ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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更新です。
いやー、今回はご都合主義満載ですな(笑)
やっぱ、戦闘は描写は難しいですね(^_^;)

あとあれです。賢者が現れた事で、暗闇が若干かかった独自設定ですね。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


錬金術師の帰還Ⅶ

立ち上がった悠斗と凪沙は、古城たちの方へ歩み寄る。

悠斗は、あっ、と声を上げた。 このままでは、古城と雪菜の正体が露見してしまう。

だが、凪沙は、此方の世界に足を踏み込んでしまったのだ。

 

「古城、姫柊。 抱き合ってる所悪いが、化け物退治が先だ」

 

悠斗にそう言われ、古城と雪菜は咄嗟に離れた。

古城は、悠斗の隣で立っていた人物を見て目を見開いた。

 

「……な、凪沙っ」

 

「古城君も吸血鬼だったんだね。 じゃあ、雪菜ちゃんは、古城君の付き人かな」

 

無邪気に笑う凪沙とは対照的に、古城は、背筋に冷汗を一筋流した。

凪沙は、魔族恐怖症だ。 そう、古城を拒絶してしまう恐れがあるのだ。

だが、それは杞憂だった。

 

「古城君を嫌いにならないから大丈夫。 魔族恐怖症も、皆のお陰でほぼ完治だから」

 

古城は、そ、そうか。と呟く事しか出来なかった。

ともあれ、雪菜がニーナを警戒したような眼差しで見た。

 

「この方は……?」

 

「大錬金術師、ニーナ・アデラードだ。 賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)の本来の持ち主ってことだ」

 

悠斗がそう紹介し、うむ。と偉そうに踏ん反り返るニーナ。

雪菜は、ニーナの不自然な胸元をじっと見詰めた。

 

「……どうして藍羽先輩の姿をしてるんですか? それに、あの胸は……?」

 

「ああ、全部古城の趣味だ。 後で古城から聞いてくれ」

 

雪菜と凪沙は、古城に冷たい目線を向けた。

 

「先輩……」

 

「古城君……」

 

「ち、違ェよ! 誤解だ!」

 

必死に反論する古城だが、説得力皆無である。

 

「皆さん!」

 

夏音が必死に声を張り上げ叫んだ。

ミサイルの衝撃から立ち直った天塚が、怒りの形相で古城たちを睨んでいたのだ。

また、夏音は、凪沙に肩を貸してもらっている。

 

「姫柊!」

 

古城は、背負っていたギターケースを雪菜に押しつけた。 雪菜は、驚いて目を見開く。

 

「このケース!」

 

「ニャンコ先生と煌坂からだ」

 

「師家様たちが――!?」

 

古城は頷き返して、雪菜はケースから武神具を抜いた。

柄の部分がスライドし、左右の副刃が展開。 主刃が伸びて槍の形になる。 古城たちを取り巻く天塚の分身体が、一斉に触手を伸ばして四方から攻撃を仕掛けてくる。

しかし、雪菜の表情に焦りはなかった。

 

「雪霞狼!」

 

雪菜が銘を呼ぶと同時に、雪霞狼が白い光を放った。

あらゆる結界を斬り裂き、全ての魔力を無力化する神格振動波の輝きだ。

錬金術によって生み出された金属生命体の触手は切断され、本来のあるべき姿へと還る。――即ち、単なる金属の塊へと。

 

疾や在れ(きやがれ)――龍蛇の水銀(アル・メイサ・メルクーリ)!」

 

古城が、揺らめく水銀を持つ双頭龍の眷獣を召喚し、天塚の分身体を次々に喰らって、この世界から消滅させていく。

巻き添えになって船の甲板もごっそり消滅するが、古城は気づかない振りをする。

だが、この現象を指摘する少女がいたのだった。

 

「古城君のバカっ。 船を消滅させちゃダメだよっ」

 

凪沙は、もうっ、わたしがやった方がよかったかも。と言う始末だ。

 

「古城の眷獣は、ほぼ破壊特化だからな。 仕方ない」

 

悠斗と凪沙の言葉に、古城は、ぐふっ。項垂れてしまった。

 

「ゆ、悠斗の眷獣が奇妙(イレギュラー)なんだよ」

 

古城の言う通り、紅蓮の熾天使は守護の眷獣を使役するのだ。

真祖の眷獣と比較すると、奇妙(イレギュラー)なのは間違えない。

 

「……先輩方も凪沙ちゃんも、緊張感がなさすぎです」

 

雪菜は呆れるしかなかった。

古城たちの感覚は、食卓を囲んでる感じだ。 古城たちとは対照的に、分身体を失った天塚は、屈辱に顔を醜く歪めた。

そんな天塚の前に歩み出たのはニーナだった。 嘗て弟子と呼んだ天塚寂しげに見下ろして、優しい声をかける。

 

「もうやめておけ、天塚汞。 (ヌシ)の負けだ。 大人しく賢者(ワイズマン)の遺骸を渡せ」

 

「ニーナ・アデラード……」

 

黄金の髑髏を握り締め、天塚が掠れた声を洩らした。

二―ナは、天塚の胸に視線を落とした。 そこに埋め込まれた黒い宝石に――。

 

「薄々は気づいておるのだろう? (ヌシ)賢者(ワイズマン)が、霊血の残滓から創り出した人工生命体(ホムンクルス)だ。 完全な人間に戻りたいという欲望を埋め込まれ、奴に利用されているだけだぞ」

 

「あんたまで……そんなことを言うのか、師匠……」

 

天塚が殺気立った瞳で、ニーナを睨み上げた。

しかし二―ナは、天塚の視線を優しく受け止める。

 

「人間であるか否かを決めるのは肉体ではない。 (こころ)の在り様だ。 (ワシ)もそこの吸血鬼も、人間としての身体は失ったが、それでも人間らしく生きようと足掻いておる。 (ヌシ)賢者(ワイズマン)に従う理由などないのだ」

 

「理由……僕が……従う理由は……」

 

脱力した天塚の左手から、黄金の髑髏が離れて落ちた。 それは甲板の上に転がって、鈍い金属の響きを立てる。 カタカタと骸骨が震え出したのは、その直後だった。

 

『カ……カカ……カカカカカ……』

 

黄金の髑髏が振動して、笑いに似た奇怪な音を放ち始める。 二―ナと悠斗は不審そうに眉を上げ、天塚は放心したように髑髏を見詰めている。

古城たちは、何が起きてるか分からない。 ただ、骸骨が放つ奇怪な笑声に、禍々しい気配を感じるだけだ。

 

『カカカカカカ……不完全なる存在(モノ)たちよ。 もう遅い』

 

今度こそハッキリと、自らの意思を持って骸骨が語った。

その声は、とても不快な声だ。

 

「……賢者(ワイズマン)!?」

 

二―ナが怯えたように周囲を見渡して叫ぶ。

そして、悠斗と凪沙は気づいた。 黄金の髑髏の口蓋に、凄まじい熱量が収束されているのに――。

 

「――降臨せよ、青龍!」

 

「――おいで、朱君!」

 

悠斗と凪沙の前に、朱雀と青龍が召喚された。

 

「――雷球(らいほう)!」

 

「――炎月(えんげつ)!」

 

黄金の髑髏が放った閃光と、青龍の凶悪な口から放った雷球が衝突し、凄まじい爆発が巻き起きる。 通常なら古城たちは爆発の余波で吹き飛ばされるが、その爆発の余波は、朱雀が周囲に展開した結界が防いだのだ。

爆発は古城たちの視界を白く染め、爆音が船を震わせる。 全てが収まり結界を解くと、生々しく空気に残る熱気とオゾン臭だけが、攻撃の凄まじさを物語っていた。

 

「……これは、重金属粒子砲ってやつか」

 

「ああ、この痕跡からしてそうだろうな」

 

黄金の髑髏の攻撃は、絃神島の埠頭に残されていた痕跡と同じものだ。 膨大なエネルギーを投入し、荷電した重金属粒子を高速で撃ち出すビーム兵器。

 

「いや、待て。 あれは賢者(ワイズマン)なのか? 賢者(ワイズマン)だとしたら、賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)はどこだ?」

 

「――あ!?」

 

甲板に転がる黄金の髑髏を見て、古城は絶句した。

そこにあるのは髑髏だけ。 賢者(ワイズマン)の肉体のほんの一部に過ぎないのだ。 人工の“神”の血肉となるほどの液体金属生命体は、一滴たりとも含まれていない。

 

「まさか! 狙いはわたしたちじゃなく――」

 

雪菜が自身の足元へと目を向けた。 損傷したフェリーの艦体の、その更に下――。

 

「海水か!?」

 

二―ナが驚愕の叫びを洩らした。

海水には、“金”や“ウラン”などの貴金属が含まれている。

その数量は数十トン、数千トンとも言われているのだ。 いずれのせよ、人工島に備蓄される貴金属などとは比較にならない膨大な量だ。 なので、賢者(ワイズマン)は海水を目指したのだ。

海水中の貴金属の濃度はあまりにも微量で、効率よく回収する技術は確立されていないが、彼が絃神島からここまでの航行の間、船底に潜んでかき集めた貴金属の量は相当な量になるはず。 それは、賢者(ワイズマン)復活の供物として十分だとしたら。 賢者(ワイズマン)が海中で、ありあまる魔力で練金術を行使したら――。

 

『カカカカカカ――世界よ、完全なる我の一部となれ』

 

フェリーの船体を貫いて、海中から巨大な賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)の塊が浮上する。 それは甲板に落ちていた黄金の髑髏を飲み込んで、完全な人の形を得る。

六、七メートルに達する巨人の形を――。

 

「させっかよ!」

 

悠斗が朱雀を召喚したとほぼ同時に、賢者が光の閃光を放った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

真紅の鎧に包まれた古城たちは、意識を取り戻した。

周囲には粉塵が舞っている。 船は朱雀の守護に包まれ無傷だ。 悠斗が咄嗟に朱雀を召喚させ、皆を守ったのだ。

また、あの高エネルギー重金属粒子砲はかなりの威力だった為、悠斗はほぼ全ての魔力を朱雀に回した。 悠斗は結界を展開させそれを防いだが、続けざまに賢者(ワイズマン)は物質変化を仕掛けたのだ。 悠斗は――朱雀の鎧も纏っていない状態で物質変化の攻撃を受けてしまった。 そう、悠斗以外は朱雀の守護で守られた――。

 

「……お、おい。 悠斗……返事をしろよ……」

 

古城はふらつきながら、悠斗の元へ歩み寄るが、悠斗は眷獣を召喚した姿勢のまま動きを止めていた。

今の悠斗の姿は、鉛色の彫像だ。

紅蓮の熾天使は、第四真祖以上の吸血鬼だ。 ならば、雪霞狼の神格振動波の傷を負っても死なないはずだ。

そう考えた古城は、声を上げて雪菜の名前を呼んだ。

 

「――姫柊!」

 

雪菜は頷いて、光輝く雪霞狼の穂先を押しつけるが変化はなかった。

 

「何で、石化が解けないんだ!?」

 

そんな時、ニーナの小さな声が聞こえてくる。

 

「……ひとたび物質変化によって金属に変えられたものには、もはや魔力は働いておらぬ。 たとえその槍が魔力を無効化するとしても、元に戻すことはできぬ。 そこにいる悠斗は、吸血鬼ではなく、悠斗の形をした、ただの金属だ。――悠斗は自身の守護もこちらに回し、我らを護ったのだ」

 

だが、この状況でも平静を保つ一人の少女がいた。――凪沙だ。

あの攻撃の直前、凪沙の脳内に悠斗の言葉が響いたのだ。

――その内容は、

 

 

 

 

 

 

――凪沙、すまない。 ちょっと石になるかもしれん。 起こしてくれないか。

 

 

 

 

 

 

と言う伝言だった。

凪沙はこの言葉を思い出し、まったくもう。と言いながら悠斗の前まで歩み寄った。

 

「――おいで、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)

 

凪沙は、悠斗から魔力が送られていたのだ。 その魔力を行使し、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)を召喚させた。

今の凪沙は、悠斗の血の従者に近いのだ。

 

「古城君、雪菜ちゃん。 この子と足止めをお願いね」

 

古城と雪菜は目を見開いていた。 当然だ。 古城ではなく、凪沙が第四真祖の眷獣を召喚させたのだから。

そんな事は気にせず、凪沙は悠斗の唇に、自身の唇を重ねた。

刹那、――凪沙たちを囲むように、黄金の渦が巻き起こった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

悠斗は闇の中に立っていた。

以前も訪れた事があるような空間だ。 しかし、眷獣の精神世界とは異なる空間である。

 

「何処だ、ここ?」

 

『ここは我の世界だ』

 

悠斗の目の前に姿を現したのは、――四神の長。 黄龍(・・)だ。

青龍とは違い、その姿は黄金の龍だ。 鋭い角に、黄金の鬣を後方へ靡かせている。

また、黄龍の言葉で明らかになったのは、この空間は、黄龍が住まう世界と言う事だ。

 

「こ、黄龍か。 てか、俺石化してるはずだよな」

 

悠斗の隣に立った女の子から、可愛らしく拗ねた声が届く。

 

「石化は数秒で解けるから、心配いらないよっ」

 

凪沙は頬を膨らませた。

悠斗は、すまん。と頭を下げたのだった。

 

「あ、黄金の龍だ。 綺麗……。――悠君悠君、この子も眷獣さんなの?」

 

「ん、ああ。 四神の長だ。 朱雀たちのリーダーだな。 もう二体いるんだけど」

 

悠斗は、黄龍の友達みたいなもんだな。と語尾に付け加えた。

凪沙は目を輝かせた。 早く見てみたいという感じだ。

 

『……お前ら、今は(いくさ)の渦の中だぞ』

 

黄龍に嘆息され、悠斗と凪沙は、ごめんなさい。と頭を下げたのだった。

 

『まあいい。 玄武が召喚できないんだろ?』

 

「まあな。 召喚したら、フェリーが沈んじゃうし」

 

「ん?ということは、(こう)君が封印を解いてくれるとか?」

 

凪沙は、黄龍の渾名もすでに考えていたらしい。

此れには、黄龍も一鳴きして笑うだけだ。

 

『端的に言うと、凪沙の言う通りだな。 我の解放条件は、愛する者(・・・・)と絆を一つにする事だからな』

 

悠斗は左のこめかみを押さえた。

 

「黄龍さん。 予想を斜め上に行く条件だわ」

 

「ふふ、面白い条件だね。 霊媒()じゃないんだ」

 

『だろ』

 

何とも緊張感がない会話だ。

眷獣と分け隔てなく話せるのは、悠斗と凪沙だけだろう。

 

『悠斗と凪沙で、我の召喚呪文を唱えよ。 さすれば、我はお前たちの声に応えよう』

 

「ああ、了解だ」

 

「うん、わかった」

 

そう言ってから、悠斗と凪沙は、現実世界へ意識を浮上させた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

現実世界に戻ると、悠斗の石化は溶け、生身の肉体を取り戻していた。

悠斗は大きく伸びをし、

 

「肩こったかも。 石化はするもんじゃねぇな」

 

「もう、そういうのはいいから。 黄君を呼ばないと」

 

「そだな」

 

悠斗と凪沙には、いつもの口調でそう言う。

またしても、緊張感がない会話である。

 

悠斗が賢者(ワイズマン)を見やると、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)賢者(ワイズマン)の攻撃を相殺させてる所だった。

そして、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)の絶対零度の息吹が、賢者(ワイズマン)の手足に辿り着き、賢者(ワイズマン)の手足を氷結させた。

また、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)の能力のせいか、船周りの海が凍っていたのだ。

 

「(悪い、助かった)」

 

「(まったく、人騒がせな奴よ)」

 

妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)にそう言われ、悠斗は、うっ、と言葉を詰まらせた。

 

「(す、すいません……)」

 

「(まあいい。 後は、悠斗たちに任せていいのか?)」

 

「(おう、大丈夫だ。 お疲れさん)」

 

悠斗がそう言うと、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)は徐々に姿を消していった。

――悠斗と凪沙は左手を掲げた。

 

「――四神の長たる黄金の龍よ」

 

「――汝の封印を解放する」

 

古城と雪菜は息を呑み、悠斗と凪沙を見守るようにしていた。

悠斗と凪沙は言葉を紡ぐ。

 

「――全てを司りし神獣よ」

 

「――夜闇を黄金で照らしたまえ」

 

悠斗と凪沙は、最後の呪文を紡ぐ。

 

「――――降臨せよ、黄龍!」

 

「――――おいで、黄君!」

 

暗闇を黄金の光が切り裂き、上空から神々の長たる龍が降臨した。

黄金の龍は、悠斗と凪沙の前に舞い降りたのだった。

その直後、氷結から抜け出した賢者(ワイズマン)から重金属粒子砲が襲いかかるが、

 

「――空裂(くうれつ)!」

 

悠斗が左腕を一閃すると、重金属粒子砲を跡形もなく消滅させた。――黄龍は空間を歪め(・・・・・)、重金属粒子砲を異空間へ飛ばしたのだ(・・・・・・・・・・)

凪沙も朱雀を召喚させ、

 

「――飛焔(ひえん)!」

 

朱雀が浄化の焔を吐き、ほぼ完全に賢者の動きを止めた。

完全に停止したのを確認してから、悠斗は、古城と雪菜を見た。

 

「悪い、古城。 手を貸してくれ。 今の俺じゃ、この技は厳しい」

 

悠斗の言う技とは、黄龍が司る時系(・・)の技だ。

この技は、四神たちの技とは規模が違う。 普段の悠斗なら使用する事は容易いが、現在の悠斗は魔力をかなり消費してるのだ。

 

「で、でも。 どうやって?」

 

「そりゃ、姫柊にアレ(吸血)するんだよ」

 

古城は、えっ?と言う顔をし、雪菜は羞恥で顔を赤くした。

 

「時間がない、早くしろ。 俺は見ないから」

 

悠斗は、凪沙は解らんがな。と心の中で呟いたのだった。

古城も腹を括ったのか、瞳を真紅に染め、白い牙を覗かせた。 悠斗は顔を逸らしていたが、案の定と言うべきか、凪沙には完全に見られてたのだ……。

ともあれ、――古城は眷獣を新たに従え、悠斗の隣に立った。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「悪い、ニーナ。 夏音のことを頼んだ」

 

悠斗は賢者(ワイズマン)を見ながら、そう呟いた。

 

「承知した」

 

と言い、ニーナは夏音を護るように立った。

 

「さて、やるか」

 

悠斗がそう言うと、古城は頷き吼えた。

 

「オレが二百七十年続いたあんたの悪夢を終わらせてやる。――ここから先は、第四真祖(オレ)戦争(ケンカ)だ!」

 

「いいえ、先輩。 わたしたちの、です」

 

雪菜が睨みつけた先には、満身創痍の天塚汞が立っていた。

全てを失った彼の瞳には、古城たちに対する憎悪だけが浮かんでいる。

だが悠斗と凪沙は、天塚の憎悪をものともしない。

 

「姫柊の言う通り、俺たちだぞ。 一人で突っ走るなよ」

 

「そうそう。 凪沙も忘れないでね」

 

空中に浮かぶ黄金の巨人が、カカ……と世界の全てを嘲るように笑い出す。

それが、戦いの始まりを告げる合図だった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

賢者(ワイズマン)の身長は、十メートルにも達していた。 形こそ人間と酷似しているが、賢者(ワイズマン)の肉体には目も耳もない。 滑らかな曲線に覆われた全身は、デッサン素体のようだ。

しかし、黄金比で構成されたシルエットは、それでも美しく感じられた。

賢者(ワイズマン)の全身のあちこちには、ニーナの練核によく似た球体が埋め込まれ、眼球のように動きながら地上を冷ややかに睥睨している。

骸骨のように大きく開いた口の中には、黄色の光が炎のように渦巻いていた。

 

『カ……カカ……カカカカ……愚か……抵抗するか、不完全なる存在(モノ)たちよ』

 

荷電粒子の輝きが、哄笑する賢者(ワイズマン)の口から放たれた。

古城が召喚した雷光の獅子が、粒子砲を撃ち落とす。

 

「――黙れよ、金ピカ野郎」

 

賢者(ワイズマン)は自らの腕を巨大な刃と変形させて、フェリーの船体に叩き付けた。

それを受け止めたのは、緋色に輝く双角獣だ。

爆発的な衝撃破を撒き散らし、無数に増殖する触手を蹴散らしていく。

 

「お前には同情してやるよ。 訳も解らないまま、完全な存在として創り出されて、その挙句に全身の血を抜かれて封印されちまったんだもんな。 勘違いしたまま育つのも無理はねーよ。 普通ならもっと早く気づくはずの事に、二百七十年も気づかないままなんてな」

 

鮮血の霧を全身に纏わりつかせて、古城が荒々しく吐き捨てた。

 

『カ……カ……理解(わか)らぬ。 不完全なる存在な理屈を我は理解できぬ』

 

悠斗が息を吐いた。

 

「……古城。 説教はその辺にしとけ、賢者(ワイズマン)は駄々っ子の域だ。 何を言っても無駄だぞ」

 

「そうかも。 早く眠らせてあげようか」

 

「そうだな」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

凍った海の上では、雪菜と天塚が睨み合っていた。 天塚の両腕が、液体金属が触手の刃と化し、雪菜へ殺到した。 しかし、雪菜はその攻撃を雪霞狼で打ち落としていく。

 

「……自分が利用されているだけと知って、まだ戦う気ですか?」

 

雪菜が静かに問いかける。

 

「悪いね。 他に何をすればいいのか、わからなくてさ」

 

「天塚汞……。 あなたは、もう……」

 

天塚の胸に埋め込まれた黒い宝玉は、激しく損傷して、殆んど原形を留めていなかった。

僅かに身じろぎするだけで、砕けた破片が零れていく。

 

「恐いんだ……僕が、僕でなくなるのが……僕は一体誰なんだ? 何の為に生まれて、何をすればいい?」

 

天塚が激しく吼えながら、自らの右腕を爆散させた。弾け飛んだ無数の刃が、散弾のように雪菜を襲う。その攻撃を掻い潜りながら、雪菜は首を振る。

 

「たぶん……その答えを探し続けるのが、人間として生きるという事です!」

 

「……っ!?」

 

絶え間ない天塚の攻撃が、僅かに途切れた。 その瞬間を見逃すことなく、雪菜の唇が静かに祝詞を紡ぐ。

 

「獅子の神子たる高神の剣巫が願い奉る――」

 

雪菜の体内で膨れ上がった呪力を、雪霞狼が増幅。 穂先が放つ眩い輝きが、天塚の肉体を崩壊させていく。

 

「そうか……僕は……」

 

純白の光に包まれながら、天塚は柔らかな表情で呟いた。 天塚は賢者(ワイズマン)の為に動く必要はなかった。 大勢の人々を傷つけ、犠牲にしてまで、肉体を求める必要はなかったのだ。 人間でありたいと願って瞬間から、天塚は人間でいられたのだから。 彼自身がそのことに気づいてさえいれば――。

 

「破魔の曙光、雪霞の神狼、鋼の神威をもちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

 

天塚の最後の攻撃をすり抜けて、雪菜の攻撃が天塚の胸を貫いた。 傷ついた黒い宝玉が、完全に砕け散る。 その瞬間、天塚は形を失って砂のように崩れ落ちた。 残ったのは、光をなくした宝石の欠片だけだった。

雪菜は溜息を吐いて、頭上を振り仰いだ。

 

「先輩方、凪沙ちゃん……」

 

第四真祖たちの戦いは今も続いている。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

「んじゃ、古城。 締めは頼んだぞ」

 

「凪沙と悠君で、賢者(ワイズマン)の動きを止めとくね」

 

古城はゆっくり頷いた。

 

「――降臨せよ。 黄龍!」

 

「ごめんね。 もう一回力を貸して。――おいで、妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)

 

悠斗の前に黄金の龍が、凪沙の前には美しい氷の人魚が召喚された。

 

『カ……カカ……なぜ逆らおうとする。 不完全な存在(モノ)よ……。 なぜ、我の完全なる世界の一部になることを拒む?』

 

海水から抽出した貴金属を練金の対価にして、賢者は力を増していく。

その直後、今までとは比にならない重金属粒子砲が放たれたが、――それを超える力を黄龍は有しているのだ。

 

「――浄天(せいてん)!」

 

黄龍が凶悪な口から吐いた光の渦が重金属粒子砲を呑み込み、その渦は賢者(ワイズマン)に直撃した。

この攻撃を受け、賢者は項垂れるように動きを止めた。

間髪入れず、

 

「――氷華乱舞(ダイヤモンドダスト)!」

 

妖姫の蒼氷(アルレシャ・グラキエス)が絶対零度の息吹を吐き、賢者(ワイズマン)を空中で凍らせ、海に落としたのだ。

これで奴は、身動きを取ることは不可能だ。

 

「古城!」

 

「古城君!」

 

古城は左腕を突き上げた。

その腕から噴き出した鮮血が、爆発的な魔力を帯びて青白く発光した。

 

焔光の夜拍(カレイドブラッド)の血脈を継ぎし者、暁古城が、汝の枷を解き放つ――」

 

閃光の中から出現したのは、水流のように透きとおった肉体を持つ眷獣だ。 美しい女性の上半身と、巨大な蛇の下半身。 流れ落ちる髪も無数の蛇。

青白き水の妖精(ウンディーネ)――水妖だ。

 

疾や在れ(きやがれ)、十一番目の眷獣、水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)――!」

 

水妖の巨大な蛇身が、爆発的な激流となって加速した。 落下した氷の塊は、彼女に取り囲まれ、徐々にその姿を消していく。

水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)賢者(ワイズマン)を破壊している訳ではなかった。 その逆である。 錬金術によって生み出された肉体が、元の金属に姿を変えて、母なる海の大地へと還りつつあるのだ。

――第四真祖の十一番目の水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)は、再生と回復の眷獣だ。 あらゆる存在を癒して、本来あるべき姿に戻していく。

癒しと言っても、水精の白鋼(サダルメリク・アルバス)は傷を癒してるのではない。 時間を巻き戻すように、出現する以前の姿へ還しているのだ。

癒しと言うよりは、すべてを無に還す破壊の力だ。

賢者(ワイズマン)は完全に無に還され、この戦いに終止符が打たれたのだった――。




召喚しましたね、黄龍。
てか、黄龍強ッ!はい、悠斗君のチート化が増しました(笑)
召喚時、二人で呪文を唱えるのカッコいいぜ!

原作とは違い、凪沙ちゃんも共闘しました。てか、凪沙ちゃんの召喚も朱雀のみだったのに、この戦闘で妖姫の蒼氷も召喚できるようにもなりましたしね。いや、何。チート夫婦やん……。古城君たちともコンビネーションが完璧ですし。

序盤は、古城君たちの活躍が……。まあ、後半にぶっこみましたが(笑)
また、古城君たちも、しっかり足止めしてましたよー(>_<)

さて、次回はエピローグですな。

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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