城下町のAGITΩ   作:オエージ

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今回も原作回ですが視点を光から家族に変えています。
それではどうぞ!


第20話 シークレットアイドル

「光の様子がおかしい?」

 

部屋に入ってきた茜は同居人のことについて昴に相談した。

 

「そう、なんかいつも陽気さがないっていうか、すこぶる真面目というか、とにかく調べてきてよ、あんたが光と一番仲良いんだから」

 

「おう分かった」

 

この時、昴は、いや、家族全員が気付いていなかった。

人とは常に変わり続ける者だと・・・

 

 

 

 

茜と光の部屋

 

「光~、アイス買ってきたぞ~、一緒に食べよ~」

 

昴はいつもの調子で光に語り掛ける。

普段なら光は好物のアイスに飛びつくはずだ。

 

しかし、その日の光は机でノートと睨み合っており昴にもアイスにも目を掛けない。

 

「ひ、光・・・?」

 

「後で食べるから置いといて」

 

「え、でももう蓋開けちゃったよ・・・」

 

「そう、じゃあすーちゃんが食べていいよ」

 

そっけない光の態度に流石の昴も慌てふためく。

 

「そ、そういえば一階の床下に高級な菓子が隠されてるらしいぜ、盗りにいくか・・・」

 

普段二人だけの時はもっぱら来客用のお茶菓子探しに奔走しているのだが、

 

「好きにしていいよ、私は行かないから」

 

「え、でも海外の高級ブランドチョコだよ・・・」

 

「太るからいらない」

 

「え?・・・え・・・・?」

 

光は一度もノートから目を離さない。

 

「あ、これから振り付けの練習するから部屋に入ってこないで」

 

「あ、ああ・・・」

 

部屋から出る時、そうだ、と思い光に問いかける。

 

「今度のライブ招待してくれないかな?さっちゃんのサイン欲しいし・・・」

 

さっちゃんとは米澤紗千子で今度光とツインライブをする光と同じ新人アイドルのことだ。

 

「来るなら勝手に来て、でもライブ中はあたしに近づかないでね。王族関係者だってバレたら面倒だから」

 

「・・・・・分かった気を付けるよ・・・」

 

ドアを閉めトボトボと階段を下りて行った。

 

 

 

 

「ど、どうだった!?」

 

「すー兄大丈夫?」

 

リビングには茜と岬が待機しており、偵察結果を聞いてきた。

 

「・・・・反抗期よ・・・・」

 

「「え?」」

 

「反抗期よ!あの子反抗期だわっ!」

 

「「なんでオネエ口調!?」」

 

動揺のあまり昴はオネエ口調になってしまっていた。

 

「大変だわ茜さんに岬さん、光さんが反抗期でしてよ!ここは一つ、ママに相談して・・・」

 

「どういう意味のママ!?その口調だと紛らわしいよ!」

 

「こうなったら全力ですー兄を元に戻すよ!皆、用意はいい?」

 

『『ラジャー!』』

 

岬は分身達を全員召喚し、壊れた兄を全力で叩き直した。

 

「すー兄帰ってきて!!」

「目を覚ませバカ兄貴!」

「これ以上面倒事を起こさないでよ」

「アイス食べていい?」

「どうでもいいけど眠い・・・」

 

「いやーん!・・・ってあれ?俺は一体?」

 

なんとか昴をオネエの道から救い出し、話は元の流れに戻る。

 

「た、大変だ!光がアイスにもチョコにも食いつかないんだ!」

 

「あんた光をなんだと思ってたのよ!?」

 

「いや、ほらあんなに変わるなんて思わなくてさ・・・」

 

思いの他昴は強いショックだったようだ。

 

「ずっとあいつとバカやれると思っていた」

 

「あ、急に語り出した」

 

「あか姉、一応ちゃんと聞かないと」

 

昴の目は喪失感に満ちていた。

 

「流石に大人になるまではいかなくとも光が高校生ぐらいになるまではあいつと一緒につまみ食いしたり、イタズラしたり出来ると思っていた」

 

「いや、その時すー兄は社会人だからね!大人になったときもつまみ食いするつもりだったの!?」

 

しかし、悲しみに暮れる昴には岬のツッコミは届かない。

 

「さらば俺の青春・・・」

 

「終わるの早いな!?」

 

「俺、真人間になるから・・・」

 

「あ、それはいいかも」

 

「なんでだよ!?止めてくてれよ!」

 

三人がコントをしていると、長女の葵が帰ってきた。

 

「どうしたの皆?」

 

「あ、お姉ちゃん?実はね・・・」

 

 

 

 

姉にも事を話す、葵も涙を流した。

 

「そう・・・光はもうそんなに・・・」

 

「いや、おかしいでしょ!?泣くとこある!?」

 

「あか姉・・・ゴメン、もう限界。このカオス空間にはいられない・・・」

 

「それは私もだよ、一旦岬の部屋に避難していい?」

 

「駄目だよ!遥いるから!」

 

「何で遥!?」

 

「とにかくあか姉はかな姉のところにでも行って!」

 

「やだよカナちゃん怖いもん!」

 

三女と四女が二階に上がり、葵は昴に話しかける。

 

「ねえ、昴」

 

「呼んだ?姉ちゃん?」

 

「光の事だけど・・・」

 

「何か知ってるの!?」

 

「うん、実は前に公園で一人でダンスの練習に励む光の姿を見かけたのよ」

 

昴は驚いた。光が自分の知らない所で努力していたなんて、

 

「その時、光の独り言を聞いたの、『こんなんじゃさっちゃんに認めてもらえない』って」

 

「・・・・・・」

 

「調べて見たけどさっちゃんってかなり長い下積み時代があって多分すぐにテレビに出れた光に良い感情を抱いていないんだと思うの」

 

「それで、認められるために・・・・」

 

「きっと次のライブで認めてもらえるだろうから私はその時まで待つことにしようと思うの。その後はきっといつも光が帰ってくるわよ」

 

「・・・・・」

 

昴の心に複雑な感情が渦巻いていた。

 

「変かな?光の成長を喜ぶよりも、ずっといつまでも小さな光のままでいて欲しいって気持ちが勝ってるんだ。俺って兄貴失格かな?」

 

「そんなことないわ。誰だって変化は怖いものよ」

 

「ってことは姉ちゃんも?」

 

「そうよ、むしろ私が一番『変化』を恐れているかもしれない」

 

姉は胸に手を当て語り続ける。

 

「私は平凡が好き、このまま何も変わらないのも悪くないとも思っている」

 

「でも、駄目なの、子供は必ず大人にならなければいけない。その為に変化をし続けなければならない。そうなればで今が昔の思い出になってしまう」

 

「でも・・・だとしても私は信じたい、変わり続けることが変わらない絆がある証だということを・・・」

 

「変わらない、絆・・・」

 

「ええそうよ、だからこそ私は変化を受け入れられるの」

 

「そうだな、俺決めたよ、光のライブを見に行く。そしてあいつの変化を、そして変わらない絆を確かめてくる」

 

「それがいいわ」

 

昴の顔に憂いは無くなった。

 

 

 

 

 

 

ライブ当日 ドーム前

 

「おお、すげぇ人だかりだ・・・」

 

昴はドームに入りきらないんじゃないかと思うほどの人数に仰天した。

これが全員、光と紗千子のファンだというのだ。

 

昴はフラフラ歩いていると前の人間にぶつかってしまう。

 

「お、悪い・・・っ!?」

 

そこには親衛隊みたいな黄色の法被を着こんだ斗真の姿があった。

 

「え?」

 

「え?」

 

互いが予想しなかった出会いに沈黙し、先に昴が口を開く。

 

「何してんのお前?」

 

「決まっているだろ、ライブ見に行くんだよ」

 

「え、お前が?ちょっと待って、どっち推しなんだ?」

 

 

 

 

「桜庭らいとだけど?」

 

「嘘だろオイ!」

 

せめてさっちゃんなら、ああ・・・うん、で済ませただろう。

 

「マジかよ、こいつがぁ・・・」

 

「おい何だその目は!らいとちゃんの何が悪いんだ!」

 

「やめて!これ以上お前のイメージ壊さないで!ただでさえ親友が妹の親衛隊になってるんだから!」

 

「ハァ!?お前とらいとちゃんのどこが兄妹なんだよ!一ミリも似てねぇじゃねぇか!」

 

「光いるだろ?」

 

「ああ、お前んとこのチビか」

 

「あいつの能力は?」

 

「・・・たしか生物の成長を操るってやつだよな」

 

「そういうことだ」

 

「どういうことだ?」

 

「いやだから、能力使って大きくなってんの?ドゥーユーアンダスタン?」

 

斗真は昴の言っている意味を察し、ガクリとうなだれる。

 

「嘘だろ・・・・・・!?」

 

「・・・ロリコン・・・」

 

「おい待て!これにはちゃんと理由があるんだよ!」

 

「ほぉ、どんな理由ですかロリコンくん」

 

「あれは俺が戦う決心をした時のことだ」

 

「俺は病室でこの力について悩んでいた。そんな時だ、病室のテレビで彼女が写っていた」

 

「歌もダンスも特別上手いわけではなかったが、あの子の笑顔はとても楽しそうだった。自分に出来る精一杯をしていた」

 

「だから誓ったんだ!彼女がトップアイドルに輝くまで彼女の笑顔を守り抜くのが俺の使命!その為に俺はこの力を恐れはしない!」

 

力強く衝撃の過去を語る斗真の声はドン引きしている昴の心には響かなかった。

 

「いや、お前そんな感じで俺達と一緒に戦ってきたのか?」

 

「何か問題でも?」

 

「問題しかねぇよこのロリコン!変態!!ペドフェリア!!!」

 

「何と言われようが俺の心は折れない!たとえらいとちゃんがお前の妹だとしても!」

 

「よぉしOK、一生光の前に現れないようにしてやるぜ・・・」

 

ポキポキ、と拳を鳴らしていると騒ぎを聞きつけた警備員が駆け寄ってくる。

 

「そこの二人!何をしている!」

 

「警備員さんこいつロリコンです!ライブが終わるまで独房にぶち込んで・・・ってあれ?」

 

そこに居たのは弥生だ。

 

「「お前何してんの!?」」

 

「す、昴に秋原!?これはバイトで・・・」

 

(こいつバイトしてたんだ・・・ってか何だこの脅威の知人遭遇率)

 

「と、とにかくライブがもうすぐ始まるから揉め事だけは止めてくれないか?他の客にも迷惑だ」

 

「「あ、ああ・・・・」」

 

とりあえずは一時休戦となった。

 

 

 

ドーム内

 

昼の部が終わり、もうすぐ夜の部になるところを昴は頭の中で光の姿を再生していた。

 

華やかな衣装を身に纏い、華麗なダンスを披露する姿は自分が知っている妹の光ではなくアイドルの桜庭らいとだった。

 

(努力してきたのはこの為だったんだな・・・)

 

自分の知らないところで妹は変化していた。

しかし、その無邪気な笑顔は紛れもない櫻田光である。

 

(こういうことか、姉ちゃんが言ってた変わらない絆ってのは・・・)

 

このまま、夜の部に移ろうとした時、昴はアンノウンを感じ取った。

 

「おい」

 

と、同時に斗真も察知するが昴は彼が向かうのを止める。

 

「いや、俺が行く、お前はここで光のライブを俺の変わりに見届けてくれ」

 

「お前・・・」

 

「さっきはあんな事言ったけど本当は嬉しかったんだ。身近な所で妹が誰かを幸せに出来ているってことを。だからさ、これからも頼むぜ光の・・・いや、桜庭らいとのことを」

 

そう言い、昴はアンノウンの元へと向かって行った。

 

 

 

 

 

地下駐車場

 

「ここか・・・」

 

すぐに後ろから殺気を感じ、前のめりになって敵の攻撃を回避し、敵を目視する。

今までにないタイプの敵だ。

 

テントウムシと忍者のような意匠のアンノウン レディバグロード コッキネッラ・メンダークスだ。

 

「変身!」

 

昴はアギトに変身するとメンダークスは頭の輪から鎖鎌を取り出し、投げ付けてきた。

アギトは柱に退避することでそれを防ごうとするが何とその鎌は柱をすり抜けた。

 

「何!?」

 

間一髪で何とか回避出来たものの、もし当たっていたのなら表皮も骨もすり抜け体がズタズタにされていたところだろう。

 

(とにかくあの鎌に当たりさえしなければ・・・)

 

とは言うがメンダークスの鎖鎌捌きは卓越しており、こちらとの距離を近すぎず遠すぎず一定にまで止めてくる。

 

「シュッ!」

 

メンダークスはアギト目掛け最大のスピードで鎌を投げる。

 

「こうなったら一か八かだ!」

 

アギトは敢えて前へと走り、ギリギリの所で鎌を避ける。

目の前には無防備なメンダークスがいる。

 

「どらぁっ!」

 

アギトはそこから突っ込み強烈な頭突きを繰り出す。

メンダークスは吹っ飛び鎖鎌を手放す。

武器を失ったメンダークはやみくもに手を振るいアギトを攻撃してくるもアギトはそれを避け、裏拳、キック、肘打ち、チョップと次々と技のコンボを決めていく。

 

 

「シュゥウウウ・・・」

 

メンダークスはグロッキー状態となりアギトはクロスホーンを展開させる。

最後の足掻きと言わんばかりにこちらに向かってくるメンダークスをアギトはライダーキックで迎え撃ち、メンダークスはキックを受け爆散した。

 

 

 

夜 ドーム付近

 

「あちゃーもうタクシーないの?」

 

アンコールを受け想定よりもライブは長引き、光はどうやって帰るか迷っていると、聞き覚えのあるクラクションが聞こえ手前を見ると、

 

 

「お嬢さん、今ならこの昴タクシー無料キャンペーン実施中だよ」

 

「すーちゃん!」

 

そこにはバイクに乗った兄の姿があった。

 

 

 

 

兄のバイクに跨り、光は夜の街を見ながら昴に過去のことを話した。

 

「最初ツインライブが決まった時ね、さっちゃんはあたしに言ったの『中途半端な気持ちでアイドルをやるなら迷惑』だって、その時あたしはすごく悲しかった。さっちゃんに嫌われてるって」

 

「でもプロデューサーの松岡さんが教えてくれたんだ、さっちゃんが前からずっと努力してきたってことを、アイドルは完璧じゃなくていいってことを」

 

「そしたらあたし、やる気が湧き出てさ、胸を張ってさっちゃんの隣に立てるアイドルになろうって、勉強は苦手だったけどさっちゃんはそれも両立してるんだと思うとへっちゃらだった」

 

「夜の部の時、さっちゃん転んじゃってあたし一人で踊ることになってすごく不安だったの。でもその時すーちゃんの言葉が頭に浮かんできたんだよ、『成功する姿を想像しろ』って、その言葉通り成功するあたしを想像してそれに向かって走ってたらいつのまにかアンコールもこなしていた」

 

「その後でさっちゃんは言ってくれたんだ『これからは良きライバルとして仲良くしていいですか?』ってあたしは嬉しくなってしばらくの間さっちゃんに抱き着いちゃったよ」

 

アイドルとしての日々を語る光に昴はある疑問を問い掛ける。

 

「もう王様にはなる気はないのか?」

 

「王様に?うーん、無いわけじゃないけど、このままアイドルを続けていきたいと思う。これが今のあたしの選んだ道だから」

 

「そうか、成長したな光。うらやましいよ」

 

「え?うらやましいの?それならあたしの生命操作(ゴッドハンド)で一気に成長させてあげるよ!すーちゃんはどれぐらいになりたいの?+50歳?それとも+100歳?」

 

「ちょっと待て今運転してるから危ないって!ちょっと手を退けろ!すげぇ怖い!!」

 

「やーだよー、離したら危ないからね。それ、ハグ攻撃~」

 

「ヤメロォォォォォ!?掴むなぁぁぁぁぁ!?」

 

いつふざけて自分を老化させるんじゃないかと脅えながらも昴は光との変わらない絆を噛み締めバイクを走らせていた。

 

 

 

 

白井邸

 

その頃、白井咲子はある物の設計図を作り終えていた。

あくびをしながら端末に移される図を見ている。

 

「・・・まぁ、こんな所か」

 

端末にはこう書かれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Project G3-X』

 




レディバグロード コッキネッラ・メンダークス
殺害方法 すり抜ける鎌で対象の臓器のみを切断する
身のこなしと鎖鎌裁きが最大の武器。しかし、鎌を失うと大幅に戦闘能力が低下してしまう。

とりあえず最初の完全オリジナルアンノウンの紹介です。
こいつはV3のクサリガマテントウをモチーフにしています。

さて次回からはG3-X編です。
お楽しみに!!

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