ダンジョンで真人間を目指すやつもいる   作:てばさき

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悲報、ダンジョンの影が薄い。

なお、カヌゥは今作のタグにもある、原作変化有りの影響を最も強く受け続けるキャラです。
好きな人にはゴメンナサイ。反省してまーす。




第11話 楽しいダンジョンアタック 後編

カイトとリリルカの二人は、ダンジョンに入ってすぐの開けた場所で今後の計画を立てていた。

 

「リリの見立てでは、カイト様は上層部であれば問題なく探索出来るだけの実力をお持ちです」

 

三階層までの地図を見ながら言う。

 

「根拠ですが、先程のカヌゥ達です。彼等はゲスですが、キラーアントの群れをある程度捌くくらいの実力はあります」

 

「……カヌゥって誰だっけ?」

 

「名前も知らない相手によくあそこまで……って、今更でしたね。先程カイト様が身ぐるみを剥いだ中にいた人ですよ。ほら、丸い耳の」

 

「ああ、あの汚いタヌキか」

 

「酷すぎる」

 

思わず口から出た言葉を誤魔化すように咳払いをし、リリルカは続けた。

 

「キラーアントは個体としても厄介ですが、瀕死になると仲間を呼び寄せ、群れをなすことで危険度が跳ね上がります。奴らをあしらうことができるカヌゥ達は、上層を狩り場とするには充分な力がありました」

 

「なるほど。あれくらいでいいのか。思ってたよりは簡単だな、ダンジョン」

 

「とんでもありません!」

 

リリルカは地図から顔を上げずに言った。

 

「そう言って、一体何人の冒険者が命を落としていったかわかりません。ダンジョンでは臆病なくらい慎重に行動してもまだ足りない程、危険が溢れているんです!」

 

「そうか……ごめんよリリ。少し調子に乗っていたみたいだ」

 

「全くです。カイト様がお強いのはわかります。ですが、それでもなお途切れぬ緊張を強要するのがダンジョンなのです」

 

一度頷くと、リリルカは地図を折り畳んでバックパックにしまった。

 

「まずは肩慣らししてから、三階層まで行きましょう。カイト様のお力がどれ程のものなのか、ダンジョンに通用するのか、試しながら進みます」

 

ダンジョン探索において、カイトは正真正銘の素人だ。

その為、この日の行動指針は予めリリルカが一任されていた。

もちろん、最終的に一万ヴァリスという大金を稼ぐことは至上命題でもある。

 

「よし……わかった。頼りにさせてもらうな、リリ」

 

「お任せください!」

 

小さな身体で胸を張るリリルカ。その顔は、どこか得意気だった。

 

「安全第一に、きっちりかっちり、稼がせて差し上げますっ!」

 

………

……

 

(そんな風に考えていた時期が、リリにもありました)

 

「おらぁっ!」

 

ひゅんひゅんひゅん、ぐちゃっ

 

すぐ横に、回転しながら飛んできたコボルトが墜落する。

頭が半分しかなく、手足は付いていない。

 

「…………」

 

無言で、リリルカは解体用のナイフを使って魔石を取り出す。

憐れなコボルトは塵となって消えた。

 

「たあっ!」

 

ひゅううぅぅぅぅん、べちゃっ

 

今度はダンジョンリザードだ。

胴体が千切れかけている。

 

「…………」

 

魔石を取り出す。塵になる。

 

「せいっ!」

 

ぶちぶちぶちぃ、どちゃ

 

音の方へ目をやると、舌を引きちぎられるフロッグ・シューターがいた。

次の瞬間、異形のカエルは真っ二つになり、塵と消えた。体内の魔石ごと斬ってしまったのだろう。

そして、それまで二十匹はいた魔物の群れは全滅と相成った。

 

「リリ、おかわり」

 

(空が見たい)

 

間髪入れずにリリルカは思った。

とにかく何か雄大なものを見て心を癒したかった。

 

在りもしないものを求めるように、ダンジョンの天井を見上げる。

 

ぷらーん

 

空の代わりに岩の天井が。

そして雲の代わりに、頭から天井に叩き付けられてぶら下がる、ゴブリンの死体が三体あった。

 

「はあ……お空が綺麗です」

 

リリルカは現実逃避を始めた。

 

「リリー! こっちに階段あるぞ! ちょっと行ってみよう!」

 

しかし現実は非情にも回り込んできた。

 

見ると、下の階層へ降りていくカイトの後ろ姿があった。

 

「カイト様ー、勝手に行ったら殺しますよー無理ですけどー。言っても聞いてくれないのも知ってますけどー」

 

光を喪った目で呟きながら、リリルカは足下の石を拾って投げつけ、落ちてきた雲……もといゴブリンの死体から魔石を回収する。

 

「リリー! 初めて見るやつだ! うはははは、コイツらも楽勝だなっ!!」

 

階下から聞こえてくる楽しそうな声に、ますます目が死んでいくリリルカ。

 

「……今度は何ですかね。もう六階層(・・・・・)ですし、ウォーシャドウか何かでしょうか。どのみちまだまだ降りても大丈夫そうでなによりです」

 

はは、と乾いた笑いが後に続く。

 

「どういう経験したらレベル1からあんな戦える様になるんですか。ここまで傷ひとつないとか……リリは常識と言う言葉がわからなくなりそうです」

 

一説によると、独り言とは強いショックを受けた人間がとる、自己防衛行動の一つという。

自分の声を聞くことで、精神の崩壊を防ぐのだと。

 

「インファント・ドラゴンでも出たら……いや、無理ですかね」

 

でかい蜥蜴だ、と嬉々として襲いかかっていくカイトの姿が目に浮かんだ。

 

(安全マージンがどこか未だにわかりません。もしかしなくても、ミノタウロスくらいなら一人でどうにかできるんじゃ……)

 

大誤算だ、と思う。

人間に対しては強くても、モンスターならそうはいかない。そんな当たり前の常識はしかし、未だにカイトの前に姿を見せることはなかった。

 

(一万ヴァリス、多分もう貯まってますね)

 

リリルカ達がダンジョンに入って三時間程。

派手に暴れ回るカイトは、辺りを徘徊するモンスター達を誘蛾灯の様に引き付けては、虐殺していった。

その数は百を軽く越えているだろう。

 

「ゴブリンとか、途中から普通に逃げてましたもんね。下の階層の方が、同じモンスターでも好戦的なはずなのに」

 

そして、当然のように追い付かれ、強烈な蹴り上げをくらい天井の染みと消えたのだ。

 

「っていうか、ここまで無傷なのはリリも同じですか。それも大概ですね」

 

死んでいた目が、少しだけ輝きを取り戻す。

 

各階層で乱戦を繰り返して来たのだ。

何度かリリルカにモンスターが迫ってきた瞬間があった。

しかしそのたびに、雷光のような速度で飛び込んできたカイトが、庇うようにしてそれらを打ち払った。

 

「まあ……ちょっとは頼りに、なりますけど」

 

何だか納得がいかないけれど。

認めてあげてもいいかな、とは、思わなくもない。

 

甚だ非常に、全くもって不本意ではあるが。

 

あんなにも守ってもらえたのは、生まれて初めてだったのだ。

 

リリルカは何となく弾む気持ちを抱え、階下から響く剣戟の音に向かって歩き始めた。

 




ダンジョンにおける初戦闘を九割方カットされる系主人公、推して参る。

思ったよりあっさりしてしまった。

でも4000文字くらい同じテンポで虐殺し続ける主人公を見るよりはリリの方が良いかなって。

リリ可愛いなって

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