城下町のAGITΩ   作:オエージ

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この小説はアニメ基準(カメラは2000台、選挙期間は一年間等)で話を進めていますが今回から原作での設定や原作限定のエピソードも少しだけ入れる予定です。
そのためアニメと時系列が微妙にずれることになりますのでご了承ください。
ちなみに二部の季節は夏という設定です。夏っぽい話はないけど・・

それではどうぞ!


第27話 昴のお料理大作戦!?

突然だが櫻田家にはある決まり事がある。

それは年長組の五人がくじを引いてその札に書いてあった家事を担当するというもののである。

そして今週も家事の当番を決めるためのくじ引きが行われようとしていた。

 

(買い物は嫌買い物は嫌買い物は嫌・・・)

 

極度な人見知りの茜は外に出ることになる買い物当番になることを非常に恐れている。買い物当番以外なら他の当番を全部やってもいいほどにである。だが現実は過酷だった。

 

「また買い物だー!?」

 

櫻田茜、連続買い物当番記録更新。

 

「もういい加減慣れなさいよ。あ、私は洗濯か」

 

「俺は掃除みたいだ、姉さんはどう?」

 

「私は休みだわ」

 

「休みは姉さんか・・・あれ!?」

 

くじの内容は5つ。

買い物、掃除、洗濯、料理、休み。

この中で出ていないくじと当番が判明していない人物と言えば・・・

 

「す、昴。あんたの当番は・・・」

 

恐る恐る奏が尋ねると昴はくじの札を見せて言った。

 

「料理だってさ」

 

その言葉を聞いた瞬間、修と奏と茜はおもわず一歩引き下がる。

 

「やり直しだ!くじのやり直しを要求する!」

 

「おいおい、どうしたんだよ兄貴?掃除がそんなに嫌か?」

 

「いいからもう一回!もう一回だけ!」

 

「しょうがないなぁ」

 

こうしてくじ引きはもう一度行われた。

 

「なんでまた買い物なのぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

「お前ホントくじ運ねえな。あ、俺もまた料理だ」

 

「「なんでぇぇぇぇ!?」」

 

結局くじを再開しても変化はなかった。

 

「何をそんなに騒いでんだ?どんだけ掃除が嫌なんだよ?」

 

「掃除が嫌なんじゃなくてお前が料理することが嫌なんだよ!」

 

「はぁ!?」

 

面食らった昴を尻目に修、奏、茜の三人は緊急会議を始める。

 

「恐れていたことが遂に起きたな・・・」

 

「昴が料理当番になるということがね・・・」

 

「まずいよこれ、このままだと王家の血統が断絶しちゃうよ!」

 

しかしそれは昴に丸聞こえであった。

 

「おいおいおい!俺のことを料理下手な奴みたいに言うなよ」

 

「「「そう言ってんの!」」」

 

三人は一眼となって昴の料理当番を阻止しようとする。

 

「大体、お前料理したことあんのかよ?」

 

「あるよ、ラーメン作ったことあるよ」

 

「マジで!?(こいつに料理をするだけの知能があったのか!?)」

 

前に知恵の輪を強引に力だけで解こうとする姿(遥曰く原始人だってもっと知恵を使う)を目撃したことがある修は驚愕した。

 

「ああ!3分あれば余裕だぜ」

 

「カップ麺じゃねえか!!」

 

やはり原始人以下の知能のようだ。

 

「でも俺料理できそうな気がするんだけどなぁ・・・」

 

「何その自信!?どこから来るのよ!?」

 

「まっ、オリーブオイルさえあれば何とかなるさ」

 

「なるわけないでしょ!そもそもオリーブオイルのこと絶対わかってないよね!?」

 

「知ってるよ。オリーブの油だろ」

 

「頭の悪さが滲み出た解答キター!」

 

昴のこの様子だとハンバーグを作ろうとして物体Xを作りかねない。

 

「悪いことは言わないから当番を茜と変わってやれ。最悪の場合死人が出るぞ!」

 

「そうよ、王家の血を私達の代で絶やすわけにはいかないのよ!」

 

「思い留まってよ!栞はまだ5歳なんだよ!」

 

「お前ら・・・さっきから人を殺人鬼みたいに・・・」

 

ここで今まで黙っていた葵が四人をなだめる。

 

「まあまあ、三人ともこの辺にしといて。昴、今週は私が手伝うからこの機会に料理の仕方を憶えるといいわ」

 

「ありがとう姉ちゃん。でもな、ここまで言われてはいそうですかと引き下がる俺じゃないんだわ・・・」

 

「え?昴お前まさか・・・」

 

修の嫌な予感は的中した。

 

「ここに宣言する!俺は今週、家族の手を一切借りずに料理当番を遂行してみせると!!」

 

三人はガクリと跪き頭を垂れる通称orzの状態になった。

 

(((終わった・・・この国終わった・・・)))

 

まるで死刑直前の囚人のように絶望した顔だったと後に葵は語った。

 

 

 

 

 

 

 

Gトレーラー内

 

「と、言うわけでお前達にも協力して欲しいんだが?」

 

『『え?』』

 

現在昴は白井、弥生、斗真、六野を集めて協力を要請していた。

 

「いやお前さっき家族の手は借りないって言ってたよな?」

 

「ああ、“家族の手”はな。まあ俺も出来れば一人でやりたかったんだけどさ・・・」

 

そう言って昴は持ってきたバックからあるものを取り出した。

 

「・・・なんだこれは?なにかの焼死体か?」

 

「明らかに非合法的な臭いがするのだが?」

 

「これが俺だけで作った料理第1号『卵焼き』だ。これを作るのに家の冷蔵庫の卵全部お釈迦にしたから姉貴に追い出された」

 

「全部無駄にしたってことは・・・これ以下があるのか!?」

 

「最初のころはなんか蠢いていたなぁ」

 

「何を使ったら卵が蠢くの!?」

 

放送禁止レベルの未確認物体を見て一同は昴の天才的な料理の下手さを痛感する。

そして恐る恐る六野は尋ねた。

 

「昴君、ちなみに味はどうなの?」

 

「親父が食べてみたら立ったまま気絶したからわかんないっす」

 

「・・・それで死んだら櫻田総一郎は世界一バカな死因として永遠に記録されるだろうな」

 

とにかくこのまま昴に料理をさせたら冗談抜きで櫻田家が全滅する危険性がある。

 

「まあそういうことで教えて欲しいんだけどさ」

 

しかし、彼らも料理が出来るというわけではないのだ。

 

「焼肉のうまい焼き方なら伝授してやってもいいが?」

 

「いやそれ料理じゃないだろ・・・。弥生はどうなんだ、家で教わったりしないのか?」

 

「すまない、何故か私の家族は私がキッチンに立つことを全力で拒んでくるのだ」

 

「あーなるほど・・・」

 

「なるほどって何を納得したのだ!?」

 

「お前は不器用そうだからな」

 

「不器用ではない!大体何だ料理って!こんなのただ煮て焼けばいい話だ!」

 

トンデモ理論を展開する弥生を放っておいて今度は一人暮らしの二人に尋ねるが、

 

「ごめん、僕、基本スーパーのお惣菜で済ませているから・・・」

 

「俺は先月の夕飯を全部言えるぞ。カップ麺だけだったからな」

 

「え~不健康だなぁ~・・・」

 

「不健康って言うけどな昴。これが一人暮らしの現実なんだよ。金も時間もねえんだよ!」

 

「そういうのはどうでもいいんだよ。俺は何か簡単にできる料理を憶えたいんだよ。何でもいいからさ」

 

「どうでもよくねえだろ!こっちは毎日が死活問題なんだよ!」

 

一人暮らし特有の苦労を力説する斗真だが同じ一人暮らしの六野はあることを閃いた。

 

「カレーならいいんじゃないかな?」

 

「え?」

 

「ほら、割と簡単だし皆小学生の時に林間学校とかで経験もあるだろうからそれなりにうまくいくんじゃないの?」

 

『『え?』』

 

「えっ?皆したことないの!?」

 

何故かポカンとする若者達に年長者の六野は困惑する。

 

「私は入学式と卒業式以外は行かなかったからな」

 

「俺はその時皿洗い担当だったし」

 

「私は皿洗いすら同級生にさせてもらえなかった」

 

「・・・・・」

 

「え!?皆無いの!?」

 

まさかの昴達が未経験だったことに驚く六野だが最後の希望にと斗真に問いかける。

 

「と、斗真君はあるよね・・・?林間学校でのカレー作り・・・」

 

「・・・・・」

 

「斗真君?何でさっきから黙ってるの?」

 

「六野さんそれ以上はいけない」

 

昴が六野の肩に手を置き六野を制止する。その目はとても悲しそうな目だ。

 

「こいつ、出発当日に風邪引いて欠席したんすよ・・・」

 

「え!?」

 

「・・・・・」

 

斗真は何も喋らず虚ろな瞳で六野を見据えている。

 

「あの、ごめん・・・」

 

「あ?何で謝るんだよ?」

 

「え、いや、その・・・」

 

「何でもないのに謝るのか?」

 

「ホントすいませんでした!!」

 

「だから何で謝るのかって聞いてんだよ・・・」

 

「え・・・」

 

「・・・・・」

 

10分程の間Gトレーラー内は氷河期のように凍てついていた。

 

 

 

 

 

白井邸 キッチン

 

気を取り直した一同はとりあえず六野の助言通り、カレーを作ることにした。

のだが経験者ほぼゼロの状態でカレー作りが捗るわけもなく・・・

 

「昴君!?ジャガイモの芽をとってないよ!?」

 

「芽ぐらい大丈夫でしょ」

 

「大丈夫じゃないでしょ!毒だよ!」

 

「毒!?」

 

「知らなかったの・・・?」

 

「いや、初めてなもんで・・・」

 

 

「弥生、その手の置き方だと確実に包丁で指を切るぞ」

 

「忠告はありがたいが指の前にまな板が切れたのだが・・・」

 

「どんな力加減で切ったんだ君は!?ってかよく見たらそれGK-06ではないか!」

 

「さっき使っていた包丁が折れてしまってこれで代用していたんだ」

 

「もういい!君は隅っこで石になってろ!これ以上家の調理器具を壊されてたまるか!」

 

 

「玉ねぎがなんぼのもんじゃいいいいいい!」

 

「斗真君そんな無理に玉ねぎ切らなくていいから!ゴーグル貸すからさ!」

 

「すいませんねぇ、カレー作りは初めてなもんでねぇ!」

 

「やっぱり根に持ってる!?」

 

そのカオスな調理風景を窓から覗く者がいた。

櫻田茜である。

 

(何・・・あれ?)

 

茜は唖然とするがそれと同時に彼らは彼らなりに慣れない作業に四苦八苦しているのだということに感じた。

 

(昴もあんなに必死で・・・手伝いたいけど昴は嫌がりそうだな、それに私も昴が料理するのを止めようとしてたし)

 

どうやって彼に協力しようか考えている茜はある事を閃いた。

 

(そうだ!あれなら大丈夫だ!)

 

そう思い善は急げと茜は一旦、家からあるものを持ってくるために帰って行った。

 

一方、昴達は苦労の末やっと切った具材を鍋に入れ火をつけ煮込んでいた。

 

「で、どれくらい待つの?」

 

昴の問いに料理本を手にした弥生が答える。

 

「この本によると15分程のようだ」

 

「15分!?そんなに待てるかよ」

 

「かといって強火にしているからこれ以上早くは出来ないぞ」

 

「マジかよ・・・あ!そうだ!」

 

何かを閃いた昴はガスコンロから距離を取り変身の構えをする。

 

「変身!」

 

特にアンノウンがいるわけでもなく昴がアギトに変身し周りは困惑している。

 

「ど、どうしたのだ急に!?」

 

「いいこと思いついたんだよ」

 

そう言ってアギトはフレイムフォームになった。

 

「この姿になるとアンノウンを焼き尽くせる程の高温を出せる。その熱を使ってコンロ代わりにすれば一瞬で出来上がりだ!」

 

「いや・・・その理屈は・・・」

 

白井の声も聞かずにアギトはフレイムセイバーを鍋の底に当て、鍔を展開させ最大出力で鍋を熱した。

 

 

 

 

 

いや、熱し過ぎた。

 

切れ味抜群の刀身が当たったことにより鍋は真っ二つに割れ、物凄い高熱により具材は鍋共々消し炭と化した。

 

『『・・・・・』』

 

ただアギトの後ろ姿を呆然と見つめる。

元凶は変身を解除して振り向きこうほざいた。

 

「まあでもカレーって見た目は大体こんな感じだよね?」

 

反省の意図のない発言に斗真と弥生は迷わず昴の両腕にアームロックを仕掛けた。

 

「イダダダダダダダ!折れる!折れるってば!」

 

「お前はやってはいけないことをした・・・」

 

「食べ物を粗末にした挙句、カレーを侮辱した!」

 

アームロックを掛ける二人の腕はますます強く極まる。

 

「ちょ、六野さん、白井、助けて・・・」

 

「ゴメン、これは擁護できないよ」

 

「観念して折られたまえ、折れても櫻田奏に骨折を直す薬でも作成してもらえばいいだろうし」

 

「いや、それだけは勘弁!」

 

さすがにこれ以上まずいと思ったのか二人はアームロックを解いた。

 

「・・・私達から言えることはただ一つだ」

 

「お前、もうキッチンに立つな。それが一番賢い選択だ」

 

「いーや、俺はぜってぇ諦めねえからな!何としても俺の力で料理を作って家族を見返してやるんだ!」

 

力強く叫ぶ昴に斗真と弥生はヒソヒソ声で話す。

 

『なぁ、もうこれ世界平和の為にこいつを殺したほうがいいんじゃね?』

 

『幸いGK-06はここにあるから昴が後ろを向いた隙をつけば・・・』

 

「おい、聞こえてるぞ」

 

極秘に計画された櫻田家第二王子暗殺計画は突然の乱入者によって阻止された。

 

「その言葉を待っていたわ!」

 

「貴様は何者だ!名を名乗れ!」

 

(え!?こんなノリノリな白井ちゃん初めて見た!)

 

ゴシック風の服を着たメガネの乱入者はフワフワと宙を浮きゆっくりと机に着地し、高らかに叫んだ。

 

「王に園生に咲き誇り、城下に舞うは一重の花弁、熱烈峻厳!スカーレットブルーム!!」

 

スカーレットブルームと名乗る人物の出現を昴は唖然となって立ち尽くしている。

 

(何やってんの茜?)

 

そう彼女の正体は昴の妹の茜その人である。

 

スカーレットブルームとは茜の人見知り症を改善するために姉達が考え出したプランである。

掛けた者は特定されなくなる・・・という設定のジャミンググラスを着けて人助けを行うことで人前に出ることを慣れさせ、後に正体を明かすことで選挙の支持率も上げるという正しく一石二鳥な作戦なのだ。

だが、当然スカーレットブルーム=茜ということは既に国民に悟られており皆が茜を気遣い気付かぬふりをしているのが現状である。

 

そんな裸の王女様になっていることも知らずにスカーレットブルーム(さくらだあかね)は昴に指を指して、

 

「君の決意に私の心が高らかに揺さぶられたよ!家族を見返すために私も協力させてもらうよ!」

 

「いや、お前あか・・・グフッ!?」

 

危うく正体をばらす前に斗真が昴の脇腹を肘で思い切り突く。

 

「わあ、すかーれっとぶるーむだぁ~。なまでみるのははじめてだなぁ~」

 

「生で見るも何もコイツはあ・・・ギャンッ!?」

 

今度は弥生が昴の脇腹を肘で思い切り突いた。

 

「すかーれっとぶるーむさんがちからになってくればひゃくにんりきだな」

 

「いや、だから最初に言ったけど家族の手は・・・ドムッ!?」

 

お次は白井と六野が割れたまな板の角で昴の頭を叩いた。

 

「「すかーれっとぶるーむがきみのかぞくなわけないだろ。なんせなぞのふくめんひろいんなんだから」」

 

「なにこれ同調圧力!?怖いよ助けて仮面ライダー!」

 

何はともあれスカーレットブルーム先生の指導の元、正しいカレー作りが行われた。

 

 

 

 

 

 

櫻田家食卓 PM6:30

 

夕食時になった櫻田家の食卓は暗い雰囲気に包まれていた。

 

「もうだめだぁ・・・おしまいだぁ・・・」

 

「ちょっと遥、気が沈むこと言わないで。皆我慢してるんだからさ・・・」

 

頭を抱える遥を宥める岬だが声にはいつもの明るさが消えていた。

 

「これは夢だこれは夢だこれは夢だ・・・」

 

「姉上、現実はちゃんと受け止めないといけませんよ・・・」

 

「大丈夫、お姉様もお兄様も栞が傍にいるから・・・」

 

「栞、今日だけ甘えていいか?」

 

「うん、いいよ・・・」

 

「「うわぁぁぁぁぁん!」」

 

互いに抱き合って恐怖心を抑えようとするちびっ子トリオ。

 

「おう、皆揃っていたのか・・・」

 

「あ、修。戻ってきたんだ。てっきり逃げ出したのかと・・・」

 

「ああ、さっき離れたのは花と電話する為さ。これが最後になるかもしれないからな・・・」

 

「最後ってあんたまさか!?」

 

奏の目に写る修の顔は妙に安らいでいた。まるで切腹をする侍のように。

 

「あいつの料理は俺が全部食べる!」

 

「無茶よ!自殺行為だわ!それに佐藤さんを悲しませる気!?」

 

昴の料理=毒物、を前提に話す奏。

 

「わかってる・・・わかってるよ!でも仕方ないだろ!だれかが犠牲にならなくちゃいけないだ!!」

 

「修!!」

 

突然、今まで黙していた櫻田家の大黒柱にて国民を束ねる王、櫻田総一郎が開眼した。

 

「父さん・・・?」

 

「その役、私に任せてくれないか」

 

「っ!?なにを言ってるのよ総ちゃん!?」

 

夫の覚悟に驚きを隠せない妻五月。

 

「今朝私はあいつの料理を食したことにより免疫がついているはずだ。だから私のほうが修より生存率が高い」

 

櫻田総一郎、息子の料理をウイルス扱い。

 

「やめてくれよ。あんたが死んだらだれがこの国を・・・」

 

「なあに心配する事はない。子の命は親の命よりも可能性に恵まれている。その可能性を守るための礎になることを私は喜んで受け入れよう」

 

「待って総ちゃん!だったら私も行くわ」

 

「五月さん・・・」

 

「止めてなんて言わないでよね。あなたと結婚したときから死ぬときまで傍にいるって誓ったのよ!」

 

「お父様お母様死んじゃいや!」

 

「栞の言う通りですよ父上母上!ここは僕が・・・」

 

「いや待つんだ輝!お前は死ぬにはまだ早すぎる!僕が行くよ!この中で一番価値の無い命は間違いなく僕だから・・・」

 

「価値が無いなんて言わないで!私にとってあんたが一番なんだから遥!あんたが居ない世界で生きていくなんて無理だよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「あの、何やってんの?料理出来たけど!?」

 

『『っ!?』』

 

現実逃避の為の茶番劇を終えた櫻田家は現実と向き合う時が来た。

しかし、その中でポジティブな者が一人居た。

茜である。

 

「もー皆大げさだってば。たかが料理で人が死ぬわけないじゃないの」

 

そう言ってスプーンでカレーをすくって食べようとする。

 

「ま、待ちなさい茜!」

 

「大丈夫だってどこからどう見てもただカレーじゃん」

 

奏の制止を聞かずに茜はカレーを口にした途端、茜は腹を抑えて倒れ込んだ。

 

「「茜!?」」

 

突然の事態に修と奏が駆け寄る。倒れた茜は、

 

「これ、テトロドキシンだ・・・」

 

正確な毒物の分析をしてそのまま動かなくなった。

 

「茜?・・・おい、茜!!」

 

叩いても引っ張っても『お客さん、終電ですよ』と言っても茜は目を開かない。

まるで死人のように。

 

「嘘だろおい!目を開けてくれ茜!もうお前の寝顔をコッソリ撮ってファンクラブの連中に売り渡したりしないからさ!」

 

「変な冗談はよして!起きてくれればあなたの好きな物なんでも生成するからお願い!」

 

泣きじゃくりながら茜によりそう二人。しかし茜は

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ!本当!?」

 

突然動き出した。

 

「「え?」」

 

突然の愛妹の復活にキョトンとする兄と姉。

 

「前から欲しかったバッグがあったんだよねぇ~。かなり高いけどカナちゃんありがとう」

 

「え?ちょっと何で普通に起きてるの?」

 

「いやだな~カナちゃん。単なる冗談だよ~」

 

「そうか・・・それなら良かった」

 

そう言って席に戻ろうとする修を茜は肩を掴んで止める。

 

「修ちゃん、後で話しが」

 

「アッハイ」

 

その日の夜、修の断末魔が聞こえたのは言うまでもない。

 

「ということは普通に食べれるってことなの?」

 

葵が昴に質問すると昴は答えた。

 

「当然!そのために料理の修行をしてきたんだぜ俺は!」

 

「そう・・・」

 

昴の答えを聞き葵はカレーを口にする。

 

「うん!初めてにしてはよくできてるじゃないの!」

 

「いやいやいや、姉ちゃんの料理には敵わないよ」

 

昴の料理が安全だと言う確認した家族達も次々と食べ始める。

 

「おお!今朝とは違いちゃんと食べられるぞ!」

 

「ホントだあの昴兄さんが作ったとは思えないくらいうまい!」

 

「お前、料理出来たんだな・・・」

 

「ま、まあ及第点突破って所ね・・・」

 

「すーちゃんおかわり!」

 

「その皿に残ってる人参を食ったならやってやるよ」

 

「えぇ~」

 

「えぇ~じゃないよまったく。輝と栞を見習えってんだ」

 

「・・・栞、お姉ちゃんの人参あげようか?」

 

「こらぁ!昔の俺みたいな手使ってんじゃねぇ!」

 

前評判とのギャップ差もあってで昴のカレーをどんどん食べていきあっという間に鍋は空になった。

 

「ところですー兄」

 

「ん?どうした岬?」

 

食べ終わって余韻に浸っている中岬はあることを尋ねた。

 

「料理の修行をしてきたって言ってたけど実際どれくらいバリエーション増えたの?」

 

「カレーだけだけど?」

 

「え?じゃあこれから1週間・・・」

 

「カレーだけになるな」

 

「・・・・・」

 

周りはげんなりとした顔になった。

確かにカレーは老若男女愛される料理であるがそれは月一程度の頻度で食べるからであって毎日食べられる代物ではないのだ。

 

「昴」

 

総一郎は昴の肩に手を置いた。

 

「流石に1週間カレーはきついだろ」

 

「俺もそう思う」

 

「明日からは葵と料理当番交代で構わないな」

 

「はい」

 

その日から家族における昴の認識は『知恵の輪を強引に外そうとするバカ』から『知恵の輪を強引に外そうとするけどカレーは作れるバカ』に変わったそうな。

めでたしめでたし。


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