ダンジョンで真人間を目指すやつもいる   作:てばさき

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今更ですが、タグにあるリリカワとは、

『リリ可愛いよリリ可愛い』

の略です。

挨拶や接続詞、文頭から文末まで、あらゆるところに使えます。

意外と知らない人が多そうですよね(笑)


第18話 お酒の勢いって怖いの

「あたまいたい」

 

フラフラと、月明かりの下を歩く人影がある。

 

「すごくねむい」

 

鈍そうな話し方をするその少年はカイトだ。

 

「そりゃあ、あんなに強いお酒を一息に空けたら、そうもなりますって」

 

その横を、大きなバックパックを背負う小さな人影が寄り添うように歩いている。

 

「ダメですよカイト様。お酒は飲んでも呑まれるなというのが大人の嗜みなのです」

 

赤く火照った顔で、得意気に説教する少女はリリルカだった。

 

「リリがのま……すいません」

 

言いかけてカイトは、とても良い笑顔のリリルカを見て謝った。

 

「ねえ、カイト様?」

 

「うん?」

 

「リリは、カイト様にとってどういう存在ですか?」

 

「う……」

 

「カイト様?」

 

「家族……だと思ってる、俺が勝手に」

 

非常に言いにくそうに、カイトは言った。

 

「まだお会いしたばかりのリリを、ですか?」

 

「そういうことを、考えたことはないんだ。俺のとこにいてくれるなら、みんな家族さ」

 

平淡な声で。

しかし、控え目な笑みで。

 

ああ、やはり。

彼は無理して(・・・・)笑っている。

聞くまでは気付かなかった。

 

感情の起伏はあるのだろう。趣味嗜好だってあるだろうし、それを楽しむこともできる。

 

しかし、今のリリルカはカイトの笑みに言い表せない拙さを感じた。

 

(……まるで何度も練習したような、必死に身に付けようとしたような)

 

セイルは戦いの後、カイトに『マトモ』な人間としての生き方を教えたという。

 

考え方、話し方、笑い方さえ。

カイトは教えてもらわなければ、わからなかったのだ。

 

今だって必死に、そう在ろうとしている。

 

「カイト様、世には様々な関係があります」

 

そして、懸命にそれを、リリルカに悟らせないようにしている。

そんな様子が──

 

「家族以外にも、友達や恋人、好敵手、商売敵……」

 

マトモである、とは、どういうことか。

セイルからの問いに、カイトは考えた後こう答えたという。

 

 

『優しい人……優しく出来る人』

 

 

それこそが、カイト・アルバトスにとっての目指すべき理想。

 

「大丈夫です。お優しいカイト様なら、きっとたくさんの関係に恵まれることでしょう……リリだってその一人です」

 

殺戮にまみれた人生で、何度かは向けられたことのあるその感情に、カイトはとても憧れていた。

 

いつか、自分もいつかは、と。

 

「リリはカイト様にとって、最初のお友達になれたらと思っています」

 

 

『一応女を知らねえ訳じゃねえが、こいつが家族と呼んでる連中にそう言う感情持つことは無いよ』

 

脳裏に甦る、ゲスな笑み。

 

『定石通り、まずはお友達から(・・・・・・・・)始めてみるのが吉だろうな、ぶっひゃっひゃ!』

 

 

やむを得まい。

あの笑い方は心底苛ついたがやむを得まい。

 

「カイト様はお嫌ですか? リリとお友達になることは」

 

「まさか……! すごく嬉しいよ。本当だ」

 

どういう顔をしていいか、迷ったのか。

心底、といった風な声の後、遅れて口が笑みを浮かべた。

 

そのちぐはぐな様子が──

 

「可愛い」

 

「え?」

 

「では、今日からリリとカイト様はお友達です」

 

十五年の人生における最高硬度を発揮したリリルカの精神は、咄嗟の発言を完全に流れから抹消して会話を続けることを成功させた。

 

「え、今」

 

「カイト様は明日もダンジョンに?」

 

成功させた。

 

「うーん? あ、多分」

 

「では、またあの広場でお会いしましょう。お昼前くらいからでいかがですか?」

 

「……わかった」

 

「今度は、きちんと計画的に探索しますから、ね?」

 

むしろそうしないとブッ殺す。

そんな穏やかな目付きだった。

 

「あ、ハイ」

 

そんなやり取りをしつつ、差し掛かった三叉路の真ん中で、リリルカは立ち止まった。

 

「それではカイト様、リリはこちらですので」

 

バックパックを背負い直すと、リリルカは笑顔でカイトへ言った。

 

「また、明日」

 

その少年が、言われたこともない言葉を。

 

「……ああ! また明日!!」

 

嬉しそうな声、ぎこちない笑み。

 

背中を向けて歩き出すリリルカの耳に、もうひとつカイトの言葉が飛び込んできた。

 

「俺はリリの方が可愛いと思う!!!!」

 

「ぶはっ」

 

今、あの少年がどんな顔をしているのか、非常に興味が湧いた。

湧いたがしかし、振り返ることは出来ない。

 

とてもじゃないが今の自分の顔こそが、誰かに見せられるようなものじゃないからだ。

 

「カイト様のばかあぁぁぁぁ!!」

 

仕方なくリリルカは、自身の泊まる安宿まで、全力疾走するしかなくなったのである。

 

 

────────────────────

 

「おかえりっ! 怪我してないかい? カイト君」

 

ホームへ帰ると、ヘスティアが待ちわびたように出迎えた。

 

「ただいま、神ヘスティア。怪我は……大したことありません」

 

ポーションで浅くなった、インプの噛み傷が僅かに残るだけ。

無傷と言って良いレベルだ。

 

「おいおい、無茶だけはしないでくれよ? 君がいなくなってしまったら、ボクは盛大に泣くぞ?」

 

少しばかり眉根にシワを寄せ、カイトの腕を掴みつつ言った。

 

「無茶はしません。明日も、その……友達のサポーターと一緒に潜ります」

 

友達、というフレーズにヘスティアの肩がピクリと動いた。

 

「ほうっ! 友達が出来たのかい!?」

 

なんとめでたい。

少年のこれまでを思えば、この街で新たに繋いだ絆はまさしく、彼の目指す『マトモ』な人生への大きな前進に思えた。

 

「どんな子だい?」

 

教会地下の隠し部屋で、ヘスティアはベッドに腰を降ろすとポンポン、と自分の横を叩いた。

 

「ステイタスの更新でもしながら、その辺をゆっくり聞こうじゃないか」

 

ただし、女だったら暴れる。

そんな内心を秘めつつも、ヘスティアはニコニコと笑った。

 

ステイタス更新開始三秒で、うがーっ、と言う主神の叫びがホームに響いた。

 

………

……

 

(お、おぅ…………)

 

更新されたカイトのステイタスを見ながら、ヘスティアはそう呻いた。

 

 

力 :I0 ➡ 58

耐久 :I0 ➡ 85

器用 :I0 ➡ 30

敏捷 :I0 ➡ 55

魔力 :I0 ➡ 0

 

 

些か伸びすぎだが、こういうこともあるのかもしれない。

何せ初めてできた眷属だ。

イマイチ勝手がわからない。

 

前回同様、問題はその続きであった。

 

 

対人 :C

 

≪魔法≫

 

≪スキル≫

戦場の流儀(ウォードレス)

・対多数戦闘時に各ステイタス上昇補正。

・追い詰められるほど効果上昇。

・庇護対象が親しいほど(・・・・・)効果上昇。

・敵対対象を殺害するたびに効果上昇。

 

 

(スキルの内容が、変わってるんですけど)

 

「神ヘスティア? どうかしましたか?」

 

カイトの伺うような問い掛けに、我に返る。

 

「な、何でもないよ! それよりも、そのリリルカ某とはどこまでいったんだい?」

 

強引に話の方向を変える。

そもそも、最初の主題はそれだ。

 

自分の初めての眷属に、悪い虫がついたのではないか。

それこそが最大の関心事である。

 

「どこまで?」

 

一方カイトは、質問の意図が読めず、ただ思い付くままに言ってしまう。

 

「ダンジョンだったら、十階層まで行きました」

 

「はあぁぁぁん!?」

 

今この子は何と言ったか。

 

そこから、夜を徹したお説教が始まった。

 

(そういえば、腹減ったな……なんか、酒場じゃほとんど何も食べなかったし)

 

取り敢えずこのプリプリと怒る主神様は、一度自分の上から退いてはもらえないだろうか。

 

「聞いているのかい、カイト君!!」

 

「はい、聞いてます、すみません」

 

言えるはずもなく、夜は静かに更けていった。

 

──────────────────────

 

そうして、カイトがオラリオに来てから、一月半が経った。

彼の不器用な生き方は、リリルカに何度も怒られたり励まされたりしながらも、あまり変わることなくそのままだった。

 

が、注意するパルゥムも、される少年も、不思議と楽しそうに見えた。

 

 

このおかしな組み合わせの二人の名前が、上層でそこそこ売れ始めた頃、

 

「僕をこのファミリアに入れて下さい!」

 

そんな懇願と共に街中のファミリアを回る、少年の姿が見られるようになった。

 

白い髪に赤目、兎のような少年が。

 

──────────────────第二章 了

 




過去編終りである。

次回より原作に突入する!

残り二人のオリキャラは、完全にリリが絡まないので今の精神状態で書くと死にます、私が。

世の中にはリリカワが足りない。

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