城下町のAGITΩ   作:オエージ

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第33話 交錯する想い

昴は逃げていた。突然周りの人間は昴を見るや否や追いかけてくるのだ。

 

(なんで皆俺を追いかけてくるんだ!?)

 

ウイルスで侵されながらも昴の身体能力は健在で今も後ろの追手から距離を引き離し路地裏へと駆けこむが前の方からも自分を探す声が聞こえ挟まれてしまう。

 

(駄目だ!俺に近づいちゃ駄目だ!何故なら俺は・・・!)

 

追いかけていた者達が昴が逃げ込んだ路地裏へと向かうが昴の姿は消えており別の場所に移動したと解釈してそこから居なくなっていった。

 

「何とかやり過ごせたみたいだな・・・」

 

昴は近くのマンホールに入り下水道へと逃げ延びていたのだ。今は荒れた息を整えるために座り込んでいた。

 

「とにかく今は逃げないと、幸い下水道には監視カメラもないか・・・」

 

立ち上がり異臭に耐えながら昴は奥へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

「うぅ・・・」

 

葵が目を覚ますとそこが見知らぬ場所であることに気付く。

室内のようだが薄暗くて部屋の全貌はわからず、手足は座っている椅子に縛られ立つことも出来ない。

 

「お目覚めですか・・・?」

 

暗がりの中から樹が現れ葵はここが彼の隠れ家であることを察する。

 

「計画の邪魔をさせない為に葵様を拘束させて頂きました。ですが、このまま拘束が長引けば私に疑いが生じてしまう。ですので葵様には一度櫻田家に赴いてしばらく家を離れると説明してもらいます・・・」

 

「そんなこと、承諾するわけないじゃないですか」

 

「いや、あなたは承諾しなければならない。何故なら・・・」

 

樹が懐から三枚の写真を取り出す所を見て葵は嫌な予感がし、写真を見せられ予感が現実のものとなってしまう。

 

写真に写されている三人は葵の親友の卯月、奈々緒、静流であった。

 

「どうして三人の事を・・・!?」

 

「私はこの計画を入念に準備してきました。櫻田家のご兄弟の交友関係は熟知していますよ。試しに述べましょうか?まずは左の写真の彼女の事ですが・・・」

 

樹が説明しようとするのを葵は叫んで止める。

 

「止めて!彼女達は無関係よ!」

 

「それはあなた次第です。ご友人を巻き込みたくないのであれば従ってもらえますよね?それとも友人より家族が大事でしょうか?」

 

「そんなの・・・選べるわけがない・・・」

 

樹の言葉に葵は苦心しながら承諾せざるを得なかった。

 

(ごめんなさい皆・・・昴・・・!)

 

 

 

 

 

 

「茜っ!」

 

昴を見つけた場所で固まっていた茜は親友の花蓮の声で意識を現実に戻す。

 

「ニュース、見たよ。大変な事になってるようだね」

 

「うん・・・」

 

花蓮は元気が無い様子の親友を心配してると後ろからやかましい声が聞こえてくる。

 

「茜さん!」

 

それは福品を代表としたクラスの面々だ。

 

「福品君?それに、皆も・・・どうしたの急に?」

 

「どうしたもこうもないでしょ!私達も手伝うよ昴の捜索!」

 

「えっ?」

 

既に周りのクラスメイト達は昴を探そうと散り始めている。

何を言ってるのかわからないような雰囲気の茜の肩に花蓮は手を置く。

 

「何ビックリしてるのさ、昴もあんたも私達にとって王族以前にクラスメイトなんだよ。だからこれくらい当然でしょ!」

 

「う・・・うん・・・」

 

花蓮に引っ張られ町を歩き始める茜だが未だに昴のあの言葉が心に強く突き刺さっていた。

 

『俺に触るなっ!』

 

 

 

 

 

 

その混乱は白井達の耳にも入りGトレーラーに集合していた。

 

「おい、見たかニュースを!こいつはやばいぜ・・・!」

 

「ああ、なんとしても昴を見つけ出して助け出さないと!」

 

仲間である昴を救おうとGトレーラーから飛び出そうとする斗真と弥生を白井は呼び止める。

 

「待ちたまえ」

 

その声色は冷たさを感じるほど冷静だ。

 

「もっと視野を広げるんだ。この事件、裏があるに違いない」

 

「証拠はあるのか!?」

 

「それを今から調べるのだから軽率な行動は控えてくれたまえ」

 

二人は白井の冷静過ぎる言動に、白井は二人の直情的すぎる行動に苛立ちを感じていた。

 

「その為に待てっていうのか・・・生憎俺はしつけられた犬じゃあないぜ」

 

「ならちゃんと自分で考えるのだな、今有事の際に必要な事は冷静さだ、一つの情報に惑わされないためにも、な」

 

「昴は今も苦しんでいるんだぞ!それに迷わず助けに行くのが仲間ではないのか!」

 

「仲間だからこそ、落ち着いて動けと言っているのだよ私は」

 

白井は二人を諭そうとするがそれが弥生の気持ちを逆なでさせてしまう。

 

「本当にそうか?落ち着いているのではなく何も感じていないからではないではないのか?あなたには感情の隆起というものが感じられないからな」

 

「・・・今何て言った?」

 

その時、白井の抑制の糸は切れていた。

 

「人の忠告を聞かない上に好き放題に言って、もういい分かった。私は君達を止めるのは諦めた・・・協力するのもな!!」

 

そして白井はコンピューターのあるスイッチを殴るように押した。

すると壁に収納されていたG3-Xのスーツが火花を出した。

 

「今のはG3システムのプログラム破壊作動スイッチだ。これで全G3システムは鉄くずに成り下がったというわけだな」

 

「白井、あなたって人は!」

 

「何をそんなに驚いている?私は君達と絶交したのだ。もう止めやしない。だからここから消えてくれないかこの浅慮な馬鹿共が!」

 

白井は激昂するとこっちから願い下げだと二人はGトレーラーを抜け出して行った。

そして現在この場にいるのは機能停止したG3-Xを眺める白井はオロオロと三人の口論を聞いていた六野だけになった。

 

「君も帰りたまえ」

 

「えっ?」

 

「聞こえなかったか?ならもう一度言うぞ。君も帰りたまえ、もう君をこき使ったりもしない。だからさっさと出てってくれ」

 

後ろ向きの白井がどんな顔をしているのか確かめる勇気は六野にはなく彼女の言葉通りGトレーラーの出口に向かう。

 

「あのさ、最後に一つだけいいかな?」

 

「・・・何だ?」

 

「この事についてだけど、どっちも間違ったことは言ってないと思うんだ、弥生ちゃん達も白井ちゃんも、それだけは言いたかった」

 

六野も去っていったのを確認すると白井は端末に手を当て事件について黙々と調べ始めた。

 

 

 

 

 

 

昴の異常事態は当然家族にも知れ渡り、輝と栞は兄を探すべく外に出ていた。

 

「栞、何か手掛かりは見つかったか?」

 

輝の問いに栞は首を横に振る。

 

「ちょうちょさんやポストさんに聞いてみたけど皆見てないって・・・」

 

「手掛かりは無しか・・・でも立ち止まるわけには行かない、行こう栞!」

 

「うん!」

 

捜索を続けようとする輝と栞だが、突然現れた奏によって阻まれる。

 

「輝、栞、こんなところにいたのね。家に帰るわよ」

 

「姉上!?ですが・・・」

 

「お兄様を助けなきゃ・・・」

 

奏は二人のしゃがんで肩に手を当て諭すように語り掛ける。

 

「あんた達の気持ちはわかるわ。でも事態は思っているより複雑なの。姉さんとの連絡が取れなくなってるし、茜も急にいなくなるし、次なにが起きるかわからない。だから今は抑えて」

 

二人は奏の説得に頷いた。

 

「そう、いい子ね」

 

奏は微笑み二人の頭を撫でていると携帯の着信音が鳴った。

内容を確認してみるそれは、

 

「姉さんが帰ってきた・・・?」

 

 

輝と栞は連れて家に入るとそこには昴と茜を除く兄弟達がリビングに集合していた。

 

「姉さん、今までどこ行ってたのよ!?電話しても繋がらないし!」

 

「ごめんね奏、事情が事情だったから・・・」

 

一応今来れるメンバーは揃ったということで葵は樹に指示された通りに説明し始めた。

 

「しばらくの間、樹の先生の所に泊まる事にしたの。バーニングシンドロームついてまた別の罹患者が出ても大丈夫なように症状や治療法について記録させる為に私の完全学習が必要なんだって・・・」

 

葵に説明に奏は反論する。

 

「単に記録させる為なら姉さんじゃなくても他の人間でもいいじゃないの?」

 

「先生は情報伝達は正確なものでなくてはならない。ましてや生命に関わる医療に関してはより細心の注意を払わなければならないって言ってわ。だから一字一句の間違いもないように完全記憶能力を持つ私に聞いて欲しいみたい」

 

「なるほど、確かによくできた口実よね」

 

「奏?」

 

奏の言葉に葵だけではなく周りも困惑する。

 

「もうこの際だからはっきり言っておくわ。姉さん、あんたあいつに騙されてんじゃないの?」

 

その言葉に葵は焦燥を一瞬の間だけ見せながらも平静を取り繕う。

 

「何を言ってるの奏?そんなことはないわ・・・」

 

「そんなこと『は』ない、ねぇ・・・」

 

「おい奏、お前、何が言いたいんだ?」

 

「修は黙ってて!」

 

奏の怒号が響き、周りがしんと静まると奏は葵に掴みかかり問い詰める。

 

「姉さん、何を隠しているの?」

 

「な、何も隠してなんかないわ・・・」

 

「とぼけないで!知ってるんでしょ?今何が起きてどう転がっていくのかを、それを教えてよ!そうしてくれないと私何をすれば良いのかわからないのよ!!」

 

修は奏を一旦落ち着かせようと手を伸ばすがそれよりもさきに葵が動いた。

 

「・・・なんでも・・・ないのよ!」

 

奏の手を勢いよく払い兄弟達の前に立っている葵の目尻には涙が浮かんでいる。

 

「本当に、なんでもないから・・・私は大丈夫だから・・・皆には心配を掛けさせてしまうかも知れないけど、きっと戻ってくるから・・・だから・・・ごめん!」

 

そのままは葵は逃げるよう家を去り、家の中には状況が飲めず沈黙してる奏たちがいた。

 

「と、とにかく」

 

長男の修が口を開き周りは修に注目する。

 

「これからのことについてだが昴を見つけ出すのを優先したいと思う。姉さんの事も気になるが昴に関しては命に関わる事だからな、奏、それでいいか・・・」

 

「・・・うん」

 

修の言葉もあって兄弟達は昴を探すために奔走することになった。

家を出る際、遥は足に違和感を覚え、下を見下ろすと何かを踏んでいることに気が付いた。

 

「これは・・・」

 

拾い上げるとそれは葵の服についていたボタンだった。先程奏を振り払った拍子に取れてしまったのだろうか。

 

「遥ー、行くよー」

 

「あ、うん」

 

岬に呼ばれボタンをポケットにしまい家を出て行った。

 

 

 

 

「ご苦労様でした。これでしばらくの間彼らは昴様捜索に目を向けてこちらに対する警戒を薄めることに成功しました。それでは隠れ家に戻りますので失礼します・・・」

 

そういいカメラの死角で監視していた樹は葵に目隠しをして車に乗せて走り出した。

 

(皆ごめん。でもこれしか手は無いの。家族を、親友を巻き込ませるなんて私にはできない・・・)

 

あの時、問い詰めてきた奏に真実を話そうかも考えていたが真実を知れば彼らは自分を助ける為に動いたのであろう。だがそれによって樹次郎との衝突は避けられないものとなってしまう。

この男はこの計画に為に自分の全てを懸けていると言った。それほどまでの執念を持っているからこそ自分を脅し、昴を追い詰めているだろう。この異常なまでの執念が他の家族に向いたらどうなってしまうのだろか。それが恐ろしくて彼女は真実を言うことができなかったのだ。

しかし、そこまでの執念を持って彼がやり遂げようとするものは何なのだろうか?

それを知っているのは恐らく樹だけであろう・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう、追ってこないか・・・」

 

日が沈み暗くなった公園に昴は木を背によりかかっていた。

じめじめとした下水道でいつまでもいるのは余りにも息苦しく夜の間だけでも外の空気を吸おうと監視カメラの無い公園で身を隠していたのである。

 

「どうすればいいんだ?このまま逃げたってやがて俺は・・・」

 

昴は現在の状況を例えるとしたら砂漠の中で遭難しているようなものと感じていた。

動こうにもどこに行けばいいか分からずただ時間だけが過ぎていくゴールも道筋もわからない今ではただ自分を追ってくる人々から逃げ回るしかないのである。

そんな昴に追い打ちがかかる。またもや体が痺れ始めたのだ。

 

「うがっ!?」

 

不衛生な下水道の中に長時間立て籠もっていたことも災いし症状は今まで以上に悪化し昴はのた打つ体力すら残されておらずただゆっくりと木からずり落ちた。

 

「こんな・・・ところで・・・!」

 

気迫だけではどうにもならず昴は前に人の影を感じた瞬間プツンと意識が途切れた。

 

 

 

 

 

 

「う・・・」

 

昴が目を覚ますとそこは見覚えのある風景だった。Gトレーラーの中だ。

 

「起きたか・・・」

 

白井の声を聞き起き上がると予想通りそこには白井咲子が立っていた。

白井は手に持っていた袋を昴の元へと無造作に投げ渡す。中身を見るとありったけの食べ物と飲み物が入っていた。

 

「食べたまえ、機械にも生き物にもエネルギーの補給は必要不可欠だ。病は気からとよく言うだろ?」

 

しかし昴はありがたいという気持ちよりも自分の体のウイルスについての懸念が勝った。

 

「白井・・・どうやって俺を運んだんだ?」

 

「決まってるだろ、君をここまで抱えてきたんだ。感謝したまえよこの私が他人の為に肉体労働を行ったことに・・・」

 

「なんだって!?じゃあお前の体にも移ってしまったのか・・・!」

 

「君は何を言っているのだ?」

 

昴は樹が言っていた自分の体に入っているウイルスについて話すと白井は鼻で笑った。

 

「君にはそう嘘を吹き込んでいたのか」

 

白井はコンピューターのモニターから昴が病院を抜け出したことに関するニュースを昴に見せた。

 

「このニュースはテレビラジオネットあらゆる情報媒体によって国中に広まっている」

 

「俺を追いかけてきたのはこれが原因か、でも何で・・・まさか・・・!」

 

昴は樹の狙いを予測する。

 

「あいつの狙いは俺に仕込んだウイルスを国全体に感染させる気だったのか!?」

 

「なるほど、バイオテロか・・・だがその線はないと思うぞ?」

 

「なんでそう言えるんだ?」

 

「樹とやらはそのウイルスは触れただけ感染すると言ったのだな?だが私を見たまえ、自分で言うのアレだが私は虚弱体質だ、風邪を引いただけでも即死する自信があるぞ。そんな私が君に触れてもこうして生きているのだよ。それによく考えろ、こうやって全国民に大層なホラを吹いた男だぞ、君に対してだけ正直だなんておかしいじゃないか?」

 

確かに白井に体に異変はなく感染力がないウイルスだということを認識するがまた別の疑問が浮き上がる。

 

「じゃあなんであいつはそんな嘘を?」

 

「恐らく君を他者から引き離すためだろう。今まで逃げ回っていたのは移させないようにだからだろ?」

 

では何故自分を孤立させようとしたのか、さらなる疑問が溢れ頭が破裂しそうになる。

 

「今の段階では奴の狙いはわからない、だから今わかる情報を把握しておいた方が良い」

 

そういって白井は端末から別のニュースを見せる。そこには葵がバーニングシンドロームの記録の為に家を離れると書かれていた。

 

「おい・・・これって・・・」

 

「十中八九、人質だろうな」

 

それを聞いて飛び出そうとする昴を白井は手を掴んで止める。

 

「どこに行く気かね?」

 

「決まってるだろ、姉ちゃんを助けに行くんだよ!!」

 

「どこにいるのかわからないのにか?」

 

「う・・・それは・・・」

 

下手に動いたら樹を刺激してしまうかもしれないということを考え昴は足を止める。

 

「とりあえずまずは食べたまえ、食べて体力を回復してそれから考えるんだ」

 

「あ、ああ・・・」

 

白井の言葉通り昴は白井が持ってきた食糧を呑み込むように食べ始める。

 

「ところでさ・・・」

 

喉に詰まったパンをペットボトルに入った水で飲みこみ白井に問う。

 

「なんでお前はニュースを見たときそれを嘘だと見抜いたんだ」

 

「見抜いたわけではない、怪しいと思ったから調べていただけだ」

 

「そうか」

 

食べ終えた昴は立ち上がる。

 

「で、どうするか決めたか」

 

「俺の答えは変わらないさ、姉ちゃんをあの野郎から救い出す!」

 

「それがどれほど困難かはわかった上で言っているのだろうな?言い忘れていたが秋原斗真と弥生は奴が流した嘘を信じきっている、君の兄弟達だってほとんどがそうだろう、謂わば君は私以外の全てから追われている身となっているのだぞ」

 

「ああ、わかってる。だけど家族が囚われてるんだ。誰が来ようとも俺は立ち止まるわけには行かない。転がってでも這いつくばってでも前に進んで樹の野郎に一発ブチ込んでやる!」

 

「計画性の無い君らしい答えだ。だからこそ私は手を貸そう」

 

白井はコンピューターのパネルに手を当て何かを作動し始める。

 

「何をやってるんだ?」

 

「妨害電波を発生させている。これで町中のあらゆるカメラは今から24時間の間ストップする。その内に君は櫻田葵が攫われている場所を見つけ出すんだ」

 

「おいちょっと待て、24時間!?そんな長い時間妨害電波を垂れ流しにしたら・・・」

 

「逆探知で特定されるだろうな、流石に今度という今度は私も年貢の納め時か」

 

昴はどうにか妨害電波を止めようとパネルを叩くが変化はなかった。

 

「無理だよ、一度起動したら24時間経つまで止まらない仕組みになっているんだ」

 

「待ってくれよ!そしたらお前は二度と外には出られなくなるかもしれないんだぞ!」

 

仮にも国が王族の安全保持の為に設置した監視カメラをハッキングしているのだからこれが露見すれば白井は重犯罪者となり一生檻の中に閉じ込められてしまうかもしれないのである。

 

「だったら話は簡単だ、今すぐにでも樹を見つけ出して櫻田葵を救え。成功すれば君はお姫様を救った王子様として称えられ支持率は揺るぎ無いものへと変わるだろう。そして王になってその権限で私を釈放すればいい」

 

「なんで、そんな覚悟が出来るんだよ。何がお前をそこまでさせるんだよ・・・?」

 

その問いに白井は答えた。それは捻くれた性格の彼女らしからぬ答えだ。

 

「友達、だからさ」

 

「え?」

 

「君は前に言ったじゃないか、『俺がいる、弥生がいる、六野さんもいる。お前は一人なんかじゃない』と」

 

白井は自分の思いを昴に話した。

 

「私は両親から愛されたことは一度もなかった。祖母は私の才能に目を付けていたが今思えばあれは家族という関係とは呼べるものではなかったな・・・」

 

言うなれば教師と生徒のようなものだったと白井は語った。

 

「私は誰からも愛を受けずに成長し当然、友もいなく孤独だった、それを変えたのは君との出会いだ」

 

「最初はただの興味でしかなかったが君と接していく内に人と関わることの楽しさに気付かされた。自分とは違う姿、違う考え、価値観、わかりきっていたことがこれほど尊いものだとは触れて初めて感じた」

 

「気が付けば私の周りには多くの人達がいた。四葉弥生、秋原斗真、六野隆弘、櫻田茜・・・もっとも前者二人は少し前に仲たがいしてしまったがな・・・」

 

「私自身には友情というものがどういうものなのかはわからない、だから君の行動から分析し、友の為にどこまでも尽力できるものと私は解釈させてもらった」

 

白井は話している間にガードアクセラーをガードチェイサーに差し込み起動させる。

 

「さぁ行きたまえ。君の大切な家族を助ける為に、そして私を救い出せ、仮面ライダーアギト!!」

 

昴はその声に返事はしなかった。言う時間も惜しいのもあるがなにより言わなくても心が繋がっている確信があるからだ。

 

ガードチェイサーに跨った昴は真夜中の街を駆け抜ける。

大切な家族と友人を救う為に命を懸けて、その後ろ姿を白井は笑顔で見送った。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、その姿を見つけた者がいた。

 

「見つけたぞ・・・!」

 

秋原斗真である、親友を助ける為に彼は夜になった今もバイクを走らせ捜索していたのだ。

 

(あいつがいなければ俺は自分の力に飲まれていた・・・今度は俺があいつを救う番だ!!)

 

斗真は昴を追ってアクセルを回した。

今、この城下町は昴を中心に大勢の善意と一つ悪意が混ざり合い様々な想いが交差し乱れ、嵐が吹き荒れ始めていた・・・

 


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