またまた今回も、ご都合主義満載ですね(笑)
では、投稿です。
本編をどうぞ。
古城たちがレヴィアタンの内部に侵入すると、突然、規則的に続いていたレヴィアタンの振動が止まる。 残されたのは波間を漂うような緩やかな揺らぎだけ、レヴィアタンが泳ぐのを止めたのだ。 浅葱と紗矢華が上手くやってくれたのだろう。
そして、古城たちがいる場所は、航空母艦の格納庫に似た広大な空間。 ここまで乗って来た高速船は、レヴィアタンの体内に侵入した時、双胴が真っ二つに割れて、完全に航行が不可能だ。
そんな時、古城がポケットに入れたスマートフォンの着信音が鳴り響く。
『古城。 聞こえる?』
「あ、浅葱か?」
古城がそう返すと、浅葱は満足そうに笑った。
『どうやら無事みたいね』
通話口から流れ出した浅葱の声に、古城は少し驚く。 ここは強力な魔力障壁で遮断されていて、外界とは隔絶されているはずだ。
『“ヨタカ”って潜水艇の通信機器を使って中継してるのよ』
此方に侵入する為、改造された潜水艇を仲介に挟んで、連絡を取り付けたらしい。
古城は周りを見渡し、
「ああ、何とか全員な。――“
『なんとかね。 煌坂さんも、クスキエリゼの研究所に着いたみたいよ』
「そうか」
古城は安堵の息を吐く。 残りは、古城たちが結瞳を見つけて連れ戻すだけだ。
『とりあえず今は、こっちでレヴィアタンを大人しくさせてるわ。 ただ、“
かなり焦りを滲ませた声で、浅葱が言う。
「それまでに、結瞳を見つけて脱出しないといけないわけか」
『わたしの方で、“
「わかった。 それでいい」
その直後に回線が切断される。
古城が悠斗を見た。
「悠斗。 タイムリミットは十分程度だ」
「ああ、わかってる」
スピーカー越しに聴いてたしな。と悠斗は付け加える。
「んじゃ、行くか。 結瞳はこっちだ」
悠斗は既に、結瞳の気配を覚えている。 なので、結瞳の場所を特定する事など容易いのだ。
緩やかに湾曲した空洞を進んでいく内に、微かな光が見えてくる。
人工的な白い輝きの正体は、潜水艇の投光器だった。 レヴィアタン内部に鎮座するような形で、潜水艇が止まっている。
「あれか!」
「ああ、あれだな。 クスキエリゼの潜水艇は」
古城が声を上げ、それに悠斗が同意する。
船体に刻まれた“ヨタカ”の文字を確認するまでもなく、潜水艇の正体は明らかだった。 このような所に紛れる込むような潜水艇が、そう何隻もあるはずがない。
「悠君、古城君。 中に人が」
「おそらく、クスキエリゼの会長だと思われます」
開かれたハッチの内部を見て、凪沙と雪菜がそう言った。
倒れていたのは、青い潜水服を着た男性だ。 クスキエリゼ会長、久須木で間違いはなさそうだ。 久須木は眠らされ、目を覚ます気配はなかった。 だが、このまま放っておけば、死は免れない。
そして、古城と悠斗の背後で、異様な魔力が膨れ上がる。
「古城!」
悠斗がそう警告するが遅い。 闇を切り裂いて伸びてきた漆黒の鞭が、古城と悠斗の四角から打ち据える。
素早く刀を召喚させ鞭を弾いた悠斗はともかく、古城は苦痛を訴える間もなく吹き飛ばされた。
古城と悠斗を打ち据えた鞭の正体は、鋭く尖った先端を持つ尻尾だ。 魔力で紡がれた黒い尻尾を、これ見よがしに高く掲げて、小柄な少女が姿を見せる。
体にピッタリと張り付いた水着のような服に、その背中には、黒い翼が生えていた。
そして、悠斗の隣には凪沙が立ち、起き上がれない古城を背中に庇って、雪菜が雪霞狼を構えながら降りてくる。 しかし、雪菜には槍を少女に向ける事はできない。 何故なら、彼女を連れ戻す為に此処まで来たのだから――。
「結瞳!」
立ち上がった古城が、少女の名前を叫ぶ。 しかし、結瞳と同じ顔をした少女は、あは、と笑いながら、挑発的に両腕を広げて見せた。
「結瞳だと思った? 残念。
「……
古城は唖然としながら、
だが、悠斗は嘆息して、
「そういえば
凪沙も片言で、悠斗に続く。
「好き嫌いはいけないんだよ。 じゃないと、身長が小さいままだしね」
「なっ!? カレーに摩り下ろしてもらえれば、ニンジンだって食べられますっ! それに、わたしは小さくありません! 悠斗さんも、ピーマン嫌いを凪沙お姉さんに直してもらってください!」
莉流と名乗った少女は、あっ!と口を両手で塞ぐが、時既に遅しだ。
そして、苦笑する悠斗と凪沙。
「帰るぞ、結瞳。 お前、演技下手すぎだぞ。 つか、アレは嫌いじゃなくて、苦手って言うんだ」
凪沙は、呆れ顔で悠斗を見ながら、
「……悠君。 それって、屁理屈って言うんだよ」
「……あー、それもそうか。 てか、囲まてるんだが……」
悠斗が左右に目を向けると、視界に入ってきたのは闇の中で蠢く無数の生物の群れだった。 姿形は巨大なヤドカリに似ている。 本来あるべきハサミの代わりに装着されているのは、何処となく機関砲に似た筒状の腕だ。
多少の個体差はあるものの、生物たちの全長は二メートル前後。 強固な殻に覆われた、小型兵器の集団だ。 その数は、百体を超えている。
壁や床から湧き出してきた生体兵器の大群が、無人だったはずの空洞を満たして、古城たちを包囲してるのだ。
その一匹から打ち出された魔力弾を、悠斗は結界を展開して防ぐ。 おそらく、結瞳が古城たちを追い返す為に用意した物なのだろう。
「凪沙」
「OK-」
悠斗と凪沙は背中合わせになり、左掌を生物兵器に向ける。
「「――
紅い焔が放たれ、周囲の無数の生体兵器は、綺麗に浄化され消し去ったのだった。
生体兵器の、呆気ない幕引きである。
「ほら、帰るぞ。 結瞳。 お前をここから連れて帰る為に、俺たちは来たんだからな。 な、古城?」
「ああ。 早くこんな鰻野郎から出るぞ、結瞳」
古城たちの言葉を聞いた結瞳は、ひくっ、と喉を震わせた。
盛り上がった涙で、彼女の瞳が揺れる。 泣き出すのを必死に堪えるように唇を噛んで、結瞳は掠れた声を出す。
「どうして……なんですか……」
彼女の背中から翼が消えた。 少し遅れて、尻尾も消滅する。
残ったのは、肩を震わせる無気力な少女だ。
「わたしとは会ったばかりじゃないですか。 家族でも友達でもないのに、こんな危険な所までわたしを迎えに来るなんて! 生きて帰れる保証なんてないんですよ!」
嗚咽が混じりで頼りない声で、結瞳が叫ぶ。
莉流を受け入れた今の結瞳は、全てを理解してる。 自分が、死ぬ為にレヴィアタンの中に来た。ということもだ。 ここで結瞳が死ねば、レヴィアタンの魔力障壁に阻まれリリスの魂は転生できない。 だからもう、リリスの力で不幸になる子供は二度と生まれない。
だが結瞳は、無関係な古城たちを巻き込みたくなかった。 なので、莉流の振りをして、古城たちを追い返そうとしたのだ。
古城と悠斗は、彼女の気持ちを理解していた。 安らかな死こそが彼女の望みである事も。 だが、それは認める事はできない。 その理由が古城と悠斗にはある。
「昔、オレたちには、お前によく似た知り合いがいたんだよ」
「そうだな。 おっちょこちょいで、危なっかしくて、放っておけない奴がな」
「え?」
唐突な古城と悠斗の言葉に、結瞳は目を瞬く。
「そいつも普通の女の子だったんだ。 オレと同じ学校に通うのを楽しみにしてたんだ。 だけど、世界最強の吸血鬼の“呪われた魂”なんてものを抱えたまま、勝手に死んだ。 オレと凪沙を助ける為に――」
悠斗は、共に笑い合った彼女を思い浮かべながら、言葉を発する。
「……いや、俺にもっと力があれば、古城と凪沙、アヴローラを助ける事が可能だったかもしれない。 古城たちは、ある意味被害者だったんだ」
そんな悠斗を見て、凪沙は悠斗の手を優しく握る。
悠斗は、『ありがとう、凪沙』と言ってから、結瞳を見た。
「だからまあ、俺がやってる事は偽善だよ。 助けられなかった彼女の代わりに、結瞳を救おうとしてる。 自己満足に浸りたいだけだ。 最低な考えかも知れないけど、俺はお前を助けるぞ」
「わたしも、結瞳ちゃんを助けるよ」
「どうして――!」
結瞳が悲鳴のような声で絶叫した。
悠斗と凪沙は、笑みを浮かべながら言葉を発する。
「そんなのは簡単だ。 結瞳は、俺にとってはもう他人じゃないからだよ」
「悠君の言う通りだよ。 わたしたちの心の中には、すでに結瞳ちゃんが居るんだよ。 もう、他人じゃない」
手を差し出す、悠斗と凪沙。
だが、結瞳は――、
「そんなこと……できるわけが、ない……。 だって、わたしは……」
首を左右に振り、悠斗と凪沙の手を振り払おうとする。
それを見かねた古城は、
「世界最強の夢魔だろうが、リリスだろうが関係ねーよ。 お前は、これから死ぬまで幸せな一生を過ごさなくちゃいけないんだ。 その権利はお前にある。 それを邪魔しようとする奴がいるなら、大史局だろうが、レヴィアタンだろうが、オレが全部ぶっ潰す! お前は、もう一人じゃない。 ここから先は、オレの
この時悠斗と凪沙は、また悪い癖が出ちゃったよ。と思いながら、内心で頭を抱えていた。
「……古城……さん……」
結瞳は一瞬だけ嬉しそうな笑みを浮かべたが、すぐに首を横に振る。そんな結瞳に向けて、優しく目を細めた雪菜も右腕を差し出す。
「いいえ、先輩。
「で、でも。 わたしには、帰る場所がもうない……」
悠斗は、はあ。と息を吐き、
「先の事は後々考えればいいだろ。 里親探しもそれからだな。 ま、遊び相手くらいにはなってやるよ」
「そうそう。 結瞳ちゃんは今を大切にしないとね」
悠斗と凪沙も、右腕を差し出した。
「……悠斗さん……凪沙お姉さん……」
「一緒に帰りましょ、結瞳ちゃん」
「雪菜お姉さん……」
結瞳の瞳から、遂に涙が溢れ出す。 潜水艇の屋根を蹴り、結瞳は古城たちの元へ駈け出した。 その瞬間――、
「ああ――っ!」
結瞳の小柄な体が、突然、電気に打たれたように仰け反った。
意識をなくして倒れ込む結瞳を、凪沙がギリギリの所で抱き留める。
「結瞳!? くそ、時間切れか!?」
ぐったりと動かない結瞳を見て、古城が呻いた。
浅葱が“
そんな事を思いながら、悠斗と凪沙は先に行くと言い、悠斗が結瞳を抱きかかえ、来た洞窟を引き返した。
また、悠斗と凪沙が居なくなってから、古城は雪菜に
ともあれ、古城と雪菜を朱雀の背に乗せ、レヴィアタン内部から脱出したのだった。
♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦
レヴィアタンは、生体魚雷やミサイルを撒き散らしているが、古城が召喚した
「……神々の時代の生体兵器……世界最強の魔獣、か……」
空からレヴィアタンを見ながら、古城がそう呟く。
「考えようによっちゃ、お前が今回の一番の被害者だったのかもな。 気持ちよく海底で眠ってる所を叩き起こされて、好き勝手操られて――暴れたくなる気持ちも分かるぜ」
古城はレヴィアタンを哀れむように呼び掛ける。
そして古城は、吼えた。
「ここまでやって許してくれってのは、さすがに都合がよるぎるよな。 だから、恨むならオレを恨めよ――レヴィアタン!」
古城の全身から、黒い瘴気に似た魔力が吐き出される。
両手を高々と振り上げて古城が睨んだのは、遥か頭上の青空だ。その古城の姿はまるで、目にも見えない巨大な剣を大地から引き抜いてるようにも感じられる。
「
古城が撒き散らした瘴気は空間を歪め、やがて剣の姿を虚空に生み出した。
高度数千メートルの高さにありながら、肉眼でくっきりとその姿が見える。 優に刃渡り百メートルを超える大剣だ。
「――
古城の呼び掛けに応えて、巨大な剣が落下を始めた。
重力に引かれて加速する刃が、灼熱の炎に包まれる。その姿は、空から落ちてくる隕石そのものだ。
流石のレヴィアタンもそれに気付き、回頭を始める。
夜摩の黒剣の落下地点から逃れようとしてるのだ。
だが、その前に
次の瞬間、
神々の兵器が誇る堅牢な魔力障壁も、圧倒的な大加速が生み出す運動エネルギーの前では無力だった。 刃渡り百メートルを超える巨剣が、レヴィアタンを完全に貫通し、一気に海中まで到達する。
だが、
これを見ていた悠斗は頭を抱えた。
「……アホ古城。 やりすぎだ」
「し、仕方ないだろ、手加減する余裕なんてなかったんだから……!」
古城は引き攣った表情でダラダラと汗をかく。
だがレヴィアタンは、再び海面に浮上し姿を露わしたのだ。
「――あいつ、まだやる気なのか!?」
手負いのレヴィアタンを睨んで、古城は奥歯を噛み締めた。
そう。 レヴィアタンはまだ戦意を失って無かったのだ。
「要は、海に還せばいいんだろ。――凪沙、いけるか?」
「もちのろんだよ! 悠君」
古城と雪菜は、霊媒がないのに、悠斗は新たな眷獣を召喚できるのか? という表情だ。
そんな古城たちが見てる中、立ち上がった悠斗と凪沙は言葉を紡ぐ。
「――我の内に眠りし者よ」
「――汝の枷を解き放つ」
悠斗が召喚しようとしてる眷獣は、アヴローラの力で封印が解かれ、悠斗の中に眠っていた者だ。
その者の解放条件は、
「――
「――今こそ我らの声に応えたまえ」
悠斗と凪沙は、最後の言葉を紡ぐ。
「降臨せよ――
「おいで――
天を割って顕現したのは、長い緑色の髭を生やし、凶悪な歯が並び、その頭部には鋭い角が二本。 中央部には手と足が鉤爪となって生え、龍の表面を緑色が基調としており、その裏側は肌色に近い。 眼光は真紅に輝いている。
古城と雪菜は、眼前の光景を見て体を硬直させている。 先程の眷獣、
「(我が主は、貴様らか)」
「(そうだな。 お前を召喚した理由だが、あの巨体を鎮めてもらいたいんだ)」
「(
悠斗と凪沙が思うに、
無理難題を押し付けるのは、あまり宜しくない眷獣だ。
「(ふむ、あのデカブツか。 いいだろう)」
そう、
レヴィアタンを鎮める事は造作もない。
そして、数秒後に対話が終了すると、レヴィアタンは静かに海に還って行った。
「(これで仕舞いか?)」
「(ああ、助かった。またなんかあったら呼ぶよ)」
「(ありがとう、
「(そうか)」
と言って、天に帰って行った。
雪菜と古城は唖然とするしかない。 そして、紅蓮の織天使が使役する眷獣の中では、一番の規格外さが窺えた。
ともあれ、この事件が幕を閉じたのだった――。
悠斗君、遂に召喚してしまいましたね、
だからまあ、レヴィアタンの決着がすぐでした。あの龍、チートのチートですからね(笑)
神龍は、あのアニメからですね。解る人には解ると思いますが。てか、召喚条件シビアすぎ(笑)
次回で、黒の剣巫は終了ですね。
ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!