ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

77 / 117
新章開始です。この章も頑張って書きます!

では、投稿です。
本編をどうぞ。


冥き神王の花嫁
冥き神王の花嫁Ⅰ


 十二月の第三週。 今日で彩海学園の授業が終了し、明日から冬休みである。

 忙しない空気の中、午後の授業を終えて、彩海学園の生徒たちが下校を始めている。

 いつものように古城たちが下校していたら、校門前に一人の少女が立っていた。 白いワンピース型のセーラー服を来た小学生である。 明るい色の猫っ毛の髪に、学校指定のベレー帽を被る、可愛らしい少女だ。

 少女は古城たちを見つけると、華やかに笑い手を振った。 そして、小走りで古城たちの方へ駆け寄って来る。

 

「古城さん!」

 

「結瞳! オレを待ってたのか?」

 

 古城は驚きながら立ち止まる。

 少女の名前は江口結瞳。 古城たちが今から一週間程前に、ブルーエンジリアムのリゾート施設で知り合った子だ。 結瞳が持つ“夜の魔女(リリス)”の力を利用されそうになった所を、古城たちが成り行きで助けたのだ。

 それ以来、結瞳は古城たちかなり懐いている。

 

「いえ、お父さ――」

 

「ちょ! 結瞳、それは言わない約束だぞ」

 

 結瞳の、『お父さんも――』という言葉を遮ったのは、同じく結瞳を見て立ち止まった悠斗だ。

 結瞳は悠斗のことを、お父さん。凪沙のことを、お母さん。と呼ぶようになった。 だがしかし、悠斗と凪沙は未成年であり、結瞳を引き取る年齢に達してないのだ。

 なので、将来引き取る事を約束して、未成年である内は名前呼びで。ということになっている。

 

「あ、そうでした。“悠斗さん”」

 

 悠斗は、ホッと息を吐いた。

 ともあれ、今は下校時刻で正門前は混み合っている。

 古城たちを待ち受けている可愛い小学生の存在は、異様な程目立っていた。 当然、結瞳と一緒にいる古城と悠斗もだ。 だか、結瞳を追い返す訳にもいかないので、悠斗が話を進める。

 

「で、結瞳はどうしたんだ?」

 

「編入手続きが早く終わって、少し時間があったので……迷惑でしたか?」

 

 結瞳がベレー帽を押さえながら、少し不安に聞いてくる。

 悠斗の勘が正しければ、結瞳は古城に会いに来た確立の方が高い。 悠斗がそう思うのは、悠斗と凪沙は、ブルーエンジリアムから帰宅してからも結瞳と遊んでいたからである。

 

「い、いや……。 お前が迷惑ってわけじゃないんだが……」

 

 結瞳から好意的に見られた古城が、額にうっすら脂汗を浮かべながら答える。

 

「古城は、結瞳坊を一生面倒見なきゃならない立場だしな。 あ、悠斗もだっけ」

 

 悠斗の隣にいた基樹が、そう言って結瞳の頭を乱暴に撫でた。

 結瞳は、基樹の手を払いのけ、乱れた帽子を直しながら不満そうに頬を膨らませる。

 

「勝手に変なあだ名をつけないでください。 馴れ馴れしく触られるのも不愉快です」

 

「ぐ……」

 

 このガキ、と思わず口を歪める基樹。

 それをたしなめるようにして、後方で話を聞いていた浅葱が、古城たちの間に割って入る。

 

「編入手続き……? じゃあ、結瞳ちゃんが着てるその制服って、もしかして――」

 

「あ、はい。 天奏学館(てんそうがっかん)の制服です」

 

 結瞳は得意げな表情でそう言った。

 おそらく、結瞳が彩海学園に訪れたのも、新しい制服を真っ先に古城に見てもらおうと考えたからであろう。

 

天奏学館(てんそうがっかん)? たしか、メチャクチャ偏差値高かったろ?」

 

 古城が感心したように呟く。

 天奏学館(てんそうがっかん)は、人工島西地区(アイランド・ウエスト)にある小中高一貫教育の名門校だ。 一般人が生徒の大半を占める彩海学園とは違って、天奏学館(てんそうがっかん)には登録魔族が多い。 中には、貴族級の吸血鬼や、上位種の獣人の女子も通っているという。 他の生徒も家柄や成績の持ち主ばかり。 所謂、全寮制のお嬢様学校である。

 

「でも、人工島管理局と魔族総合研究所の推薦がもらえましたから。 そこの失礼なお兄さんのお陰で、生活の面倒を見てもらえることにもなりましたし。…………欲を言えば、悠斗さんと凪沙お姉さんのお家に住みたかったですが」

 

 そう言って結瞳は、おざなりな態度で基樹に頭を下げた。 そこまでの注文は無理に決まってるだろうが、と基樹が結瞳を指差して唸る。

 古城は怪訝な表情で基樹の横顔を眺めた。

 

「ああ、そっか。 矢瀬ン家の兄貴って、魔総研の仕事もやってるんだっけか?」

 

「そ。 だからわたしが、推薦しろって基樹に言ったの。 結瞳ちゃんなら確実に魔族保護育成プログラムの特特生に選ばれるって」

 

 浅葱が少し得意げに胸を張る。

 基樹の兄。 矢瀬幾磨(かずま)は、北米連合(NAU)の大学を飛び級で卒業した秀才だ。 まだ二十代半ばでありながら、人工管理公社で重要な役職を任されている。 基樹の幼馴染ということで、浅葱は幾磨と顔見知りなのだ。

 魔族特区である絃神島は、身寄りのない魔族の為に支援政策が充実している。

 魔族総合研究院の特特生もその一つなのだ。 世界最強の夢魔(サキュバス)である結瞳ならば、その資格を満たしている。 少なくても絃神島にいる限り、この先、生活に困る事はないはずだ。

 

「まあいいんじゃねーか。 幾磨は、利用価値のあるものは利用する。ってのがモットーだしな。 結瞳坊が相手なら丁重に扱うだろ」

 

 基樹が素っ気なく呟く。兄に借りを作ったのが不本意なのか、何処となく拗ねた表情だ。“結瞳坊”と呼ばれて、結瞳も同じような顔をしていたが。 気が合っているのか、それともいないのか、よくわからない二人である。

 

「ともかく、住居と食費が手配できてよかったんじゃないか。 俺と凪沙も、まだ支援を受けてる段階だしな」

 

「はい! わたし、悠斗さんと凪沙お姉さんの娘になって、一緒に暮らすのが夢でもあるんです!」

 

 結瞳の言葉を聞いて、周囲の生徒たちは、『嘘!?あの年で父親なの!?』『凪沙ちゃんって、暁の妹よ。その子が母親って』等の声が上がる。

 悠斗は自分の発言を後悔し、額に右手を当てて空を見上げるのだった。

 

「古城さん。 待っててくださいね!」

 

 そして結瞳は、瞳をキラキラさせ古城を見る。

 その真っ直ぐな視線に、古城はなぜか気圧された。

 

「え? 待つって、なにをだ?」

 

「約束してくれましたよね。 わたしのこと幸せにしてくれるって。 結婚できる歳になるまで、あと五年もかかっちゃいますけど……」

 

 左手薬指に触れながら、もじもじと頬を赤らめて呟く結瞳。 隣でそれを聞いていた浅葱が、ピキ、と頬強張らせ、悠斗は、ほぼ同い年の義弟はいらん。と呟くのであった。

 

「ま……待て! 違う! いや、違わないけど、あれはそういう意味じゃなくてな――」

 

 古城の表情に焦りが浮かんだ。“夜の魔女(リリス)”の魂を封じる為、自ら死を選ぼうとした結瞳に、幸せにならなければならい。という言葉を贈ったのは古城自身だ。 ただし、古城の意思とは違う形で伝わってしまったらしいが。

 その誤解を解こうとする古城の言葉は、自分の世界に入り込んでしまった結瞳には届かない。 胸の前で小さな拳を握り締め、強く宣言する。

 

「わたしだって、いつまでも子供じゃありませんし、その、頑張りますから!」

 

「頑張らなくていい! 普通にしてろ!」

 

 そう声を上げる古城に悠斗は、『古城って、ロリコン?』と声をかけ、古城は『おいこら、ロリコンじゃねーからな!』と言葉の叩き合いをするのだった。

 立ち話もアレだしな。という基樹の提案で移動する事になった。 その間も、結瞳は古城にぴったりと寄り添っていた。

 まあ、意味深な言葉もあったが、ここでは語らない事にしよう。

 ともあれ、第四真祖。 紅蓮の織天使の冬休みは、そんな風にして始まった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

 悠斗は古城たちに一声かけて、逸早くあの場から離れ凪沙と合流した。 集合場所をメールで決めていたので、迷うことはなかった。

 そして悠斗と凪沙は、街路樹の歩道を歩きながら、古城たちの状況を眺めていた。

 

「古城はハーレムを形成するぞ、あれ」

 

「古城君の周りには美少女が集まるんだよね。 何でだろ?」

 

 そんな事を話していたら、街路樹の幹に身を潜めて、気配を殺してる少女を発見した。

 ベースギター用のギグケースを背負った、中等部の制服を着た少女だ。――獅子王機関の剣巫、姫柊雪菜だ。

 

「まったくもう……なにやってるんですか、あの人は」

 

 植え込みの隙間から頭だけを出して、雪菜は不満そうに一人ごちる。

 彼女の眼先にいるのは暁古城だ。 雪菜の監視対象でもある――第四真祖だ。 移動しながらも古城の隣にぴったり寄り添っているのは、真新しい制服に身を包んだ結瞳だ。 それを浅葱がすぐ背後にくっつき、それを面白そうに安全な場所から基樹が眺めている。

 その光景が、雪菜を不機嫌にさせているのだ。

 しかし、あの状況下に割り込むのは非常に難しい。

 その所為で、雪菜の苛立ちは募る一方だ。

 

「いくら相手が結瞳ちゃんだからって、小学生相手にデレデレして――!」

 

 雪菜の指先には無意識に力が籠り、街路樹の枝がメキメキと音を立て軋んでいる。

 その光景を見た悠斗が、嘆息してから雪菜に話しかける。

 

「で、そういう姫柊はなにやってんだ?」

 

 雪菜は、びくっと肩を震わせてから振り向いた。

 

「か、神代先輩ですか」

 

「入りたいなら、入ってくればいいのに」

 

 もっと修羅場が見れそうで面白そうだ。という、悠斗の思惑も入っているが。

 

「い、いえ……さすがに、あのタイミングではどうかと……」

 

 まあ確かに、名門小学校の制服を着た結瞳はもちろん、浅葱の容姿も結瞳に劣らず注目を惹く。 その二人が、古城を争奪する真似をしてるのだ。 俗にいう、修羅場でもあった。

 また、雪菜がそこに入って行ったら、更なる混乱を招くのは必須だが、監視役として古城の隣で監視をしていたい。

 そんなジレンマが、雪菜を板挟みしてるのだ。

 

「まあいいけどな。 女難が続く古城を見てるのは楽しいし」

 

「凪沙も同じくかな」

 

 やはり、悠斗と凪沙の思考回路は若干似てきてるらしい。

 そして古城たちは、叢雲珈琲店(ムラクモ)に入って行った。

 

「あ、古城君たち叢雲珈琲店(ムラクモ)に入って行ったよ! わたし、あの店の黒糖生チョコラテが好きなんだよね、いいなー。 でもさすがに、今から同じ店入って行ったらアレだし。 ねぇねぇ、悠君――」

 

 凪沙は、子猫のような瞳で悠斗を正面から見た。

 そんな悠斗は苦笑した。

 

「そうだな、今度一緒に行くか。 もちろん、俺の奢りだ」

 

「やった! 結瞳ちゃんも一緒でもいいかな?」

 

「その辺は、凪沙が決めていいぞ」

 

 凪沙は悠斗に抱き付き、

 

「悠君、大好き!」

 

 悠斗は、右手掌をポンと凪沙の頭に乗せ、クシャクシャと撫でた。

 

「俺もだ」

 

 凪沙は悠斗から離れ、唇を尖らせながら両手で髪を直した。

 おそらく、周りから二人を見ると、バカップルがいちゃついてるよ。という風にしか見えないだろう。

 

「せ、セットが崩れちゃうよ」

 

「すまんすまん。いつもの癖でな」

 

 凪沙は、も、もう。と怒るだけだ。

 悠斗にとっては、愛おしいだけなんだが。

 

「そうだ。 代わりになるものを、凪沙がコンビニで買ってくよ」

 

「ん、そうか。 じゃあ、いつもので」

 

 悠斗のいつものとは、ブラックコーヒーである。

 凪沙は、呆気に取られてる雪菜を見てから、

 

「雪菜ちゃんはなにがいい? スポドリ系? 炭酸系? 果実系?」

 

「え……っと、じゃあ、なにか冷たいお茶を」

 

「OK-、任せて」

 

 そう言ってから凪沙は、近場のコンビニに駈け出して行く。

 それから悠斗と雪菜は、眼前のベンチに腰を落ろした。

 

「神代先輩と凪沙ちゃん。 相変わらずですね」

 

「まあな」

 

 雪菜は、悠斗の僅かな変化に気づいた。 悠斗が、突然現れた者に警戒する感じだ。

 

「――で、暁牙城(・・・)。 急にどうしたんだ?」

 

 悠斗が振り向くと、そこにはだらしなくシャツを着崩した長身の男性だ。

 顎にはうっすらと無精髭に覆われ、全体的に気怠い雰囲気を漂わせている。――古城の父、暁牙城だ。 尤も、牙城は悠斗と初対面という事になるが。――焔光(えんこう)(うたげ)の、記憶摂取の副作用だ。

 

「――噂には聞いていたが、お前さんの気配感知はハンパないな」

 

 雪菜は目を丸くした。

 牙城までの距離は、三メートル足らず。 そこは、雪菜の間合いなのだ。

 だが雪菜は、それに気付く事ができなかった。 もし奇襲を受けていたら、深手を負わされて居たに違いない。

 

「そりゃどーも」

 

「それにしても、極東の魔族特区にお前さんが居るとはな。 隣、いいか?」

 

 そう言って牙城は、悠斗の隣のベンチを指差した。

 

「どうぞ」

 

「いやー、歳を食うと、このクソ暑い中うろつくのはしんどくてなー」

 

 牙城は無造作にベンチに座り、着古した中折れ帽の鍔を上げた。

 

「んで、今日はどうしたんだ?」

 

「年上に敬語なしかよ……。 まあいいけどよ。 今日は凪沙に用があってな」

 

 悠斗の視線が僅かに鋭くなった。

 遺跡調査から、焔光(えんこう)(うたげ)に繋がったと言っても過言でないからだ。 悠斗が警戒するのは当然だ。

 

「……そうか。 だが、その用件は俺も聞かせてもらうぞ」

 

 悠斗の口調は、有無を言わせない口調だ。

 

「おいおい、怖ェな。 物騒なことじゃねェから安心しろって」

 

「……ならいいんだけどな」

 

 空気がかなり重くなってきたのを感じた雪菜は、咄嗟に口を開いた。

 

「そ、そういえば。 暁ということは、暁先輩の関係者なんですよね?」

 

「んにゃ、古城とは大いに関係者だな」

 

 そんな時、コンビニから飲み物のペットボトルを抱えた凪沙が、牙城を見て目を丸くしてる。

 

「牙城……君?」

 

「おお、凪沙! 元気かっ?」

 

 牙城は立ち上がり、両手を広げて満面の笑みを浮かべた。 かなりの変貌ぶりである。

 

「相変わらず可愛いな、お前は! どこの女神かと思ったぜ! いやあ、お前がコンビニに走ってくのが見えたから、ここの小僧と女子中学生ちゃんに挨拶をしてたんだよ」

 

「あ、そうなんだ……。 てゆうか、牙城君、なんでいるの? いつ日本に帰ってきたの? お仕事は? 深森ちゃんに会った? 悠君たちとなにを話してたの?」

 

 矢継ぎ早な凪沙の質問に、牙城は自慢げに顎を上げた。

 

「絃神島に着いたのはさっきかな。 遺跡の発掘調査にカリブ海の方に行ってたら、いきなり内戦が始まっちまってなー、ハハッ、参った参った。 んで、深森さんの職場に行ったら、邪魔だって追い返されちまったから、小僧と女子中学生ちゃんと雑談してたわけさ」

 

「悠君と雪菜ちゃんと?」

 

 首を傾げてそう聞く凪沙。

 牙城は笑いながら、

 

「そうそう、悠君と雪菜ちゃん」

 

 お前が悠君言うな。と悠斗は抗議したが、牙城は知らない振りをして受け流す。

 

「ああ、そうそう。 紅蓮の小僧は知ってると思うが、自己紹介がまだだったな……お?」

 

 牙城はその場で手を挙げた。

 彼が見つめていたのは、公園沿いのカフェテラスの席だ。

 そこには、注文を終えて店から出て来た古城たちの姿がある。 牙城は古城たちに手を振って、

 

「おーい、古城。 こっちだ、こっち」

 

「げ……!? なんでお前がいるんだ、クソ親父!?」

 

 彼の存在に気付いた古城が、脊髄反射で悪態を吐く。

 古城の言葉を聞いた雪菜は、牙城と古城を見比べた。 確かに、古城と顔がそっくりだ。 仕草や気怠げな雰囲気もだ。

 

「あ、暁先輩の……お父様……?」

 

 半信半疑で雪菜が口を開く。

 牙城は、硬直する雪菜を面白そうに眺めてから不敵に微笑んだ。

 

「古城と凪沙の父親です。 暁牙城。 よろしく。といっても、紅蓮の小僧は知ってたみたいだけどな」

 

 なぜか怪しげなイントネーションで、牙城はそう言ったのだった――。




作中では言われてませんが、絃神島でも、若干魔族差別がありますね。
これに関しては、時が解決してくれると思いますが。
ちなみに牙城には、悠君の正体はバレてますね(笑)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。