昴の最後の戦いに向けてのカウントダウンが開始されます。
それではどうぞ!
第39話 発覚する能力
城へ到着した櫻田兄弟一同は父の準備が整うまでの間別室にて待機するよう言われ案内された部屋に入るとそこには先客が4名いた。
その先客の事をよく知っている昴は目を疑った。
「斗真、弥生、白井、六野さん、どうしてここに!?」
そう、彼らは昴に協力していた者達である。
「さぁな、お前の親父さんに呼ばれたんだよ」
「なんで親父が急に・・・って白井なんでここに!?お前捕まったんじゃ?」
「釈放されたのだよ。君に協力していたことでこれまでの行為はお咎め無しだとさ。お人好しなのだな君の父親は」
「そう・・・なのか」
とにかく白井の問題も解決されたようなのならばと昴は安堵し、周りを見渡す。
他の兄弟達も昴の仲間達と会話していた。
「あれ?あなたはあの時の・・・」
「お久しぶりであります岬様。四葉弥生であります」
以前出会った事があった弥生と岬はこの場で再会した。
奏はそんな弥生を見て心配そうな声で話しかける。
「あんた・・・無事だったのね」
「はい、その節はご迷惑をお掛けしました・・・」
暗い雰囲気の二人の事情を知らない岬はポカンと両者を見ている。
一方、光は斗真の前に立ちじっくりと彼の顔を見つめている。それに対し斗真は思わず目を逸らしてやり過ごそうとするが。
「どこかで見たことがあるような・・・あ!いつもライブで最前列で応援してくれる人だ!!」
「っ!?」
気付くや否や光は斗真の手を両手で握り始める。
「いつもありがとね~、色んな所で応援に来てくれて」
「・・・」
「この姿じゃわかり難いだろうけど、桜庭らいとの正体はこのあたし櫻田光ちゃんなのよ!あ、この事は内緒にしてね」
胸を張って堂々と宣言するが当の斗真から返事が返ってこない。
「あれ?どしたの?」
不思議に思い光が斗真の体を揺らしてみるも反応が無い。昴は近づいて様子を見ると何故無反応になったのか理解した。
(こいつ・・・立ったまま気絶してやがる!?)
憧れのアイドルに声を掛けられただけでなく姿を憶えられていたことがそれ程歓喜していたのだろう。
呆れた目で斗真を見据える昴を尻目に六野は兄弟の中に葵がいることに気付いて興奮していた。
「あ、葵様!?」
「?はい・・・そうですが」
「実は僕、葵様の大ファンなんです!選挙当日絶対に葵様に投票しますからね!」
食い気味で語る六野に葵は苦笑いで対応するのを白井は見ていた。
やはり凡人は凡人なのだなと壁際のソファーに座って考えていると隣に遥が壁に寄り掛かっているのに気付いた。
「どうした?私の事を聞かないのか櫻田遥」
「聞かなくても大体察しはつくからね、兄さんの友達でしょ?」
「ご名答だよ。君は天才だな」
「下手なお世辞はよしてくれ」
その後しばらくして曽和がやってきて一同は国王のいる謁見室まで案内された。
「皆揃っているようだな」
玉座に座る総一郎が子供達と昴の仲間達が到着したのを確認する。
彼の周りにいるのは妻の五月と右腕の楠だけで他の者達の気配は全くない。櫻田家以外の者は昴の仲間達と楠と曽和だけという状況である。
「これから私から皆へ話があるのだが、その前に昴。お前に言わなければならないことがある」
「俺に言わなければならないこと?」
総一郎は昴の言葉に頷く玉座から立ち上がって昴の前へと歩いていく。
そして昴の前まで来ると総一郎は彼に向かって頭を下げた。
「今回の事件で私は樹に騙されお前を苦しい目に遭わせてしまった。本当にすまなかった」
しかし当の昴は父の行動に困惑している。
「や、止めてくれよ親父。そもそも俺だって親父に隠してきたことがあったんだ。むしろ謝らなきゃいけないのは俺の方だよ」
「いや、私が謝らなきゃいけないんだ」
「いやいや、俺の方だって今言ったじゃん」
「いやいやいや、私が・・・」
「いやいやいやいや、俺が・・・」
「いやいやいやいやいや!私が・・・」
「いやいやいやいやいやいや!!俺が・・・」
『『いつまでやるつもり!?』』
終わる気配の無い親子の謝罪合戦にその場にいる全員が突っ込み五月が総一郎を、茜が昴を叩く事で強制終了させる。
「どっちも悪くてどっちもその事について謝る意志がある。それで充分でしょ」
「お母さんの言う通りだよ。このままだと日が暮れちゃうよ!」
「「はい、すいませんでした・・・」」
総一郎は咳払いして本題に移行させる。
「ここにお前達を呼んだのは他でもない。昴、お前に関することだ」
「それはさっき母さんから聞いたよ。で、どういうことなんだ兄弟どころか斗真達まで呼んで?」
「ああ、それは・・・」
総一郎は一呼吸し、周りの者達を見て連れてきた理由となったことを話した。
「昴の能力のついてだ」
『『っ!?』』
既に事情を知ってている五月、楠、曽和、聞かされている白井、六野以外の者達は総一郎の一言に衝撃を受ける。特に昴は誰よりも驚いていた。
「どういうことだよ・・・?」
目を見開いて昴は総一郎に問い掛ける。
「親父、気付いていたのか?俺がアギトだってことを・・・それが俺の能力なのか?」
その問いに総一郎は奇妙な答えを出した。
「半分正解で、半分外れといったところだな」
その言葉に理解できず首を傾げる一同。すると楠が前に出て説明する。
「このことに関しては少し複雑な事情がございます」
「それで、事情っていうのは・・・?」
「それは私から話そう。それは昴と茜が初めて能力検査をした時まで遡る話だ」
そして総一郎は過去の出来事を語り始める。
―13年前
「ご報告申し上げます」
侍医が双子の能力について説明し始めた。
「検査の結果、茜様の能力は重力を操る重力制御と判明しました」
さらに侍医は検査によって判明した能力の詳細を語り出す。
「想定される能力の効果はご自身にかかる重力を弱めての飛行能力、周囲の空気に負荷を掛けることで発する衝撃波、さらに重力のベクトルを変化させることでご自身を上回る重量の荷物を持ち上げることも可能なはずです。能力の範囲は茜様自身と触れているものに限られるようですが・・・」
かなりの危険な能力だと夫婦は察する。使い方を誤れば人を殺めかねない。
「茜には優しい子に育って欲しいですね五月さん」
「大丈夫よ総ちゃん。あの子は潜在的に王族がどうあるべきか心得ている。きっと思いやりのある子に成長するはずよ」
五月の言葉を聞いて総一郎は安堵する。
「では次に昴の能力について判ったことを聞かせて欲しい」
「・・・は、はい」
どういうわけか侍医の口調が歯切れが悪くなった。
「あの・・・何と言いますか・・・非常に、も、申し上げにくい事態になりまして・・・」
「もしかして、茜よりも危険な能力だったとか?」
「いえ、そういうわけでは・・・ないというのも言い切れるどうか・・・」
まるで花瓶を割ったことを話そうとする子供のように侍医は震える唇をどうにか動かして声を発する。
「不明・・・なのです」
その答えに総一郎と五月は首を傾げる。
「我々も能力を明かさそうと様々な視点から検査をしたのですが、どうしても特殊能力と呼べるものが判明できなかったんです・・・ですので現時点では不明としかいいようがありません」
「そうですか・・・」
昴の検査結果に総一郎は歴代王家の能力事情を鑑みてある可能性を指摘する。
「もしかしたら昴は、自力で能力を発動することができないのかもしれませんね」
「どういうこと?」
「はい、私達の子供を含む歴代の王族の能力のほとんどは能力者自身で制御し、能力暴走期間を除いて任意に発動できることは知っていますよね」
「もちろん」
「ですがごく僅かですが能力者自身でも制御することが不可能な能力が存在していたのです」
生まれた時から王族であり王家の事を知り尽くしている夫の話に妻は一字一句逃さず聞き続ける。
「特殊な条件下でのみ発動することができる自動発動型。他の能力と違い融通は利きませんが代わりに非常に強大な力を秘めているのが過去の王家の自動発動型の特徴です」
「つまり、昴もその自動発動型の可能性が高いということ?」
五月の問いに総一郎は首を縦に振って答える。
―現在
「その後昴の能力に関しては一時保留と形で昴には仮の能力名を与えることにしたのだ」
それを聞いた遥は総一郎に質問する。
「自動発動型であることを前提として再検査しようという考えは無かったの?」
息子の問いに父はやや苦い顔で回答した。
「しようとは思ったけど調べようが無かったんだ」
そのことについて五月が事情を話した。
「自動発動型の能力の発動条件は多種多彩に存在しているの。感情が関わっているものもあれば特定の時間帯でしか発動しないものもある。中にはその場の温度や湿度を指定するものも存在していたらしいの」
説明を聞いて一同は能力の検査を出来なかった理由を理解した。千差万別ある能力の発動条件を割り出すことは砂漠の中に埋められた石を手掛かり無しで掘り当てるようなものだ。
「だが運が良いというか悪いというか、私達は昴の能力の一部を知った出来事があるんだ」
「それは一体何なんだ!?」
「ああ、その事に関してだが・・・」
すると総一郎は顔を奏の方へと向ける。その意味を察した奏は頷いた。
「いいよパパ、あの事件のことでしょ?」
「・・・ああ」
「それなら私から話させて」
そう言い奏は前に立ち修の足と奏の心に後遺症を残した事件の内容を説明した。
「修ちゃんが事故が原因で足に不自由があることが聞かされていたけどそういうことがあっただなんて・・・」
「ところでかな姉はなんで急に城なんか生成しようと思ったの?」
「・・・じ、自分の城が欲しかったからよ」
ただし事件の内容に茜が関わっていたことは省かれていた。それは茜を守ろうと怪我を負った修に対し茜が罪悪感を抱かないようにするための措置であることを当事者で且つ記憶が残っている昴と修は察し言及することはなかった。
「それでその後のことなんだけど・・・」
自分が知っている事件の表側を説明した奏は後の説明を総一郎にバトンタッチし、総一郎が事件の裏側を説明する。
「修はこの件によって足を使う激しい運動ができなくなった。奏に関しては貯金額を上回るものを作成した際現物資産から差し引かれることが判明した。そして昴は失神しただけで体に外傷は皆無であった。瓦礫の中で埋もれていたのにだ。その事を知った私達はある仮説を立てた。昴の能力の発動条件は昴自身の命の危機に関係があるのだと。だが能力を解明する為に昴を危険な目に遭わせるわけにはいかなかったから検査することができずにいたのだ」
「あの、よろしいでしょうか・・・?」
弥生が恭しく手を挙げ、総一郎が一旦口を閉じて彼女が発現できる状況を作る。
それに深く礼をした弥生は総一郎に質疑を行う。
「先程陛下が仰った半分正解半分外れのことでありますが陛下は昴様に能力があることにお気付きなっていたがそれがどういうものだということを知ることができなかった、ということでよろしいのでしょうか?」
「その通りだ。あれ以来昴の能力に関する新たな情報を得られずにいたのだ。彼らと話すまではな・・・」
総一郎は白井と六野に目を向ける。この二人の会話から聞いたことによってパズルのピースが残らずはめ込まれるように能力の真相を知る事が出来たのである。相変らず六野は緊張で体が硬直しているが白井はリラックスした雰囲気でいて、早く話したまえ、と言いたげな目で総一郎を見返している。
本当に変わったお嬢さんだなと総一郎は考えそして遂に昴の能力の正体を明かした。
「昴の能力。その名前は
自分の能力を知った昴は再び雷が頭に落ちたような感覚を受ける。
(思えば俺が新たな力を得る時は必ず命の危機に陥っていた・・・!)
最初の変身は小さい頃、落ちてきた瓦礫から身を守る為に無意識の内にアギトに変身していた。
アギトに任意で変身できるようになったのは中学生だった頃、アンノウンに襲われ生死を彷徨っていたがアギトの力に目覚め危機を脱していた。
マシントルネイダーをスライダーモードへと変形できるようになったあの戦いで、自分はアンノウンの毒針に刺され死へのカウントダウンが始まろうとしていた。
クロウロード軍団の戦いでは喉元に槍を向けられ貫かれ絶命する寸前にトリニティフォームに変身して九死に一生を得た。
「ってことは、バーニングフォームは・・・」
「恐らく能力暴走期間になって昴の超越進化が暴走を起こしたのだろう。自動発動型でも能力が暴走して条件に達しなくても発動した事例は過去にも存在していたからな」
バーニングシンドロームの正体は無理やり覚醒しかけた反動でああなったのだろうと、白井は推測した。シャイニングフォームに関してはバーニングフォームの覚醒と連動して目覚めたのであろう。皮の内側に隠されていたり、オルタリングが共通の変化を遂げたりと両フォームは一繋ぎになっているようにも感じられる。
「でも、何で樹の野郎はそれに気付いていたんだ?」
樹次郎の行動はバーニングフォームに目覚めつつあることを把握していたように見えた。
その疑問について樹にしばらくの間監禁され彼と深く関わらされた葵はある解釈を取る。
「樹先生はこの事件を起こす為に私達の事を調べ尽くしていたみたいなの。それで昴が強くなった際の法則から昴の能力の正体にいち早く気付いたんじゃないかな」
「なるほどねぇ・・・」
もしそれが本当なのであれば皮肉なことだ。昴が最も憎むべき男が昴の事を最も熟知していたのだから。
「それにしても反応薄いね。昴自身のことなのに」
「ん?」
茜からそう言われキョトンとする昴に周りも同じ意見の様だ。
「能力を知った途端に急に冷めった感じだな」
「兄上は自分の能力を知って嬉しくなのですか?」
「で、本当のところあんたの心境はどうなのよ?」
疑問をぶつけてくる周りに対し昴はやはり落ち着いた状態のままだ。
「まぁなんというか、俺が強くなっていったのにそういうのが事情が入っていたか、としか思う事が無いんだよなぁ。元々アギトの力自体が俺の特殊能力だと思っていたからそれがちょっと違っていたってだけだし、ん?待てよ・・・」
何かを閃いた昴は急に気味の悪い笑みを浮かべる。
「要は死にかけるとパワーアップって寸法だろ。ということは城のてっぺんから変身せずに地面まで飛び降りまくればパワーアップしまくって・・・て嘘嘘、冗談だって・・・」
無限強化計画を聞いた一同は昴に冷めた視線を向ける。栞に至っては昴の足を抱くように掴み下から細めた目で見つめてくる。
「自分を傷つけるのは駄目・・・」
「わ、わかったよ。だからそんな目で見ないでくれ栞。お前は笑顔が一番似合うからさ・・・」
「本当にわかったの?」
「大丈夫だってそんな自殺みたいなことはしないって・・・アトデイッカイタメシテミヨ」
最後の一言を逃さず一同は昴に急に詰め寄り出す。
「よしっ、変な真似できないように縛り上げておくか」
「半日程吊るして反省文を原稿用紙に10枚書かせるっていうのはどう?」
「ちょ、ちょっと待って!何も俺がパワーアップするだけだから問題は・・・」
『『失敗したらどうするの!!』』
「そっすね・・・」
満場一致の反対に押され引き下がる昴だったがその顔は急に真剣なものに変貌する。
「アンノウンだ・・・」
斗真もアンノウンを察し顔を見合わせる。
「数は二体、それも別々の場所だ・・・」
「二手に分かれて叩くぞ!」
二人はそのまま駆け出そうとするが修が斗真を茜が昴の手を掴んでそれを止める。
「今は能力云々を言ってる状況じゃ・・・」
「何か勘違いしてるね」
二人を止める修と茜の顔は晴れやかな表情である。
「急ぐのなら私達の能力を使った方が早いでしょ?」
「茜・・・」
「そう、俺達ならあっという間に目的の場所まで辿り着けるぞ」
「昴の兄貴・・・」
驚いた顔の斗真と昴に総一郎も話しかける。
「ここにお前達を呼んだのは何も昴の能力を話す為だけではない。私達も昴に協力しようと思って呼んだんだ」
「えっ!?」
慌てて昴は周りを見渡すが仲間達は勿論、家族に楠と曽和までもが同意見だと顔で語っていた。
「本当にいいのか、危ないことなんだぜ?」
「だからこそ、家族でそれを乗り越えようと思ったまでだ」
「じゃ、じゃあ曽和さんに楠さんはどうなんだ?」
「私は20年以上前から陛下の傍で奉公してきました。陛下が決意されたのでしたら私もそれに賛同し支える。陛下にお仕えしたあの日から墓に入るまでこの思いは決して変わる事はございません」
「私も曽和さんと同じです。出来る限りのサポートを致しましょう」
そして茜は昴の肩を叩いて笑顔を見せる。
「これでわかったでしょ、もう昴達だけ抱え込む必要なんてない。これからは私達も昴と一緒に戦う。それでいいよね?」
茜の言葉を聞いた昴から不安は吹き飛び自然と笑顔になる。
「ああ、頼むぜ皆!」
周りが強く頷いたのを確認し茜は昴を連れて扉から空へと駆け上がる。修も斗真を掴んで瞬間移動し現場へと向かう。
「私達も急ごう!」
それを弥生は白井と六野に呼びかける。しかし、白井は無口のままだ。一言も喋らないまま踵を返しGトレーラーが運ばれた場所へと向かうのを困惑しながらも弥生はついて行った。
いち早く現場に到着した修と斗真は左腕に鎧を装着したトカゲの姿のアンノウン リザードロード ステリオ・シニストラが気絶した少女を手に掛けようとする瞬間を見つけ斗真が飛び蹴りを放つことで少女をシニストラから引き離す。
「こいつは俺が仕留めるからその子を安全な場所へ連れて行け!」
「任せろ!」
返事とは裏腹に少女を抱えるだけでテレポートする気配の無い修を斗真は不審に思う。
「どうした?まさか重量オーバーとかじゃないよな?」
「いや、お前が少し羨ましいと思ってさ」
「俺が羨ましい?」
「ああ、お前には昴という正面から本音を話せる親友がいる。俺は友達が少ないわけじゃないが親友とまで言い切れるやつがいないからな・・・」
「そうかよ、でもあんたにはそれと同じくらい大切な人がいるんだろ?」
「まぁな」
「ならいいじゃねぇか。俺には親友がいてあんたには恋人がいるってことさ」
それを聞いた修は誰もが自分においての花のように大切な人がいるということを実感した。
そしてその人達の幸せを守る為に国王に為りたいという気持ちを強めていった。
「さてと、そろそろあっちも待ってくれなさそうだから行ってくれないか」
「おう、後は任せた」
修が少女を連れて瞬間移動したのを皮切りにシニストラは斗真目掛けて走ってくる。
斗真は両腕を顔の前にクロスさせて叫ぶ。
「変身!」
斗真の隣にギルスのビジョンが現れ斗真に重なり合ってギルスに変身完了する。
「ガァッ!」
走ってきたシニストラにラリアットを放って迎え撃つ。ラリアットは命中したがすぐに受け身を取ってトライデントを構えシニストラを見てギルスは一筋縄ではいかない相手だと悟る。
「だったらこれだ!ウォォォォォォォォォォ!!」
咆哮と同時にギルスはエクシードギルスへと変異する。
「あの時昴にぶっ飛ばされたショックのおかげかこの状態でも自分を抑えられるようになった俺の力を味わえ!」
啖呵を切ったエクシードギルスはシニストラへと向かって行った。
一方、上空を飛んでいた茜と昴はシニストラとは対称に右腕に鎧を装着したリザードロード ステリオ・デクステラがターゲットであろう男性の背後に忍び寄っているのを発見する。
「あいつのところまで投げてくれ!」
「うん!」
茜は昴を掴む手を振り上げデクステラに向けて投げ飛ばす。空の空気を切り裂きながら昴はオルタリングを発現させて叫んだ。
「変身!」
昴はアギトに変身すると空中で一回転してデクステラの頭部へと着地する。それは落下の勢いを加えたドロップキックに等しくデクステラは頭から地面へと激突させる。
音を聞いた男が振り向けば目の前の光景に絶叫して走り去っていく。すかさず立ち上がったデクステラが逃げる男性を襲おうと飛び上がる。だがそれは空中で待機していた茜が放った衝撃波によって阻まれる。
「ナイス茜!」
ファインプレーを見せた茜に負けないようアギトもデクステラに攻勢をかける。
しかし正拳突きやチョップ等を立て続けに繰り出すもデクステラは右腕の鎧に当ててダメージを軽減させるので決定打を与えられない。さらにデクステラは先程の仕返しにとドロップキックを放つ。アギトは腕を交差させて防ぐが勢いを止めきれず足で地面を削って後ろへと飛ばされる。
「全く、手強い相手だぜ」
「でもそれで引き下がる昴じゃないでしょ」
「ああ!皆が俺に力を貸してくれるんだ、俺の力はもう俺達に力になっている。だから絶対に負けない!!」
アギトはオルタリングの両端を叩きバーニングフォームへと変身する。
飛び掛かってきたデクステラの右腕のパンチを召喚したシャイニングカリバーエマージュモードで挟み込むように受け止め右腕を掴んでハンマー投げのように一回転して壁へと吹っ飛ばす。バーニングフォームの剛腕で投げ飛ばされたデクステラは壁にめり込む。
一方アギトは太陽の光を浴び表皮をはがしてシャイニングフォームへと変化する。
「ん、これはもしかして・・・」
シャイニングカリバーを見てあることに気が付いたアギトはシングルモードに変形させた。
そして持ち手を両手で掴んで左右に引っ張るとシャイニングカリバーが割れて二本に分割される。これがシャイニングカリバーの3つ目の形態ツインモードだ。
「いくぜ!!」
シャイニングカリバーの片方を前に、もう片方を上に突き出し構えを取ったアギトはデクステラを迎え撃つ準備を整えた。
「グオォォォォォォ!」
エクシードギルスとシニストラの対決はエクシードギルスが圧倒していた。
背中のギルススティンガーを掴み多節棍のように振り回す。トライデントで受けようとするも不規則に曲がるギルススティンガーを防戦一方になりさらにトライデントを巻き付かれ奪われてしまう。追い打ちにとエクシードギルスはシニストラの懐へ飛び込みエクシードギルスクロウで十字を描くように切り裂く。斗真本人は意識していないだろうがそれはシニストラへの手向けにも見えた。
「ウオァァァァァァァァァ!!」
そのままシニストラの眼前で跳躍したエクシードギルスは足を上げてエクシードヒールクロウを繰り出した。左の肩当てを貫きシニストラの体に突き刺さった爪を抉るように引き抜いて飛び上がる。それと同時にシニストラが爆散し勝負は決した。
「はぁぁぁぁぁっ!」
その頃、アギトとデクステラの決着の時も近づいてきた。
二刀流によるアギトの華麗且つ大胆な剣撃によってデクステラの体に無数の切り傷は浮かび上がってきた。右腕の鎧でガードを試みても一手二手先を進むアギトはそれを避け切り裂いていく。破れかぶれで蹴りを放ったデクステラだがその瞬間アギトの姿が視界から消えさった、と思えば急に目の前に姿を現し横から見ればタイヤ上に見える程の残像を作り出す速度でサマーソルトキックをデクステラの顎に命中させる。それがデクステラが地面に立っていた時の最後の記憶となった。
「はぁぁぁ・・・・・・」
宙へ浮き落下していくデクステラを見据えてクラウチングスタートを取るように腰を落とす。シャイニングカリバーが光を放っているのを感じ取ったアギトは放たれた矢の如く疾走する。
「でやぁぁぁぁっ!!」
そして落下するデクステラとすれ違う一瞬、無数の斬撃『シャイニングクラッシュ』がデクステラを切り刻んだ。
その後デクステラは地面に帰ることは叶わず爆散し、それを背景にアギトは疾走を止めた。
変身を解いた昴は茜の元へと駆け寄った。
「やったね」
「どうよ」
短い言葉とハイタッチを交わし、自分達の勝利を祝福した。
だがそれを遠くのビルの屋上で覗く謎の青年の存在を気付いていなかった。
「また彼らは新しい進化を遂げましたか・・・」
その声色は子供の成長を喜ぶ父のようでもあり、それと同時に自分から離れようとするのを嘆く母のようにも感じられる。
「ですその力はやがて彼らの身を滅ぼす。その前に我々は手を打たなければ・・・」
火遊びを覚えた子供が火傷をする前にライターを取り上げようとする親の心境で青年は後ろを振り向いた。
そこには三体の使徒が跪いている。それぞれ金と銀と黒の色に染められた使徒達が青年の顔を見上げている。中心にいる黒の使徒が床に手を当てると彼らが足を置く灰色の床が黒に染まるのを経由して青一色の海中を写した。科学では到底できない業を黒の使徒はさも当然のようにやって見せたのだ。
青年も眉一つ動かさずに床に写される景色に目を通した。
「まず人間達には過ぎた力が自分達の身に振りかかる恐怖を学ばなければなりません・・・」
その遥か上空から見下ろす慈愛に満ちた瞳に映っていたのは捨てられ水底に落とされたG4スーツであった。
次回からは弥生回です。
死への執着に取りつかれた彼女に仲間の言葉は届くのだろうか・・・?
それではまた次回お会いしましょう。