ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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この章は短くなる予感。


逃亡の第四真祖 Ⅱ

 大掃除は、三人ががりでも結構な手間になった。 現在の時刻は、午後九時十五分。 今年の残り時間は、約二時間程だ。

 交互にシャワーを浴び、古城たちが一息ついた直後、インターフォンのチャイムが鳴り、モニターに映し出されたのは矢瀬基樹だ。

 

『おーっす。 お前ら、来てやったぜ』

 

 基樹は、勝手にドアを開けて入って来る。 基樹の両手に握られているのは、コンビニの袋だ。

 湿った髪をバスタオルで拭きながら、悠斗が玄関で出迎えた。

 

「こんな時間にどうしたんだ? 何か、用事でもあったけ?」

 

「どうしたもこうしたもねェよ。 年が明けたら、皆で初詣に行くって約束だっただろ。 一旦、お前ん家に集合して」

 

「あ、忘れてたわ」

 

 最初は、古城の自宅に集合という計画だったのだが、前の事件があり、悠斗のマンションに集合となったのだ。

 悠斗は、補習や掃除に追われていたので、その辺の記憶が抜け落ちていたらしい。

 

「てか、悠斗。 お前やつれてないか?」

 

「さっき深森さんが来て、事後の片付けをな」

 

 補習の後に、家の大掃除。 結果、これらの事項が重なり、意外と悠斗の体力を奪っていた。

 基樹は、合点したように頷いた。

 

「成程な。 取り敢えず、邪魔するぜ。 菓子とか飲み物とかは買って来たからな」

 

「構わないぞ。 つか、浅葱はどうしたんだ?」

 

「あいつなら、もうすぐ来ると思うぜ。 ほら」

 

 基樹が自身の背後を指差すと、玄関前に新たな人影が姿を現した。 一人は華やかな髪形の女子高生で、もう一人は小柄な小学生だ。 ふらふらと危ない足取りで、二人は如何にか神代家の玄関前に辿り着く。

 悠斗は困惑した表情で、

 

「……お前ら、暑くないのか?」

 

 彼女たちが身に着けているのは振袖だ。 浅葱は、淡い薄紅の生地に無数の花を散らした豪華な振袖である。

 浅葱に手を引かれている結瞳は、明るい青緑色の生地に宝尽くしの模様を描いた振袖だ。 しかし、絃神島は常夏の島である。

 

「せ……せっかくの新年だし、偶には晴れ着もいいかなーって思ったのよ」

 

「(なるほど。 浅葱は古城に晴れ着を見て欲しくて無理をしたと)」

 

 まあ、浅葱の考えは悠斗には露見していたが。

 結瞳は、体をもじもじさせながら、

 

「――ゆ、悠斗さん。 似合ってますか?」

 

「おう、似合ってるぞ。 凪沙にも見せてやりたいくらいだ。――凪沙が帰って来てから一緒に写真撮ろうか」

 

「そ、それじゃあ。 凪沙さんは振袖で、悠斗さんも袴姿でお願いします」

 

「いいぞ。 凪沙には俺から言っとくよ」

 

 結瞳は、はい。と元気よく返事をする。

 ともあれ、リビングに到着した所で、ぐったりとソファに倒れ込む浅葱と結瞳。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「お前ら、暑そうだけど大丈夫かよ?」

 

 リビングに入った悠斗は、壁に立て掛けてあるリモコンを操作し、キッチンからやって来た古城が、浅葱と結瞳に水の入ったグラスを渡す。

 

「ほれ、水だ」

 

「古城さん。 助かります」

 

「ありがとう、古城」

 

 グラスを受け取り、結瞳、浅葱が言った。

 

「……って、古城!? あんたが、何で悠斗のマンションに居るのよ?」

 

 古城は驚き、一歩後退する。

 

「お、おう。 悠斗のマンションに居候してるからな」

 

「あ、ああ。 そういえばそうだったわね。 古城の家、神獣に破壊されたんだっけ」

 

「まあな。 修理が終わっても、家具が揃ってねぇーしな」

 

「ふーん。……で? 何で、姫柊さんも一緒なの?」

 

 古城は、額から冷汗を一筋流した。

 浅葱たちは、古城と雪菜が同居してる事は知らないのだ。 まあでも、露見するのも時間の問題だと思うが。

 助け舟を出すように、悠斗が口を開く。

 

「姫柊は、年越し蕎麦を一緒に食う為だ。 普段は凪沙も一緒なんだけど、今は帰省中だから俺たち三人で。って事だ」

 

 古城も、悠斗に便乗するように、

 

「オレたちは四人で、いつも夜食を食ってるしな。 浅葱たちも飯まだだったら、年越し蕎麦食うか?」

 

「私たちはいいわ。 食べて来たし」

 

 古城がキッチンに向かいながら、

 

「姫柊。 蕎麦は三人分でいいぞ」

 

『わ、わかりました』

 

 私服にエプロンを着けた雪菜は、引き出しから三つ御椀を取り出し、箸を手に取り、鍋から蕎麦を取りよそっていく。

 お盆に三人分の御椀を運んで来た雪菜は、テーブルにお盆を置き、御椀をテーブル前に座る古城と悠斗の前に置いていく。

 これを見ていた浅葱たちは、軽い敗北感を味わってしまう。――そう、雪菜が作る料理が、かなり美味しそうだったからだ。 それに何処から見ても、ザ・家庭料理。という感じだった。

 高みの見物を決め込んでいた基樹は、部屋に漂うシャンプーの匂いに気づいて、面白そうにニヤリと笑う。

 

「ほー……湯上りの姫柊ちゃんは色っぽくていいですなぁ」

 

「え? そ、そうですか……?」

 

 冗談めかした基樹の指摘に、軽く動揺する雪菜。 基樹は顎に手を当てて、

 

「待てよ……同じシャンプーの匂いって事は、かなり前から一緒に居て、何故か交互にシャワーを浴びたって事だよな……いや、悠斗にとっては浮気になるんじゃ……」

 

「アホか。 俺が、凪沙以外の人を好きになるわけがねぇから。 つか、古城と姫柊には、深森さんが荒らした手伝いを頼んで、埃っぽいからシャワーを浴びただけで何もねぇよ」

 

 基樹は、なるほど。と頷いたが、

 

「ん? 何で、古城の母親の物が、悠斗の家にあるんだ?」

 

「それは簡単だ。 凪沙が深森さんの物を管理してるからだ。 俺と凪沙が同棲してる事は、基樹も知ってるだろ?」

 

「なーんだ。 そういうことか」

 

 流石、悠斗と言うべきか、基樹の危うい質問を受け流したのだった。

 

「話は変わるが、何で結瞳が、基樹たちを一緒なんだ?」

 

「ああ……それはほら、書類上はウチの兄貴が結瞳坊の保護者って形になってるだろ。 だから、天奏学館の学生寮が閉まる年末年始は、矢瀬家が預かってんだよ。 そんで結瞳坊が、古城たちにどうしても会いたいっつーから、わざわざオレがこうしてだな。 まあでも、一番は悠斗と凪沙ちゃんに振袖姿を見てもらいた――」

 

 そう説明しようとした基樹が、痛てッ、と鼻の頭を押さえて仰け反った。 結瞳が、振袖の袖を鞭のようにして、基樹の顔面に攻撃したのだ。

 結瞳は顔を赤く染めながら、

 

「よ、余計なことは言わないでください。 それに、変なあだ名で呼ぶなってお願いしておいたはずですけど」

 

「ぐっ……」

 

 このガキ、と口を歪めて結瞳を睨む基樹。 結瞳は、つん。と顔を背けている。

 そんなこんながあり、古城と悠斗、雪菜は、箸を持って蕎麦を食べる。

 

「しかし今更だけど、絃神島にいると、年越しだの新年だのって言っても、ピンとこねぇーよな」

 

 外から聞こえてくる蝉の鳴き声に、古城がそう言った。“魔族特区”である絃神島は、必然的に海外出身者が多く、常夏の所為か季節感に乏しい。 テレビでは国営放送の歌番組が盛り上がりを見せていたが、それも絃神島では遠い出来事に思えた。

 

「だな。 つか、絃神島の初詣ってつっても、新年のカウントダウンと花火大会がメインだしな。 面倒くせぇから、このまま悠斗の家でゴロゴロしててもいいかもな。 結瞳坊もそろそろおねむの時間だろ」

 

 ソファにだらしなく寝込んだ基樹が、そう言って結瞳の頭を撫でる。

 結瞳はそんな基樹の手を乱暴に払いのけ、

 

「子供扱いしないでください。夜更かしくらい平気です。私は“夢魔(サキュバス)”ですから。 寧ろ、これからが本領発揮といっても過言ではないです」

 

「てゆうかお前、花火が見たいだけだろ」

 

「ち、違いますし!」

 

 基樹に指摘された結瞳が、顔を赤くして首を振る。

 しかし、振袖で体力を消耗したのか、強気な発言とは裏腹に今にも眠りそうだ。 まあ確かに、瞬きの回数も増え、お菓子にも殆んど手をつけていない。

 

「でも、一度涼んじゃうと外に出たくなくなるわね。 この恰好だと」

 

 結瞳に気を遣い、浅葱が独り言のような口調で言う。

 

「無理して倒れられたら困るし、二人とも着替えるか?」

 

 着替えは、凪沙の服だけどな。と悠斗は付け足した。

 

「あの……もし着替えるなら、その前に写真を撮らせてもらってもいいですか?」

 

 雪菜は立ち上がり、棚に置いてあったデジタルカメラを取った。 おそらく、着替える前に浅葱たちの晴れ着姿を撮影しておこう、という事らしい。

 カメラを見た浅葱は、目を丸くする。

 

「MARのゼータナインじゃない。 買ったの?」

 

「いえ、戴きものです。 お年玉代わりにという事で、深森さんが」

 

「う、なにそれ。 羨ましい。 この機種、日本では未発売なのに……」

 

 眉を下げ、何故か悔しそうな浅葱。

 そう、パソコンマニアである浅葱は、この手のデジタル機器には目が無いのだ。

 古城は、浅葱の食い付きに興味を持ち、

 

「えーと、そのカメラ。 結構いいやつなのか?」

 

 浅葱は頷き、

 

「うん、かなり。 防水だし耐衝撃だしセンサーてんこ盛りで、ネットにも繋がるし。 撮影素子もかなり高性能なのよね。 この機種の売りは新型のDSPよね。 独自設計の積和演算回路を積んでて、コードの実行効率が概算で二桁上がるって話よ」

 

「お、おう……」

 

 さっぱり解らなかった、と思いながらも古城は弱々しく頷いた。

 悠斗は意味が解ると思い、古城は質問する。

 

「(悠斗。 今、浅葱がなんつったか解るか?)」

 

「(俺もデジタル系は疎くてな、詳しい知識は持ち合わせてないんだ)」

 

 莫大な情報を持つ悠斗だが、全ては過去に関わるものでなので、現在の事は、再び情報収集する必要がある。

 その事を古城に話すと、なるほどな。と頷いた。

 

「そうだ。 撮った写真、後で私にも送ってくれる?」

 

「あ、はい。 やり方を教えてもらえれば」

 

 雪菜が自信なさげな表情で首肯する。 呪術関係の知識に強い雪菜だが、機械類の操作は苦手なのだ。

 

「あ、そっか……。 接続設定しておかなきゃだよね。 姫柊さんってパソコン持ってる?」

 

「いえ」

 

 すいません。と雪菜が首を振り、ううん。と浅葱が残念そうに肩を落とした。 普段は自前のノートPCやタブレッド端末を何台も持ち歩いてる浅葱だが、振袖姿ではそういう訳にもいかなかったらしい。

 

「悠斗は持ってるっけ?」

 

「まあ一応。 凪沙と共有してるノートPCならある」

 

「借りていい」

 

「まあいいけど。 共有つっても、ネットショッピングくらいしか使わないしな」

 

 そう言ってから悠斗は、リビングの隅に置かれていたキャビネットを開け、そこからノートPCを取り出す。

 ノートPCを受け取った浅葱は、悠斗に許可を貰ってからノートPCを開く。

 

「うわ……」

 

 そう呟き、浅葱は顔を上げた。PCのキーボードの上に、悠斗か凪沙と思しきユーザー名と、ログインが大きく貼り付けられていたからだ。 無防備すぎるセキュリティである。

 

「これでログインするのって、ハッカーとしてのプライドが微妙に傷つくんんだけど……」

 

「ほぼ無防備だからな。 まあ、中身がバレても問題ないしな」

 

 浅葱は溜息を吐き、ノートPCとカメラを接続する。 MAR社製のカメラは、高性能な分設定しなければならない初期項目多く、その入力が面倒くさい。 なので、PCを利用する事で手間を省くのだ。

 

「とりあえず、カメラの設定だけしておくから、後は姫柊さんが写真を選んで、私のアドレスに送ってくれたら…………ん?」

 

 作業を進めていた浅葱が、ふと何かに気づき手を止めた。

 

「何かあったのか?」

 

 悠斗は浅葱の手元を覗き込む。

 

「このアカウント……凪沙ちゃんのスマホと同期してるみたいなんだけど……」

 

「あー、マジか。 凪沙の奴、同期設定を解除し忘れたんだな。 後で解除しとくよ、ある意味危険だし」

 

 スマートフォンとPCが同期していれば、スマートフォンとPCのやり取りを共有する事ができる。 便利といえば便利だが、放置気味のノートPCとの同期は危険とも言える。

 

「で、何か受け取ったのか?」

 

「凪沙ちゃんがスマホで撮った写真が一枚ね。 データが壊れて、半分くらいしかまともに表示されないんだけど。 たぶん、直後にスマホを落としちゃったのかもね」

 

 悠斗は眉を寄せる。

 

「……データが破損」

 

 撮影日は一週間前。 凪沙が丹沢にある祖母の元に到着した日。

 画像の下半分はデータが破損して、モザイク模様になってしまい、上半分に映っていたのは夜空だ。

 車の窓越しに撮影した写真なのだろう。 山の稜線が切り取られた冬の空。 そこには月も星も映っていない。 深い暗闇が画面に広がっている。

 その闇を中心に、奇妙な紋様が浮かび上がっている。 幾重にも重なった同心円。 その内側を埋め尽くす魔術文字の羅列――、

 

「……魔法陣なのか?」

 

 悠斗は、無意識に呟いた。

 だが、凪沙に危険が及んでいない事は確かだ。 その事は、眷獣を介して伝わっていたのだから。

 そして、画像を見た古城と雪菜も、顔を見合わせて息を飲んでいた。

 それは、十二月三十一の夜。 本土から遠く離れた“魔族特区”絃神島での出来事だった。 新年を迎えるまで、残り約一時間と五十分――。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 除夜の鐘が鳴り始めている。 時刻は、午後十一時四十五分を過ぎた頃だ。

 多くの人々が見守る中、鮮やかな閃光が島中の大気を震わせる。――新年のカウントダウンの花火大会だ。

 夜空に舞い散る光の乱舞を、古城たちは神社の参道から見上げている。

 大きな目を殊更に見開いて花火を見る雪菜と、雪菜から借りたカメラを使って花火を撮影する浅葱。

 古城は唇を噛み締めたまま、不機嫌な顔でスマートフォンを睨み続けていた。 音信不通である凪沙のスマートフォンにメールを送り続けているのだ。

 悠斗は平静を保ちながら、古城の隣で花火を見ているのだが、内心では動揺が隠し切れていない

 “凪沙は無事”。と解っていても、大規模な魔法陣の画像を見てしまうと、“凪沙が何かに巻き込まれたんじゃないか”。という不安感が拭えない。

 

「落ち着きなさいよ、古城。 まだ、凪沙ちゃんに何かあったって決まったわけじゃないんだし」

 

 古城を見た浅葱が、呆れたような口調で呟く。

 

「わかってるよ。 オレはメチャクチャ冷静だろ」

 

「どこが冷静なんだか」

 

 震え声で言い訳をする古城を見返して、浅葱が溜息を吐いた。

 

「ほら、悠斗も焦り過ぎだから落ち着きなさい」

 

 浅葱の言葉に雪菜は疑問符を浮かべた。 雪菜から見れば、悠斗はいつもの佇まいで花火を見てるようにしか見えない。

 だが、浅葱は違った。 一年弱だが、浅葱が悠斗と連れ添った時間は濃密なものだ。 なので、浅葱から見てしまえば、悠斗が内心で動揺してるのが解るのだ。

 

「あ、ああ。 大丈夫だ」

 

 動揺が隠し切れていない悠斗の言葉を聞き、浅葱は再び溜息を吐く。

 でもまあ、浅葱は悠斗の気持ちも解る。 もし、古城が失踪した場合は、浅葱も悠斗と同じ状況になるだろう。 いや、もしかしたら自暴自棄になり、古城探索の為、企業や監視カメラをハッキングしたりと暴走するかもしれない。

 ともあれ、参拝者の列が動き出し、古城たちは鳥居を潜った。

 古城たちが初詣に来た絃神神社は、花火が良く見えるというだけの理由で人気になった有名参拝スポットだ。 境内は大勢の人で賑わっており、夜店の屋台も数多く軒を連ねている。

 ちなみに、浅葱は振袖姿であり、古城はハーフパンツにパーカーとラフな恰好。 雪菜は、いつもの黒いギターケースを背負い、ボーダー柄のニーソックスにミニスカートと少女バンド風の恰好。 悠斗はVネックTシャツに黒のジーンズと真っ黒装備だ。

 浅葱は、古城と悠斗を励ます方法が見つからず、

 

「とりあえず、古城と悠斗はお祈りしといたら? ここの神社、御利益があるらしいわよ」

 

 古城は死んだ魚のような目で、神社の立て看板を眺めながら、

 

「商売繁盛と縁結びの神って書いてあるんだが……」

 

「少しくらい苦手な分野でも何とかしてくれるわよ、神様なんだから。 何だったら、神の一族(天剣一族)である悠斗に祈りを捧げればOKだと思うけど」

 

 悠斗は、俺に祈られても困るぞ。という雰囲気だ。 ともあれ、古城たちは参拝をしてから、鳥居の前まで移動した。

 古城と悠斗が手に持つスマートフォンの液晶に映っているのは、ノートPCから転送した例の写真だ。

 

「……この画像、やっぱ花火でした。ってオチはないよな?」

 

 古城は、液晶を見ながらそう呟いた。

 夜空を満たす巨大な紋様、空中を乱舞する人工の輝き。 その意味で、この光景は花火のようであるが、浅葱は迷いなくその可能性を却下した。 デジタルデータは幾らでも改竄できるからだ。 また、この画像が仮に魔法陣であっても、凪沙を狙ったものとは限らない。 だが、凪沙を狙ったものではないという保証も何所にもない。

 悠斗は、雪菜の方を向き、

 

「……なあ姫柊。 この魔法陣、“煌華麟”が発する魔法陣に似てるは気のせいか?」

 

 悠斗の質問に、古城は、ハッ、と顔を上げた。

 液晶に映る画像は、“煌華麟”より、鳴り鏑矢を利用して作り出す大規模な魔法陣に類似するものがあるのだ。

 

「あの弓矢、煌坂以外にも持ってる奴がいるのか……?」

 

 そう言って、古城は雪菜に顔を向ける。

 

「いえ。 六式重装降魔弓(デア・フライシュツツ)は取り扱いが難しくて、まともに使いこなせるのは紗矢華さんだけだと聞いてます。 起動に必要な呪力量が桁外れに多い上に、相性が凄くシビアなので」

 

 雪菜の話によると、“煌華麟”のデータを基に、構造を簡略化したモデルが開発されているという噂もあるという。

 確かに、それを使えば紗矢華でなくても、空中に魔法陣が描けても不思議ではない。 だがそれだと、量産型を開発したのは――獅子王機関という事だ。

 

 

 

 ――――つまり、凪沙を事件に巻き込んだのも、獅子王機関の関係者という事になるのだ。

 

 

 

 古城が、紗矢華に連絡を取ろうとしても、繋がる事はなかった。

 “煌華麟”と酷似する魔法陣。 紗矢華と連絡が取れなくなったタイミング。 凪沙と連絡が途絶えた日付。 全ては大した事はない出来事と捉える事ができるが、この事柄が立て続けに起きたという事実が、古城と悠斗を嫌な想像を掻き立てた。 目に映らない悪意の壁に、視界を遮られている気分だ。

 雪菜が獅子王機関と連絡を取る事は可能だと思うが、この画像だけでは何を聞いたらいいか解らない。 聞けたとしても、真実を話してくれるという保証もない。

 

「……悠斗。 凪沙は……安全なんだよな?」

 

 古城の声は、僅かに罅割れている。

 

「あ、ああ。 安全なのは確かだ」

 

 それは、今現在でも眷獣たちを介して解る。 だが、安全と解っても不安を拭いきる事ができない。

 

 

 ――――そして、嫌な予感が的中する事になる。 突然――――凪沙との繋がりが切れたのだ(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 加えて、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)との繋がり(リンク)も切れている。

 ――――これが意味するのは、凪沙の身に何かがあったという事だ。

 

「……悪い。 古城、姫柊、浅葱。 後は任せる。 俺は行く所ができた」

 

 そう言ってから、悠斗は踵を返し走り出す。 古城たちが後ろから何かを言ってるが、悠斗は足を止める事はなかった。

 そして目的の場所は、凪沙が帰省した――丹沢の《神縄湖》だ。




基樹は原作通り、兄貴と連絡を取る為古城たちとは別行動です。結瞳も寝てしまったので、基樹が面倒を見てる感じですね。

さて、悠斗君が暴走しないか心配になってきましたね。まあ、半分理性は残してますから大丈夫だと思いますが。

ではでは、次回もよろしくです!!

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