城下町のAGITΩ   作:オエージ

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今回はタイトル通り岬と弥生のからみ中心です。
しかしこれからのストーリーに少し関連するかもしれません。

それではどうぞ!


第10話 岬と弥生

桜華中学 グラウンド

 

「岬ごめんね、日曜なのに助っ人頼んじゃって」

 

「大丈夫大丈夫、これが私にできることだからさ」

 

櫻田岬は自身の能力で呼び出した分身達で各部の助っ人をしているのだ。

 

「ところでさ、来週もユニコちゃん空いてる?」

 

「ちょっと待って、今確認するから」

 

岬はメモを取出し、スケジュールを確認する。

分身のスケジュール管理も行っており前に分身達のマネージャーみたいと言われたこともあった。

 

「あ、ごめんユニコは来週バスケットの助っ人の予約が、ライオは空いてるけどそっちでいいかな」

 

「うん!ライオちゃんは足速いから大歓迎だよ!」

 

「じゃあ予定入れとくね」

 

「本当にいつも頼りになるよね」

 

「いいってこと、それじゃ私帰るから、またね~」

 

 

 

 

櫻田岬は部活の助っ人を終え帰路についていた。

 

(そういえば今日みんな用事で家空いてるんだっけ?遥もいないのはなんか寂しいなぁ・・・ん?)

 

家のすぐ近くまでついた岬は家の前に立つ怪しい人物を見た。

家の前をうろうろし、玄関に一歩近づくがすぐに戻り再びうろうろし始める。

 

(誰だろう?)

 

SPにしては不審過ぎるし、何より年齢も若い、自分より少し上くらいだろう。

とにかく岬は声をかけることにした。

 

「あの~、うちに何か用ですか?」

 

「ひゃいっ!?さ、櫻田邸玄関前異常なしであります!」

 

「はぁ、そうですか・・・」

 

不審人物に近づきその姿を見る。

彼女の着ている制服は確か姉達が来ている制服と同じものだった。

 

「もしかして、あか姉の友達ですか?」

 

「は、はい、茜様と昴様の学友をさせていただいてる者です」

 

「いや、そんな畏まらなくていいですよ。あのお名前は」

 

「ハッ!自分は桜華高校一年A組、四葉弥生であります!!」

 

「(あります?)四葉さんですね、所で何故さっきから家の前を歩いていたのですか?」

 

「はい、昴様にお伝えしたいことがあるのですが電話に繋がらなく、こちらへ向かった所存であります」

 

ちなみにその内容はG3の修復が少し遅れるというものである。

 

「すー兄に?確かすー兄は選挙活動で家を出ているんですよ。携帯も切ってるだろうし、ま、とにかく上がっていってください。すー兄もすぐ帰ってくるかもしれないですし」

 

「よ、よろしいのですか?」

 

「えっと、たぶん大丈夫だと思いますよ?」

 

「では僭越ながら櫻田邸に入らせていただきます・・・」

 

「あの~、櫻田邸はやめてくれますか?ここそんなに大それた家じゃないんでちょっと恥ずかしいです」

 

そんなこんなで四葉弥生は櫻田岬と櫻田邸に入っていった。

 

 

 

「来客用のお茶菓子どこだっけ・・・?」

 

岬は弥生をソファーに座らせ、茶菓子を探していた。

しかし、よく光と昴がつまみ食いをするので置き場所は秘密にされているのだ。

 

「・・・ないよりはいいよね」

 

このまま待たせるのも悪いので岬はお茶菓子探しを断念、台所に置いてあったさくらんぼで妥協することにした。

 

「これ、つまらないものですが。種はこの小皿に入れてくださいね。私お茶淹れてきますので」

 

そういい弥生の元にさくらんぼを置いて、廊下で分身達を呼びだす。

 

「さて緊急岬サミットを始めるよ・・・」

 

「おいおいどうしたんだよ岬?」

 

「どうしたもこうもないよ!ユニコは変だと思わないの!あのすー兄に女の人の友達がいたことに!」

 

「お、落ち着きなさいよ、まだ友達とは確定いてないでしょ」

 

「そうそう『これ』の可能性だってあるんだし♪」

 

と、分身の一人であるシャウラは小指を立てた。

 

「すー兄の彼女!?もっとないでしょ、だってあのすー兄だよ!?」

 

「どのすー兄様かはともかくあの人だって彼女ができてもおかしくない年頃でしょ、現に修兄様だっているんだし」

 

「う、うん・・・」

 

長男修には佐藤花という幼馴染がいて選挙が終わったら付き合う約束をしているという話があるということは周知の事実だ。

 

「でも、すー兄のあの性格的に考えてモテなそうだし、もし彼女できたなら遥あたりにものすごく自慢してきそうだし、やっぱり彼女って線はないんじゃ・・・」

 

「どうでもいいけど、あのさくらんぼ食べていい?」

 

「眠い・・・」

 

「あんたら本当に話す気ないのね・・・もういいわ、私が探ってみるからあんた達はそこで待ってて」

 

そう言って分身達を待機させお茶を持って弥生の元に向かう。

 

「すいません待たせてしまって・・・」

 

岬は弥生の様子を見た。

固まりながらもさくらんぼを食べているようだが小皿には何故か種がなく彼女の喉からゴクン、という飲み込む音が聞こえる。

 

「あの・・・無理して種を飲まなくていいですよ?小皿ありますし」

 

「い、いえ、滅相もないことを、このような高貴な小皿に私が吐いた種を入れるなど恐れ多い・・・」

 

「いや、これ百円ショップで買ったやつだから・・・」

 

「百万円ショップ!?・・・ムグッ!?」

 

「なんですかそのブルジョワ限定なお店!?って大丈夫ですか!?」

 

驚いた拍子にさくらんぼを噛まずに飲んでしまった弥生は喉が詰まって軽い錯乱状態になった。

 

「皆も早く来て!」

 

岬は待機させていた分身達を呼んで弥生の背中を叩いてなんとか飲み込ませることに成功した。

 

「お手を患わせて申し訳ありませ・・・ってアレ?岬様がいっぱいいる?」

 

「あ、これは私の能力の・・・」

 

説明する前に弥生は家を飛び出した。ただでさえ王女に王家の家に案内され、さらにさくらんぼを喉に詰まらせるという醜態を見せてしまったことが超生真面目な彼女の思考回路をショートさせてしまったのだ。

 

「あ、あれ?おかしいな岬様はお一人のはずなのにいっぱいいるなんて・・・そうかこれは私が幻覚を見ているんだ。そうだ、そうに違いない、そうと決まった、幻覚を見ている私は岬様の元にはいれない、草むしりでもして幻覚が収まるのを待とう・・・」

 

「いやこれ幻覚じゃないですから!能力ですから!だから安心して戻ってきてください!ってかさっきから根っこだけ抜けてないし!?」

 

 

 

「な、なるほど。これが岬様の能力というわけでありますね」

 

「はい、そういうことなんです」

 

弥生が落ち着きを取り戻し、改めて向かい合う弥生と岬+α。

 

「聞きたいことがあるんだけどよ」

 

「はい、なんでしょうかユニコ様?」

 

「ぶっちゃっけ、あんたと昴はどういう関係なのさ」

 

「へ、関係・・・でありますか?」

 

「ちょっとユニコ!」

 

「いいだろ岬。お前だって気になるんだろ」

 

「それは否定しないけどさぁ・・・」

 

分身達の質問は続く。

 

「出会ったきっかけは?」

「どこに魅力を感じましたの?」

「手は繋いだの?」

「チューしたことある?」

 

「な、なななな・・・」

 

予想だにしない質問の数々に弥生はしどろもどろになった。

 

「す、すいませんね、こいつら人をからかうのが趣味でして・・・」

 

岬は強引に分身達の頭を下げ事態を集約しようとする。

そこへさらにこの手のことには他の誰よりも強い興味を持つ色欲のシャウラが追い打ちをかける。

 

 

 

 

「ゆうべはおたのしみでしたか?」

 

「シャウラァァァァァァァ!!何口走ってるの!」

 

完全にポカンと口を開けたまま硬直した弥生を見て岬は汗が噴き出した。

 

(まずい、まずいよこれはもう言い逃れできない・・・)

 

 

 

 

「ゆうべ、ですか?普段夕方はジムでトレーニングをしてるので楽しみといえば楽しみですが・・・?」

 

(よかったぁぁぁぁぁぁぁ!!純粋な人で!)

 

「あんたらいい加減しろぉぉぉぉぉぉ!」

 

その一声で分身達は一気に岬の元へ戻っていった。

 

 

「す、すいませんねあいつらが変なことを聞いてきて」

 

「い、いえ!こちらこそ満足のいく返答を出来なくて申し訳ありません」

 

本当に真面目な人だな、と岬は思った。

 

「では少しだけ質問してもいいですか?」

 

「はい、なんでしょうか?」

 

「兄は学校ではどうしてますか?」

 

「ハッ!質実剛健、聡明で謙虚であられます!!」

 

「いや・・・本当の事を言っていいんですよ?」

 

「・・・少し勉学に不備がございます・・・」

 

「ああ、やっぱり」

 

昴は頭を使うことが大の苦手なのである。

 

「ではもう一つ質問いいですか?」

 

岬はそう言って改めて弥生の目を見る。

刀のように鋭く、真っ直ぐな瞳と目が合った。

 

「兄はいつも笑顔ですか?」

 

「笑顔?はい、確かに普段の昴様は明るく陰気とは無縁の方でございますが・・・」

 

しかし、と弥生は少し考え、

 

「時々、手が震えているのを見たことがあります」

 

「やっぱりですか・・・」

 

「と、言いますと?」

 

「それ、多分やせ我慢してる時の癖なんですよ」

 

「やせ我慢・・・?」

 

「はい、これは私がまだ3歳の頃の話なんですけどね。遊園地で迷子になったことがあるんです」

 

その時は幼くこのまま置いてかれるのではないかと本気で思い泣き出してしまった。

しかし、隣にいた昴は岬の肩に手を当てこう言ったのだ。

 

『泣くなよ岬。大丈夫だ、俺がついている』

 

そう言って、昴は岬を笑顔にしようとあれこれ努力をしたのだ。

特大チェロスを買ってきたり、観覧車に乗せたりと、次第に岬は泣くのをやめ、笑顔になっていった。

 

「ですが、兄の手を握った時気付いたんです」

 

 

 

「兄の手が強く震えていたことに」

 

兄と言えども当時はまだ5歳。

恐らく昴も岬と同じ思いだったのだろう。

いや、岬を守らなければというプレッシャーも相俟って昴が感じた恐怖は岬以上だったであろう。

それでも昴は笑っていたのだ。

 

「その後すぐに父さん達に会えたのですがその時も兄は決して泣きませんでした」

 

「兄はそういう人なんです。誰かの為なら自分のことはどうでいいと思うくらいにお人好しなんです」

 

「そんな兄を支えたいけど、多分兄は認めないでしょうね、私達家族は兄にとって守るべき人だから・・・」

 

でも、と岬は呟く。

 

「『隣』に立つ友達なら・・・」

 

「岬様・・・?」

 

「あ、なんでもないです!まぁ要するにすー兄は自己管理が出来ないバカ兄貴ってことですよ」

 

「だから、すー兄の手が震えている時は手を握ってやってください、多分すぐ払おうとするけどそれだけでも兄の心は少しだけ救われると思います」

 

だから、と岬は笑顔を弥生に見せ、

 

 

 

「これからもすー兄をよろしくお願いします!!」

 

「はい・・・!」

 

弥生は力強く答えた。

 

それから弥生の目標は一つ増えた。

 

それは昴の隣に立ち、岬に代わって昴を支えるということだ。

 




次回からギルス編に突入します!
お楽しみに!!

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