ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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この章の矛盾が出てきたかも……。
まあ、ゴリ押ししちゃうんですが(笑)

では、投稿です。
本編をどうぞ。


焔光の夜伯Ⅳ

悠斗が、野営地(キャンプ)から離れて一眠りした翌朝。 また、悠斗が野宿をしていた場所は、澄んだ泉もある。 近場に水があった方が、水分補給等には便利だからだ。

悠斗は森の奥に目を向けた。 玄武の察知能力が人の気配を感じたからだ。 感じる気配の数は二つ。 おそらく、野営地(キャンプ)いた兄妹の者だろう。

 

「……嫌な予感がする」

 

悠斗の嫌な予感とは、当たる確率が高いのだ。

妹が衣服を脱ぎ、泉の中に体を沈めるではないか。 兄の方は、岩陰で待機していた。 此処まで着いて来てあげたのだろう。 何とも、面倒見がいい兄である。

 

『覗かないのか』

 

「はぁ!? 何言ってんだよ! 変態になるだろうが!」

 

黄龍にそう言われ、悠斗は声を上げてしまった。 この声が響いたのか、少女の肩がビクッと震えた。

 

『……古城君。 今、声を上げた?』

 

『知らん、空耳じゃないか。 オレ、声上げてないし』

 

悠斗は、両の手で口元を覆った。

 

『……ならいいんだけど』

 

『つーか、覗く奴なんか居るわけないだろうが』

 

『わ!? こっち向かないでよ!』

 

少女の方に顔を向けた兄が、少女が投げた革製のブーツを鼻元に直撃し、悶絶した。

どうやら、悠斗の存在は露見しなくて済んだらしい。

 

「……早く離れよう」

 

悠斗は、肩を落としながら野営地(キャンプ)の方角へ歩いて行った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

悠斗が昨日のように遺跡を観察していると、昨日より厳重な警備が敷かれていた。

 

「……あの女、吸血鬼か? 何でこんな所に?」

 

女性が、腕時計より一回りほど大きな、金属製のブレスレッドが嵌められていたのだ。 魔族の安全を保証する身分証であり、彼らを監視する為の発信器――魔族登録証である。

遺跡を調査するだけなのに、吸血鬼がいるのは余りにもおかしい。 いや、遺跡調査員とは、未知の物に手を出したがる者だ。――そう、十二番目に関する事などだ。

 

「……眠りから覚まそうとしてんのか? 止めるか? でも、面倒事には関わりたくないしなぁ」

 

と言う事なので、悠斗は傍観する事に決めたのだった。

すると、先程の兄妹が遺跡の中へ足を踏み入れた。 また、ご丁寧に強力な結界も施したのだ。

悠斗にとっては、紙切れ同然に過ぎないのだが。 その時、悠斗は感じ取ってしまった。警備隊の一人の存在が消えたのだ。 気配が消えると言う事は、何者かに絶命されたと言う事だ。

だが、周囲は結界が張られており、並みの魔族では侵入する事は出来ない。と言う事は、先に潜伏してた者の仕業が濃厚である。 おそらく、十二番目の柩が開かれた所を狙う算段だったのだろう。

 

「……途中で止めればいいものを。 遺跡調査員って、アホの集まりだな」

 

そう悪態を吐きながら、悠斗は岩山から飛び下りた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

調査団の野営地(キャンプ)は、炎で包まれていた。 車両や採掘用の重機は軒並みに破壊され、宿舎やテントも焼きが払われている。

悠斗が野営地へ降り立つと、死体が歩いていたのだ。 新たに、地面から這い出そうとしてる死体もある。 どうやら、悠斗も標的にされたようだ。

 

「はあ、人助けをしようとするもんじゃねぇな。――飛焔(ひえん)!」

 

悠斗は、左掌から浄化の焔を死人に放つ。 朱雀の真骨頂は清めだ。 負に関する物は、綺麗に浄化されるのだ。 悠斗は周囲を見渡し瞬時に理解した。

――黒死皇派。 戦王領域出身のテロリスト。 獣人優位主義を唱え、吸血鬼による夜の帝国(ドミニオン)の支配に反発。 人間と魔族の共存を目的した聖域条約の破棄を訴える好戦的な一派。 獣人でありながら死霊魔術(ネクロマンシー)に精通し、世界各地で様々なテロ活動を繰り広げる集団。

黒死皇派にとっては、吸血鬼の真祖は憎むべき敵だ。 もし、十二番目が本当の第四真祖ならば、この遺跡は、破壊すべき場所と言う事になるのだ。

そして、黒皇派で死霊魔術(ネクロマンシー)を使用する獣人は――死皇弟(しこうてい)、ゴラン・ハザーロフだ。

 

「面倒くせぇ」

 

そう言いながら悠斗は走り出し、傷だらけの者の前に立った。 左腕は折れてるようだが、命には別状はないらしい。 だが、戦闘続行は不可能だ。

 

「……誰だ貴様は」

 

「通りすがりの吸血鬼だ。 テロリスト。――炎月(えんげつ)!」

 

悠斗は、傷だらけの調査員を結界で囲った。

此れならば、テロリストは調査員に手を出す事は不可能である。 獣人が命を下すと、地中から数十体の死人が這い上がってくる。

 

「――飛焔(ひえん)!」

 

悠斗は、それを浄化させる。 悠斗の前では、無意味な攻撃だ。

だが、死皇弟を消し去るには火力が足りない。 朱雀を召喚して攻撃すると、おそらく、内部の十二番目も浄化してしまう。

 

「(……目覚めてるなら話は別なんだがな)」

 

そう、焔光の夜拍(カレイドブラッド)は世界に関わる代物だ。

消してしまったら、後々何が起こるか解らない。と言う事は、悠斗の攻撃手段も限られてしまうのだ。

 

「ほう、見事だ。 これならどうかな」

 

そう言って、死皇弟は地面から一〇〇体に及ぶ死人を呼び出した。

悠斗は舌打ちをした。 足止めには十分な数だ。

 

「では、通りすがりの吸血鬼よ。 奴らの相手をしていろ」

 

死皇弟は、そのまま洞窟内部に入って行く。

悠斗は動く事は出来ないので、護衛に付いてる女吸血鬼に時間稼ぎを任せるしかない。 悠斗はそう思いながら、死人に目を向けた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

数分経過した所で、悠斗は死人を完全に消し去った。 そんな時、結界に囲まれた調査員から言葉が発せられる。

 

「……洞窟内部にガキが居るんだ。 悪ぃが、オレは動けそうにない。 リアナ・カルアナと協力して、助けてくれ。 お前さんは、信用できる」

 

「ああ、わかった」

 

「……すまねェな。 恩に切る」

 

そう言って、調査員は気を失い、悠斗は洞窟内部へ急いだ。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「ッチ。 遅かったか」

 

悠斗が洞窟の最深部で目にしたのは、少女を庇い全身に銃弾を浴び絶命してる兄と、胴体を貫かれた女吸血鬼だった。

 

「古城君! 古城君……目を開けてよ、古城君! お願いだから……!」

 

少女は、兄の体に縋って必死に彼の名前を呼ぶが、彼の体は無数の銃弾を浴びて血みどろだった。 高い再生能力を持つ吸血鬼でも、助からないだろう。 人間なら尚更だ。

 

「そうか……。 妹を庇ったのか。 賞賛するぞ、少年。 無謀で愚かだが、勇気ある行動だった事は認めよう。 だが、所詮は脆弱な人間の肉体。 残念だったな」

 

哀れむような口調で死皇弟はそう言って、自らを巨大な神獣に姿を変えた。

悠斗は歯ぎしりした。 悠斗は、戦闘要員の命を奪う事は仕方がない事だと思っているが、非戦闘員の命を奪うなど言語道断なのだ。

 

「――降臨せよ、朱雀!」

 

悠斗は、傍らに朱雀を召喚させた。

朱雀は、少女と彼を包み込むように翼で包んだ。 此れならば、彼女たちが被害を受ける事もうない。

 

「……貴様か」

 

死皇弟は、振り向きそう言う。

 

「……テメェ、何故彼女たちまで手にかけた。 恥ってもんを知らねぇのかよ!」

 

「我々はテロリストだ。 そのようなものは持ち合わせていない」

 

「……そうか。――降臨せよ、玄武!」

 

悠斗は、玄武を召喚させた。 そして、悠斗は冷徹になった。

最早、こいつには慈悲は与えない。

だが、悠斗が玄武に命じようとした時に、突然噴き出した凍気が、遺跡の中を埋め尽くした。 そう、少年が与えた己の血肉が、氷塊の中に眠って少女に降り注いでいたのだ。 ならば、十二番目が覚醒しても不思議ではない。

これは、十二番目の眷獣の力だ。 そして、血まみれの少女が起き上がる。 粗末で薄衣だけを纏った、妖精のような少女だ。

虹色に輝く彼女の髪は炎のように逆巻き、見開かれた瞳は焔光放っている。 彼女が撒き散らす冷気を浴びて、死皇弟と悠斗は、その壮絶な魔力に圧倒されそうになる。

そして、彼女の背後に浮かび上がったのは、氷河のように透き通る巨大な影だ。 上半身は人間の女性に似ており、下半身は魚の姿である。 背中には翼が生え、指先は猛禽のような鋭い鉤爪になっている。 氷の人魚、あるいは妖鳥(セイレーン)――。

 

「……眷獣……だと……!?」

 

死皇弟がそう唸った。

そして、一瞬で凍結させた。 そう、絶対零度の負の温度領域まで――。

だが、悠斗にはそれは効かない。 玄武の無月(むげつ)での無効化だ。 そう、冷気のみを無に還しているのだ。

 

「ほう、我の攻撃で受け立っていられるとはな」

 

「……まあな。 俺は他の吸血鬼に比べると、奇妙(イレギュラー)な存在だからな。 お前も助けるさ。 眠ってていいぞ」

 

そう、石室は崩壊を始めているのだ。

彼女が全ての石を凍らせても、重力によって石は落ちてくるのだ。

 

「……そうか。 すまぬな」

 

彼女は、再び柩に横になった。

 

「いや、気にするな。――朱雀!」

 

朱雀は悠斗たちを翼で包み込み、崩壊から守ったのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

崩壊から免れた悠斗は、朱雀で彼女たちを守護したまま歩き出した。

そこには、一人だけ生還した調査員と、フリルまみれの豪華なドレスを着た小柄な少女だ。

 

「お前か、奴を助けたのは?」

 

「ああ、助けられなかった人の方が多いけどな……」

 

悠斗が戦場で助けられたのは、一人だけだったのだ。

死皇弟が用意していた死人は、異常な数だったのだ。 なので、他の調査員まで手が回らなかったのだ。

 

「しかし、現場に居なかった調査員の生存者は二十三名。 地上に居たスタッフの約半分は助けられた計算だ。 貴様たちが死皇弟を抑えて、時間を稼いだからだな」

 

遺跡は、巨大な魔力のぶつかり合いによって陥没し、形を留めていなかった。

遺跡の復旧は絶望的である。

 

「ミス・カルアナは?」

 

「……悪い、間に合わなかった。 だが、二人は生きてる。 俺の眷獣で守護した」

 

「……そうか。 なら、死皇弟もお前が倒したのか?」

 

乾いた口調でそう言って、調査員は立ち上がった。

 

「女吸血鬼でも、俺じゃないのは確かだぞ」

 

次の悠斗の言葉で、調査員は荒い息を吐く。

 

「――十二番目の焔光の夜拍(カレイドブラッド)――アヴローラ・フロレスティーナ」

 

「何!?……眠り姫が……目覚めたのか……!?」

 

さあな。と言い、悠斗は口を閉ざした。

だが、悠斗の言葉は、遠回しに答えを言っているのと同じなのだ。

 

「まあ、少女の方は精神に大きな負担があるかもしれないから、十分な休息が必要だ。 彼は無傷だ。 だよな、空隙の魔女」

 

「そうだ。 銃弾を浴びて、肺と心臓を含めた全身の大部分を吹き飛ばされた痕跡も残ってるのにも関わらず、だ」

 

呻く調査員。

 

「十二番目の焔光の夜拍(カレイドブラッド)と、暁兄妹。 この三人は、極東の魔族特区で預かる。 戦王領域にもその条件で納得させた。 文句はないな、暁牙城(・・・)?」

 

「極東の魔族特区……!? 絃神島か!」

 

絃神島は太平洋に浮かぶ人工島。 日本政府が管轄する特別行政区だ。 そして、空隙の魔女。 南宮那月の本拠地でもある。

欧州から遠く離れた絃神島に連れて帰れば、戦王領域や、他の真祖たちの夜の帝国(ドミニオン)も手を出す事は不可能だ。

十二番目に対しても、暁兄妹に対しても。

 

「随分と手際がいいじゃねェか、空隙の魔女」

 

牙城が忌々しげに呟いた。 那月は、ふふん。と得意げに笑う。

 

「聖殲絡みだ。 わたしとて、多少は無理をする。 貴様にとっても、悪い話ではないと思うはずだが? 不満か、暁牙城?」

 

「……いや、あんたの思い通りになるのは癪だが、他に選択肢はなさそうだ」

 

牙城は疲れたような口調でそう言うと、焼け焦げた中折れ帽を拾い上げた。

そして、那月の視線が悠斗に向く。

 

「それで、お前はどうするんだ? 紅蓮の織天使」

 

悠斗は溜息を吐いてから、

 

「手を引く。って言いたい所なんだが。 完全に無関係、とは言えなくなったんだよな……。 はあ、如何すっかな」

 

悠斗は、思案顔をした。

 

「……気が向いたら行くよ。 俺は自由にさせてもらう。 悪ぃな」

 

そう言って、悠斗は踵を返し歩き出した。

再び、世界を回る為に――。




暁兄妹と邂逅?しましたね。
古城君たちは、悠斗君の姿は見られてませんが。てか、独自設定も満載です(笑)
朱雀を召喚しても、攻撃はしてませんから、十二番目は消滅しないんです(^O^)

牙城君は、悠斗君の事と会っていたんですね。実は悠斗君も、牙城の事を覚えてたり……(笑)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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