ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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やばい、矛盾が出てきたかも……。(たぶんだが)

では、投稿です。
本編をどうぞ。


黒の剣巫Ⅴ

 コテージの庭にバーベキューコンロが備え付けつけられられ、コンロの上に敷いた網の上で肉が焼かれている。 単独行動をしていた基樹が大量の肉を購入したので、この日の夕食はバーベキューと言う事になったのだ。

 

「ひゃほおお! 肉だ、肉だ!」

 

 夕暮れの暗闇の中で、一際テンションが高く騒いでるのも基樹だ。 炭火を見ている古城の隣で、ガツガツと肉を噛み千切っている。

 

「食ってるか、古城。 俺様が調達してやったゴージャスな高級肉だぜ!」

 

「うるせーな! お前も、少しは焼くのを手伝えよ! 熱ィんだよ! ていうか、何が高級肉だ……思いっきり特売タイムセールのシールが貼ってあるじゃねェかよ」

 

 こいつは、本当に金持ちの御曹司なのか、と疑いながら、古城は団扇で炭を扇ぐ。

 また、リゾートプールに遊びに来たのに、何故、アルバイトのタダ働きに、炭火を煽っているのかと、古城は自問していた。 待近で浴びる炭火の熱は、想像以上に熱くて体力をすり減らす。

 そんな古城を余所に、自分が食べる分を確保し、悠斗は芝生の上に置いてある大きめの岩の上に座り、満月を見ながら肉を食べていた。

 

「……皆で、バーベキューか。 初めてだな、こんな経験をするのは……」

 

 約一年前までの悠斗は、いつも一人ぼっちで、友達も作らず、壁を作り心には踏み込ませなかったのだ。

 そんな悠斗を救ってくれたのは、凪沙だった。

 そう思い返していたら、凪沙が悠斗も元まで歩み寄り、隣に座わった。

 

「悠君、どうしたの? みんなから離れちゃって? もしかして、お腹痛いとか?」

 

「いや、思いに耽てたのかもな。 ほら、俺っていつも一人だっただろ? だから、皆でバーベキューは初めてだなって」

 

 悠斗と凪沙が満月を見ながら、暫しの沈黙が流れる。

 そして、それを破ったのは凪沙だった。

 

「そっか。 でもね、悠君はもう一人じゃないよ。 永久(とわ)に、凪沙が隣にいるからね。 だって凪沙は、悠君の血の従者(血の伴侶)だしね」

 

 ――血の従者(血の伴侶)は、主人となる吸血鬼と永遠の生命を共にする。 それは、何十年、何百年、何千年とだ。

 既に悠斗の隣には、暁凪沙がいるのだ。

 笑みを浮かべた凪沙は立ち上がり、

 

「暗いのは終わりだよ。 みんなの所に行こっか」

 

「そうだな」

 

 悠斗の返事を聞いてから、パタパタと古城たちの元へ向かう。 悠斗は、そんな凪沙を見て苦笑し、岩から立ち上がった。

 古城たちの元に移動した悠斗は、凪沙に結瞳のことを聞かれていた古城を見て、この話に乗りからかおう。と決めたのだった。

 

「基樹。 古城は、結瞳まで口説いてるんだ。 ある種の才能だとは思わないか」

 

「小学生も落とそうとするなんてな、古城のことは色んな意味で見直したぜ。 まったく、シスコンは伊達じゃないな」

 

 そんな古城から、凪沙との婚約をもらった悠斗は流石としか言いようがないが。

 

「はあ!? 何言ってんだ! お前ら、誤解を招く発言はやめろ!」

 

 そもそも、オレはシスコンじゃねから、と言う古城の反論を、この場にいる全員は無言でスルーする。

 結瞳のことは、雪菜の友人の連れであり、彼女と連絡が取れるまで預かっているという設定で、古城たちは口裏を合わせている。

 

「結瞳ちゃんも食べてね。 遠慮しないで」

 

 言い訳を続ける古城に背中を向けて、結瞳の為に焼いた肉を取り分ける凪沙。 可愛らしいワンピースに着替えた結瞳が、礼儀正しく頭を下げた。

 

「はい、いただいています」

 

 結瞳は、凪沙の紙皿の上を見ながら、

 

「凪沙お姉さんは、もう少しお野菜を食べたほうがいいと思います。 お肉ばかりだと、栄養バランスがよくないですから」

 

「う……しっかりしてるなあ。 でも、結瞳ちゃんも、ニンジン残しちゃってるよね」

 

 ちょっと意地悪く微笑む凪沙の指摘に、結瞳はバツ悪そうに下を向く。

 

「それは……その、ニンジンだけは苦手なんです。 すり下ろしてカレーに入れてもらえたら、食べられるんですけど」

 

 結瞳が見せた年相応の幼さに、凪沙が目を輝かせてふるふると悶える。

 

「か、可愛い……! 悠君! わたし、今からカレー作る!」

 

「はいはい、明日の夕飯にしような。 凪沙譲」

 

 凪沙を落ち着かせるように、悠斗はそう言った。

 そんな悠斗の紙皿に置かれた物を見て、結瞳が指摘する。

 

「余計なお世話かもしれませんが、悠斗さんも、ピーマンをちゃんと食べないといけないと思います」

 

 結瞳にそう言われた、悠斗の表情が凍った。

 まさか、年下の子に指摘されるとは思わなかったのだろう。

 

「い、いや、嫌いとかじゃないんだぞ。 そ、そう。 苦手なだけなんだ」

 

「……それって、嫌いと変わりませんよ。 悠斗さん」

 

 悠斗はこの時、あれ、これってデジャブじゃね。と思っていた。

 古城と雪菜、悠斗でプール掃除をして際に、このようなやり取りがあったはずなのだ。 まあ、その時の対象は古城だったのだが。

 それから結瞳の視線が、悠斗と凪沙が首に下げたネックレスと、利き腕に嵌めたミサンガを見る。

 

「凪沙お姉さんと悠斗さんは、付き合ってるんですか?」

 

「……かなり踏み込んだ質問をするんだな、結瞳は」

 

 悠斗と凪沙は婚約者だが、まだ牙城の許可が下りてないので、完全な。とは言えない。 だが、付き合ってる関係は通り越してるのだ。

 また、凪沙は悠斗の血の従者(血の伴侶)なので、永遠を共にするが、結婚はしてない。 そして、悠斗と凪沙は愛し合ってる。 今思えば、どんな関係かと聞かれたら、答えるのはかなり難しい。

 

「うーん、お互いを支え合う関係って言えばいいのかな?」

 

 凪沙がこう答える。

 確かに、今の質問の返しには最適な答えだ。

 

「なるほどです。 良い方向で色々と複雑なんですね。 古城さんと全然違います」

 

「まあそんなところだな。 ま、古城の場合は、何も始まってないしな。 てか、本人が気づいてないし」

 

「……そうですね。 お姉さんたちが若干可哀想です」

 

 どうやら、結瞳にも同情の気持ちがあるらしい。

 そんな古城に悠斗が目を向けると、古城はベンチの端に座り、食事に手をつけず、むっつりと海を眺めている浅葱のテーブルの前に食器を運んであげていた。

 浅葱は、無言で古城から箸を奪い取り、あっち行け、と言いたげに顔を逸らす。

 

「なんなんだよ、ったく。 オレ、なんかしたか」

 

 そんなことを言いながら、不満げに戻ってきた古城に、結瞳が気遣うような口調で聞いてくる。

 

「……まだ謝ってないんですか、さっきのこと」

 

 結瞳の言うさっきのこととは、雪菜に結瞳を紹介する為に、ノックをせずに女子部屋に入ってしまったことだ。

 浅葱と結瞳は着替えの最中であり、古城に背を向けて、頭からワンピースを被ろうとしていた結瞳と、着ていた水着を脱ぎ、ビキニのブラを右手に持って、左手だけで胸を隠した状態の浅葱とバッタリ会ってしまった。

 そして、胸を隠して立ち上がった浅葱が、ベット脇に置かれていた目覚まし時計を蹴り飛ばし、立ち尽くす古城の無防備な脇腹に突き刺さった。

 それから、何回も謝っているのだが、浅葱の機嫌が直ることはなかったらしい。

 

「謝ったよ、何回も。 なにのあいつ、いつもまでも根に持ちやがって、大人げねぇ」

 

「浅葱お姉さんは、本気で怒ってるわけじゃないと思いますけど。 単に、古城さんのフォローが下手なだけで」

 

 遠慮がちな口調で結瞳が言うが、古城は、納得いかん。と唇を尖らせた。

 

「フォローって言われてもな……たしかに、ノックしなかったのは悪かったけど、あいつだって、鍵をかけ忘れたんだし、オレの腹に目覚まし時計をぶちこんだだから、おあいこじゃね?」

 

「そういう態度がダメなんだと思います。 あの時の、浅葱お姉さんが着ていた水着、新品だったのに、何も言ってあげませんでしたよね。 今のお洋服も何度も着替えてやっと選んだのに」

 

「……え? それってなにか関係あるのか?」

 

 意味が解らず、古城は真顔で聞き返す。 そもそも、下半分しか着ていなかった水着に対して、いったい何を言えばいいのかと、古城は困惑するだけだ。

 

「……古城。 それって、わざとじゃないよな。 つか、ここまでとはな。 姫柊もふりだしかもな」

 

「……古城君の恋愛に関する精神年齢は、小学生で止まってそう。 わたし、改めて思ったかも」

 

「……悠斗さんと、凪沙お姉さんの言う通りかもしれません」

 

 悠斗、凪沙、結瞳に嘆息されるのを見て、古城が唇を歪める。

 

「な、何だよ。 三人共」

 

 悠斗と凪沙は、ダメだこりゃ。と思い、再び嘆息した。

 すると、結瞳は少し恨めしげな眼差しで古城を見た。

 

「着替え見られたの、浅葱お姉さんだけじゃないんですけど」

 

「あ……えー……す、すいませんでした。 ごめんなさい」

 

「わかりました。 許してあげます」

 

 頭を下げた古城を見て、結瞳は悪戯っぽく微笑んだ。 その目元が少し赤いのは、泣きながら眠ってしまっただろう。 気丈に振舞っているものの、結瞳の立場は、不安定なままなのだ。

 結瞳からは、監禁、誘拐については、まだ聞いていない。 結瞳自身もどう説明していいか決めかねている様子だ。

 ともあれ、今は雪菜が獅子王機関に連絡を取っているらしい。

 

「先輩。 スマートフォン、ありがとうございました」

 

 コテージからこっそりと戻ってきた雪菜が、古城が貸したスマートフォン本人へ手渡した。

 

「どうだった? 煌坂とは連絡が取れたのか?」

 

「いえ。 任務中の舞威姫への通信は、一切禁止されてるんです。 もともとは、呪詛と暗殺を行うための部署ですし……あ、暗殺任務なんて、滅多にないですけど。 その分、最近は要人警護や潜入工作のお仕事が増えてて」

 

「獅子王機関の任務は危険が伴うものばかりだ。 例外を除けば、情報を漏洩させることを恐れて、トップも教えるわけがないしな」

 

 悠斗が言う例外とは、第四真祖の監視だ。

 第四真祖の監視は、情報が漏洩する訳でもないし、他人に露見しても、命の危険もないのだ。

 雪菜が言うには、師家様に連絡を取ったところ、紗矢華以外の舞威姫は送られてないらしい。 任務続行不可能ならば、獅子王機関はすぐに後任の舞威姫を送り込むはずである。

 逆を言えば、代わりの舞威姫が派遣されていないということは、紗矢華は今現在も任務を続行中ということだ。 つまり、紗矢華は生きていることに繋がるのだ。

 だが、紗矢華は生きているのに、なぜ結瞳を迎えに来ないのか。

 

「(……やっぱ、襲撃を受け深手を負ったか、それとも捕まった、か)」

 

 悠斗は、満月の空を見上げながらこう思っていた。

 どうやら彼女は、想像以上に厄介な立場に置かれているらしい。

 

「あの……もしかしたら、あのお姉さんは、莉流(りる)に会おうとしてるのかもしれません」

 

「莉流? 誰のことだ?」

 

 古城がそう聞いた。

 すると、結瞳は顔を伏せ、

 

「姉です、わたしの。 わたしは、姉と一緒にクスキエリゼの研究所に閉じ込められていたんです」

 

「(……そういう事かよ)」

 

 悠斗は内心で悪態を吐いた。

 クスキエリゼとは、ブルーエンジリアムの出資者であり、主に魔獣庭園の運営を担当してる有名企業だ。

 だが、クスキエリゼの会長、久須木は、トゥルーアークの出資者でもある。 久須木はトゥルーアークと繋がりがあったのだ。 実質的リーダーとも言ってもいい。

 トゥルーアークを簡単に説明するならば、魔獣保護を名目に破壊や工作をするテロリストだ。

 久須木が、江口結瞳を生け贄にし、レヴィアタンの制御。 そして、自身たちの邪魔者になる組織を破壊。

 それを阻止する為に、獅子王機関の舞威姫、煌坂紗矢華がブルーエンジリアムに派遣された。 だが、結瞳を取り戻そうとした連中と戦闘になり、結瞳を先に逃がした紗矢華は負傷し、敵の手の中に落ちた――。

 レヴィアタンでのテロ活動となると、自然発生的な魔導災害、魔導テロを阻止する、大史局も動いている。と言う事にもなるのだ。

 

「(……大史局も動いてんのかよ……。 獅子王機関とぶつかったら、かなり面倒くさいことになるじゃねぇかよ……。つか、本当に結瞳には姉がいるのか? なんか腑に落ちないんだよなぁ……)」

 

 そう考えながら、盛大に溜息を吐く悠斗。

 再び、結瞳から有益情報をもらおう。と悠斗は思い、耳を澄ませた。

 

「――だけど、お前の姉貴が危ない目に遭ってるんだったら、早く助けなきゃマズイだろ。 危険かどうかだけでも教えてくれないか?」

 

 どうやら古城は、監禁についての事柄について結瞳から聞いてたらしい。

 

「――莉流のことは心配しなくても大丈夫だと思います。 クスキエリザの人たちは、わたしじゃなくて莉流が必要だったんです。 危害を加えたりするはずがありません。 それに莉流は、実験に最初から協力的でしたから」

 

 実験という単語に、悠斗と凪沙は眉を寄せた。

 悠斗と凪沙は、古城たちに聞こえないように話す。 まだ、確定情報ではないからだ。 もしかすると、混乱を招く恐れがある。

 

「……悠君。 すでにレヴィアタンは、久須木会長さんのほぼ手中にあるんじゃないかな?」

 

「……だろうな。 んで、結瞳を生け贄にする為、レヴィアタンを動かす為の仮装実験ってところか。 莉流って奴の正体も気になるし。 てか、本当に姉か? 結瞳は一人っ子じゃないのか?――凪沙、今回の事件は政府絡みだ。 手を引い――」

 

「――わたしも手伝う」

 

 悠斗の、『手を引いた方がいい』という言葉は、凪沙に遮られてしまった。

 凪沙の瞳には、“結瞳を助ける”と言う、確固たる意志が込められていた。 そんな凪沙を見て、悠斗はポンと凪沙の頭に右手を置いた。

 

「……危険だと判断したら、すぐに離脱するんだぞ。 守れるか?」

 

 といっても、凪沙は真祖と同等な力があるんだが。

 でもまあ、油断は禁物である。

 

「わかった。 ちゃんと守ります」

 

「そうか」

 

 ともあれ、再び芝生の上に置いてある岩に座り、悠斗と凪沙は食事の続きを再開するのであった。

 だが、自分の分を確保してなかった古城は、基樹が購入してきた肉を食べられずにいた。

 肉を取る為に振り向き、コンロの網の上に目をやると、残っているのはキャベツの切れ端だけ。 そう、浅葱に全て食べられてしまったのだ。 肉だけではなく、エリンギなどのキノコ類も全滅だ。 ちなみに、基樹が購入してきた生肉は、約十人前はあった。

 浅葱は、スレンダーな見た目に反して大食いキャラなのだ。 そんな浅葱を見ながら、古城は絶句し、空かせた腹を押さえ、そんな古城を見た浅葱は機嫌を直してくれたようだ。

 悠斗の隣で、食事を終えた凪沙が立ち上がり、

 

「悠君。 凪沙は、結瞳ちゃんと花火をしてくるね」

 

「おう。 火には気をつけてな」

 

「はーい」

 

 無邪気にはしゃいで、凪沙と花火をする結瞳はごく普通の少女のものだ。

 だが、その微笑みは、どこか儚げに、寂しげに感じられる。

 ブルーエンジリアム――人工の“青の楽園”の夜が更けていく――。




凪沙ちゃんの洞察力等も、悠斗君譲りですね。といっても、この章にはまだ裏があるんですが。
てか、結瞳ちゃんに、嫌いな物を指摘されてしまった、悠斗君と凪沙ちゃんですね(笑)

さて、この章でも凪沙ちゃんは参戦ですね。凪沙ちゃんの頭の回転もかなりのものですね。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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