ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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この章も折り返し地点?くらいまできましたね。まあ、独自解釈がてんこ盛りなのでご了承をm(__)m
では、どうぞ。


冥き神王の花嫁Ⅵ

 翌日。 冬休み二日目の朝。

 古城は、耳をつんさぐ轟音と震動で目を覚ました。

 

「うおっ!?」

 

 一瞬何が起きたかの解らず、寝ぼけた頭を抱えて困惑する。

 壁越しに隣の部屋から伝わってくるのは、コンクリートを削る騒音だ。 そして、上体を起こし回りを見渡すと、部屋には凪沙と悠斗が笑みを浮かべている写真があった。

 

「……此処は、悠斗と凪沙のマンションだったな」

 

 かけ時計の時間を確認して、古城はのろのろとベットから下りた。

 獣人たちの襲撃で破壊された古城たちのマンションは、獅子王機関の手配で修理される事になったらしい。 金に糸目をつけない突貫工事によって、凪沙が帰ってくるまでに修理が完了するとの事だ。

 また、雪菜と古城の部屋は辛うじて被害を免れていたので、衣服や持ち物は無事だった。 破壊された家具や食器類も、同じ物が注文されてるという。 呪術迷彩による隠蔽と、睡眠暗示で、近隣住民の記憶処理も万全だ。

 残るは、修理が完了するまでの一週間、何処に寝泊まりする問題だけである。 古城が思うに、今から一週間、悠斗と凪沙のマンションに転がり込むだろう。 ともあれ、古城はリビングに足を向けたのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 古城がリビングに足を踏み入れると、キッチンに立ち朝食を作っている悠斗が目に入る。 朝のメニューは、白飯にスクランブルエッグ、コーヒーだ。

 

「悪い、古城。 テーブルまで持っていくの手伝ってくれないか?」

 

 古城は、朝食が乗ったお盆を持ち、

 

「あ、ああ。 何か悪いな」

 

「気にすんな。 古城たちは客人なんだ、これくらい当然だ」

 

「助かる。 てか、姫柊たちは?」

 

「姫柊なら、セレスタの所だ。 昨日の事もあったし、心配になったんだろ」

 

 古城はお盆を持ってダイニングテーブルまで向かい、四人分の朝食を置いていく。 それから数分後、雪菜とセレスタも合流し朝食を摂る事になった。

 食事を一通り口につけた頃、セレスタが思い出したように口を開く。

 

「ねぇ……。 昨日の奴ら、何者だったのかな?」

 

 悠斗は言葉を濁した。

 

「状況から見るに、セレスタを奉る宗教的な奴らじゃないか? ほっとけば、自然と帰ってくれるだろ。 あんな事までしたんだしな。 ヴァトラーと合流するまで、この場は我慢してくれ」

 

「まあ、そういう事なら……。 で、でも、もしまた襲って来たら……」

 

「心配すんな。 昨日見てただろ、俺たちの戦闘能力を」

 

 と、その時。 古城のスマートフォンから着信があった。 ポケットから取り出し、古城がディスプレイを確認すると、着信者は藍羽浅葱の文字が映る。 悠斗が思うに、昨日の爆発についての電話だろう。

 

「悪い、電話に出てもいいか?」

 

「構わん」

 

「大丈夫です」

 

「いいわよ」

 

 悠斗たちの許可が出た所で、古城は通話ボタンをタップし右耳に通話口を当てる。

 通話口からは浅葱の声が洩れていた為、浅葱が古城たちをかなり心配した電話だと解った。“監視カメラをハッキング”という単語が聞こえたが、これには触れない方が吉だろう。

 古城は浅葱から『昨日は何処に泊まったの?』『ご飯は如何してるの?』等聞かれたらしいが、悠斗を引き合いに出して上手く回避していた。

 電話が終わり、セレスタが手洗いで席を立った所で悠斗は口を開く。

 

「古城、姫柊。 セレスタは邪神召喚に必要な生贄だ」

 

「……では、セレスタさんは巫女ということですか?」

 

 雪菜の問いに、悠斗は、ああそうだ。と首肯する。

 すると、古城が、

 

「……何で悠斗は、ザザラマギウが邪神だって解ったんだ?」

 

「俺の場合は一族の文献だ。 古城は、俺が天剣一族の生き残りだって知ってるだろ」

 

「悠斗は神の一族(天剣一族)の生き残りだもんな、知っても不思議はないか……」

 

 セレスタが邪神召喚の生贄だとするならば、古城たちの役目はセレスタを護る事だ。 おそらくヴァトラーは、組織の根本を潰す為に残ったのだろう。 という事は、絃神島に侵入して来た獣人たちを撃退し、島の外に追いやれば組織は自然するはず。 セレスタにはこのまま絃神島で暮らしてもらえば安全が確保されるだろう。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 朝食を終えた古城たちは、人工島西地区(アイランド・ウエスト)へと向かった。 飲食店やファッションビルなどが集まる商業地区(繁華街)だ。

 人工島西地区(アイランド・ウエスト)に訪れた理由は、セレスタの衣服を購入する為である。 流石に、いつまでも男物のTシャツ、短パンを着せておく訳にはいかない。 まあ、工事の騒音が酷くて、マンションから退避した。という理由もあるが。

 

「これが……絃神島?」

 

 硝子張りの展望スペースから周囲を見渡してセレスタが呟いた。

 現在、古城たちが訪れている場所は、ショッピングモールの最上階レストランフロアだ。 一通り買い物を終えて、セレスタに購入した服に着替えてもらい、一休みする事になったのだ。 ちなみに、セレスタが選んだ服は、革製のサンダルと、カラフルな刺繍を施したショート丈のワンピースだ。

 

「何か、ゴミゴミしてるわね。 やたら人は多いし、煩いし」

 

 顔を顰めたセレスタが呟く。 絃神島自慢の近未来的な景観も、島に慣れないセレスタの目にはあまり好ましく映らなかったらしい。

 

「この辺りは商業地区だしな。 それに、此処は品揃えも良いし便利だしな」

 

「ふーん、そういうものなの……あの大きな建物は?」

 

 そう言ってセレスタは、島の中央に立つビルを指差した。 絃神島の中でも一際異彩を放つ、楔形の巨大な建物だ。

 

「あれはキーストーンゲートだ。 島の中心部だ。 あっちには港があるし、ヴァトラーの船が帰って来ると――」

 

「船!? ヴァトラー様の!?」

 

 セレスタは声を弾ませながら、悠斗の言葉を遮って話題に喰い付いてくる。

 

「……まあな。 洋上の墓場(オシアナス・グレイブ)Ⅱって船だ」

 

「もっとヴァトラー様の話を聞かせて頂戴! 好きな食べ物とか、好きな音楽とか、好きな女の子のタイプとか」

 

 セレスタは興奮気味にそう言ってくるが、悠斗は、こんな事がなければヴァトラーに関する事など話くない。という風に顔を顰めていた。

 だが、手掛かりになるのは、ヴァトラーとザザラマギウの事だけだ。 ザザラマギウの召喚目的は不明なので、ヴァトラーから直接話を聞くしかないのだ。

 

「知らん。 そういう事は自分で聞け。 それに俺は、必要最低限の事しかあいつからは聞かないと決めてるしな。 本当の事をいえば、顔を合わせたくないけど」

 

「……ホント、ヴァトラー様の事になったら、悠斗はドライになるわよね……それより、何であんたたちは私の面倒を見てるわけ?」

 

「何でって言われてもな……それって理由が必要か? 別に大した事はしてねぇし」

 

 セレスタの言葉に、古城が呟いた。

 確かに、自分の所為で襲撃を受けた事。 命の危険に晒された事。 セレスタが昨日の事を気にしてると、古城たちは今になって気付く。

 

「あいつらに襲われたのは、お前の所為じゃないだろ。 成り行きとはいえ、お前を護りきらなかったら、ヴァトラーに何を言われるか解ったもんじゃねーし」

 

「……地味女はどうなの?」

 

 唐突に話題を向けられた雪菜が、少し困ったように首を傾げる。

 

「私は、暁先輩の監視役ですから。 寧ろ、危険人物である先輩が、セレスタさんに手を出したりしないように見張る義務がありますし」

 

 セレスタは、最後に悠斗の表情を窺った。

 

「俺の場合は、古城に貸しを作る為でもある。 それに、途中で放り出したりしたら凪沙から説教もんだしな」

 

「……悠斗って、凪沙って奴がホント大事なのね」

 

「世界を敵に回して護ると決めてる少女だ。――――相手がどんな奴でもな」

 

 そう言ってから悠斗は、注文したコーヒーを一口飲む。

 

「……んで、古城。 あれどうする?」

 

「あー……あれな」

 

 古城が横目で見たのは、レストランの入り口付近にあるボックス席だ。 半透明ティションの陰から、古城たちの様子を覗いてる小柄な二人組の人影あるのだ。

 

「……ほっとくわけにもいかないしな」

 

「……まあそうなるわな」

 

「……そうですね」

 

 古城たちは溜息を吐いて立ち上がった。 そのままボックス席へ向かうと、尾行者は慌てて頭を下げたが姿を隠せる筈がなかった。

 テーブルにうつ伏せた尾行者を見下ろす古城が、疲れたように声を出す。

 

「何やってんだ、お前ら」

 

「……あ」

 

 尾行者たちは、見つかってしまった。と思いながら顔を上げた。 一人は銀髪碧眼の少女で、もう一人は藍色の髪をした少女だ。

 

「あ……お兄さん……。 ぐ、偶然でした」

 

「吃驚」

 

 夏音とアスタルテが、わざとらしい口調で言う。

 

「こんなあからさまな偶然があるか」

 

 夏音とニーナの話によると、古城がセレスタに手を出さないように見張って置かねばならない。という事らしい。

 

「そういえば、那月ちゃんと連絡が取れたのか?」

 

「肯定。 ミス・セレスタの情報も報告しました」

 

「そうか。 それで、那月ちゃんは何て言った」

 

「“私は忙しい、そっちは任せた”、との事でした」

 

 これを聞いた悠斗は嘆息する。 何とも投げ槍な回答であった。

 

「補足。 南宮教官(マスター)から伝言があります。――――アンジェリカ・ハミーダという女性と遭遇した場合、蛇遣いに話を聞くまで、セレスタ・シアーテと共に速やかに逃走せよ。の事です」

 

 アンジェリカ・ハミーダ。 彼女は、ゼンフォース――アメリカ連合国(CSA)陸軍特殊部隊の中隊長だ。

 四年前に起こったアンデス連邦の内戦では、政府側に軍事顧問として参戦し、四十四名の部隊を率いて二千人近いゲリラを駆逐したと言われている。 彼女に名付けられた異名が“血塗れのアンジェリカ”だ。

 そして、他国の特殊部隊、極東の魔族特区を訪れるとは考えにくい。 だが、“混沌界域(こんとんかいいき)”の内戦が関係してると考えてほぼ間違えない事は確かだ。 いや、もしかしたらセレスタが何かに関わっているかもしれない。とも考えられる。

 

「(……てことは、空港で騒ぎは、アンジェリカ・ハミーダが関わってるのか? だから、那月ちゃんは手が離せないって考えるのが妥当か?)」

 

 内心で悠斗は、マジかよ。と呟きながら溜息を吐く。 悠斗が思う以上に面倒事に巻き込まれたのだ。 まあ、ヴァトラーからセレスタが送られ来た時点で決定してた事かも知れないが。

 内心で考えていると、ニーナが、

 

「処で、古城。 先程から気になっていたのだが、セレステ・シアーテは何処に行った?」

 

 古城たちが振り返ると、先程まで座っていた場所にセレスタが座っていなかったのだ。 悠斗の能力は万能であるが完全ではない。 同じフロアに居るとすれば、玄武の気配感知もあまり意味を持たないのだ。

 悠斗が回りを見渡すと、非常口のドアが開いていた。

 

「セレスタは店の非常口から外に出た! 追うぞ!」

 

「あの……バカ! 何考えてるんだ!?」

 

 古城たちは非常口に向かって走り出す。 もし、セレスタが昨日の獣人に囚われたら何が起こるか解ったものじゃない――。




次回は戦闘か……。上手く書けるかな。
ちなみに、古城君は悠斗君の部屋で、悠斗君はソファーで寝ましたね。セレスタと雪菜は、凪沙の部屋ですが。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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