ダンジョンで真人間を目指すやつもいる   作:てばさき

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とりあえずここまでがプロローグ。

なんか、うまく投稿出来てなかったみたいですみません。


第3話 4匹、オラリオで別れる

「例えばの話だ」

 

勿体ぶったその話し方に、エイナ・チュールは愛想笑いを返すことしか出来なかった。

 

「人は常に冒険という名の大海で揺蕩う木の葉と言える。荒波を恐れ、流れに逆らえず、いつか力尽き沈んでいく」

 

昼休みが終わり、さあ、あと半日頑張ろう! と気合いを入れた矢先、最初の利用者が彼だった。

 

ここは冒険者ギルドの受付窓口であり、自分はギルド職員だ。

つまり、今目の前にいるような輩の相手をすることは、業務範囲対象外と言うことだ。

 

「あの……しつれ──」

 

失礼ですが、失せやがれ──それに類似した言葉をソフトに伝えようとしたエイナは、遮るような男のトークにまたも黙らされてしまう。

 

「だがそれを拒むことこそが冒険! 未踏の荒野に自らの足跡を刻むことが! あの高波の向こうの最初の目撃者になることこそが! 人類全ての悲願、平凡からの逸脱! 即ち冒険!!」

 

男は長身を折り曲げ、受付台の向こう側から身を乗り出してくる。

エイナでなくとも、思わず引いてしまうのは仕方がないことだ。

 

(顔は良いのに……なんで冒険者になろうって人は一癖二癖、変なところが在るんだろう)

 

金髪に優しげな目元、しかし、口元の小バカにするような笑みが全てを台無しにしている。

始めにセイル・アーティと名乗った男は、ひとしきり話し終えると、笑みを一層深めた。

 

「もちろん、こうして職務に忠実足らんとする麗しの君を、悪戯に引き留めてしまうこともまた、冒険」

 

(うざい)

 

恐らく今、自分の顔は笑ってはいないはずだ。笑っていたとしたら、きっと犯罪者のような残酷なものになっているだろう。

 

「アーティさん。申し訳有りませんがご用件がなければお引き取りいただけませんか今すぐに」

 

一息に言い切ると、溜まっていた苛立ちが少しは晴れる。

ついでに男をキッと睨み付けてやる。

 

だが、目の前の男、セイルは答えた風もなく、ただ笑みの形を変えただけだった。

それは先程までとは違う、目元同様に優しげな、それでいて快活な……一瞬だが見惚れるようなものだ。

 

「結構。では用件を話したい」

 

エイナが呆気にとられた瞬間に、セイルは話し出す。

 

「どこでもいい。団員を募集しているファミリアを仲介してほしい。可能なら4人分、全て別のファミリアが良い」

 

おまけに、その用件は割とまともだ。4人分と言うのが引っ掛かるが、ネームバリューの無いファミリアに対して冒険者の仲介を行うのもギルドの職務なのだ。

 

「内訳だが、前衛(アタッカー)が2人、斥候(スカウト)が1人、何でも屋(オールマイティー)が1人だ。戦闘経験有りの10代前半から後半。あるかな?」

 

矢継ぎ早の情報はしかし、しっかりとエイナの頭に刻まれた。手元の資料から該当候補を探していく。

 

「……すみませんがアーティさん。何でも屋、とは?」

 

「どこでも、何でも出来ますよってこと……ああ、戦闘でってことね」

 

途中、一度顔を挙げたエイナが尋ねると、セイルは事も無げに答えた。

 

何を聞きたいのか、すぐに理解している辺り、頭の回転は鈍くないのだろう。先程のような態度がなければ、珍しく好印象だったはずだ。

 

「そうすると……正直、お薦め出来るファミリアはありません」

 

エイナはため息と共に、そう告げた。

 

「えー……戦闘員は飽和してるって?」

 

「はい。薬師や事務員など、探索系以外のファミリアであれば、ご紹介もできますが……」

 

どう話したものか迷い、一旦言葉を切ったところに続けられる。

 

「なるほどね。命を張る場所なら、人の紹介じゃなく自分で見つけに来いと、そういうこと?」

 

「率直に言えば……」

 

そのように考えるファミリア側の意向も理解できる。

そもそも新人など、将来が未知数のお荷物を常時募集し、求めているところなど数えるほどだ。

 

「判ったよ、なら、自分で探すさ。ありがとう」

 

余りにもあっさりと、セイルはその場所を離れようとした。

 

「あ、あの、アーティさん!」

 

気がつくと、エイナはその背中を呼び止めていた。

 

「これ、探索系ファミリアの紹介冊子です。何かの参考になれば」

 

言いながら差し出した冊子を、セイルは微笑みと共に受け取った。

 

「ありがとう。今度は、冒険者として、また来るよ」

 

「……その時は、もう無駄話には付き合いませんからね?」

 

最後は、うまく笑えていただろうと思う。

 

 

 

エイナがようやく午後1人目の対応を終えると、隣にいた同僚のミィシャがすかさず話し掛けてくる。

 

「エイナは、ああいうのが好みなの?」

 

まるで恐る恐ると言った表情だった。

 

「は?」

 

それはまるで、異次元からの問いかけだった。

 

「最初はあんな迷惑そうだったのに、途中からなんだか──」

 

「ミィシャ」

 

その声は鋼のように硬かった。

 

「怒るよ?」

 

笑顔のままで、そう言った。

 

─────────────────────

エイナから受け取った冊子をほどき、各ファミリアごとのページに分割。

それを4人で等分する。

 

「んじゃ、あとは各々でよろしくってことで」

 

セイルの言葉に、他の3人は頷いて見せた。

 

「なんにせよ、先ずはファミリアに入らなきゃ話にならん。落ち着いたら、また飯でも食おうや」

 

取り出した紙巻き煙草に火を着けながら、セイルは雑踏の中に消えていった。

 

「じゃ、またなー」

 

続いてキリカも、

 

「それではお元気で」

 

リロイも、

 

「またな、隊長!」

 

それぞれ違う方向に去っていく。

決めていたとは言え、あまりにもあっさりした別離だった。

 

「ああ……世話になった」

 

最後に残ったカイトもまた、ゆっくりと歩き出す。

ここからだ。

ここから始まるのだ。

戦争ではなく自分の意思で、生き方を決める人生が。

 

見上げた空には雲ひとつ無い。

それがまるで、カイトには初めて目にしたものであるかのように美しかった。




しばらくはカイトを中心に話が続きます。

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