ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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更新です。
空いた時間を見つけ書きあげました。……ま、まあ、色んな作品を行ったり来たりしてるんですが(^_^;)

では、投稿です。
本編をどうぞ。


錬金術師の帰還Ⅳ

悠斗がマンションに帰ると、制服でエプロン姿の玄関で待っていてくれた。

 

「悠君、おかえり。 今日は遅かったね、何かあったの?」

 

凪沙は悠斗の表情を見て、納得したようだった。

 

「……気をつけてね。 絶対に、凪沙の所に帰って来てね」

 

「すまない。 いつも心配をかけて……」

 

凪沙は、優しく微笑むだけだ。

 

「大丈夫だよ。 旦那の帰りを待つのは、妻の役目だからねっ」

 

「……古城と、凪沙の親父さんの許しを貰ってないんだがな。……はあ、俺死んだりしないよな。 大丈夫だよな……」

 

悠斗は、自身にそう言い聞かせたのだった。

悠斗は玄関で靴を脱ぎ、リビングまで歩き、テーブルの椅子に座った。 凪沙は鼻歌を歌いながら、今日の夕食の準備の続きをしていた。

献立は、白いご飯に若芽の味噌汁、焼きジャケらしい。 何ともシンプルな献立だ。

料理が完成し、テーブルに並べられた。 向かいに、エプロンを脱いだ凪沙が座り、

 

「「いただきます!」」

 

と、合掌し、ご飯を口に運ぶ。

分かっている事だが、凪沙の料理は旨い。 だが、明日から凪沙は宿泊研修。 この料理はお預けになるのだ。

ご飯を食べ終わり、悠斗は凪沙が淹れたコーヒーを飲みながら一息つく。 もちろん、向かいには凪沙が座っている。

 

「旨かったな」

 

「悠君、いつもそれ言ってる。……嬉しいけど」

 

凪沙は苦笑した。

この日は、凪沙は悠斗と夕食を摂り、暁家に戻った。 何でも、宿泊研修の準備の確認があるらしい。

ともあれ、今日の怒涛の一日は終了したのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

翌朝、午前五時。

宿泊研修に行く、凪沙と雪菜を見送る為、古城と悠斗はマンションのロビーに出ていた。

特に変わった事と言えば、大錬金術師、ニーナ・アデラードが浅葱に憑依した事だろうか。

古城はかなり取り乱したらしいが、悠斗はそんな気配を微塵もさせなかった。

あの時分かっていたからだ。 浅葱を助けたのは、ニーナ・アデラードと言う事に。

 

「古城君、悠君。 ちゃんとご飯は自炊するんだよ。 コンビニのお弁当はダメだからね。 あと、出かける時は戸締りと火の始末に気をつけてね。 宿題は帰ったら済ませるように。 お風呂と歯磨きも面倒くさがったらダメだからね。 二人は遅刻魔なんだから、目覚ましをしっかりかけて、ちゃんと起きるんだよ。 あとあと――」

 

「あ、ああ。 大丈夫だ。 ちゃんと言いつけは守るぞ。 な、古城?」

 

「も、もちろんだ。 楽しんで来いよ。 二人は島から出るの久しぶりなんだし」

 

「お土産期待しててね。 あ、待って。 忘れ物!」

 

ポーチの中をチェックしていた凪沙が、お財布っ、と絶叫しながら踵を返した。

ぱたぱたと荒っぽく足音を鳴らして、エレベーターホールへと大慌てで戻って行く。

 

「忙しい奴だな」

 

「だな」

 

エレベーターに乗り込む凪沙を見ながら、古城は溜息を吐き、悠斗は苦笑した。

旅行慣れしてないせいか、凪沙の鞄の重量はかなりのものだ。

対して雪菜は、茶色の旅行鞄一つだけ。 生活に最低限必要な物しか入っていないのかもしれない。 古城は、雪菜と式神について話をしていた。 どうやら、新しい物を送ってくれるそうだ。

 

「ごめんね、お待たせ。 行こ、雪菜ちゃん。 じゃあね、古城君、 悠君。行ってきます!」

 

息を切らせて戻って来た凪沙が、雪菜の手を引いて歩き出す。

彼女たちに手を振り、古城たちはマンションの中へ引き返した。 エレベーターで七階に到着した所で、各々の部屋に戻った。

 

数時間立った頃、悠斗は全身に伝わってきた魔力の波動に全身を硬直させた。

雷鳴に似た爆発音が響き、絃神島の大地を震わせる。

悠斗は蹴り飛ばされたようにソファーから立ち上がり、窓を開け、

 

「――降臨せよ、朱雀!」

 

バレないように朱雀を召喚し、その背に跳び下りた。

飛翔してると、視界に映る海沿いの地区(エリア)が黒煙を立ち上げている。 爆心地はおそらく、人工島地区港湾地区(アイランド・イースト)――。

空港や埠頭(ふとう)が連なる絃神島の玄関口。

そして――凪沙たちを乗せたフェリーがあった場所だ――。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

制服姿の凪沙の目の前。 お互いの息が触れ合う程の至近距離で、少女たちが目を閉じていた。 肩にかかる黒髪を真っ直ぐに切り揃えた、真面目そうな顔立ちの女の子だ。

眼鏡のレンズ越しに揺れてる睫毛が長い、僅かに尖らせた唇は、艶やかな薄紅色に輝いている。

彼女のその唇が、同じように目を閉じている凪沙に近づいてくる。

そして二人の唇が重なり合う――思われた瞬間、

 

「も、もうダメ……限界!」

 

凪沙が声を上げて叫んだ。

ポッキリといい音を立てて、二人の口に咥えていたスティック菓子が折れた。

其れを見ていた友人たちが、おおっ、落胆混じりの声を洩らす。 中等部の宿泊研修一日目。 東京湾に向けて移動中のフェリーの中で、凪沙たちはポッキーゲームに興じていたのだ。

向かい合わせに座った二人が、一本のポッキーを両端から咥えて、何処まで近づけるか?と言う、際どい遊びである。

 

「はーっ……危なかった。 委員長に唇を奪われちゃう所だったよ」

 

「お互いさまよ」

 

黒髪の眼鏡の少女がクールに答える。 だが、次の言葉で凪沙は動揺する事になるのだ。

 

「あれ? ファーストじゃないの?」

 

委員長の言葉に、凪沙はぎくっ、と肩を僅かに震わせる。

 

「えっと……その。 そ、そう。 あれだよ」

 

平静を装う凪沙だが、動揺が隠せていない。

凪沙の反応を見た女性陣は、なるほど……。と納得したようだ。 悠斗と凪沙が、仲が良いと言う事は噂で広がっている。

この事から導き出される答えは――ファーストキスの相手は、高等部一年、神代悠斗だと言う事だ。

委員長はニヤニヤしながら、凪沙の首に下げられた太陽のネックレスを見て声を上げる。

女性と言う生き物は、恋愛事情になると、かなりテンションが上がるらしい。

 

「で、で。 その太陽のネックレスは何なの? ペアとか?」

 

羞恥で俯く凪沙が、小さく頷く。

小さく息を吐き、凪沙は顔を上げた。

 

「う、うん。 悠君とね。 悠君は月かな」

 

「ほへー、神代先輩もやるね。 中等部の元気っ子を落とすなんて」

 

補足だが、凪沙のガードはかなり固かったのだ。

 

「わたしが一方的に。っていう部分もあるんだけどね」

 

と言い、凪沙は苦笑した。

だが、凪沙の行動で、悠斗が救われたのは事実だ

 

「そうね、ビックリしたんだから。 『俺と関わりを持とうとするな。』っていう先輩に話しかけた時はね」

 

凪沙は、唇に右手人差し指を当てる。

 

「うーん、ほっとけなかったんだよね。――悠君はね。 心の底では、皆の輪の中に入りたい。 でも、それが怖い」

 

凪沙は天井を見ながら、言葉を続ける。

 

「友達を作っても、すぐに裏切られちゃうって。 そんな感じだったんだ。 だからわたしは、友達になろうって、何回も誘ったんだよ」

 

最初は追い帰えされちゃったけどね。と言い、凪沙は無邪気に笑った。

委員長だけではなく、雪菜とクラスメイトのシンディも、感嘆の声を洩らしていた。

 

「凪沙ちゃんは、そのようにして、神代先輩を変えたんですね」

 

「凪沙は、一度決めた事はやり遂げるからね。 凄いよ」

 

時刻は間もなく午前九時。 午後七時に絃神島観光港を出港したフェリーは、途中、伊豆諸島の神丈島(かみじょうしま)美蔵島(びくらじま)を寄港しつつ、十一時間かけて、東京湾の武芝浅橋(たけしばさんばし)に到着する予定になっている。

 

「この後の予定って、どうなってるんだっけ?」

 

「十時半にホールに集合。 教材映画観て、それから昼食」

 

シンディの質問に、委員長が答える。

 

「お昼ご飯なんだえろうねぇ。 カレーかなあ。 カレー食べたいなあ。 あ、夏音ちゃんだ!」

 

今にも涎を垂らしそうな顔をしていた凪沙が、夏音の姿に気づいて手を振った。

窓際に立っていた叶瀬夏音が、長い銀髪を揺らして振り返る。

 

「あ、凪沙ちゃん。 皆さんもおはようございます」

 

恭しく挨拶する夏音の胸元には、大きな黒い光学機器が下げられている。

フェリー会社の借り物らしい。

 

「なにしてるの?」

 

「双眼鏡でした。 このあたりで、野生のイルカが見られるって聞いたので」

 

そう言って、夏音は碧い瞳を宝石のように輝かせた。夏音は筋金入りの動物マニアだ。

普段は控え目で大人しい彼女も、野生動物が絡むと素早い行動力を見せるのだ。

 

「え、イルカ? わ、いいな、見たい!」

 

凪沙が表情を明るくして立ち上がる。 雪菜たちも窓際に移動した。

 

「わたし、前に見たことあるよ。 そういえば、このあたりだったかも。 ほら、写真」

 

シンディがそう言って、携帯電話を取り出す。

待ち受け画面に表示された画像は、船と併走して、海面を跳ねるイルカの群れだ。 それを見た凪沙たちの期待も跳ね上がる。

しかし、数分が経過しても、イルカが現れる気配はなかった。

 

「いないね、イルカ」

 

しょんぼりしたように呟く凪沙。 シンディが励ますように、凪沙の背を優しく叩く。

 

「そう簡単には会えないでしょ」

 

「海は広い」

 

委員長が朴訥(ぼくとつ)とした口調で言う。

その時、雪菜と夏音が何かに気づき、視線を船の後方へと向けた。 フェリーが海面に残す白い航跡の隙間に、銀色に輝く何かが浮かんでいる。 其処から放たれた、粘りつくような視線を感じたのだ。

小型の潜水艦や魚雷を連想させる――金属質の航行物体。

しかし、其れは海蛇のように巨体をくねらせ、水中へと沈んで行く。

 

「あれって、何だろ? あれがイルカ?」

 

その時、凪沙の頭の中に朱雀の声が響く。

 

『あれは敵かもしれん。 我の召喚も覚悟しとくんだ。 もし、魔族だとしても、我らがついてる。 心配するな』

 

「(わ、わかった。 注意しとくね)」

 

凪沙は小さく頷いた。

また、雪菜は、まさかと口の中で呟き、夏音は怯えたように体を震わせていた。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

倒壊した建物が撒き散らす粉塵と煙が、不吉な朝露のように港を包んでいた。

傾いた灯台の屋根に座り込んで、基樹はぐったりとその様子を眺めている。 基樹が寸前まで乗っていた巨大クレーンは、土台近くから斜めに切断されて、埠頭(ふとう)に横たわる無惨な姿を晒していた。

最早修復は不可能。 本来なら、基樹もクレーンと運命を共にしていた。

其れを救ってくれたのは、南宮那月だった。

 

「生きてるか、矢瀬?」

 

空間跳躍(テレポート)で虚空から現れた彼女が、クレーンもろとも、地面に激突する直前だった基樹を間一髪の所で救ったのだ。

 

「まあ、何とか」

 

基樹はのろのろと顔を上げ、ヘッドフォンで乱れた髪を撫でつけた。

 

「今回はさすがに死んだと思ったぜ……助かったわ、那月ちゃん。 ありがとな」

 

「担任教師をちゃんづけで呼ぶな」

 

那月が不機嫌そうに唸って、基樹をヒールで蹴りつける。

 

「まったく、貴様といい、暁と神代といい、担任教師をなんだと思ってる……」

 

「ちょ……痛、オレ、怪我人なんスけど! 血ィ出てるし! ドバドバ出てるし!」

 

血まみれの両腕を頭上に掲げて、基樹は必死に訴えた。

海岸沿いに立ち並ぶ巨大な倉庫は、十練以上が崩壊して炎上している。 賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)を包囲していた特区警備隊(アイランド・ガード)の部隊は全滅。 幸い、死者こそ多くないが、装備の消耗と、隊員たちの混乱が酷い。

 

天塚汞が、賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)の中に投げ込んだ、 奇妙な髑髏のせいだった。 髑髏が吐き出した閃光が、一撃で特区警備隊(アイランド・ガード)を蹴散らしたのだ。

その時、不死鳥に乗った一人の少年が姿を現す。 悠斗は、那月の隣を通り過ぎると同時に、朱雀の背から跳んだ。

悠斗は大きく息を吐き、

 

「那月ちゃん。 これは、賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)か?」

 

「やはり知っていたのか」

 

那月は、感嘆な声を洩らす。 基樹は、悠斗が賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)を知っていた事に驚いていた。 まあ確かに、基樹が悠斗を調べ吸血鬼だと分かっても、紅蓮の織天使だとは知らないのだ。

 

「まあな。 で、どういう事なんだ。いや、天塚の狙いは――賢者(ワイズマン)の復活か?」

 

「ほう。 そこまで解るとはな」

 

「天塚が、何処に逃走したか解るか?」

 

天塚の気配が変わってるので、追跡が出来ないのだ。

 

「そう言えば、基樹は能力者だろ。 音響結界(サウンドスケープ)は使えないのか?」

 

「すまな、音響結界(サウンドスケープ)の再起動には、暫くかかるぜ」

 

基樹は音響過適応(ハイパアダプター)という特殊体質が備わっている。

一種の念動力によって創り出す特殊フィールドで、精密なレーダーに匹敵する解像度を持って、結界内の音響を観る事が出来るのだ。

なので、不定型の金属生命体である、賢者の霊血(ワイズマンズ・ブラッド)の動きも感知する事が可能である。

しかし、繊細さゆえに、爆発的な大音量に弱いという欠点もある。

 

「ったく、肝心な時に使えないクラスメイトだな」

 

悠斗が落胆な息を吐く。

――その時だった。 悠斗の眷獣が召喚されたのだ。 もちろん、召喚したのは凪沙だ。

 

「……那月ちゃん、緊急事態だ。 天塚の居場所が解った。 (ゲート)を開いてくれ」

 

悠斗は平静を保っているが、内心ではかなり焦っている。

 

「いいだろう。 地上で詳しく説明してもらうぞ」

 

「ああ、わかった」

 

悠斗は、那月が開いた(ゲート)の中に入り虚空に消えた。 那月も、悠斗に続き虚空に消えたのだった。

基樹は、途方に暮れたように首を振り、地面を見下ろし頭を抱える。

 

「どうやって降りろってんだよ、これ……」

 

傾いた灯台の上に一人取り残された基樹の頬を、高度数メートルの海風が撫でていた――。




凪沙ちゃん、めっちゃ良い子っ!
悠君、まじで羨ましい(血涙)
まあでも、悠斗君の今があるのは、凪沙ちゃんのお陰なんですよね。

この章では、凪沙ちゃんを活躍させたいと思います。
にしても、古城君はどうしよう(´・ω・`)

ではでは、感想、評価、よろしくです!!

追記。
次話も三分の二は書きあげっているので、明日までには投稿できるかと。

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