ダンジョンで真人間を目指すやつもいる   作:てばさき

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ここまで、長かった。
リリが可愛いのがいけない。




第9話 戦場の流儀

「お~~~っ!!」

 

ヘスティアの歓喜に満ちた悲鳴が響く。

 

そこは、今日からファミリアの拠点となる教会跡。

見た目的には廃墟の一歩手前だが、基礎はしっかりしているらしい。

殆どの壁や屋根は残っている。

 

カイトはといえば、紛争地帯で潜伏先を撰ぶときはもっと酷い条件の家屋を根城にしていたこともあり、屋根があるだけで満足していた。

 

「地下に使える部屋があるんだって! 家具とか、使ってないやつをヘファイストスが運んでくれたって言ってたよ!」

 

ヘスティアは子犬のようにはしゃぎながら、カイトの手を引いて地下へと続く扉を開いた。

 

「お~~っ、ベッドまである!」

 

そこは、ちょっとした宿屋の一室程に広かった。

手狭なようにも見えるが、それは部屋の真ん中に置かれた大きなベッドがあるせいだろう。

 

「カイト君、今日からここがボクたちの新しい住処だ! 拠点だ! 愛の巣だっ!」

 

最後のは違う、多分、違うはずだ。

 

「なんなら実家と言っても良い!」

 

「なるほど、つまりは俺たちの家というわけですね」

 

「そうともさ! ただいま!!」

 

叫ぶヘスティア。その後、じっとカイトを見てくる。

 

「……お帰りなさい、神ヘスティア」

 

「うんうん、で?」

 

じっと。見つめられる。

 

「た……ただいま」

 

「ぅおかえりぃー!! イーッヤッフー!!!!」

 

叫びながら抱き付いてくる。

カイトは身体ごと飛び付いてきたヘスティアを落とさないよう、結果抱き上げるような形で受け止めた。

 

「これから頑張ろうね、カイト君!」

 

「は、はは」

 

首もとに手を回されて、ぎゅっと抱き締められる。

カイトの首筋に、ヘスティアの小さな鼻が擦り付けられている。

 

何が、と言うわけではない。

が、何かが不味いような気がした。

 

「か、神ヘスティア……その、取り敢えず降ろしてもよろしいでしょうか?」

 

「むっふー、照れてるのかい? しょうがにゃいにゃあ」

 

誰だお前は、と言いたくなるのを懸命に堪えた。

 

「じゃあ、取り敢えずボクをベッドまで運んでくれるかい?」

 

「……わかりました」

 

ああ、と気付く。

そういえば昔、隊に入って来たばかりのキリカがこんな感じだったと。

 

(あのときはまるで、妹が出来たみたいだったなぁ)

 

ひたすらに過去の思い出に浸りながら、カイトは主神を運んでいった。

要するに現実逃避だった。

 

「ありがとう。さ、カイト君も上の服を脱いで横になるんだ」

 

しかし現実は簡単に逃がしてはくれなかった。

 

「……何をなさるおつもりでしょう?」

 

声は、固くなっていないはずだ。

 

「むふふ、何を照れてるのかな、君はぁ?」

 

しかし主神にはバレバレだった。

 

「『神の恩恵(ファルナ)』を刻むんだよ、カイト君」

 

悪戯が成功したような顔で笑う主神に、どっと湧いて出る疲れを意識しないわけにはいかなかった。

 

「ああ、良かった。本当に良かった」

 

言いながら、上着を脱いでいく。

 

「おんや~? こんな美少女神に誘われておいて、随分な反応じゃないか。ウブなのかなぁ?」

 

「いえ、その……そういう経験自体はあるのですが、その……」

 

「その?」

 

何とも言えない顔で、カイトは言った。

 

「アマゾネスだったんです」

 

「ああ……」

 

「やたら力は強いし、乱暴だし、噛むし、引っ掻くし……下手な戦闘より疲れたことしか記憶にないんです」

 

何だろう、この少年の過去に安らぎは無いのだろうか。

 

「ま、まあ、気にするなよカイト君! それにボクは処女神だからね! こう見えて身持ちは固いのさっ」

 

役割が謎の紐に支えられた胸が揺れる。

カイトは何とも言えない気持ちになった。

どう見ても言動と振るまいが一致していない。

この無防備な神が、例えばセイルのような人間に見付からなくて本当に良かったと思うばかりだった。

 

「では、脱ぎますが……傷痕が結構あるので、気持ち悪いですよ?」

 

それで一度、娼館で泣かれたことがあるのだ。

それを未だに、セイルにはからかわれる。

 

インナーを脱いだカイトの身体は、言葉通りに傷痕だらけだった。

縦横に走るそれらには、全く統一性が無い。

 

ヘスティアは一瞬、込み上げてくる涙を堪えながら、自分の眷属となる子の身体を見つめた。

 

刺されたのだろうか。

斬られたのだろう。

火傷が見える。

矢傷があった。

まるで抉られたような傷だ。

 

そしてその全てが、既に痕となっている。

 

「それは、君が頑張ってきた証だよ。どうして気味悪がったりするんだい」

 

もっと早くに出会いたかった。

この少年を、支えてあげたかった。

そうできなかった自分が、情けなかった。

 

「さ、ここに寝るんだ」

 

ぽんぽん、とベッドを叩く。

カイトはそこにうつ伏せで横たわった。

 

「それじゃ、始めるよ」

 

「はい」

 

ヘスティアはカイトの腰にまたがると、取り出した針で指先を突いた。

溢れ出る一滴の血が、前面同様に様々な傷痕が残る背中に落ちる。

 

『神の恩恵』が、顕現する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え」

 

ヘスティアは、まず自分の目を疑った。

 

(なんで?)

 

自問するも答えは出ない。

 

 

 

力 :I0

耐久 :I0

器用 :I0

敏捷 :I0

魔力 :I0

 

 

ここまではいい。

初めて『神の恩恵』を受けた者は、皆等しくここからのスタートだからだ。

 

問題はその続きである。

 

対人 :C

 

≪魔法≫

 

≪スキル≫

戦場の流儀(ウォードレス)

・対多数戦闘時に各ステイタス上昇補正。

・追い詰められるほど効果上昇。

・庇護対象が多いほど効果上昇。

・敵対対象を殺害するたびに効果上昇。

 

 

(なんで発展アビリティがもう……ていうか、対人って何!? あとこれどう見てもレアスキルじゃ……)

 

「神ヘスティア……どうしましたか?」

 

カイトの問いかけに、ハッと我に返る。

 

「あ、何でもないよ、えへへへ」

 

慌てたように言うと、顕現したステータスを紙に写していく。

 

(発展アビリティとスキルは……ごめんよ!)

 

あえて紙には残さない。

残さなかったとしても、致命的なことにはならないとヘスティアは判断した。

 

(こんなレアスキル持ってるなんて知られたら、他の神たちがどんな動きに出るか、わかったもんじゃない)

 

それに、とヘスティアは思う。

 

(変わりたいって、ここに来たんだ。来てくれたんじゃないか! それなのに、こんな、戦うことが全てみたいなスキル……あんまりだよ!)

 

出来上がった紙を、カイトへ渡す。

受け取ったカイトは、何とも言えない微妙な表情になった。

 

「I0、ですか。なんかこう……パッとしないですね」

 

「始めはみんなこんなだよ。これからさ、カイト君!」

 

自分は上手く笑えているだろうか。

なったばかりの眷属に、嘘を着かなければいけない。

あまりに惨めな自分を、隠せているだろうか。

 

「一緒に頑張ろうぜ、ね?」

 

嬉しそうに笑うこの少年に、伝わらなければ良いと、願った。

 




ぼくのかんがえたさいきょうのすきる。

次回、楽しいダンジョンアタック



リリ出す。絶対出す。

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