ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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まだまだいくでー!
てか、戦闘の描写は難しい(-_-;)


焔光の夜伯Ⅻ

古城たちは、旧南東地区(オールドサウスイースト)の岸壁で、朱雀の背から下りた。

そして、岸壁には多くの人影。 そのほぼ全てが、疑似吸血鬼化した感染者たちだ。 視界に入るだけでも、千は超えている。

彼らの約八割ほどは、新たな生け贄を求めて島内を徘徊し、残り二割は地面に蹲ったまま動かない。

彼らの目は見開かれたまま、何の感情も映していなかった。 その原因は――原初(ルート)アヴローラによる記憶搾取だ。

記憶を根こそぎ奪われた事により、生きる気力もまでも失って、死を訪れるのを待っている。 これこそが、第四真祖に捧げられた生け贄の姿。――焔光(えんこう)(うたげ)の真実だ。

 

「……こいつら全員、疑似吸血鬼か」

 

古城たちの接近に気づいて、感染衝動に衝き動かされた疑似吸血鬼たちが、一斉に視線を向けてくる。 まだ動ける感染者だけでも数百人。 しかも、彼らの身体能力は、第四真祖の血の従者と比べても遜色ない。

原初(ルート)に会う為には、彼らを突破しなければならないのだ。

 

「ど、どうすれば!?」

 

狼狽える古城を見て、悠斗は嘆息する。

 

「俺に任せろ」

 

悠斗は全魔力を解放。

次いで、朱雀は大きく飛翔を開始した。 悠斗が考え付いたのは、朱雀の飛焔(ひえん)を島全体に吹きかけ、感染者を戦闘不能に陥らせる事だ。

 

「――飛焔(ひえん)!」

 

朱雀は島全体に焔を吐いた。 焔を浴びた感染者たちは、次々と地に倒れた。

また、感染者の感染は浄化(・・)されたのだ。 尤も、既に命を奪われた者は例外だが。

 

「これで大丈夫だ。 それと、島の人々死んでないから心配するな」

 

「あ、ああ」

 

「ほ、褒めて遣わす」

 

悠斗は、先程開かれた道を歩き出し、古城もアヴローラの手を引いて歩き出した。

古城たちは、疑似吸血鬼の包囲から抜け、クォーツゲートへ向かう。

 

「凪沙は、どこだ?」

 

古城がそう呟く。

 

「か、彼方(かなた)に!」

 

アヴローラが指し示したのは、六角水晶に似た高い時計塔だ。 その尖塔に頂上に、傲慢の表情で原初(ルート)は立っていた。

 

「その子の体を返せ、原初(ルート)アヴローラ! あの飯が食えねぇだろうが!」

 

古城が、そこかよ!と突っ込んだが、いつものように悠斗は受け流す。

 

「たかが吸血鬼が我に命令するか、紅蓮の織天使」

 

「誠に遺憾だが、俺はただの吸血鬼じゃねぇよ」

 

悠斗は天剣一族の生き残り。

天剣一族は神々の力を備えるのだ。 原初(ルート)の言う、ただの吸血鬼には当て嵌まらない。

 

「まあ良い。 汝らのお陰で、十二番目(ドウデカトス)はよく育った」

 

「……育った?」

 

古城がアヴローラの横顔を盗み見る。

不老不死である吸血鬼の肉体が、半年で育つなど有り得ない。 現に、アヴローラの姿は出会った時のままだ。

悠斗は、そう考えてるであろう古城を見て、再び嘆息した。

 

「……肉体じゃなくて記憶だ。 固有堆積時間(パーソナルヒストリー)のことだ」

 

悠斗の言葉に、原初は愉快に笑った。

 

「如何にもその通り。 しかし、単に長き年月を過ごすだけでは無意味。 強い感情と想いの積み重ねが眷獣の力を増す。 宿主たる我に逆らう程の、強い想いがな」

 

焔光の夜伯(カレイドブラッド)の眷獣は、感情を共有して自分の力に変える。 だからこそ、原初(ルート)アヴローラの反抗を喜んでいる。

アヴローラは、原初(ルート)に逆らう程の強い感情を手に入れた事で力を増した。 そして眷獣の力が増すと言う事は、宿主である原初(ルート)の力を増す事にも繋がるのだ。

 

「貴様たちの役目はここで終わりだ。 十二番目(ドウデカトス)を置いて去るがいい」

 

悠斗は溜息を吐いた。

 

「だってよ、古城。 原初(ルート)は言葉が解らないらしい。 てか、アホだな」

 

「ああ、そうだな。 アホだ」

 

「……なに?」

 

悠斗と古城の反応に、原初は頬を引き攣らせた。

古城は腰に提げていたクロスボウを握って、折り畳みられていた弓を広げた。 片手で弦を引き、薬莢を嵌めた銀色の杭を装填する。

 

「言ったはずだぞ。 凪沙を返してもらうってな」

 

古城はクロスボウの銃身を原初に向け、荒々しく犬歯を剥いて笑う。

 

「凪沙は取り戻す。 アヴローラも食わせない。 お前が世界最強の吸血鬼だろうが、殺人兵器だろうが知ったことか! アヴローラの為でも、凪沙の為でもない――ここから先は、オレの戦争(ケンカ)だ!」

 

「……いや、俺たちだと思うんだが。 まあいいや。 アホ吸血鬼、はよ封印されろ」

 

悠斗は左手を突き出し、挑発的に笑う。

 

「それが汝らの望みか……!」

 

古城たちの挑発に、原初(ルート)が吼えた。

原初(ルート)は造られて以来喧嘩を売られた事がなかったのだろう。 彼女が激昂するのは当然の事だった。

原初(ルート)の背に、極翼(オーロラ)色の翼が生える、その中の一枚が消え、巨大な眷獣の形を生み出した。 美しい女性の上半身と、巨大な蛇の下半身。 流れ落ちる髪は無数の蛇。 青白き水の精霊(ウンディーネ)――水妖(すいよう)だ。

水妖が撒き散らす水流に触れただけで、クォーツゲートの残骸が砂のように崩れ落ちた。 その攻撃を浴びた硝子や硅砂は水や酸素に、コンクリートも土塊に還る。

原初(ルート)が呼び出した眷獣は、まるで時間を巻き戻したかのように、全ての文明を無に還す怪物なのだ。

これは、古城一人ではどうにもならない相手だ。――そう、古城一人でなら。

 

「――降臨せよ、黄龍!」

 

悠斗は黄金の龍を傍らに召喚させ、アヴローラが古城の名を呼ぶ。

 

「古城!」

 

アヴローラが伸ばしてきた右手を、古城が掴んだ。その手を前に突き出して、二人は同時に叫ぶ。

 

「「疾や在れ(きやがれ)――妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)!」」

 

アヴローラの中に封印されていた眷獣が完全に姿を現した。全長十メートル足らずの美しい眷獣だ。

上半身は人間の女性に似ているが、下半身は魚の姿。 背中には透明な翼を生やし、指先は猛禽のような鋭い鉤爪になっている。

氷の人魚、或いは妖鳥(セイレーン)。――膨大な凍気を従えた妖鳥は、激流を纏う水妖に激突した。 激流を凍気が氷結させ、その氷が再び水へと戻る。

二体の眷獣は互角だ。だが――、

 

「――浄天(せいてん)!」

 

黄龍が口から放った黄金の渦は、凍気と入り混じるように再び妖水に激突する。

眷獣の攻撃が融合するなど有り得ないのだが、悠斗がアヴローラに送ったネックレスを介して、悠斗の力がアヴローラに流れている。 だからこその、融合攻撃だ。

そして、この攻撃に圧された水妖が、完全に消滅した。

 

「……貴様ら。 我の眷獣を!」

 

原初(ルート)が吼え、翼を三枚使って新たに三体の眷獣を召喚した。 一体は金剛石(ダイヤモンド)の肉体を持つ神羊(しんよう)、一体は琥珀色の巨大な牛頭神(ミノタウロス)だ。 最後の一体は、陽炎のように揺らく緋色の双角獣だ。

無数の宝石を纏った神羊が、その宝石を散弾のように撃ち放つ。

 

「――降臨せよ、朱雀!」

 

悠斗は、水鳥の前に朱雀を召喚させ、

 

「――炎月(えんげつ)!」

 

手前に結界を張り、全ての散弾を弾き落とす。

続けて原初(ルート)が、次の眷獣に攻撃を命じた。 琥珀色の牛頭神(ミノタウロス)が大地を揺らし、巨大な戦斧(せんぷ)を振り上げる。 戦斧(せんぷ)が帯びているのは、凄まじい魔力の輝きだ。

だが、狙いは妖鳥たちではなく。 眷獣を操る古城たちだ。

だが――、

 

「――雷獄(らいごく)!」

 

「「――氷菓乱舞(ダイヤモンドダスト)!」」

 

黄龍が放つ高密度の稲妻と、妖鳥が放った膨大な凍気が、牛頭神(ミノタウロス)を完全に消滅させた。 原初(ルート)が、次の眷獣に攻撃の命を出そうするが、それは叶わなかった。そう、双角獣が原初(ルート)の命に背いたのだ。

 

「な……何故、我の命に逆らう、九番目(エナトス)……!?」

 

原初(ルート)が眉を上げて叫んだ。

そんな双角獣を見て、アヴローラが息を飲む。

 

双角の深緋(アルナスル・ミニウム)……」

 

九番目(エナトス)……だと?」

 

深緋色の眷獣は、古城たちを庇うように着地して、原初(ルート)を睨む。

その姿見て、古城は呆然とし、悠斗は納得していた。

 

「なるほど……。アイスの借りか」

 

双角獣が僅かに振り返えり、微笑したように――見えた。

そして古城たちの前には、双角獣に黄金の龍、紅蓮の不死鳥に妖鳥が並んだ。

形勢は、完全に古城たちが優勢だ。

 

「……よかろう、眷獣ども。ならば、我が完全に葬ってやろう!」

 

原初(ルート)が空に向けて高々と手を伸ばした。

現れたのは流星だ。 そう、灼熱に包まれた巨大な流星だ。 今は雲の上にあるにも関わらず、古城たちは肉眼で波っくりとその姿が見える。

流星の正体は巨大な武器だ。 三鈷剣と呼ばれる古代の武具。 神々が使用したと言われる降魔の利剣だ。 刃渡り百メートルを超えるであろう巨大な剣が、高度数メートルの上空から重力に引かれて落下してくる。

 

「……夜摩の黒剣(キファ・アーテル)!」

 

アヴローラが表情を凍りつかせて、その名を口にした。 その間にも、巨大な剣は速度を増して、地上までの距離を縮めている。

だが、いくら新たな眷獣を召喚した所で、葬ってしまえばいいだけの話だ。

 

「――雷獄(らいごく)!」

 

悠斗は驚愕する事になる。――そう、黄龍が放った稲妻は巨大な剣に打ち負けたのだ。 悠斗は冷汗を背筋に一筋流した。 あれは、ここにいる眷獣で防げる代物かと不安を覚えたからだ。

――――だが、手はある。

 

「――全てを司る神獣よ。 今こそ我と一つになり、黄金の輝きを与えたまえ。 四神の長たる黄金の龍よ!――来い、黄龍!」

 

悠斗と黄龍は融合し、悠斗は黄金の衣に包まれた。 左手を掲げると、美しい龍が召喚される。

悠斗は左腕を振り下ろした。

 

「――天舞(てんぶ)!」

 

火、水、風、雷、地。五種の属性を纏った龍は、夜摩の黒剣(キファ・アーテル)と衝突し爆発を起こした。

 

「なっ……!?」

 

愕然と叫ぶ原初(ルート)の声が、古城たちにははっきり聞こえた。

そう。 金色の稲妻を撒き散らして、巨大な黄金の獅子が現れたのだ。 黄金の獅子は咆哮し、地上から撃ち出された凄まじい雷が、天舞(てんぶ)の追随となって夜摩の黒剣(キファ・アーテル)に直撃する。

そして、夜摩の黒剣(キファ・アーテル)の落下方向を水平線へと変え、絃神島から約数千キロ吹き飛んだ。

だが、夜摩の黒剣(キファ・アーテル)が海に落下した衝撃は、大きな波と暴風になって旧南東地区(オールドサウスイースト)を襲った。 それは、劣化した人工島(ギガフロート)の基礎部を破壊するには十分の破壊力を持っていた、

樹脂と金属で覆われた地表は陥没し、地下最下層まで一気に露出した。 人工島(ギガフロート)のメインフレームが破断して、島全体が左右に分割されていく。

建物の窓硝子は砕け散り、ビルが次々と倒壊した。 数千キロ飛ばし、海で着斬させても、これだけの余波があるのだ。

離れていてもこの被害だ。 古城たちに直撃していたら、旧南東地区(オールドサウスイースト)は勿論、絃神島本島の大部分も破壊したはずだ。

旧南東地区(オールドサウスイースト)が一気に沈没しなかったのは、人工島(ギガフロート)の基礎設計が優れていたからだ。 だが、島内の各ブロックも浸水が始まり、沈むのは時間の問題だ。

このような災害が起きているのに、古城たちには傷一つなかった。 古城たちを救ったのは、銀色の霧だ。 それが、古城たちの体を包み込んでくれたのだ。

 

「お、お前たちは……!」

 

傾いた時計塔に立つ原初(ルート)が、地上を見つめて苦々しげに言った。

黄金の獅子と、濃霧に包まれた銀色の甲殻獣。この二体の眷獣が、敵意を見せ原初を睨んでいる。

 

獅子の黄金(レグルス・アウルム)……甲殻の濃銀(ナトラ・シネレウス)……」

 

アヴローラが驚いた表情で眷獣の名前を言った。

彼らは凪沙を救う為、力を貸しに来てくれたのだ。

 

「凪沙……か!? こいつらも、凪沙を救うおうとしているのか!?」

 

片膝と突けた悠斗は立ち上がり、頷いた。

 

「……だろうな。 それ以外に、敵対する理由が見当たらない」

 

予期せぬ状況に、原初(ルート)は唇を歪めていた。 覚醒した直後の原初(ルート)は、まだ眷獣たちの支配権を完全に掌握してなかった。 だからこそ、九番目(エナトス)たちの離反を招き、原初(ルート)は窮地に立たされたのだ。

そして、追い詰められた原初(ルート)の足場が突然崩れた。 時計塔の根元が、空間を抉り取られたように消滅している。

破壊したのは、互いに絡み合う、銀色の鱗を持つ双頭龍。 この眷獣が時計塔を食らって、原初(ルート)を地に引きずり降ろしたのだ。

 

龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」

 

三番目(トリトス)かっ!」

 

アヴローラと原初(ルート)が同時に叫んだ。 落下を続ける原初(ルート)は、最後に残された翼を引き抜いて、六体目の眷獣を召喚させる。

それは、灼熱の炎に包まれ、鮫の歯と獅子の胴体、蠍の尾と蝙蝠の翼。 人食い(マンティコア)の名で知られた眷獣だ。

だが、悠斗が放った攻撃が、そいつを消し去った。

 

「行くぞ、古城」

 

「ああ、頼んだ」

 

悠斗は古城の背中に、左手掌を押し当てた。

古城の体は、悠斗の空砲(くうほう)によって飛ばされた古城は、地上に降りた原初(ルート)の華奢な体を押さえつけた。

 

「終わりだ、原初(ルート)アヴローラ!」

 

「従者如きが! 弁えよ!」

 

原初の腕が、古城の脇腹へと突き入れられた。

おそらく、古城の肋骨を奪うつもりなのだろう。 だが、その行動こそが、古城たちが狙っていたものだった。

 

「効かねェな!」

 

古城は、原初(ルート)の腕をがっちりと押さえ込む。

単純な力比べに持ち込めば、華奢な凪沙の体では古城の力に対抗できない。 そう、完全に動きを止められるのだ。

 

「ぬ!?」

 

動きを封じられ、原初の表情に焦りが浮いた。

そんな彼女の背後に立っていたのは、金髪の少女――アヴローラだ。

 

十二番目(ドウデカトス)!? 貴様!」

 

原初(ルート)が振り返って絶叫する。

そんな彼女の背後から寄り添い、凪沙の首筋へと、アヴローラの唇が押し当てられた。 鋭い牙が、柔らかな肌を刺し抜く。

 

「そうか……。 これが汝らの目論見か! 同族食らいか!」

 

原初(ルート)は、愕然としたように目を見開いていた。

その首筋からは、鮮血が伝い落ちていく。 凪沙の体から力が抜け、古城を貫いていた腕がゆっくりと抜ける。 ぐったりと凭れる凪沙の体を、アヴローラはゆっくり抱き締めた。

同族食らい――。 あるいは上書き(オーバーライド)

吸血鬼が吸血鬼の血を吸って、相手の“血統”や“能力”を自分の中に取り込む事だと言われている。 だが、相手を自分に取り込むと言う事は、逆に取り込まれてしまう可能性もある。 存在を上書きされてしまうのだ。

そして、凪沙が助かる方法は上書き(オーバーライド)が最善策だった。 だが、その実現は限りなくゼロだった。 人間の凪沙が、原初(ルート)アヴローラの呪われた魂を乗っ取るはずなどできるはずない。

もし、上書き(オーバーライド)するのは人間ではなく吸血鬼なら? それが、封印の器なら?

そう。 これこそが、古城たちの狙いだったのだ。

アヴローラは、凪沙の首筋に牙を立てたままだ。 凪沙の体に憑いていた、原初(ルート)アヴローラを自らの体内に招き入れてるのだ。

だが、アヴローラが動く様子がない。

今、アヴローラの中では、二つの魂が能力の支配権を巡って、激しく争っているのだろう。

 

「……古城」

 

「……ああ、解ってる」

 

古城は、クロスボウに装填した杭を、アヴローラの心臓へ向けた。

この杭は真祖殺しの聖槍(せいそう)だと、悠斗が暁家で言った。 ならば、これは第四真祖を滅ぼす切り札になるのだ。

アヴローラが原初(ルート)の魂を上書き(オーバーライド)できればそれでいい。 だが、もし逆にアヴローラが食われたら、その時は古城が彼女を撃つ。――そして、聖槍(せいそう)で命を奪ってから、青龍の雷球(らいほう)で彼女を消し飛ばす。――古城と悠斗、アヴローラはそう決めたのだ。

時計塔の鐘が鳴り、その直後、意識をなくしていたはずの凪沙が笑い出す。

 

「くくっ……」

 

これは凪沙本人の笑い方ではない。 原初(ルート)のあからさま嘲笑だ。

 

「駄目なのか!? アヴローラ……!」

 

「――降臨せよ、青龍」

 

万が一に備え、悠斗は青龍を召喚させる。

古城がクロスボウの引き金に指をかけた。 そして祈るような気持ちで、アヴローラの返事を待つ。 凪沙は笑い続けていたが、それは次第に途切れていく。

 

「汝らの……勝ちだ……」

 

凪沙は満足げに呟き、眠るように目を閉じる。

脱力した凪沙の体を支えて、アヴローラが古城たちを見た。

 

原初(ルート)か?」

 

アヴローラの瞳を睨んで、古城が聞いた。

だが、そんな古城の頭に一つの掌骨が落ちる。

 

「アホ古城。 俺らが知るアヴローラだろうが」

 

「う、うむ。 アヴローラ・フロレスティーナだ」

 

古城は安堵し、クロスボウを下ろした。 だが、悠斗が落とした拳骨の場所は痛そうだ。

 

原初(ルート)と融合したんだな……アヴローラ」

 

古城の問いかけに、アヴローラは沈黙で答えた。 古城は、そうか。と頷き彼女の方へ歩き出す。

アヴローラは無言で後ずさる。

彼女の周囲には、雪が舞い始めていた。 常夏の人工島では、決して降るはずがない雪がだ。 純白の凍気が彼女の周囲を取り巻いて、足元には霜が降り積もっている。

離れようとするアヴローラに近づいて、古城はアヴローラの手を握った。

 

「古城……」

 

アヴローラが何か言いたげに口を開くが、それを古城が遮った。

 

「また眠りに就くつもりなんだろ」

 

アヴローラは驚いたように唇を噛む。

確かにアヴローラは、原初(ルート)上書き(オーバーライド)に成功した。 だが、それは一時的なもの。 天部が生み出した呪いの魂に、眷獣の器に過ぎないアヴローラは勝てない。 必ず原初(ルート)は復活し、アヴローラを今度こそ完全に支配するだろう。

だから、アヴローラは自分自身を封印しようとしている。

眷獣の力を使って、自らを氷の柩に閉じ込める。 嘗て、遺跡の中で眠り続けた頃のように。 何百年も、何千年も、たった一人で眠り続けるつもりなのだろう。

 

「つき合ってやるよ。 お前から目を離すのは不安だからな」

 

「まあ、俺もだな。 俺、不老不死の吸血鬼だし。 時間もたっぷりあるしな。 てか、お前を一人にするとあぶなっかしすぎる。 今度は、船を爆発させないように気をつけないねぇとな。 いや、マンションでも借りるか? 那月に言えば何とかなるはずだ」

 

「……古城、悠斗」

 

アヴローラは力なく、儚く笑った。

そしてその瞳には、覚悟を決めた者に特有の穏やかさがあった。

 

「……悠斗。 我は汝と共の歩み、共に笑い、とても楽しかった。 悠斗との思い出は、我は忘れることはない。 ありがとう」

 

突然悠斗の力が抜け、黄金の衣も、青龍も消えていく。 アヴローラが、再び力を繋げたネックレスを介して、魔力を吸収(ドレイン)しているのだ。

今の悠斗の強さは、ただの吸血鬼レベルだ。 対してアヴローラは、覚醒した第四真祖。 吸収(ドレイン)行為に抗えるはずもなかった。

ほぼ吸収(ドレイン)され、悠斗は片膝を突けた。

 

「あ、アヴローラ。何を……」

 

アヴローラは、穏やかな笑みを浮かべた。

悠斗は、アヴローラが実行しようとする行為が解ってしまった。

だが、悠斗にはもう止める術がない。 アヴローラは、これを実行する為に、悠斗の力を吸い取ったのだ。

そして、アヴローラの視線が古城に向く。

 

「……古城。 我は……我は、汝の望みを叶えた……次は……次は……古城の番……」

 

古城の右腕が意思に反してゆっくり持ち上がる。 銀色の杭が、真祖殺しの聖槍(せいそう)が、アヴローラの心臓へと向けられたのだ。

 

「アヴローラ!?」

 

輝くアヴローラの瞳を見て、古城も理解した。

古城は彼女の血の従者だ。 それは、主人のアヴローラが古城の意思に反して、古城の体を動かしているのだ。

 

「やめろ……! やめろ、アヴローラ!」

 

だが、血の呪縛には逆らえない。

そう。 原初(ルート)の復活を阻止する方法はもう一つあったのだ。 それは、アヴローラが原初(ルート)の魂を抱えたまま消滅する事だ。

 

「兵器として造られた呪われた魂は、我と共に、ここで消える……だが……」

 

アヴローラが動けない古城の首筋に牙を突き立てる。

そこから何かが流れ込んでくるのを古城は感じた。 それは力そのものだ。 アヴローラは第四真祖の力だけを切り離して、古城に渡そうとしているのだ。 そして自分は、原初(ルート)と共に消滅する気なのだ。 絃神島を、古城たちの世界を護る為に――。

 

「第四真祖の力を全て汝に託そう。 受け取れ」

 

「やめろ、アヴローラっ!」

 

古城の血を舐め取って、アヴローラは泣き笑いのような表情を浮かべた。

彼女の意思に導かれるまま、古城の指に引き金がかかる。

 

「だ、ダメだ! お前は、最初にできた友達なんだ! 死んだらダメだ!」

 

悠斗は目許に涙を溜めて、絶叫した。

 

「ふふ。 悠斗、汝は泣き虫なのだな。 初めて知ったぞ」

 

アヴローラはそっと目を閉じた。

 

「古城、悠斗……」

 

彼女が最後に紡いだ言葉は何だったのだろうか――。

そして、撃ち出された聖槍は、羽根のような軽い音を立てて、少女の胸に突き立った。

真っ白な光が、古城たちの視界を染めた。 荒れ狂う魔力の奔流の中を、純白の雪が舞う。

そして、暁古城は眠りに落ちるが、神代悠斗の物語はまだ続くのであった――。




この章も、後一話で終了です(^O^)
これも今日の内に投稿するぜ(白目)
つーか、悠斗君には隠された眷獣がいたんです!アヴローラは、力を送り悠斗君の封印を解いてから、再び力を吸収したんです。
まあ、ネックレスはまだリンクしてたんですね。ご都合主義です(笑)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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