ここからはソーマ・ファミリア絡みのお話。
なお、カヌゥ君は人生がルナティック・エクストラ・クレイジー・DMC・ハードモードに突入しています。
詳しくは次回。
仕方ないね。リリに(原作で)意地悪したから仕方ないね。
カイトとリリルカがギルド前の広場に戻ってくると、辺りは夕陽に照らされ橙の中にあった。
「少し早かったかな?」
カイトは周囲を見渡すも、例の約束した少年の姿はない。
「どうでしょう……取り敢えずベンチにでも座って待ちましょうか」
リリルカはそう言いながらベンチに腰掛けると、ふう、と一息吐いた。
「まさか、半日足らずで二万ヴァリスを超えるとは思いませんでした」
二人の初冒険、その成果は、二万六千ヴァリスという色々と常識外れな結果となった。
「何、前半の階層を無視して、十階層に篭ればもっといけるさ」
「前半の階層とかないですから。普通初めては行っても二階層までですから」
あと、十階層はレベル1が一人で長時間稼ぐ場所じゃないですから。
「それと、もし先程の換金所でのようなことをしたら、リリはもう二度とカイト様とは冒険しません!」
語尾が強い。
私は怒っているんです。そんな感じだ。
「悪かったよ、リリ。二度としない、約束だ」
カイトはただ謝るのみ。
話の元は換金所での一幕。
手に入れた二万六千ヴァリスを、まず、カイトは二等分した。
ここまでは、リリルカも黙って見ていた。
「よし、あの少年に渡しても三千残るな」
その台詞に、割と本気でリリルカはキレた。
「バカにしてるんですか!! 何のためにリリが一緒に行ったと思ってるんですか!?」
これではただの施しだ、と。
一緒に冒険して、目的だって共有して、だからパーティーなんだと。
「あのカヌゥ達だって、共通の目的があってパーティーを組んでいるんです! それともカイト様は、そんなものリリとの間には不要だとお考えなのですか!!」
その言葉を受けたカイトは、リリルカが初めて見る表情を浮かべた。
まるで捨てられた子犬みたいに心細げな、泣き出しそうな顔だった。
「…………ごめん」
なんとなく居たたまれなくなって、リリルカはカイトの手から金を奪うと、一万一千ヴァリス抜いてから等分した。
「完治に一万ヴァリスかかるような薬が必要なら、あの子のお姉様は相応に消耗されているはずです。一千ヴァリスあれば、二人分の温かい食べ物を用意できます」
リリルカとカイトの手元には、それぞれ七千五百ヴァリスが残る。
「……お約束通り、そのお金でリリに晩ご飯を奢ってください。その、大丈夫ですカイト様。リリはこんなことで、カイト様を嫌いになったりはしません」
そっと、所在なさげなカイトの右手に触れた。
「考えてみれば、カイト様が世間と大分ズレていることは今更な話です。知らないのであれば、リリが教えて差し上げます」
笑って見せる。
「大丈夫ですよ」
もう一度そう言うと、カイトはその日の内で一番柔らかな、安心したような笑顔になった。
「うん、わかった、ありがとう」
それから、広場までの道すがら、どれだけカイトの振るまいが常識と外れているか、リリルカの説教は続いた。
「カイト様、そもそもイタズラに人様を傷付けてはいけません」
「……殺してない」
「カイト様、それは暴力を受ける側からすれば微細な差なのです」
「……じゃあ」
「カイト様」
「ごめんなさい」
その様はまるで、飼い主と項垂れる犬のようにも見えた。
ちょっと可愛いじゃないか、そんなことをほんの少し考えてしまったリリルカは、カイトに見えないようにクスリと笑った。
「あの子のお姉様、元気になると良いですね」
何度も頭を下げながら去っていく少年サポーターの姿を見ながら、リリルカは言った。
「そうだな、家族だもんな」
カイトも珍しく優しい言葉を口にした。
「……さ、リリ達も行きましょう。お腹がペコペコです」
「ああ、どこか旨い店は知ってるか?」
「では、豊饒の女主人はいかがでしょうか」
「……知らないな」
「リリも行ったことはありませんが、いつか、冒険した帰りに寄ってみたいと思っていました」
ちょっとした夢なんです。と、照れたように笑うリリルカに、
「よし、それじゃあそこに行こうか」
カイトも笑って応じる。
思えばこの時、別の店で済ませておけば、リリルカはあんな目に合わずに済んだ。
今更、どうしようもないことではあったが。
─────────────────────
豊饒の女主人──それは、オラリオにいる多くの冒険者達にとっての憩いの場である。
少々値は張るが、上質の料理に酒、気っ風の良い女将に見目麗しい店員達。
どんな荒くれ者も、ここでは口論以上の問題は起こそうとしない──多少の例外はあるが──、まさに冒険者の店である。
「いらっしゃいませニャ!」
キャットピープルのウェイトレスに案内されて、カイト達はカウンターに並んで座った。
「取り敢えず何か飲み物を……酒はいい」
「果実酒を
「かしこまりましたニャ! こちら、果実酒二つ、お薦め二つニャ!」
どうやら、ウェイトレスはリリルカの注文を優先したらしい。
「カイト様、ここは酒場です。まずはお酒というのが作法です」
「……俺は下戸なんだ」
「果実酒一杯で酔う冒険者なんていません」
「マジなんだ」
「リリのお酒が飲めないってんですか?」
「……いえ、すみません」
「よろしい」
何やらテンションの高いリリルカに、カイトは逆らうことを止めた。
「ムフーッ」
鼻息が荒い。
本当に夢だったのだろう。
「お待たせニャ!」
ウェイトレスが二人分の酒とツマミを持ってくる。
透明なジョッキに、爽やかなオレンジ色の液体が並々と注がれている。
小皿にはナッツの類いが盛り合わせで乗っている。
「では乾杯しましょう!」
掲げられたジョッキにの向こうに、笑顔のリリルカがいる。
カイトも覚悟を決めると、ジョッキを合わせた。
………
……
…
「美味しいですねぇ、カイト様!!」
「あい」
「お料理も最高です!!」
「あい」
「さあさあ、もっと飲みましょう!!」
「うぇあぁぁ」
「飲めー!!」
「これこれ、無理させちゃいかんよ、おちびちゃん」
果実酒一杯で呂律の回らなくなったカイトを攻め立てるリリルカに、カウンターの向こう側から声が掛かった。
「人には向き不向きってのがあるもんさ」
そこには、この店の女将であるミア・グランドがいた。ドワーフの立派な体躯は、カウンター越しにも力強さを感じさせる。
「ま、そこの若いのは確かにちょっと情けないけどね」
快活な笑みを浮かべながら、ミアは水の入ったグラスをカイトの前に置いた。
「むぅ、確かにお弱いです。まさかこれほどとは」
「これから徐々に慣らしてきゃ良いのさ。酒なんて、そんなもんだ」
「うぇいぃ」
水を啜りながら、カイトも同意したように頷く。
「仕方ありません、お酒はこの辺で勘弁してあげましょう」
「おぉう」
「もう、カイト様ったら、だらしないですよ?」
「おまいう」
「あ゛?」
「うみまえん……」
「おやおや、あんた達、冒険者のカップルかい? 年若いのに、楽しくやってるじゃないか」
カップル、という言葉に、リリルカの耳がサッと赤くなった。
いやいや、お酒のせいだこれは。
だってこんなん、いやいやいや。
「ち、ちがっ」
「はっはっは! なんだい、まだだったかい? そいつは悪いことをしたねぇ」
ゆっくりしてきな、そう言い残して、ミアは厨房へと消えた。
「リィリ?」
多少はマシになったカイトが、どうしたのかと尋ねてくる。
が、リリルカはぷい、と横を向いてしまう。
どうにも顔が合わせづらい雰囲気だったのだ。
──顔を背けた先に、男が立っていた。
こちらを見ながら、口元を抑え、今にも笑い出しそうな顔をした男が。
長身、金髪、文句なしの美形。
ただし、どこか違和感のある。
リリルカは何となく、そこにいる男からカヌゥ達と同じような陰湿さを感じた。
「何やってんのお前、ぎゃはははは!!」
ついに堪えきれなくなったのか、笑いながらこちらへ向かってくる男を見て、リリルカは自分の感じた違和感の正体がわかった。
(ああ、きっと──)
酒の回り始めた頭で、思う。
(この人、
感想返しでも書きましたが、カイトの剣は形状で言えばハッピーターンが一番近いです。
あれの片側が平らに揃えられていて、柄が出ているのがカイトの剣です。
色々と似てると言われましたが、まあそんなこともあるか位でやっていきます。
オリジナルでも書くときは気を付けよう、と教訓にしつつ。