「仕方ないことなんだ、犯人もまだ捕まっていない。ということはまた入り込んでくる可能性もある。それがライブ中だった場合ファンを危険にさらすことになる。それでもいいのかい?」
「う・・・それは、嫌です・・・」
紗智子は口では引き下がったが心までは納得している様子ではなかった。
無理もない、明日のために積み上げてきた全てが今日の事件一つで水の泡になってしまうのだから、それはきっと松岡も同じ気持ちだろう。彼らだけじゃない、他の事務所の者達も、汗水流して準備に務めていた会場のスタッフも、ライブを心待ちにしているファンも、無論、らいとも。
(こうなったのも俺があの時変身を躊躇っていたから・・・ならば、俺がするべきことはただ一つ!)
斗真は医務室のベッドから立ち上がる。未だに体は痛むがらいとに支えてもらって紗千子と松岡の前にでた。
「秋原さん!?大丈夫なんですか!?」
「まだ横にしていたほうが・・・」
心配して駆け寄る二人に斗真は問題ないとジェスチャーし自分の意志を答えた。
「ライブは予定通り明日にしてくれないか?」
「秋原君、それは・・・」
突然の申し出に松岡は困惑していた。
「無理言ってんのは分かってる。だけどこんな形で大事なライブを不意にしたくないのは皆そう思ってんだろ?」
「・・・はい」
返答した紗千子だけでなく他の面々も同意見といった表情だ。
「犯人は俺がなんとかする。どんなことをしてもあいつを見つけ出して二度とあんなことをできないように落とし前をつけてやる。だから安心してライブに望んでほしいんだ」
「斗真君・・・」
斗真の強い意志を感じ取り、らいとは彼の横顔を見つめる。
どうして彼がそこまで熱くなれるのか、らいとの疑問に対する答えは斗真が語りだした。
「らいと、覚えてるか?サイン貰ってぶっ倒れた親衛隊のあいつのことを」
「えっと、確か中山君だっけ?」
「ああ、あいつ実は耳聞こえないんだよ」
「え!?」
そういえばあの時の彼の喋り方は不自然であった。緊張しているのかと思っていたがあれにはそういう理由があったのであったとらいとは驚いた。
「全然聞こえないってわけじゃないが、それでも生活に支障がでるレベルらしい。それであいつは今まで不憫な人生を送ってきた。そういう中で君に出会ったんだ」
「あいつは言っていたよ、あの子の歌は耳ではなく心に響くって。君を心の拠り所にあいつは前向きな性格に変わることができたんだ」
「別にあいつが特別ってわけじゃない。親衛隊にいる奴らの中で大なり小なり心に抱えていた悩みを君によって解消することができたものは結構多いんだぜ。そして俺もまたその一人だ」
光は驚愕していた。自分でも気づかない内桜庭らいとという存在がに大勢の人達の心を支えていたことに。
「バカみたいなことかもしれないけど俺達は君の歌で人生を救われた・・・君には人を『変える』力がある。だからどんなことがあっても歌って欲しんだ。俺が君を守るからさ・・・」
そう言われらいとはライブを行う決心をした。
「うん、あたし、必ずライブ成功させるから斗真君も早く戻ってきてね」
「らいと!?」
「松岡さんお願いします!明日のライブ、予定通り行わせてください!!」
「私からもお願いします。難しいことかもしれませんがあの舞台まで上らせてくれたファンの期待は絶対に裏切りたくなんです!!」
斗真の思いに影響され紗千子もまたらいとと共に松岡に頼み込んだ。
松岡は少し考え込み、らいと達の思いを受託することにした。
「分かった、そういうことなら僕もやれることをやってみよう。ただし条件がある。明日、皆にも全力を尽くして欲しい」
「「はい!!」」
らいとと紗千子は歓喜のこもった返事をし、斗真は静かながらも力強く頷いた。
明日のライブを必ず成功させること。
やり方は違えどその意志はここにいる誰もに共通する意志であった。
そして、夜が過ぎ、運命の日は訪れた。
「すごい歓声・・・それにこんなに大勢の観客。今まで一度も経験したことはないわ・・・」
「さすが武道館って言ったところだね・・・」
控え室のモニターから観客席からはみ出んばかりのファンの数に紗千子はおろかマイペースならいとも声のトーンを落とし観客席のある一点を凝視していた。
一際人目を引き、そして誰よりも姿勢よく待ちわびている集団、桜庭らいと親衛隊だ。
だが今そこに斗真の姿は居ない。ここにも彼は訪れていなかった。なぜなら昨日逃がしたアンノウンを追って武道館から離れているためである。
「斗真君・・・」
何者よりも今日という日を心待ちにしていた男はその今日の為に一人孤独に戦う決意をしたのだ。
「らいと、今日のライブ。絶対に最高のライブにしよう!!」
「うん、この日の為に培ってきた努力の為に・・・そして何より、この日の為に力を尽くしてくれた皆の為に・・・!!」
二人は互いの手を掴み目と目を合わせ誓いを示す。
「らいと、紗千子・・・本番まで残り10分を切った。そろそろステージ裏まで来てくれ」
「「はい」」
そして二人はステージへと向かう。自分を信じ、支えてくれる人達の期待に応える為に、今どこかで戦っているであろう斗真の思いに報いる為に。
スピーカーから大音量の音楽が流れ、鮮やかな衣装に身を包んだらいと紗千子がステージへと飛び出した。その瞬間、爆発したかのような大歓声が武道館全体を振動させる。
「皆お待たせーーー!!桜庭らいとでーーーす!!」
「さっちゃんこと米沢紗千子です!!」
「「二人合わせて・・・さーち☆らいとでーーーす!!!!」」
『『ワァァァァァァァァァ!!』』
「あたし達のライブを見に来てくれてありがとーーー!!あたし達も精一杯歌って踊るから皆楽しんでいってね!!」
「今日という日を皆の心に残る最高の一日にしたいと思います!!」
「「それではまず最初に私達のデビュー曲『Search Light』!お聞きください!!!!」」
様々歓声に背を押されらいとと紗千子の国立武道館ライブの幕は切って落とされた。
それと同時刻、別の場所でもまた、戦いが始まろうとしていた。
「ライブは無事始まったようだな・・・」
ビルの屋上からライブの喝采を聞き取った斗真は顔を綻ばせる。
そしてすぐに前に立つ強化ドゥオに鋭い視線を当て戦う者の表情へと変わる。
「グルル・・・」
強化ドゥオは斗真の後ろの背景に映る武道館を見据えた。そこに彼の標的がいるのだろう。超能力を持つらいとか、前回仕留め損ねたスタッフか、はたまた別の人間か・・・
どちらにしろ目の前の化け物に道を開ける道理は無い。
「お前にあそこへは行かせない。俺がお前を倒す、俺が、あそこにいる全員を守り切る!その為に俺は俺の力を恐れない!!」
激昂する斗真に向かって強化ドゥオはパンチを繰り出す。それに対し斗真は前に手を突き出す。するとビジョンが目の前に出現してアンノウンの拳を掴み斗真は前へと走り出す。
「変身!!」
ビジョンへと重なるとすぐに斗真はエクシードギルスへと変化を遂げる。猛々しい雄叫びを上げて強化ドゥオにパンチのラッシュを叩き込んでいく。
「グギィ・・・」
急な連撃で出鼻を挫かれた強化ドゥオに休む間を与えずエクシードギルスは次々と攻撃を仕掛けていく。手の爪、腕の爪、背中の触手に鋭い牙と全身を回転させる猛攻撃を防げる者は誰一人居ない。
それと同時進行してライブは熱中のさなかにあった。らいとと紗千子が歌のメロディーに合わせて軽快なダンスを披露し場の熱を最高潮へと上げていく。
(感じる、今斗真君もまた違う場所で戦っていることに、どんなに離れていても今あたし達の心は一つなんだ!!)
奇妙なことだ。全く別の場所で各々の戦いの中エクシードギルスとらいとの心は共鳴しいた。
らいとの声に合わせてエクシードギルスが腕を振るい、エクシードギルスの咆哮と同時にらいとのダンスの動きが鮮やかなものへと変わっていく。
そしてその戦いもクライマックスへと向かっていく。
サビを歌い終え最後の決めポーズへの近づいてくらいとと紗千子。
そして勢いよく飛び上がり着地と同時にポーズを決め、観客の大喝采が沸き上がる。
オープニングは大成功に終わり、二人が舞台裏に消えたことによりしばしの休息が会場に訪れる。余韻に浸る者、更なる盛り上がりに備えてクールダウンに徹する者がいた。だがらいとは違った。衣装を着替えるとすぐさま外へと駆け出していく。
「らいと、どこ行くのよ!」
突然の行動に驚きそれを追う紗千子にらいとは答える。
「決まってるでしょ!斗真君を呼んでくるんだよ!」
「ちょっと待って!彼の件がまだ片付いたとは限らないわ!」
「いや大丈夫!何となく分かるんだ!あっちも無事に事を終えたことに!!次のステージに必ず間に合わせるからさっちゃんは準備をしておいて!!」
「全くあなたって人は・・・分かったわ、皆には私から言っておくから秋原さんを早く連れ戻してきなさいよ!」
「ありがとうさっちゃん!!」
親友の後押しもあってらいとは斗真の元へと向かった。場所は、心に通じる感覚でだいたい分かった。
一方ギルスもギルススティンガーを強化ドゥオの足に巻き付け、すくうようにビルの下へと投げ落とす。
「ウオォォォォォォォォッ!!!」
エクシードギルスも落下していく強化ドゥオを追いビルから飛び降り、腕を手刀の形にしアンノウンの腹を突き刺した。新必殺技『エクシードギルスヘルススタッブ』だ。
貫いたまま急降下をして地面に激突すると同時に強化ドゥオは頭の輪を浮かべ上がらせ爆散して果てた。
「オォォォォォォォォ!!」
収まり切らぬ戦意を空高く声を張り上げるで発散させるエクシードギルスに声をかけるものがいた。
「と・・・斗真君・・・?」
叫びを中断し恐る恐る、振り向くとそこにはらいとが居た。
「な・・・!?(嘘だろ!?よりによってこのタイミングで!?)」
「か・・・か・・・」
エクシードギルスの容姿を見てからいとは固まっていた。その小さい口をパクパクと開いては閉じている。
(終わった・・・俺の人生終わった・・・)
思わず大声を出して泣きたい気持ちになる斗真だが彼の気持ちは意外な形で裏切られることになる。
「カッコイイーーー!!」
「・・・え?」
目をその名の如くキラキラと光らせるらいとのその姿は憧れの特撮ヒーローやヒロインを前に大興奮する子供のそれと同じであった。だがそんなことをされた覚えのない斗真はただ調子を狂わされていた。そんなことの露知らずらいとは斗真の元へと駆け寄ってくる。
「わぁこの爪本物なんだ!それに肩に付いてるギザギザが何かすごく強そう!触っていい?」
「え、いや、危ないと思うが・・・というかこの姿格好いいのか?」
「まあ、あたし的にはすーちゃんのキラキラしてるあれがお気に入りだけど斗真君の変身した姿もその次に好きだよ!」
「そ、そうなのか・・・」
しかし斗真はまだ腑に落ちない。今までこんな反応をされたことがない故だ。
「なぁ、ホントにそう思うのか。この姿で俺は普通の人間の倍以上の力を出せる、それでも怖くないのか?」
その問い掛けにらいとは真っすぐな瞳を向けて答えた。
「怖くないよ。だって斗真君が良い人だって知ってるもん」
「え・・・」
「なに驚いてるの?斗真君はあたしの第一のファンで、このライブを実現させてくれたすごい良い人だよ。そんな人をあたしが嫌いになるわけないじゃん!」
光り輝く笑みでらいとは言い切った。思わず斗真の目に一筋の雫がこぼれ落ちる。
今まで忌み嫌っていたこの姿を目の前の少女は認めてくれた。そんな彼女のことを疑ってしまった自分を強く恥じた。
(誰よりもこの娘を見ているつもりだった。だがそれは間違いだった。この娘が俺を見てくれていたんだ・・・)
そしてらいとは斗真に手を差し伸べた。
「さ、行こうよ。次のステージ始まっちゃうよ」
「ああ、そうだな!」
変身を解き、らいとの手を掴んで立ち上がり斗真はライブ会場へと向かった。
その道筋で彼はこっそり涙を拭いていた・・・
それを影で見つめる者が居た。樹次郎である。
だがその光景を見ても彼の心に浮かぶものはただ一つ。
「こっちも邪魔者が居たか・・・」
昴の追跡を逃れる為に人質を取ることを考えた樹は標的として葵、光、岬の三人に絞った。
能力的に考えて茜と修を捕らえるのは不可能。奏と遥の能力は厄介で困難を極める。幼い輝と栞は単独で外出する機会が皆無に等しい。そんな中、他の兄弟に比べて単独で外へ出る機会の多い三人に狙いを定めたわけだ。
「岬様にも護衛が付いている可能性が高い・・・」
恐らくは昴の仲間である四葉弥生であろう。G3-Xという武装を持っているようだが彼にとっては取るに足らない人間、狙いを岬に決め踵を返す樹だが突然、彼の体を電流のような感覚が襲い思わず胸を抑えて膝をつく。
「っ!?・・・流石に未回復での変身の負担は馬鹿に出来ないか・・・」
あの時シャイニングフォームと化した昴の攻撃は予想以上に樹の体に染み込んでいた。
力の源であるアンクポイントが割れかけたことにより力が不安定になり一度変身すれば周期的に激痛に襲われる体になってしまったのである。
「回復するまでは変身回数を抑えたい、戦わないで済む作戦に変えるとするか・・・」
壁に寄りかかりながら歩を進めていく樹。
何故彼がここまで執念深く生き延びようとするのか、何故そこまで人間に強い敵意を抱くのか、それを知る者も、知りたいと思う者も、まだこの世界には存在していなかった・・・
次回は岬と弥生Part2
今まで明かしきれなかった弥生のある一面が発揮される回です。お楽しみに!
PS、樹が狙う面々についてそれっぽい理由を書いてみたけど、よく考えたら光の能力も十分危険な能力やった・・・不覚。