城下町のAGITΩ   作:オエージ

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もうお気付きの方はいるでしょうが遂に樹の正体と目的が判明します。
何故彼がここまでやってきたかも今回でわかるでしょう。

それではどうぞ・・・


第35話 変身・・・

少女は世界に絶望していた。少女は檻の中に閉じ込められていた。

罪人だからではない、ある日急に目覚めた超能力、それが原因で突然彼女の前に現れた黒づくめ男達が彼女をこの場所へと攫って行ったのだ。

それからが地獄であった、常に何も無い檻に入れられ渡される食事は犬猫も食わないようなひどいもので檻から出されたと思えば得体のしれない拷問に近い人体実験にさらされ少女の精神は壊れかけていた。

いっそ死のうと舌を噛もうとしたその時、急に檻の外が騒がしくなる。

自分を閉じ込める者達の断末魔が聞こえ目を開けるとそこには異形がいた。

 

「君が・・・アギトに覚醒しようとしている者か?」

 

異形の赤い目は少女を見下ろし、檻をへし折り少女の前に立つ。

 

「ひっ、こないで・・・」

 

異形の正体がわからず少女は頭を抑えて目尻に涙を浮かべ縮こまるがそんな彼女に異形は優しく頭を撫でる。顔を上げると異形の姿が消え、代わりに落ち着いた雰囲気の男性が少女の顔を見据えていた。

 

「怖がる事は無い・・・君を苦しめていた連中は全て皆殺しにした。これで君が完全に安全になったわけではないが安心して欲しい・・・君みたいに力があるからといって差別されている子が真に自由になり笑顔を絶やす事の無い世界をつくるのが私の使命だ・・・」

 

その声色に偽りなくとても優しいものだった。その声に少女は安らぎを覚え問い掛ける。

 

「あなたの名前は?」

 

「樹次郎・・・君の味方だ・・・」

 

その後、研究機関から抜け出して普通の生活に戻った少女は決して樹次郎の名を忘れなかった。

自分を暗闇から救った『ヒーロー』の名前を・・・

 

 

 

 

 

 

「遂に覚醒したか・・・!」

 

隠れ家で、昴がバーニングフォームに覚醒したことを感知した樹は同時に鋭い耳鳴りが脳に刺さる。樹はその感覚の原因を知っていた。

 

「強い力に反応して来たか・・・つくづく忌々しい奴らめ・・・」

 

吐き捨てると樹は車を隠している場所へと向かう。

 

「折角目覚めてきた力の芽を摘み取られるわけにはいかない、ここは私も出るとしようか・・・」

 

樹は車へと手を伸ばそうとするが思い留まる。

 

(同じ車両を使い続けるのは特定される危険性があるな・・・)

 

そう思い樹は車の隣に置いていたバイクへと跨る。

そしてエンジンを掛け、樹は昴の元へと向かった。

 

 

 

 

 

「俺は一体どうなっちまったんだ!?」

 

周りの惨状を見渡す昴は後ろから強い殺気を感じ、振り返るとそこには二体のアンノウンが立っていた。

フィッシュロードのピスキス・アライパイマとピスキス・セラトゥスの二体だ。

 

昴は応戦する為に変身しようとするが先程の戦いがフラッシュバックしてしまう。

 

「また変身したら・・・あの姿になってしまう・・・!」

 

昴はそのまま走り出した。目の前の敵から逃げる為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何・・・これ?」

 

早朝、昴を探すために歩き回っていた茜と花蓮は黒焦げた雑木林を見て呆然と立ち尽くす。

 

「一体誰がこんな事を・・・茜、早く昴を見つけ出さないとまずいかもね!」

 

「・・・うん」

 

相変らず茜は俯いている。

 

「どうしたの茜?昨日から様子が変だよ?」

 

昨日、暗くなったので一時解散した時、茜は家に帰りたくないと言い出し、他の友人の家に泊まっていたのだ。

 

「何か抱えているんでしょ、私に何ができるかはわからないけど力になれることなら何でもするからさ」

 

「・・・ありがとう、でも大丈夫・・・」

 

それだけを言って茜はフラフラと横に倒れた木に座り込む。

 

どうしても親友の支えになりたいと茜に近づこうとする花蓮だが肩を掴まれ歩を止める。

振り返るとそこには白井咲子が居た。

 

「あなたは、確か・・・」

 

「白井咲子だよ鮎ヶ瀬花蓮。すまないがそこにいる櫻田茜と個人的な会話がしたい、少し外して欲しいのだが?」

 

「え?でも、茜は今とても人の話を聞けるような状況じゃないのよ」

 

「だとしても彼女に言わなきゃいけないことがある。頼む、私には時間が無いんだ・・・」

 

切羽詰まった様子を感じた花蓮は茜の事を白井に任せ遠くへと去っていく。

 

「・・・白井さん?」

 

「しばらくぶりだな、櫻田茜」

 

白井は茜の隣に座り、ある事を伝える。

 

「突然だが昴は今、困難に立ち向かっている。バーニングシンドロームとやらではないもっと重大な事だ。君には彼の助けとなって欲しいのだ」

 

白井は茜に携帯電話を見せる、その画面には地図と赤い点が写っていた。

 

「これで昴の居場所はわかる。今すぐにでも昴の所へ行き彼に協力してやってくれ。これは君にしか出来ないことだ」

 

そう言われても茜は頭を上げようとしない。

 

「本当に、私でなければいけないの?」

 

「何故そう思う?君と昴は家族ではないのか?」

 

「だからこそだよ、私では昴の力にはなれない気がするの・・・」

 

あの時の昴の言葉は未だに胸に突き刺さっていた。

 

『俺に触るなっ!』

 

あの時の昴の顔を見て茜は昴がまた危険な事に巻き込まれていることを確信した。だが同時にそれに自分を巻き込ませないように声を荒げたのも理解できた。

だからこそ心が痛いのだ。秘密を知った今でも自分は昴にとって守られる存在であり続けている。

以前昴は無事でいることが自分の支えになると言った。だがそれはこっちに来るなと案に言っていたのだ。危険な目に合うのは戦う力がある自分だけでいい、力の無いお前は下がってそれをただ見過ごしていろ、そこまで考えていはいないのだろうがそれでも茜はそう感じてしまっていた。

 

(だから私は関わらない方がいい、勝手に出しゃばったら昴の足を引っ張ることになってしまうかもしれない・・・だから・・・)

 

「私は昴の力になることができない、と言いたいのだな?」

 

「そうだよ・・・って、えっ?」

 

心を読まれ茜は今までの暗い顔から一転、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

 

「だが私は君の都合に構ってやることはできない、今私が頼れるのは君しかいないからだ、せめてそれを受け取ってくれ。どうするかは君に任せよう・・・もう一度言うがこれは君にしかできないことだ、昴の表と裏の両方を知っているただ一人の妹である君にしかな・・・」

 

白井の説得が効いたのか、それとももう白井と話したくないのか茜は黙って携帯電話を受け取り空へと飛んで行った。

 

「頼むぞ・・・」

 

祈るように空を見上げる白井。その耳にサイレンの音と多くの足音が聞こえるが白井は動じない。もう覚悟していたことだからだ。

 

「・・・時間切れか」

 

刑事と思われる男が白井の前に立つ。

 

「君が白井咲子、監視カメラにハッキングした犯人だね?」

 

「ああそうだ」

 

「・・・なら、今私がしようすることはわかるね?」

 

刑事に問われた白井は両手を刑事の前に差し出すことで答えを示す。

そして刑事はその両手に手錠を掛けた。

 

「午前10時52分、白井咲子をハッキング容疑で逮捕」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは?」

 

秋原斗真は目を覚ますと見知らぬ場所に寝かされていた。

自分は外で気絶していたはずだが目に写るのは空ではなく天井だった。

警戒心を強める斗真だが聞こえてきた仲間の声で警戒を解く。

 

「秋原、起きたか」

 

「弥生か・・・ここはどこだ?」

 

「六野さんが住んでいるアパートの部屋だ、昴を捜索中に火事の騒ぎがあって行ってみたら君が倒れていたのでここまで私が運んできたんだ」

 

事情を説明された斗真は立ち上がろうとするも体の傷は深く倒れ込んでしまう

 

「秋原!?」

 

「急がないと昴が危ない。あいつ今まで見たことのない姿になっていた。強さも桁違いにな・・・」

 

その事を聞いて弥生は手握り締める。

 

「G3システムさえ使えれば今すぐにでも昴の元へと駆け付けて彼を止められるのに・・・!」

 

悔しがる彼女に対し斗真は何故か安堵していた。

 

「いや、正直G3システムが使える状態じゃなくてほっとしたよ・・・」

 

「!?どういうことだ」

 

「あの時真っ赤な姿になったあいつは俺と同じで自我を失っていた。あの状態になったら仲間にだって手加減はしないだろう・・・G3システムじゃ太刀打ちできない」

 

弥生はその言葉を否定したかったが斗真の痛々しい傷跡が信憑性を帯び、言い返すことができなかった。

 

(また・・・私は力不足になってしまうのか・・・G3-Xを使いこなした今でも・・・!)

 

もし、G3-X以上の性能を持つマシンがあるのなら今すぐそれを手に入れたいと思っていた。例えどんなデメリットがあろうとも・・・

 

 

 

 

 

 

 

櫻田昴は曇天の中アンノウンから逃げていた。

もう一度変身すれば再びバーニングフォームになってしまうのではないかという恐れから変身することができずにいる。

 

「ここまで来れば・・・」

 

昴は一休みしようと壁によりかかるが遠くにフィッシュロード達がいるのが見えて舌打ちをする。

 

「ったく、しつこい奴らだ!」

 

再度逃走を謀るがアライパイマが飛び上がってきて目の前で着地し銛を振り回して昴を弾き飛ばした。

 

「ぐあぁぁぁぁ!?」

 

生身の状態で壁に衝突し、息を整えながら立ち上がろうとると今度はセラトゥスが蹴り上げ宙に浮かせる。

アンノウンにいいようにリンチされる昴は最初にアンノウンに遭遇した時を思い出す。

中学に入ったばかりの頃、謎の怪死体を発見した思えば突然怪物が現れ自分の首を絞め始めたのだ。あの時程は本当に怖かった、実際に死ぬ一歩手前でありアギトの力に急に目覚めなければ自分は死んでいたのであろう。その時の恐怖が再び蘇っていた。

 

「だが戦えばあの姿に・・・」

 

昴の葛藤を無視して向かってくる二体のフィッシュロード。

しかしそれを横から飛び出した一台のバイクによって阻まれる。

 

(誰だ・・・?)

 

昴の疑問は乗っている男がヘルメットを外したことで解明される。その男の顔をいやという程覚えている、樹次郎だ。

 

「テメェ!」

 

「ご無事でしょうか昴様。僭越ながらご助力致しましょう・・・」

 

そう言い樹はバイクから降りてフィッシュロードと対峙する。

 

「助力って・・・どういうことだ!?」

 

「そのままの意味ですよ、あなたの代わりに奴らアンノウンと戦います・・・」

 

「何でその名前を知っている!?お前は・・・まさか!?」

 

昴の驚愕の視線に樹は意味深な笑みを浮かべて返す。

 

「はい・・・それではお見せしましょう・・・」

 

樹は古武術のような構えを取った両腕を腰の前に交差する。

すると彼の腰に昴のオルタリングとは違う形状のベルト『アンクポイント』を出現される。

そして樹は昴がよく言うある台詞を呟いた。彼の口から聞こえる筈の無い台詞だ・・・

 

「変身・・・」

 

その瞬間、樹の体を鈍い光が覆い異形へと変化した。

深緑の全身に背中に生える羽根のようなものはマフラーのように風でなびいている。

指には爪が口元には牙が隠れており斗真が変身するギルスよりも生物的な形相だ。

自分が変身するアギトとの共通点は赤い目と六本の角だけだが昴は本能的に自分と近い波動を感知して眼を見開いている。

 

「そういえば昴様は国民からは仮面ライダーアギトと呼ばれているそうですね・・・」

 

変身した状態でも樹の棒読み口調は変わらない。

 

「ならば私もあなた様に肖ってこう名乗りましょうか・・・

 

 

 

 

 

アナザーアギト、と」

 

「アナザー・・・アギト!?」

 

「そうです、私はあなた様と同じアギトです」

 

痺れを切らしたフィッシュロード達がアナザーアギトを狙って襲い掛かる。

左右同時に振りかかる攻撃をアナザーアギトは重心を変えず腕だけを動かしてその攻撃をいなしていく。その様子だけでも昴はアナザーアギトが戦い慣れている熟練の戦士だと見抜いた。

 

「ふぅぅん!」

 

アナザーアギトはアライパイマの銛を奪いそれを使ってアライパイマを昆虫標本のように壁に突き刺し動きを止める。

 

「キシャァァァァァ!?」

 

刺された傷みで絶叫上げるアライパイマを見てもアナザーアギトは銛を動かして傷口を抉っていく。その背をセラトゥスが殴り掛かるも裏拳を当て弾き飛ばす。

 

「はぁっ!」

 

標的をセラトゥスと見定めたアナザーアギトは次々と重い拳をセラトゥスの全身に確実に叩きつけていく。

 

「とぉぉぉっ!」

 

今度は満身創痍のセラトゥスの頭と腰を掴み上空へと放り投げる。

竹とんぼのように回転しながらセラトゥスは地面に激突しよれよれで立ち上がるのを見たアナザーアギトは止めの動作へと移行する。

 

「はぁぁぁぁ・・・・・」

 

口元のクラッシャーが開き牙が剥き出しになると地面に緑色の紋章が浮かび上がる。

構えと連動してその紋章が両足へと集約されていく。

そしてアナザーアギトは大地を蹴って飛び上がった。

 

「むうぅん!!」

 

必殺の『アサルトキック』が炸裂しセラトゥスは頭に輪を浮かべて爆発四散するのを昴は固唾を飲んで見つめる。

 

「桁違いの強さだ・・・」

 

アナザーアギトは突き刺さったアライパイマの銛を引き抜き顔面に剛拳を叩き付け壁ごと粉砕した。

そしてアナザーアギトは振り返りこちらを見据える。

 

「そこまで睨まないでください昴様、私と昴様は同じアギトではありませんか・・・」

 

「黙れ、お前は一体何なんだ?その力を持ったお前の目的は何だと言うのだ!町中を混乱させてまでやることか!!」

 

強い剣幕で叫ぶ昴に対してアナザーアギトは依然平静を崩さない。

 

「既に答えは出しているつもりなのですが・・・私は先程あなた様の仮面ライダーアギトに対してアナザーアギトと名乗りましたね」

 

「それが、どうした?」

 

「では何故、私が『仮面ライダー』と名乗らなかったのを理解できますかな?」

 

「・・・どう言う意味だ」

 

「簡単な事ですよ。仮面ライダーは人間が付けた名前です。そんな愚か者共が付けた名を背負ってまで人間を守る気はありませんからね・・・」

 

「人間が愚か者だって?それならお前も愚か者の一人じゃねぇか!!」

 

「違いますよ私は・・・いや、()()は人間とは違う。アギトは種なのですよ。あなた様ならわかりますよね、アギトの力を持った王子・・・」

 

「っ!?」

 

仮面越しでも樹の禍々しく歪んだ顔を昴は察知し震え上がる。

 

「私の目的はただ一つ・・・」

 

そして樹は昴に語った。このような悪事を重ねてまで成し遂げようとしている事を

 

 

 

 

「あなた様に王になって頂くこと。そしてこの国をアギトである昴様のお力でアギトの国へと作り変え、やがては世界に攻勢を仕掛け支配し世界そのものをアギト一色に塗り替えることです!!」

 

それは世界征服とも言い替えれる果てしない野望であった。

 

「それで・・・そうなったとしてお前がいうアギトの力を持たないただの人間はどうなる」

 

「当然アギトが支配する世界なのですからそれを最下層で支える奴隷となるでしょう・・・」

 

「ふざけるなっ!!」

 

昴は気が付けばアギトに変身しアナザーアギトに殴り掛かっていた。暴走の危険性など今の昴にとって些細な事でしかなかった、目の前にいる悪党を倒さねば、姉どころか世界中の人を不幸にしかねない。

 

「そんな世界は絶対作らない!作らせるものか!アギトが種なら俺は、この力を共存の為に使う!アギトも人間も手を取り合ってどちらも笑って暮らせる世界にしてみせる!!」

 

アギトが決意を込めて固めた拳をアナザーアギトは軽々と片手間で払う。

 

「素晴らしいお言葉ですね。だがそれは現実を知らず綺麗事だけを呻く童の言葉だ。そんなものでは世界は動かせませんよ」

 

腕を掴みアナザーアギトは顔を近づけアギトに語り出した。

 

「世界各国を渡り歩き私は見てきましたよ、アギトに目覚めた者達の悲惨な現状を。ある村の少年は悪魔として殺される寸前だった、ある町の老人は息子や孫に敬遠され孤独に死んでいった、ある都市の少女はその力を持っただけで醜い大人どもよって体の隅々まで調べつくされモルモットのように扱われていた・・・」

 

「おい・・・」

 

「これが人間の本性ですよ、人間は決してアギトを受け入れない。害虫のように駆除するか家畜のように飼うかの二択でしょうね・・・ならば、先に我々が打って出ましょう。アギトが平穏に生きるには人間を支配するしか方法はありません」

 

「黙れ!そんな嘘には惑わされないぞ!今まで散々人を騙してきたお前の事だ、その話だって全部まやかしなんだろ!!」

 

アギトの言葉にアナザーアギトは笑い始める。

 

「正に子供の理論ですね、都合の悪い事実に目を背け自分にとって都合の良い事実をさも真実であるかのように捲くし立てる。これらの話は全て私の目で見てきた実話ですよ・・・ああそうそう、もう一つ言い忘れていましたねアギトの力を得てしまって不幸になってしまったものが・・・」

 

そしてアナザーアギトはアギトに向けて指を指した。

 

「ある国の王子は家族に力を隠し、かりそめの平穏を得ている・・・あなたの事ですよ、昴様」

 

「何だと・・・!?」

 

アギトは一度アナザーアギトから距離を取って身構える。

昴は気持ち悪い感覚に襲われた。自分すら認識していなかった心の奥底を覗かれている気分だ。

 

「昴様、何故あなたはご自分のお力を家族にお隠しになるのでしょうか?アンノウンとの戦いに巻き込ませない為?大切な家族が傷つくのが嫌だから?戦いが終われば全てを話すつもりでいるから?今まではそのような美辞麗句を並べて言い訳なさってきたのでしょうね・・・」

 

昴は何故か言い返さなかった。いや、言い返せなかった。

沈黙する昴に対し樹は少しづく自分の元へ踏み込んでいく。物理的に、精神的にも。

 

「あなたは本当は恐れていたのではないですか?もしも家族に自分の力を受け入れてもらえないのではないかと・・・」

 

「黙れ・・・」

 

「一人でも自分の力を受け入れない者がいたらと思うと夜も眠れなかった」

 

「違う、そんなことはない・・・」

 

「あなたの秘密をご兄弟が気付かれたら、どのような反応をするのでしょうね、予想して差し上げましょうか?」

 

「やめろ・・・」

 

「何故拒むのです。やはり怖いのですね、自分の力を兄弟達に否定されるのが」

 

「黙れ・・・!」

 

震えた声で昴は叫んだ。これ以上樹に心の最深部に抱えた恐怖を言われる前に昴は心を捨てた方がましだと考えた。

 

(もうどうなってもいい!あいつを黙らせることができるのなら、俺はあの力をもう一度使う!!)

 

喉が裂けんばかりの叫びを上げ、昴は再びバーニングフォームへと変身する。

動くマグマのような姿を見て樹は慄くどころか歓喜する。

 

「この力のオーラ・・・『彼』が変身したバーニングフォームと同等・・・いや、それ以上だ。素晴らしい、さぁもっとお見せ下さい!あなたのアギトとしての本性を!!」

 

意識を失った昴に樹の声が届かなかったが、アギトは目の前の敵を葬ろうとアナザーアギトに目掛けて拳を放って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「昴がいるのはこの辺だよね・・・」

 

櫻田茜は白井から受け取った携帯を手に持って歩いていた。

自分に何ができるかはわからない、でも何もしないよりは良いだろうと思い昴の所まで行こうと決心したのだ。

 

「少しは、昴の為にできることだってある筈だよね・・・」

 

確信の持てないまま茜が歩を進めると目の前にそれがあった。

 

赤色と緑色の異形が戦っていたのだ。

よく見ると赤色の異形は昴の変身するアギトに酷似していた。

 

「どういうことなの?」

 

状況が飲めずその場に立ち尽くしている茜。

赤の異形、アギトバーニングフォームは炎に包まれた拳で緑の異形、アナザーアギトを殴ろうとするが躱され代わりに後ろの壁が粉々に粉砕される。

 

「ウオオオオオオ!」

 

アギトはやみくもに手を振り回しアナザーアギトを襲うがそれを全て躱され足払いを受けて地面に転がってしまう。

 

「その剛腕も、当たらなければ恐れるに足りませんね・・・」

 

アギトは立ち上がって突進するもアナザーアギトによって闘牛士の如く流れるような動きでいなされる。

 

「フゥゥゥ・・・!」

 

視界から消えた敵を探そうとあたりを見渡すアギトはふとその戦いを見ていた茜と目が合う。

 

「昴?昴だよね・・・?」

 

茜の問い掛けに答えずアギトは近づいていく。今のアギトに判断能力はなく目に写るもの全てが敵と認識していることを知らず茜はアギトに駆け寄ってくる。

 

「オオオオォォォォォォ!」

 

雄叫びを上げて振るわれたアギトの拳が空を切り茜の顔の僅か横に空振る。

 

「え・・・どうして・・・?」

 

疑問に答えることなくアギトは目の前の茜を敵だと思い込んでもう一度拳を構える。

 

「止めてよ昴!私だよ!聞こえないの!?」

 

茜は必死に呼びかけるがアギトは答えない。暴走している彼に茜の言葉を届かない。

 

「ねぇ・・・どうしちゃったの?」

 

アギトはゆっくりと拳を茜の顔に合わせていく。

 

「嘘だよね・・・」

 

やはりアギトは答えず、茜は思わず目から涙を流れてしまう。

それでもアギトはお構いなしに茜の顔目掛けて拳を放った。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

顔を襲う直前、茜の涙がアギトの腕に当たった。僅かな滴はアギトの腕によって蒸発したがそれに反応してかアギトの拳はギリギリの距離で止まった。

 

「あ・・・か・・・ね・・・?」

 

「っ!?」

 

か細い声が聞こえ一瞬の内にアギトは昴の姿に戻り意識を取り戻した。

たった今刻んだ最悪の記憶と共に・・・

 

「なんで・・・俺は茜を敵だと・・・」

 

昴の目の前にいる茜は脅えていた。脅えた視線を向けたまま後ずさり何も言わずに走り去っていくのを見て昴は膝から地面に崩れ落ちた。

 

「俺は・・・何てことを・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

暴走して茜を殺す寸前になってしまった事実に昴の心は崩れ始めていた。

 

「これで、はっきりしましたね。アギトと人間は相容れないものだと」

 

崩れ始める昴の心に樹が追い打ちを掛ける。

 

「アギトの本質は火、触れるものは家族であろうと焼き尽くす。もうあなたは人の世界で生きていくことはできませんよ、あなたの道はただ一つ、私と共にアギトが支配する世界をつくる事です。」

 

「それが狙いかよ・・・俺に力の暴走を促して家族の中を引き裂く。そういうことだったんだな・・・」

 

「はい、そして見事に成功しました」

 

起き上がる気力も失った昴の前に樹は紙切れを落とす。掴んでよく見るとそれは簡略化された地図だった。

 

「そこに書いてあるこの町の港の中にある今は使われていない倉庫の一つが私の隠れ家です。アギトの王になる決心ができ次第こちらへ来てください。いつでもお待ちしておりますので」

 

それだけを言い残して樹は立ち去り、昴は再び絶叫した。

 

(もう、俺に帰る場所なんてないんだ・・・)

 

 

 

 

 

場所は変わって無人となったGトレーラーの中で弥生は一人佇んでいた。

彼女は何故自分が昴や斗真程の力が持てないでいるかに悩んでいるのだ。

 

(何故私と彼らの差は広がる一方なんだ・・・彼と何が違うというのだ!同じ人の命を守ろうとする者同士なのに・・・命?・・・生きること・・・その逆は・・・)

 

その時、自分の思った言葉に引っ掛かるものを感じ弥生は気付いた。

 

「そうか・・・私に無くて彼らにあるものは・・・!」

 

答えを口にしようとした時、突然現れた六野が声を掛けてきた。

 

「弥生ちゃん?そこにいたんだ・・・」

 

「あ、六野さん。いや、これはひょっとしたらG3システムがまだ動くんじゃないかと思って・・・」

 

慌てて誤魔化そうとする弥生に六野は単刀直入で問い掛けた。

 

「やっぱり、昴君の所に行くつもりだったの?」

 

「・・・はい」

 

その強い覚悟の視線に思わず六野は目を逸らした。

 

(このままだと、弥生ちゃんは生身のままでも行く気なんだろうな・・・僕ができることと言えば・・・)

「ねえ、弥生ちゃん。渡したいものがあるんだけど・・・」

 

六野はポケットからある物を取り出した。それはG3-Xの件に白井から処分しろと渡された黒色のUSBメモリだ。

 

「これ、前に白井ちゃんから捨てろって言われてこっそり持ってたものだけど・・・多分G3-Xとは別の新スーツのデータが入ってるんじゃないかな?」

 

「本当ですか!?」

 

早速メモリを端末に差し込むと画面には未知の装備に関する情報が写っていた。

画面を見る二人の表情はそれぞれ真逆の反応を示していた。

 

六野はこんな恐ろしい物を今まで自分が持っていたのかと思い顔が青ざめて絶句している。

 

 

だが、弥生の表情はとても晴れ晴れとしたものだ。

 

「これだ、この力だ、これさえあれば私は彼らに追いつく事が出来る!この・・・『G4システム』なら!!」

 




遂に判明しました樹の正体アナザーアギト
この事について詳しく補足説明させて頂きます。
まず彼が語っていたアギトの力の待つ者の現状ですが。冒頭に書いてある通り嘘ではなくあちらの世界で本当に起こっている事態であります。
そして彼は少年を助け出し、老人を看取り、少女を自由の身にしたりと様々な形で彼らを救ってきました。いわば彼は『アギトの味方、人間の敵』というわけです。
このようにアギトが人間に虐げられる場面を何度も見てきた彼は人間はやがてアギトを滅ぼそうとするのではないかと考え、種を守る為先にこっちから攻めて人間を滅ぼしてしまおうという考えに至ったというバックストーリーがあります。
とはいえ彼の行いは許されるべきものではなく憎むべき悪党であることには何の変わりもありませんが一応こういう過去があったという事だけを言っておきます。
言い訳みたいな長文を書いてしまいすいませんでした。それでは次回をお待ちください

PS、お気付きでしょうか、弥生の苗字が『四』葉だということに・・・

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