ダンジョンで真人間を目指すやつもいる   作:てばさき

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ていうか早く神様
早くダンジョンアタック

ベル先輩だって控えてるんだからね!


第5話 とあるパルゥムの受難 ~苦しみと絶望を添えて~

リリルカ・アーデ

 

ソーマ・ファミリア所属

 

職業:サポーター兼こそ泥(冒険者のみ対象)

 

彼女は今日も、自らの魔法で少年の姿に変わりロクデナシ共のサポーターとしてダンジョンに潜る。

 

いつも通りだ。

今日の連中はあまり金目のモノは持っていない。

だから、リリルカは魔石をくすねることにした。

 

ただ、連中のロクデナシ具合は何時にもまして酷かった。それだけが、リリルカの誤算だった。

連中は四階層を過ぎたところで、リリルカの身ぐるみを剥ごうと襲い掛かって来たのだ。

 

恐らくは、バックパックの中にあるポーション等の必需品を奪い取ろうとしたのだろう。

 

通りで持ち物が貧弱なわけだ。

足りない分は現地調達ということだった。

 

ゴブリンやコボルト程度の安上がりな魔石数個を引き換えに、自分の商売道具を失なっては洒落にならない。

 

慌てて逃げ出し、何とかダンジョンを脱出。

撒こうと踏み入った路地裏で、追い付かれてしまった。

チンピラくさい見た目通り、ホームグラウンドは薄汚い路地裏と言うわけだ。

 

捕まり、殴られ、踏みつけられる。

 

ああ、今日はツイてない。最悪なことだらけの人生でもとびきりに近い。

不運とクソッタレのフルコースだ。

 

そう思った。

今の状況が、前菜どころか食前酒にも過ぎないことを知るのは、このすぐ後となる。

 

 

「よし、少年、荷物纏めたら着いてこい。取り敢えずコイツらの金で何か食おう」

 

 

こんなに躊躇いなく暴力を振るえる人間を、リリルカは初めて見た。

今までの冒険者共は、どんなにゲスなヤツでも自分の行為に対する言い訳染みた理由付けを口にしてから彼女を殴ったものだ。

 

それが、瞬く間に3人を気絶させた目の前の男は一言も発することなく襲い掛かり、口にしたのは脅しの言葉だけ。

 

(あ、悪魔?)

 

もはや、逃れることは叶わないだろう。

最後に気絶させられた男は、低ステータスとは言えレベル2だった。

それを正面切ってどうにか出来るような相手に、逃走など無意味な選択だ。

むしろ、そんなことをすれば今しがた起こった路地裏の惨劇が、自分の身にも振りかかって来るだけである。

 

リリルカは覚悟を決めると荷物を纏め、男の後について路地裏を出た。

せめてもの情けに、自分がくすねていた魔石の入った袋をその場に残して。

 

─────────────────────

「善行の後の飯は旨いね」

 

どの口がほざく、とは言えない。

言わないようにするのに、リリルカはそれなりの精神を費やした。

 

路地裏から出てきてすぐ、目についた食堂で2人は食事を摂っていた。

最も、食が進んでいるのは目の前の男だけで、リリルカはまるで喉を通らなかったが。

 

「怪我は大丈夫?」

 

疑問系ではあるが、リリルカがどう答えようも興味は無さそうな雰囲気だ。

 

「……ええ、お陰様で、あれ以上酷いことをされずに済みました。助けていただいてありがとうございます」

 

一方でリリルカも、口調だけはそれらしく繕いながらも、頭はまるで違うことを考えていた。

 

(あれだけの戦闘力がある人間が、ただの義憤なんかでリリのような怪しい者を助けるでしょうか……あのこちらを見透かそうとするような瞳……)

 

リリルカの価値観では、強い人間とはそれだけ我が強く、弱者なんて平気でゴミのように扱うと決まっていた。

 

(……そう、そうですか。確かに、噂が立ってしまうほどにはやり過ぎましたね……自業自得とは言え、どうして神様、リリだけが!)

 

手癖の悪いパルゥムがいる、と言うのは冒険者界隈でも聞くようになってきた。

今度はその噂を逆手にとって、猫人(キャットピープル)にでも化けようと考えていた矢先だった。

 

(まさか、こんなに早く上級冒険者が出張ってくるなんて)

 

一瞬熱くなりかけた思考を落ち着かせ、なんとかこの場を乗り切るための算段を建付け始める。

 

「あの、冒険者様……リリにどのようなご用件でしょうか?」

 

それが、リリルカの出せる最大限の釣り針だった。

完全にしらばっくれて通るのであれば、わざわざこんなところまで自分を連れてこないだろうと言う読みと、見逃す考えを持っているかを探るための釣り針。

 

「……リリ? ……女の子みたいな名前だな」

 

「っ!?」

 

切り分けた肉を口に運びながら、呟くように言った男に、リリルカは身体を震わせる。

 

(探ることさえ、許さないと? 全てを晒せと、そう言いたいのですか!?)

 

もはや、退路はなかった。それを探すことさえ無駄だと言っているかのような態度の男に、リリルカは身体から力が抜け落ちていくのを感じていた。

 

項垂れたまま、フードをより一層深くかぶり直すと、

 

「【響く十二時のお告げ】」

 

そう唱える。

 

そしてフードを持ち上げ、顔を挙げると、そこには本来の姿であるパルゥムの少女、リリルカ・アーデの素顔があった。

 

「おおぅ」

 

男は驚いた様な声を挙げた。

今更白々しいと、リリルカは苛立つ。

 

「リリルカ・アーデと申します……ご覧の通り、最近のサポーターによるこそ泥騒動は、大抵がリリの仕業です。

その上で、もう一度、お聞きします。冒険者様は、リリを如何するおつもりですか?」

 

その言葉に、目の前の男は初めて笑いを浮かべた。

真っ黒な瞳が、リリルカを視ている。

いや、観られている(・・・・・・)ような気さえしてくる。

リリルカに出来るのは、男の次の言葉を待つことのみ。

 

「俺は冒険者じゃないよ」

 

「え」

 

「それ以前に、ファミリアにさえ入ってない」

 

「は?」

 

「無職って、自由の代名詞だと思うんだ。カイト・アルバトスです。よろしく」

 

「………………はぁああ!?」

 

つまり──

 

(リリは、掘らなくても良い墓穴を掘った?)

 

暴力の恐怖に屈してノコノコと着いてきた挙げ句、魔法を曝し、犯罪を暴露。

 

「あ、ああ……ああああぁ…………」

 

サラサラと、リリルカの精神は砂となった。

 

「まあ、なんだ。また似たようなことがあれば力になるからさ。見てもらった通り、揉め事は慣れてる」

 

励ますように言ってくるカイトに、リリルカは頭を抱えてしまう。

 

「取り敢えずは、どこか俺を入れてくれるファミリアが見つかったら、探索でも手伝ってよ。サポーターって、ダンジョン探索には欠かせない補佐役なんだろ?」

 

仲間に教えてもらったんだ、と笑顔を見せるカイト。

 

「そーですねー」

 

「あ、さっき連中から巻き上げた金だけど、七三でいい? 助っ人料ということで。ここの払いは持つからさ」

 

「はいよろこんでー」

 

バックパックからヴァリスの入った袋を出して、きっちり分ける。

 

「それじゃあ、俺は行くから。また会ったら、そのときはよろしく」

 

「はーいー」

 

立ち去るカイト。

 

しばらくして、

 

「ぅのああああああああっ!!」

 

声にならない叫びを上げるパルゥムの姿が、食堂の隅にあったとかなかったとか。

 




そして神不在のオラリオ。
リリルカは人生がベリーハードモードに突入。

自分で掘った墓穴に頭から嵌まっちゃう系ヒロインが参戦。

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