ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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矛盾があったらごめんなさいm(__)m
では、投稿です。
本編をどうぞ。


冥き神王の花嫁Ⅷ

 ヴァトラーの部下が人払いの結界を展開したので、あれだけ派手な戦闘が行われていたのにも関わらず、特区警備隊(アイランド・ガード)が埠頭に駆け付けて来る事はなかった。 或いは、アンジェリカたちが、事前に通信妨害するなどの対策を行っていたのかもしれない。

 証拠隠滅などの裏工作は、オシアナス・ガールズが担当してるらしい。 青い迷彩服を着込んだ彼女たちは、ノートPCを取り出して防犯カメラの回線等にハッキングを仕掛けている。

 悠斗は重い体に鞭を打って、毅然と立つ。 どうやら、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)の完全憑依の負担は予想より大きい。

 

「これまでの事を説明してくれるんだろうな、ヴァトラー」

 

 そう言って、悠斗はヴァトラーを睨み付ける。

 

「もちろん。 だけど場所を変えようか。 治療は兎も角、着替えは必要だろ、悠斗も古城も」

 

 桟橋の方角を指差してヴァトラーが提案する。 丁度、洋上の墓場(オシアナス・グレイブ)Ⅱが港に接岸した所だった。 まあ確かに、ヴァトラーに世話になるのは癪だが、血塗れの服を着たまま出歩く事は、色々な意味で危険である。 また、アンジェリカに狙われているセレスタにとって、洋上の墓場(オシアナス・グレイブ)Ⅱの船内は、絃神島で最も安全と言ってもいい場所なのだ。

 しかし、肝心のセレスタは、古城の背に隠れたままヴァトラーと目を合わせようとはしない。 寧ろ、避けているようにも見える。

 

「おい、セレスタ。 どうしたんだよ?」

 

 古城が、不審に思ってセレスタに聞き、セレスタはギクッと肩を小さく震わせる。

 彼女は、カクカクと首を巡らせ、

 

「な、なにが?」

 

「なにがじゃねぇよ。 ようやく、憧れのヴァトラーに再会できたんだろ。 もっと喜べよ」

 

「よ、喜んでるわよ。 ヴァトラー様は相変わらず見目麗しい……はー……かっこいい……」

 

 悠斗が二人の会話に入る。

 

「蛇野郎がかっこいいね……。 変態の間違いじゃねぇか」

 

「あ、あんた、ヴァトラー様に向かって失礼よ…………それよりも、あんたたち、傷は大丈夫なの?」

 

「問題ない。 吸血鬼の再生能力を舐めるな。 まあ、古城には劣るけど」

 

「まあオレも問題ない。 つっても、オレも悠斗も服はボロボロだな」

 

 古城はズタズタに裂けたパーカーを引っ張る。 首周りには大きな裂け目が入り、背中と胴体には焼け焦げた大穴が空いている。 服の形を保っているのが不思議なくらいだ。

 対する悠斗は、右肩のシャツは完全に裂け、肌が露出し、黒のVネックのTシャツは所々に穴が空き、此方も服の形を保っているのが不思議である。

 

「ご……ごめん」

 

 古城の背に隠れながら、セレスタは小さく呟く。

 彼女らしからぬその言葉に、古城はと悠斗思わず自分の耳を疑う。

 

「「え?」」

 

「ごめんって言ったの! あと、ありがとう! 護ってくれて……嬉しかったし……」

 

 セレスタは、もじもじと両手の指を絡ませながら、拗ねたような早口でそう言った。

 

「いや、それは古城だけに言ってくれ。 俺はタラシになる気はないしな」

 

 古城は、どういう意味だよ。と突っ込むが、悠斗は知らない振りで誤魔化す。

 悠斗は、半眼で雪菜が古城を呆れたように見ていたのを見逃さなかった。 さて、古城を巡る女の戦いは何処まで大きくなるのだろうか?

 ともあれ、古城たちは、洋上の墓場(オシアナス・グレイブ)Ⅱへ向かうのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 洋上の墓場(オシアナス・グレイブ)Ⅱが停泊する桟橋までは、徒歩五分程の距離だった。

 いつ見ても豪華な船である。 約二ヶ月前に戦闘によってデッキの一部が破壊されたはずだが、修復を終えて以前よりも絢爛さを増している。

 ヴァトラーが古城たちを案内したのは、その絢爛な展望デッキだ。

 そしてそこでは、黄金の刺繍を施した服を着た集団が待ち受けていた。 彼らの人数は九人。 全員が男性だが年齢はバラバラである。 白髪の老人も居れば、若い男性も居る。 身分が高いのか、様々な装飾品や宝石を身に着けている。

 

「なんだ、あいつら?」

 

 古城が無意識に呟いた。

 

「……あいつらは如何見ても魔族だな。 それに、神獣化できる魔族って考えた方がいい」

 

 悠斗の言葉に、古城は愕然とした。

 しかし、警戒する古城たちを宥めるようにヴァトラーが穏やかに笑った。

 

「心配しなくていいよ。 古城、悠斗。 彼らは敵じゃない」

 

 そう言われても、ヴァトラーの言葉は全面的に信用できない。

 

「彼らは、古代中米都市国家“シアーテ”を統べていた、獣人神官たちの末裔。 世界で尤も旧い獣人種族の一つだよ。 ちなみに、彼らの故郷では、獣人は神の使いとして崇拝されているそうだ」

 

「……シアーテの神官だと。 コイツらはザザラマギウに信仰する者たちか……」

 

 セレスタを利用しようとしてるのは、獣人たちだけではなくアンジェリカたちも。 そして、その板挟みになるように、中心には古城たち。という事になる。

 

「ふふ、彼らは確かにザザラマギウに仕える神官だが、邪神の出現を望んでいるわけじゃない。 その逆さ。 ザザラマギウの封印が彼らの役目だヨ。 荒ぶる神を鎮める儀式を、彼らは千年以上も続けてきた。 熱帯森林の奥地の街で、誰にも知られる事ことも、讃えられることもなくね」

 

 そうだろ。と尋ねるヴァトラーに、獣人たちは首肯した。

 

「ザザラマギウの正体は、実体を持たないエネルギーの塊だ。 シアーテの都は、この絃神島と同じく、龍脈の要に存在するのサ。 ただし、地形関係でそのエネルギーは流れる事なく蓄積されていく。 それが爆発すればどうなるか容易に想像できるだろう?」

 

 龍脈を流れるエネルギーは、都市を繁栄に導くといわれている。 絃神島が本土から遠く離れた太平洋上に建設されたのも、絃神島が洋上を流れる龍脈の交差する場所だからだ。

 しかし、過剰な力は、時として災厄を引き起こす。 一夜に海に沈んだとされる大西洋の王国を筆頭に、過去多くの古代文明が龍脈の力の暴走によって滅んだのだ。

 

「とはいえ、僕の天使が力を全開放し、世界を滅ぼす為に使ったら同じ事ができる可能性もあるけどネ」

 

 だが、悠斗がそんな事をしたら命を対価にする必要があるだろう。 まあ、悠斗はこんな事は絶対にしないだろうが。

 

「話がそれたネ。 まァ、ザザラマギウが邪神と呼ばれているのには、もう一つ理由がある。 シアーテの人々は、自らの神殿に、龍脈のエネルギーを実体化させる魔術装置を組み込んだ」

 

 それは吸血鬼の眷獣と同じ、濃密な魔力はそれ自体が意思をもち実体化して宿主の命に従う。 つまり、制御される。

 

「彼女は、ザザラマギウの“花嫁”だよ。 邪神に見初められた存在だ。“冥き神王”の“卵”は彼女に抱かれて、孵化する時を待ち侘びている。 龍脈の力を吸い上げながらね」

 

「まさか、閣下がセレスタさんを絃神島に送ってきたのは……!?」

 

 雪菜が驚いたように口にする。

 

「そうだネ。 絃神島がもっとも強力な龍脈の流れる場所の一つだからだよ。 ザザラマギウの“卵”は、龍脈から切り離されると崩壊するからね。 そうなると、“花嫁”も無事では済まない。 だから僕は、彼女を仮死状態にした上で絃神島に運ぶしかなかった」

 

 ヴァトラーは雪菜にそう解説した。

 彼女はあの時、ただ眠っていただけではなかった。 一度、仮死状態になって、龍脈上にある絃神島へ辿り着いた事によって蘇生したのだ。

 

「……どうして、そこまでしてセレスタを外に連れ出した?」

 

 古城が、責めるような眼差しをヴァトラーに向けた。

 だが、ヴァトラーはそれを気にせず簡素に答えた。

 

「彼女が狙われていたからだよ」

 

「なるほどな。 そこでアンジェリカ・ハミーダ。 ゼンフォース――アメリカ連合国(CSA)陸軍特殊部隊の中隊長様。 真祖に対抗する切り札って事か」

 

 アメリカ連合国(CSA)がどれほど裏工作に長けようとも、“混沌界域(こんとんかいいき)”の内乱には“混沌の皇女(ケイオスブライド)”が居る。そして“混沌の皇女(ケイオスブライド)”は、市民が血を流す事を良しとしないのだ。 そのような事があれば、彼女は動き出し反乱軍を全滅させるだろう。

 しかし、吸血鬼の真祖に対抗できる武器があれば、話は別になる。 “混沌の皇女(ケイオスブライド)”が邪神と対峙しても敗北する事はないだろうが、天災そのものの破壊力を備えた二十七体もの眷獣が、邪神と戦闘になれば、戦闘の余波により市民の被害は想像以上だろう。

 

「その通りだよ。古の邪神と第三真祖の戦い。中々、興味を惹かれる組み合わせだけど……残念ながら見過ごすわけにもいかなくてね」

 

「……嫌な選択を突きつけようとする蛇野郎だ……」

 

 邪神復活を阻止する方法。――それは、邪神の依り代であるセレスタを殺すという事。 彼女が“花嫁”で生き続ける限り、いつか必ず“卵”は孵る。 何年先か、何十年先かは不明だが、龍脈の破壊的なエネルギーを限界まで溜め込んで破裂する。

 

「君たちがセレスタ・シアーテの面倒を見てくれてる間に、“混沌界域(こんとんかいいき)”に入り込んだ、アメリカ連合国(CSA)は僕が排除した。 このまま邪神の出現がなければ、“混沌界域(こんとんかいいき)”の内戦はすぐに終わる。“混沌の皇女(ケイオスブライド)”が出るまでもない」

 

 ヴァトラーの行いは結果として、“混沌界域(こんとんかいいき)”の内戦を終決させる事に繋がり、後は“花嫁”を殺すだけで全てが丸く収まる。

 

「後は君たち次第だよ。 古城、悠斗。 セレスタ・シアーテを殺して、ザザラマギウの復活を阻止するか。 それとも、セレスタ・シアーテを殺さず、絃神島で邪神降臨を待つか。 君たちの好きに選べば良い。 だけど、セレスタ・シアーテの中には、邪神の“卵”がある事を覚えといた方がいい」

 

 異世界――高次空間に存在する“卵”には手は出せないが、“花嫁”を殺してしまえば、“卵”の中に神気を溜め込む前に放出させることができる。 世界への影響も、精々大規模な火山噴火程度で済む。 だが、“卵”の依り代となっている“花嫁”は神気の放出に耐え切れず、消滅する。

 蓄積された神気は龍脈へと還り、“冥き神王”は再び長い眠りに就く。 彼らは、邪神の依り代となる“花嫁”を育て上げ、邪神を鎮める為に――――殺す。

 そして、歴代の“花嫁”たちは、呪術によって創り出された偽りの幸せと共に、邪神召喚阻止の生贄として死んだのだ。 そう、セレスタの記憶が曖昧なのはこれが理由だ。 彼女は、アンジェリカの襲われる前から記憶を奪われていたのだ。

 

「……ヴァトラー……様……」

 

 セレスタがか細い声を洩らした。

 彼女にとってヴァトラーの存在は、不安と孤独の中に残された最後の拠り所だったはずだ。

 しかし、ヴァトラーが求めていたのは、セレスタの中に眠る“卵”だった。 その事実が、追い詰められたセレスタの精神に亀裂を入れる。

 絶望に震えるセレスタを雪菜が支える。 雪霞狼を握り締めた雪菜の指先も震えていた。 雪霞狼は魔力を打ち消す破魔の槍。 だが、人工の神気では、本当の神に抗えるはずもない。

 

 ――――……いや、何かがおかしい。 アンジェリカたち、獣人たちの目的正体は解った。 セレスタ抹殺が目的なら、何故マンションを襲って来た獣人は、生きたまま回収しようとした? しかし、目の前に立っている獣人たちはセレスタの殺害を望んでいる。という事は、内部の派閥と考えるのが妥当か? セレスタの中にある“卵”は、孵化までに時間がある? その為に神官たちは違う対策を練っていた。 だが、その中に裏切り者がいて、その考えを無意味と考えセレスタを殺そうとする輩がいる?

 

「(……そう考えると、全ての辻褄が合う……。 じゃあ、ヴァトラーが考えてる事は!?)」

 

 だが、悠斗の思考は中断される事になる。 船上に低い声がしたのだ。

 神官たちの中で、若い男が、獣のように変貌しながら笑っている。――そう、神獣化だ。

 

「いや……違う。 異国の吸血鬼どもよ。 そうではない。 貴様らには、選択肢などないのだ」

 

 最初に攻撃されたのは、ヴァトラーだった。

 凄まじい魔力に覆われた鉤爪が、肉体を背後から抉る。

 その奇襲に振り返る事もできないまま、ヴァトラーの上半身は粉砕された。 魔力の炎が、肺も心臓も頭蓋も、飛び散った細胞の一片すら残さず焼き尽くす。

 

「……ヴァトラー!?」

 

 古城が叫んだ。

 その古城を横殴りに衝撃が襲い、左半身が抉られて船のデッキに転がる。

 また、もう一人の神官が神獣化を終えて、古城の体を薙ぎ払ったのだ。 そして、もう一人の攻撃も悠斗に迫るが、

 

「――炎月(えんげつ)!」

 

 悠斗は超直感で攻撃を察知し、自身を中心に結界を展開し防ぐ。

 だが――、

 

「い……や……あ……ああ……あああああああぁぁぁぁぁあああああっ……!」

 

 セレスタは絶叫した。 それは、邪神を呼び起こす絶叫。 悠斗が周囲に展開した紅い結界も、ボロボロに吹き飛ばしたのだった――。




さて、この章も終盤に差し掛かってきましたね。
今後も頑張って書きます!

ではでは、感想、お願いします!!

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