城下町のAGITΩ   作:オエージ

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タイトルの元ネタはわかりますよね?

それではどうぞ!


第37話 今、君がいないと

港から少し離れた海岸で四葉弥生は目を覚ました。何故自分は助かったのか?疑問に感じていたことは顔を上げると斗真がいたことで解明された。海に沈んでいた自分を海岸まで引き上げてくれたのだろう。

 

「おう弥生、無事か?」

 

「一応はな・・・アレ?G4はどこに!?」

 

「ああ、あの黒いG3みたいなやつのことか?悪いが引き上げるときにパージさせて捨てたぞ・・・俺の力もまだ本調子でなかったからな・・・」

 

「そう・・・か」

 

意気消沈する弥生は海岸の前にある道路に一台の車が止まった所を見る。

海水浴シーズンも終わったこの季節に何故車が?と二人が思っていると車からメイド服を着た長髪の女性が出てきてこちらへと歩を進めていく。二人の手前まで来ると女性は深々と頭を下げお辞儀する。

 

「秋原斗真さんと四葉弥生さんですね。私は櫻田城でメイド長を任じられている曽和初姫という者です」

 

顔つきは若く20代前後に感じられるが彼女から発せられる落ち着いた雰囲気を感じるに見た目通りの年齢では決して無いのであろう。

 

「急な話で申し訳ありませんが陛下がお待ちです。至急櫻田城まで同行して頂きます」

 

本当に急な話で状況は掴めないがとにかく呼ばれているのなら行こうと二人は車の中に入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

櫻田家

 

リビングにてノートパソコンを使っていた櫻田遥はネットニュースで昴が発見され病院に搬送されたことを知った。これで一先ずは兄の無事は確保されたのだが遥の顔には憂いがあった。

 

(本当に、これでよかったのだろうか・・・)

 

遥は昨日、葵が見せた顔を思い出した。

 

(あの時の姉さんの顔は何か重いことを隠しているようにも感じられた)

 

あくまで推測でしかない。確率予知(ロッツオブネクスト)を使えば推測を確実なものにすることにできるのだが遥にはそれができなかった。

 

(僕の能力で導き出される数字は絶対だ・・・外れたことは一度もなかった)

 

だからこそ、悪い方の予測が当たってしまったらと思うと確率予知を使うのを恐れてしまったのだ。

 

(こんなんじゃ奏姉さんや昴兄さんに笑われちゃうな・・・数字は数字、目安でしかないだろって)

 

自嘲気に思っていると突然服の袖が掴まれる。顔を向けるとそこには不安そうな顔をしている栞がいた。

 

「遥お兄様、大丈夫?何か悩んでいるようだけど・・・」

 

物体会話(ソウルメイト)の能力によるおかげか栞は他者と会話する機会が多く幼いながらも穏やかな性格へと成長しているのである。

 

「うん、大丈夫だよ。心配掛けてごめんね」

 

そう言い末妹の頭を撫でていると持っていたボタンを落っことしてしまう。

 

「これは・・・」

 

「ああ、昨日姉さんが落としていったボタンだよ。僕が拾っておいたんだ・・・栞?」

 

気が付けば栞の体が紫色に光っている。これは能力を使っている証だ。あらゆる物体と会話できる物体会話の能力を。

 

(そうだ・・・見落としていた。確率よりも確実に調べられる方法を・・・)

 

対話を終えた栞はボタンに礼を言って遥の方へ顔を見上げる。とても神妙な顔つきだ。

 

「お兄様、今すぐ皆を呼んできて。話したいことがあるの」

 

十分後、遥の招集で葵、昴、茜以外の兄弟全員が集まり栞は葵のボタンから聞いた事をそのまま兄弟の前で話した。葵の近くにいて葵と共に事件の裏側を垣間見たボタンの話を聞いて兄弟達は驚愕する。

 

「そんな・・・嘘だよね?葵姉が攫われているって・・・」

 

「栞が嘘をつくわけ無いでしょ。やっぱりあいつには裏があったのね・・・」

 

岬は聞かされた話に耳を疑い、奏は感付いていながら何もできなかった自分に歯軋りをしていた。

 

「ということは、僕達はあいつに騙されて・・・」

 

「利用されていたということか・・・」

 

自分達がやってきたことが悪手だったいう事実を知り修と輝はうなだれる。

 

暗い雰囲気を壊そうと光は立ち上がりあることを提案する。

 

「すぐパパにこの事を連絡しようよ!パパはあれでも王様なんだよ、軍を全員動員させれば葵ちゃんを誘拐した悪い奴だってボッコボコにできるよ!」

 

確かに樹は王女を誘拐しているのでその救出の際に軍隊まででてくるのはそこまで不自然なことでもないだろう。何せ総一郎は娘達だけで留守番していた際特殊部隊をこっそり警護に回していた程の親バカである。しかし、それで問題が解決できるわけではない。

 

「光、相手は姉さんを攫っている。それはつまり姉さんを人質に取っているってことなんだよ」

 

「あ・・・」

 

大前提を見落としていた光は固まって閉口する。

 

「それに下手に騒ぎが広がればあいつを刺激してとりかえしのつかないことになってしまうかもしれないわ・・・」

 

もうお手上げかと思われたその時、輝が立ち上がった。

 

「こうなったら僕達だけで姉上を助け出しましょう!!」

 

「お兄ちゃん、でもそれは・・・」

 

周りが輝の意見に困惑する中、修は輝の意見に賛同する。

 

「いや、案外名案かもしれないぞ・・・」

 

「兄上・・・!」

 

「ちょっと待ってよ兄さん、どういうこと!?」

 

修は兄弟達に自分の考えを述べる。

 

「いいか、今奴は姉さんを自分しか知らない場所に幽閉しているだろう。ということは外部の侵入者の懸念をしていないかもしれない。そこに俺が瞬間移動でこっそり忍び込んで姉さんを救うんだ。そして後は光が言った通り親父達に連絡すれば万事解決って寸法さ」

 

「確かに・・・それなら上手く行くかもしれない」

 

「すごいよ修ちゃん!いつも茜姉の事ばっかり考えてると思ったのに見直したよ」

 

「おいおい岬、俺の選挙ポスターに書いてある事を忘れたか?『やる時はやる男!』ってね」

 

そして修は立ち上がり、助けに行く準備をする。それを双子の妹の奏が止める。

 

「待って、私も行くわ」

 

「奏・・・」

 

「妹である私を危険な目に合わせたくのはわかる。でもよく考えて、もしうっかりあいつに鉢合わせした時足の不自由なあんたはどうするの?私がいれば能力を使って足止めができるわ。今回ばかりは意地を張らないでよね、姉さんの命も関わっているんだから」

 

「わかった、俺達二人で姉さんを救う。お前達はここで待っててくれ」

 

その決定に妹や弟達は反論する。

 

「ちょっと待ってよ!何二人で行くことに話を進めているのさ!?」

 

「僕も行きます!姉上が悪党に攫われて黙って見ていられる弟がいますか!?」

 

「妹もだよ!あたしだって能力を使えば足止めすることはできるんだから!」

 

「皆が傷つくのは嫌・・・でも、私だけ何もせずに待っているのはもっと嫌!」

 

「兄さん姉さん、僕の話を聞いて欲しいんだ。今確率を調べたんだけど・・・」

 

しかし、その話を聞かずに修は奏と共に瞬間移動でどこかへと行ってしまった。

 

 

 

 

奏に指定された場所に瞬間移動した修はそこにヘリコプターがあることに気付く。

 

「私が能力で作成した無人ヘリよ。これを使って目的地の近くまで行きましょう」

 

「あ、ああ」

 

何でこんなものをあらかじめ生成していたのかは気になったが今は気にしている場合じゃないとヘリに乗り込もうとするが後ろから聞こえる声で足を止めた。

 

「お二人さん、私達を忘れてなぁい?」

 

振り返るとそこには岬、遥、光、輝、栞の五人が立っていた。

 

「あんた達、どうしてここが・・・!?」

 

「確率で計算したのさ」

 

遥が得意気に説明するもやはり二人は家に戻そうとする。

 

「悪いが帰ってくれ。これは危険なことなんだ。特に光、輝、栞。お前たちはまだ小さい」

 

「な~んだ、それなら簡単なことだね!」

 

そう言い光は輝と栞の肩に手を当てると生命操作(ゴッドハンド)を発動させ16歳前後にまで成長させる。

 

「どう?これであたし達は()()()()()()から問題ないでしょ?」

 

「いや・・・そういう問題じゃ・・・」

 

単純な思考過ぎる妹に頭を抑える奏だが岬からの質問に言葉を失ってしまう。

 

「ところでさかな姉、栞無しにどうやってその樹って奴の隠れ家まで行くつもりなの?隠れ家の道のりを知ってるのはボタンだけなんだよ」

 

「「あ・・・」」

 

思わず二人は口をあんぐり開けたまま固まる。

 

「栞は既に覚悟はできています。栞の事は僕が守るので僕も連れてってください!!」

 

「・・・・・」

 

輝とは対称に栞は言葉を発さないがその瞳には強い意志が感じられる。

 

「さっき言えなかったことなんだけどさ・・・」

 

今度は遥が自分の意見を述べる。

 

「二人だけで救出作戦を遂行した場合の成功率は20%とかなり低い。でも僕達兄弟全員で臨んだ場合の成功率は95%。これはもう僕達を連れていくしかないんじゃないの?」

 

「所詮は確率でしょ」

 

「でも信用はできる。忘れてないよね、スイカ割りの事」

 

「うっ、それは・・・」

 

それはある夏の日に兄弟でスイカ割りをした際、遥は栞の割る確率が一番高いと予想し見事当てて見せたのだ(その際、栞とスイカの間で涙なしでは語れないストーリーが展開されたのは別の話)。

 

「それで、お前はどういう理由でついていきたんだ岬?」

 

最初の一言移行黙っていた岬に修が問う。

 

「皆がこうやって一丸となって葵姉を救いに行くんだよ。私だっていくよ。オマケだろうがついでだろうが私も協力させてもらう。理由なんていらない!」

 

「そうか、お前らしいな」

 

「ちょっと・・・修?」

 

何故か連れて行く気満々の修と違って奏はまだ反対のようだ。

 

「よく考えなさいよ。こんなに連れて行ったら目立って忍べなくなるじゃないの」

 

「そうだなぁ・・あ、お前がステルス迷彩でも生成すればいいじゃないか!」

 

「あんたねぇ・・・簡単に言うけど私の能力は・・・」

 

奏は文句を言おうとするがそれを修が止める。

 

「奏、俺達の負けさ。こいつらはヘリに張り付いてたでもついてくるさ。お前が一番よくわかってるだろ?櫻田家に家族を大切に思わない奴なんていないって」

 

修の一言に反論することはできず奏は兄弟達の同行を認めた。

 

「よし、じゃあ今すぐ行こうか。姉さんを救いに!」

 

『『うん!』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

土亥孤児院

 

老人に連れられた茜は孤児院のシャワーを借りて雨水を洗い流し雨宿りをさせてもらっている。

 

現在茜は応接室で老人と二人きりになっている。

 

「ニュースを見ましたよ。昴様、見つかったようですねご無事で何よりです」

 

「・・・そうですね」

 

兄の無事を聞いても茜の表情は晴れず俯いたままだ。そんな茜に老人は急に問い掛ける。

 

「雨は、嫌いですか?」

 

「え?」

 

唐突な話に困惑する中老人は自分の考えを言った。

 

「私は好きではありませんね。子供達が外で遊ぶことができないし、何より身が冷える。雨の日になると私はいつも憂鬱な気分になってしまうんです」

 

「そう・・・ですか・・・」

 

「そうです。それで急なことですが茜様、少し昔話を聞いてくれませんか?」

 

「昔話・・・ですか?」

 

はい、と老人は穏やかな瞳をこちらに向けて答えた。

 

「子供達に話そうとしても退屈なのでしょうか皆途中で眠ってしまいましてね。ちゃんと最後まで聞いてくれた人は今までいなんですよ」

 

そう言われるとどんな話なのか興味が湧き茜は老人の話を聞くことにした。

 

「昔々、あるところに若者がおりました。その者は手先が器用で様々な特技を持ち人々を笑顔にしてきました」

 

「ある時、彼が住んでいる国に鬼が現れました。獰猛な鬼が人を襲っている所を見た若者は鬼に飛び掛かり戦っていると彼は鬼に近い姿に変われる力を手に入れその鬼をその力を使って退治しました」

 

「しかし鬼は一匹ではなく何匹もいて若者は人々を守る為に鬼に変身して戦っていきました」

 

「すると彼の事を知った者達は彼に協力を申し出て若者は多くの仲間と共に鬼退治に立ち向かって行ったのです」

 

「あの・・・」

 

老人の昔話の途中に茜はある事を質問する。

 

「その若者に協力していた人達って本当にそれでよかったんでしょうか?」

 

そして茜は自分の今の心境を述べる。

 

「その人々がどんなに頑張ったって最後に鬼を倒すのは若者だけなんですよね?自分は足手まといなんじゃないかって思ったことはないんでしょうか?ひょっとしたら自分が彼の足を引っ張っているんじゃないか・・・彼を傷つけてしまうのではないか・・・もういっその事鬼の事は全部若者に任せてしまおうなんて考えていた人もいるんじゃないんですか?」

 

茜は人々を自分に若者を昴に重ね合せていた。

 

「・・・もしそのように考えている人がいたら、若者は心が折れていたでしょうね」

 

「折れていた?」

 

「はい、話には続きがあるんです」

 

老人は続きを語る。

 

「若者は常に押しつぶされそうな心境の中、鬼と戦っておりました。日に日に鬼は強くなっていき、守れない命も増えてきました」

 

「しかし、そんな中でも仲間達は彼を励まし勇気づけようと努力しておりました。それを見た若者は鬼と戦う意志を保つことができました」

 

「・・・それって、やせ我慢ですよね!?仲間達のしていることは逆に若者にプレッシャーを与えているじゃないですか!」

 

「いいえ違いますよ。その逆です。例えば若者の仲間の一人の話をしましょうか・・・」

 

老人は懐かしむようにその人物について語る。

 

「彼は誰よりも勇敢でした。若者の正体を知るや最初の協力者となり彼の隣に立って彼の戦いを見届け続けました」

 

「何度も鬼に打ちのめされても立ち上がりまた自分の隣に立つ彼に若者は勇気が湧き上がると同時に命の重みを実感しました」

 

「隣に頼れる仲間がいる。守るべき命がある。彼が隣に立っていたからこそ若者は最後まで心を折れずに戦い続けたのでありましょう」

 

「守るというのは、守られるというのは決して一方通行の思い出はない。私はそう信じています。あなたはどう思いますか?」

 

老人の問いかけに茜は目が覚めた感覚になる。

 

(そうだ、そういうことだったんだ・・・私は守られてばかりいると思っていていた。足を引っ張っているって負担になってるって思っていた。でもそれは間違いだったんだ。昴は守る者が近くにいると実感して戦ってこれたんだ!)

 

茜が気付かされると同時に着信音がなってメールを見るや応接室のドアを開ける。外にはまだ豪雨が降り続けている。

 

「雨は・・・止みましたか?」

 

老人に問われ茜は、

 

()は・・・止みました」

 

晴れ晴れとした笑顔で答えた。

 

 

 

 

現在岬の分身達は本体である岬から離れ、帰還のためのヘリの見張りを任されている。だが分身達はそれを満足していないようだ。

 

「なぁ、本当にこのままあいつらが来るまで待っているままでいいのか?分身とはいえ私達だって岬なんだぜ」

 

「そうだよ私達も岬だよ。だからこれを任されてんじゃないの。要は適材適所って奴さ」

 

暑苦しい性格のユニコは今の状態に不満を抱いていたが飄々とした性格のイナリは前向きに物事を考えている。

 

「ポテチ食べるぅ~?」

 

「・・・眠い・・・」

 

「あんた達はホントにブレないわね・・・」

 

寝そべりながらポテチを貪るブブとベルを呆れた目でレヴィは見下ろしていた。

 

「ウフフ、これで良しと」

 

「シャウラ、何をしておりますの?」

 

万が一の為に岬から預かっていた携帯で何か連絡を取っているシャウラにライオが尋ねる。

 

「フフッ、私達にできることをしただけよ」

 

シャウラの手に握られている携帯にはこう写っていた。

 

『宛先 櫻田茜』

 

 

 

 

 

 

 

桜華中央病院

 

櫻田昴は現在、病室に入れらており手術まで後数分の猶予があるのだが動ける気力はなかった。

 

「結局俺の力は人を苦しめることにしか使い道が無いんだ・・・どんなに望んだって俺はもう家族の前には・・・」

 

今までの戦いにより昴の精神は疲弊しきっていた。しかしその時、窓から音が聞こえ、その方向を向くとそこには重力制御で浮いている茜がいた。

 

「茜!?なんで・・・こんな所に・・・」

 

昴の驚いている間に茜は窓を開けて昴の近くに立ち口を開く。

 

「昴、大事な話があるの・・・一緒に来て!」

 

昴の答えを聞かずに茜は彼を掴みそのまま窓から部屋を出て違うビルの屋上に連れて行く。

着地した茜は先程シャウラから届いたメールを昴に見せた。

 

「今皆はお姉ちゃんを救う為に樹の所に向かっているの。だから私達も急ごう!変身した樹に対抗できるのは昴だけなんだよ!!」

 

「・・・・・」

 

兄弟達の危機を知っても昴は未だに俯き背を向けた。

 

「俺じゃ・・・皆を傷つけてしまうかもしれない・・・」

 

「昴・・・」

 

「お前も見ただろ、あの姿を。あの姿になると俺は正気を失い周りのもの全てを敵だと思い込んでしまう。あんな状態で家族の前でなったら俺は・・・」

 

「・・・」

 

「だからもう俺は変身できない・・・もう・・・皆の前には・・・」

 

「昴・・・こっちを向いて」

 

「?」

 

昴は茜に言われた通り振り返る。

 

その時、バチン!と頬に衝撃が走り昴はその勢いで倒れてしまう。

茜に平手打ちされたことに気付くのに5秒のラグが生じた。

 

「いつまで、そんな前の事をくよくよしてるの。今皆はお姉ちゃんを助ける為に動き出してるんだよ、あんたが動かないでどうするの!!」

 

「でも、俺の力ではあいつに勝つことなんて・・・」

 

「できるよ、絶対に勝てるよ!」

 

「なんでそんな事が言えるんだよ!」

 

何故なら!と茜は倒れている昴の前に座り込み彼の目を直視して言った。

 

「私が隣に居るからだよ」

 

「え?」

 

最初、昴は茜の言葉の意味がわからなかった。

 

「昴は今まで大切な人達を守る為に戦ってきた。どんなにボロボロになっても昴は諦めず戦い勝利してきた」

 

「家族を、友達を、この国の人達を・・・私を救ってきた!」

 

だが、少しずつだが昴の凍りついた心に火が灯り始めてきた。

 

「そうだ・・・俺は今までたくさんの人を守り救ってきた・・・この力は人を苦しめる力では決してなかった、人を生かすための力だったんだ・・・!」

 

「そうだよ、昴の力は人を生かす力、大切な人達を悪の手から守るための力なんだよ!だから昴は絶対に勝てる。だって私が隣に居るから、大切な人を守るためならどこまでも強くなれるのが昴だから!!それに・・・」

 

そして茜が懐からジャミンググラスを取り出した。

 

「もし、昴の手が一歩届かなくなったら私が背中をどこまでも押して行ってあげるよ。なんたって私はこの町の平和を守る覆面ヒロインスカーレットブルームなんだから」

 

「ああ、そうだったな」

 

そして昴は差し出された手を掴み、兄弟の元へと向かう。

その昴の瞳にはいつもの輝きを取り戻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

廃港

 

「・・・この場所みたい」

 

栞の能力でボタンから道筋を聞きながら一同は樹の隠れ家である廃倉庫の目の前まで来ていた。

 

「今計算した。姉さんがここにいる確率は100%ってでたよ」

 

「なら間違いないな。輝、いけるか?」

 

修の問いに輝は強く頷き気を昂ぶらせ怪力超人を発動する。

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

叫びと共に拳を壁に叩き付け破壊する。

穴が開いたことで見えるようになった中に葵が手足を椅子に拘束されているのを発見する。

 

「姉さん!」

 

兄弟達の声が聞こえ振り向く葵の目は非常に驚いていた。

 

「皆・・・どうして・・・」

 

「助けてきたのよ」

 

「でも、私は皆に・・・」

 

何かを言おうとした葵の口に奏は人差し指を出して黙らせる。

 

「私は家族でしょ?家族が家族を助けるのに理由なんているかしら?」

 

「・・・何か、奏らしくない直球的な答えね」

 

「う、うるさいわね。こうなったのも姉さんがちゃんと言わないからでしょ。感謝しなさいよ!」

 

「はいはい」

 

顔を真っ赤にしながら顔を背ける奏に葵は微笑する。奏は誰よりも家族を想う心が強くそしてそれを直接表現することを恥ずかしがってしまう性分なのだ。

 

その後修が葵に触れて瞬間移動を使って一歩下がる。葵だけが移動した事により手錠は置き去りにされ葵の拘束は解かれた。

 

「さぁ、早く逃げよう!」

 

目的を果たし脱出を図る兄弟達だが遠くから聞こえてきた声によってそれを妨げられる。

 

 

「どこへ行こうというのですか?」

 

倉庫の入り口の方に樹次郎が立ちはだかっていた。

樹は冷たい視線で兄弟達を見据え、棒読みのような口調で喋り始める。

 

「残念ですよ・・・私の目的の達成寸前まで達しましたので人質の必要がなくなり解放してさしあげよう思った所を・・・あなた達は今から自らの誤算を呪う事となるでしょう。浅はかなあなた方のせいでその身が、国が滅ぶのですから・・・」

 

そして樹は腰にアンクポイントを出現させ呟いた。

 

「変身・・・」

 

鈍い光に包まれた樹はその身をアナザーアギトへと変化させる。

その禍々しい姿を見て兄弟が絶句するなかアナザーアギトは一歩ずつ徒歩で近づいていく。まるで恐怖心を煽っているこのように。

 

「お覚悟を・・・」

 

そう言った刹那、アナザーアギトの姿が消失したのを錯覚する程の速度で走り出し、兄弟達の目の前にまで達する。修は兄弟達を掴み瞬間移動を発動して避けようとするが・・・

 

(まずい・・・間に合わない!?)

 

このまま修の瞬間移動は間に合わずアナザーアギトの魔手によって自分達は殺されてしまう。

その場にいる誰もがそう思っていた。しかしその最悪の未来は天井を突き破り兄弟達とアナザーアギトの間を挟んで現れた陰によって未然に防がれた。

 

「やれやれ、今日は厄日でしょうか・・・次々と計画に狂いが生じ始めている。とりあえずあなた達は何者なのか答えていただきましょうか・・・」

 

兄弟から距離を取ったアナザーアギトは現れた陰に問い掛ける。

そして二つの影は高らかに叫んだ。

 

 

 

 

 

「王の園生に咲き誇り、城下に舞うは一重の花弁・・・」

 

「王の園生に密かに生まれ、城下を照らすは光の龍・・・」

 

「「今、花と龍が交錯し、悪鬼を滅ぼす剣とならん・・・」」

 

「熱烈峻厳!スカーレットブルーム!!」

 

「超越変身!仮面ライダーアギト!!」

 

「「正義の名においてお前を倒す!!!!」」




絶体絶命の危機を救うのはいつだってヒーロー&ヒロイン!

ということで次回、第3部完結。お楽しみに!!

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