城下町のAGITΩ   作:オエージ

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第12話 ギルス吼える

「やばいこっちに来た!」

 

強化マスクルスは茜達に向かって駆けだした。

しかし、その杖を掴む腕があった。

 

「何を、している・・・!」

 

グランドフォームに戻ったアギトである。

仮面で表情は隠されていたがそれでもその顔は怒気に溢れている。

 

「でやぁぁぁぁ!!」

 

アギトは強化マスクルスの顔面めがけて強烈なパンチをぶつける。

強化マスクルスはそこから数メートル吹っ飛び、姿を消した。

 

(危なかった・・・)

 

アギトは一呼吸ついて茜達の方を見る。

 

「か、花蓮?」

 

花蓮は茜の前に立ち、こちらを強く睨んでいた。

その目には敵対の意志があった。

 

(しかたないか・・・この姿じゃあいつらと大差ないし・・・)

 

むしろ、逃げずに茜を庇おうとする行為に昴は純粋に嬉しく感じた。

 

(いい友達をもったな、茜・・・)

 

彼女らをこれ以上刺激するわけにもいかないのでアギトは踵を返し、そのまま去って行った。

 

「こ、怖かったー」

 

アギトが去ったのを確認し、花蓮はその場にへたり込んだ。

 

「だ、大丈夫?」

 

「大丈夫じゃないよ、こんな経験二度としたくないよ・・・」

 

茜は花蓮の肩を担いで廃倉庫から離れながら考えていた。

 

(あれは一体なんだったんだろう・・・そういえば昴の姿が全然なかったけど・・・)

 

昴を探していたら見つけたのはコブラの怪物と仮面の戦士だけだった。

 

(まさか、ね)

 

そのまさかだということに今は気付いていない茜であった。

 

 

 

 

「まだ誰も帰ってきてないな・・・」

 

昴は家の裏口にいた。あのまま学校に戻っても茜に顔向けできず、ならば一足早く帰って言い訳でも考えようという魂胆だ。

だったのだが、

 

 

 

「おかえり・・・」

 

裏口のドアを開ければなんと茜が待ち伏せしていた。

その目は疑惑を通り越して軽蔑の感情に近かった。

 

「た・・・ただいま」

 

「昴、やっぱり学校から抜け出してたんだね・・・」

 

「うん・・・」

 

「あんたを探している最中にちょっとひどい目にあったんだけど・・・」

 

「それは災難だったな・・・」

 

そのひどい目を救ったのは自分だとは言えない。

 

そこから二人は沈黙する。時間はほんの10秒ほどだが、昴にとっては1時間くらいに感じられた。

 

「あ、あのさ・・・」

 

昴が何かを言おうとすると茜は手で止めた。

 

「いや、いいから、わかったから、昴が友達よりお金が大事で学校も急に抜け出すような人だってことは全部わかったから・・・」

 

「いや、あの・・・」

 

「じゃあ私これから選挙活動あるから、昴の好きにしていいよ」

 

そう言っては茜は正面玄関へ去っていった。

 

(どうすればいいんだよ・・・)

 

昴は誰もいない家でポツンと一人残された。

 

 

 

 

「ぐ、うぅぅ・・・」

 

秋原斗真は掻き毟るのような痛みに耐えながら路地裏を歩いていた。病院には居れない。

 

(どうなってるんだよ・・・俺の体は・・・)

 

その疑問に答える者はおらずただ意味もなく前に進む斗真に聞き慣れた声が聞こえる。

 

「秋原君・・・?」

 

後ろを向くとそこには自称斗真の恋人の水泳部のマネージャー片平小雪が立っていた。

 

「よかったぁ~、病院に居ないから心配したんだよ」

 

「・・・またお前か」

 

斗真にとって彼女はいつも纏わりついてくる面倒な奴という認識だ。

 

「だめだよ病院抜け出しちゃ。その様子だとまだ治ってないみたいだし・・・」

 

「お前には関係ないことだろ、ほっといてくれ」

 

「関係無くないよ!自分の好きな人がこんなに苦しんでいるのをほっとく事は出来ないよ」

 

「お前、本当に俺の事を・・・」

 

今までからかっているものだと思い相手してなかった斗真は衝撃を受ける。

 

「もう、病院には居られない。もう俺の居場所なんて・・・」

 

「それなら私の隣なんてどうかな?」

 

「小雪・・・?」

 

小雪は依然微笑んでいる。

 

「これから服を買いに行くんだけどさ、ちょっと付き合ってくれるかな?男の子の意見も聞きたいし」

 

 

 

そのまま斗真は小雪に押されるように試着室の前に立たされた。

 

「ねぇ、これはどうかな?」

 

「うん似合うぞ」

 

「じゃあこれは?」

 

「うん似合うぞ」

 

「これなら?」

 

「うん似合うぞ」

 

「・・・さっきから同じことしか言ってないよね?」

 

「うん似合うぞ」

 

「話すら聞いてない!?」

 

と言われても女物の服の良し悪しがわからないので斗真はとりあえず適当に答えているのである。

 

「じゃあこれ全部買うかな」

 

「え?お前こんな買って財布は大丈夫なのか?」

 

「ちょっと厳しいけど、斗真君がいいって言ってくれやつだから」

 

買い物かごにはかなりの量の衣服があり、これを全部買わせるのは流石に心苦しい。

 

「ちょ、ちょっと待て!分かった!そんな買わなくていいぞ。二番目に見せたのが一番似合ってると思うぞ・・・」

 

「うふふ、ありがと♪」

 

 

 

 

「斗真君、このパフェおいしよ」

 

「それはよかったな」

 

今度はカフェに連れてこられた。小雪はスプーンを差し出すが斗真は応じない。彼は極度の辛党で甘いものが大の苦手なのだ。

 

「もう、斗真君も少しは食べようよ」

 

「甘いものは嫌いなんだよ」

 

「そうなんだ・・・ところでさ、櫻田君とは仲が良いみたいだね」

 

「古い付き合いだからな」

 

「古い付き合いなんだ・・・もしかして斗真君ってそっちの気が・・・」

 

「なわけあるか!!」

 

大声を挙げて否定する斗真の口に小雪はすかさずパフェをいれた。

 

「な、お前・・・」

 

「ふふっ、やっと食べてくれたね」

 

「・・・吐きそうだ」

 

「そんなに嫌だったの!?」

 

 

 

 

その後も二人は様々な所を歩いていた。

 

「ねぇ、次はどこに行く?」

 

「・・・・・・」

 

「斗真君?」

 

斗真はしばらく小雪を見つめ、

 

「なぁ、何でそんなに俺を気に掛けるんだ?」

 

「何でって、それは斗真君のことが好きだからだよ」

 

「じゃあ何で俺なんかを好きになったんだ?」

 

うーん、と小雪はこめかみに指を当て、そして言い放った。

 

「特に、ないかな?」

 

「は?」

 

それは答えになってるようでなっていない答えであった。

 

「なんかね、最初水泳部で出会ったときにピン!、ときたんだよねぇ。この人と親しくなりたい、支えてみたいってさ」

 

「・・・・・・バカかお前は?」

 

「ひどっ!?」

 

斗真は頭を掻き上げる。どうも彼女といると調子が狂うのだ。

しかし、それも悪くないと思う自分もいる。

 

「だが、そういうバカは嫌いじゃない・・・」

 

「斗真君・・・」

 

しかし、その時、斗真の頭に騒音と激痛が走った。

その痛みに耐え切れず、斗真はその場で倒れ込む。

 

「と、斗真君!?」

 

小雪は斗真の元へ駆け寄るが彼はそれどころではなかった。

痛みを和らげようともがき上を向いた時、あるものを斗真は見つけた。

 

空に浮かぶカラスに似た怪物を、

彼はこの怪物がアンノウン クロウロード コルウス・クロッキオだということを知らない。

 

「なんだあいつは・・・?」

 

「どうしたの・・・っ!?」

 

斗真の言葉に反応して上を向いた小雪もクロッキオの姿を見ると先程までの天真爛漫な表情は消え、蒼白になっている。

 

「ひっ」

 

そんな彼女に気にも留めずクロッキオは斗真目掛けて急降下し始める。このまま行けば斗真どころか近くに居る小雪にもぶつかってしまう。

 

「避けろ!」

 

斗真は小雪を突き飛ばし避難させるしかし自分は避けられずクロッキオの頭突きをうけ、壁に激突してしまう。

 

「斗真君!?」

 

小雪は斗真の元へ駆け寄り手を掴むがそこで異変を感じた。

 

「ぐ、ぐぐぐ・・・」

 

「斗真君・・・?」

 

手の色が次第に緑に変色し、その変化は全身まで及び目が血の様に真っ赤に変わったところで変化は終了した。

 

「え・・・」

 

そのおぞましい姿はまさしく『異形』であった。

 

「ガァッ!!」

 

異形と化した斗真はその爪でクロッキオの羽を切り裂き、撤退させた。

 

「大丈夫か、小雪!」

 

斗真は自分がどうなっているかも気付かずに小雪に近づく。

 

「あ・・・ああ・・・いやぁ・・・」

 

「心配するな、あいつはもう追っ払った。俺がお前を守るからさ」

 

そう言って差し出された手を小雪はこれでもかというぐらいに力強く手を払った。

今の斗真とかつての斗真を同一視したくないのだ。

 

「こないで化け物ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

そう言い泣き叫びながら小雪は逃げて行った。

 

「俺が・・・化け物・・・?」

 

ふと下の割れたガラスに目を向けるとそこには見慣れた自分の姿ではなく化け物の姿が写っていた。

 

「なんだよこれ・・・」

 

驚くと同時に彼女が逃げた意味を理解した。この姿を見て脅えないものはほとんどいないだろう。

 

さらに追い打ちをかけるように頭が激痛に襲われる。

 

「ウワァァァァァァァァァ!!」

 

叫びながら斗真は痛みの元凶を断つべく本能のままに走り出した。

 

その姿を遠くで見ていた謎の青年は呟いた。

 

 

 

「アギト・・・いや、『ギルス』か、珍しいな」

 

 

 

 

「ちっ、しつこいやつだぜ!」

 

一方その頃、昴はアギトに変身し、廃車置場にて再び強化マスクルスと対決していた。

 

「ギシャァァァ!」

 

腕が蛇のようにくねり、アギトの首に巻きつく。

 

「ぐっ!?」

 

強化マスクルスはそのまま手を振るいアギトを投げ飛ばす。

受け身を取ったものの、戦況はあちらに分があるのは明白だ。

 

「やるじゃねぇか・・・そうじゃなきゃ張り合いがないぜ!」

(と、強気に出たはいいが、どうする・・・?)

 

構えをとっているアギトだが、その時、アンノウンじゃない別のなにかの接近を感じ取った。

 

(なんだこの感覚、今までの奴とは全然違う・・・しかも近づいてきてる!)

 

 

 

 

「グォォォォォォォォォォ!!」

 

突然、アギトと、強化マスクルスの間に緑の怪物が割って入ってきた。

そう、謎の青年が呟いたギルスという存在である。

 

(っ!?なんだこいつ!新手かっ!)

 

「ヴォォォォォォォォォ!」

 

ギルスはアギトに目もくれず強化マスクルスに跳び膝蹴りを放った。

 

「グッ!?」

 

強化マスクルスが仰け反った隙に手から鋭利な爪『ギルスクロウ』を伸ばし、強化マスクルスの脇腹を切り、痛々しい傷をつくる。

 

「グゥゥ!」

 

強化マスクルスも反撃しようと手をくねらせ、ギルスの首に巻き付くがギルスの口が開き、なんとそれを噛み始めた。

 

「ギシャァァァァァァ!?」

 

あまりの痛みに悲鳴を上げ腕を引っ込めようとするもギルスの鋭い牙はそれを許さず、一緒に引き上げる形となって強化マスクルスの頭を鷲掴みにした。

 

「ギ!?」

 

「ガウゥゥゥゥ!!」

 

ギルスは強化マスクルスの頭を近くの廃車のドアに叩きつける。

一回だけでなく何度もだ。その姿にアギトは思わず視線を逸らす。

 

「ギゥ・・・」

 

叩きつけから解放された強化マスクルスは既に戦意はなく、その場から逃げ出そうとする。

しかし、ギルスは逃がさず回し蹴りを浴びせてダウンさせると、自分は廃車の上に立ち、踵から爪を伸ばす。

 

「オォォォォォォォ!!」

 

そしてギルスは飛び上がり強化マスクルスに向けて踵落とし『ギルスヒールクロウ』を浴びせた。

強化マスクルスの肩に爪が食い込む。

 

「ウォアァァァァァァァァァァ!!」

 

ギルスは吠えながら強化マスクルスの肩を抉る。

強化マスクルスは悲鳴を挙げ、頭には輪が浮かぶ。

 

「シェアッ!」

 

ギルスは胸を蹴り、空中で一回転して離れると同時に強化マスクルスは爆散した。

爆散したことを確認し、ギルスは自分の勝利を誇示するかのごとく雄叫びを上げた。

 

(俺が苦戦した相手をあんな簡単に・・・)

 

アギトは戦慄を覚えた。もし、その力が自分に向けられていたら・・・

 

「ギアァァァァ!!」

 

そしてその想像は現実のものとなりギルスはアギトに跳びかかっていった。

 

 

 

 

 

「今日はこの辺で終わらせましょう」

 

「うん・・・」

 

茜は葵の協力を受けて今日の選挙活動を終わらせて家路についていた。

 

「今日は珍しく人前なのにあがらなかったわね」

 

「うん」

 

「ひょっとして別の事を考えていたからかしら?」

 

「別の事?」

 

ええ、と葵はこちらを向いて

 

「昴の事でしょ」

 

「ど、どうしてわかったの!?」

 

「だってあなた、昨日から昴のことをじっと見続けていたじゃない。あれ多分昴困っているから止めた方がいいわよ」

 

「だ、だって・・・」

 

茜は自分の心を主張した。

 

「お姉ちゃんはおかしいと思わないの!?昴が急にどこか走っていく癖を、あれ絶対何か隠してるよ!」

 

「たとえそうだとしても、あなたが昴の秘密を暴いていいわけではないわ」

 

「えっ?」

 

葵の目は優しくも厳しい目だった。

 

「人には誰にも知られたくない秘密というものはあるものよ、それは自分が今まで築いてきた関係を壊してしまうほどのね・・・茜はそこまでして昴の秘密を知ろうとする覚悟はあるの?」

 

「うぅ、でも・・・」

 

それでも、何も知らないことに茜は耐えられなかった。

 

「私達は家族なんだよ!家族にも言えない秘密を一人で抱え込み続けるなんて悲しすぎるよ!私だってただ知りたいわけじゃないの!」

 

「・・・」

 

思わず感情をぶつけてしまい、葵の表情はとても悲しそうな表情になった。

 

「茜は強いのね・・・」

 

「え・・・・・?」

 

「でも皆あなたみたい強いわけではないの。昴だっていつかは話すだろうし秘密を知るのはその時でいいじゃないかしら?」

 

「・・・お姉ちゃんの言ってること、よくわからない・・・」

 

「ふふふ・・・今はそれでいいのよ」

 

そうしていると突然、路地裏から人が飛び出し、茜にぶつかった。

 

「ごっ、ごめんない!前に目が付いて無くて!」

 

「茜、落ち着いて、前には普通に目は付いてるわよ」

 

葵が茜を落ち着かせるとぶつかったのは自分達と同じ制服を着ていることに気付く。

 

「あなたはたしかB組の片平さん?」

 

「あ、ああ・・・うあ・・・」

 

小雪の様子がただごとではないことに二人は気付く。

 

「落ち着いて片平さん、何があったの?」

 

「と、とう、斗真君が・・・」

 

「とうま?もしかして昴の友達の秋原斗真君のこと?」

 

小雪は首を小刻みに縦に振る。

 

「あ、秋原君がどうしたの?」

 

小雪は青ざめた顔で告白する。

 

 

 

「斗真君が化け物になって・・・それで・・・うあああああ!」

 

悲鳴を上げ、小雪は気を失った。

 

「茜!この人、危険な状態だわ!早く救急車を呼ばないと!」

 

「う、うん!」

 

救急車を呼ぶ手配をしながら二人は彼女の言ったことについて考えていた。

 

葵は何か恐ろしいことが彼女の身におき、それが原因で記憶が混乱していると推測した。

 

しかし、少し前に怪物と仮面の戦士の戦いを見た茜にとっては彼女の言葉がただの狂言には聞こえなかった。

 

 

 

 

 

「まさか・・・秋原君があの仮面の戦士の正体・・・?」

 


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