ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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は、早めに投稿が出来ました。
今回の話で、悠斗君と那月ちゃんの過去?を少しだけ書きました。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


観測者たちの宴Ⅵ

島が軋む。 鋼鉄同士が擦れあう不快な音が、遠い雷鳴のように絶え間なく響いて、不規則な振動で波打つように大地が震える。

無数のビル群と何層にも及ぶ地下街が、島のあちこちに点在してる。 其れを支えているのは、全層で造られた超大型浮遊式構造物(ギガフロート)

不安定な絃神島を支えているのは、魔術だ。 ビルの建造物、使われている鋼鉄も、セメントも、プラスチックも全て魔術建材。

これらの魔術が一斉に消滅したら、想像するのは安易であろう。

 

「痛ェな……」

 

起き上がりかけて、腹部から伝わってくる凄まじい激痛に古城は息を呑む。

 

「暁古城! 目が覚めたの!?」

 

苦悶する古城に気づいて、紗矢華が叫ぶ。

仰向けの古城に跨って、平手で頬を叩き続けたのは紗矢華だった。

彼女の瞳からは、大粒の雫が零れ落ちていた。

 

「……煌……坂……ここは……?」

 

掠れた声で古城が聞いた。

この時、壁に体重を預け、両腕を組んでいた悠斗が答える。

 

「フェアリーターミナルの医療室だ。 流石、元第四真祖だな。 生命力がハンパない」

 

フェアリーの乗り場は、ヴァトラーの船が停泊していた大浅橋の鼻先だ。

 

「俺だけで乗り込んでもいいが、其れだと、古城の気が収まらないよな」

 

この時、紗矢華が顔を上げる。

 

「そ、そう。 何であなたは魔力が行使できるの?」

 

仙都木阿夜の闇誓書によって、魔族特区内の異能は全て失われた。

その結果、古城は吸血鬼としての力を奪われたが、悠斗は奪われていなかった。

なので、紗矢華の質問は尤もだった。

 

「そうだな。 俺の眷獣の中に、全ての異能を打ち消す奴がいる。とでも言っておこうか」

 

あの事件(・・・・)の記憶が失われなかったのは、コイツの力が大きい。

おそらく、あの事件の詳細を知っているのは、悠斗だけだろう。 関わった人々の記憶は、最初からなかったように消失してしまったのだから。

 

「……あんたって、ホントにチート吸血鬼ね」

 

その時、紗矢華が何かを思い出したように、古城に向かって怒鳴る。

 

「――血! 吸いなさいよ、ほら! あなた、前にも死にかけた時、雪菜と王女にそうやって助けてもらったんでしょう!?」

 

制服のリボンと、シャツの第一ボタンを外して、紗矢華が言った。

これを見た悠斗は、嘆息しながら医務室の扉を開け外に出た。

医務室の中からは、恥ずかしく、怒ったような声が聞こえてくる。

だが、今の古城は死にかけてるので、吸血衝動を起こすのは可能か?と思いながら、悠斗は空を見上げていた。

その間も、絃神島の崩壊は止まる気配はない。

 

悠斗が前を見ていたら、ほっそりとした白衣の人影が見えてきた。

端整な顔だちに、引き締まった体つき、髪型は毛先の跳ねたショートボブ。 全身のあちこちに包帯を巻いて辛そうだ。 だが、快発そうな雰囲気健在だった。

そう、MARで治療を受けていたはずの優麻だった。

おそらく、古城を救う為にこの場に現れたのだろう。

 

「……なるほどな。 仙都木阿夜の魔力が消失してないという事は、分身である優麻の魔力も健在って事か。 でもなあ、お前、無理しすぎだぞ」

 

優麻は力なく笑う。

 

「今は一刻を争うんだよ。 これ位当然だよ」

 

患者服の腹部が徐々に赤くなり、出血してるのが目に見えて解った。

額からは、薄く汗が浮かんでいる。

 

「まったく、俺からは何も言わん。 早く古城に血を吸わせてこい」

 

「ふふ、わかったよ」

 

優麻は、重い体で医務室の扉を開け放った。

その時、紗矢華の羞恥に似た悲鳴が聞こえてきたが、悠斗は聞かない振りをしてから嘆息したのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

夕陽に照らされた建物中を、雪菜は歩いていた。

見慣れた海彩学園の校舎、雪菜が身に纏っているのは中等部の制服だ。 校舎の中には人影は見当たらないが、だだ一ヵ所――黄昏に染まった教室床に、三人分の影が落ちている。

誰も居ない教室で睨み合っていたのは、小柄な制服姿の女子生徒、見覚えがある少年、モノクロームの十二単を着た若い女性だった。

 

「――我と来い、盟友()よ」

 

阿夜が、那月に告げる。

彼女の眼球は、まだ燃えるような真紅に染まっていない。 其の所為か、今の彼女からは、仙都木優麻を共通した、快活で人懐こい雰囲気が感じられた。

 

(オマエ)(ワタシ)と同じ……だ。 生まれながらにして、悪魔に魂を奪われた純血の魔女。 (ワタシ)は我の呪われた運命を変える。 我らを蔑むこの世界を破壊してでもな」

 

「その為の闇誓書か」

 

制服姿の那月が聞き返す。――仙都木阿夜の申し出を拒絶するような光が、彼女の瞳に浮かんでいた。

 

「なぜ、ためらう? この島の者たちに情でも沸いたのか?」

 

阿夜が悲嘆するように声を荒げる。

 

「忘れるな、公社が(オマエ)を自由にさせているのは、(オマエ)が監獄結界の管理者として設計(つく)られた道具だから……だ。 いずれ(オマエ)は永劫の眠りにつき、たった一人で異界に取り残される。 歳をとることなく、誰にも触れることなく、この世界の夢を見ながらな」

 

「……心配してくれるのか。 優しいな、仙都木阿夜」

 

阿夜の視線が、少年に向けられる。

 

「……話に聞いてはいたが、こんな少年が、紅蓮の熾天使だとは……な。 何故(オマエ)が、この少年を知っている?」

 

「とある事情で、この島の外に出た事があるんだよ、阿夜。 その時知り合ったのさ」

 

また、悠斗に繊細な魔力の扱い方を教授したのは、那月だったのだ。

そして、悠斗の視線が那月に向けられた。

 

那月(・・)、お前は眠りにつくのか?」

 

「心配するな。 もし、私が眠りについても、いつでも会える」

 

不安そうな悠斗を見て、那月は微笑むだけだ。

その時、阿夜が十二単の袖口から本を取り出す。

犯罪組織LCOの総記(ジェネラル)に与えられた禁断の魔術――相手の時間を奪う、固有堆積時間操作(パーソナルヒストリー)の魔導書だ。

 

「わたしの記憶を奪うか、阿夜?」

 

闇誓書と呼ばれる魔導書は、既に失われている。 那月が数日前に焼き捨てたのだ。

その結果、仙都木阿夜が引き起こした、闇導書事件は収拾を迎え、彼女の実験は失敗した。

だが、闇誓書の知識は、那月の脳内に残されている。 その知識があれば、闇誓書を復活させる事が可能だ。 例え、那月が協力を拒んでも、彼女の記憶を奪えばいいだけだ。

 

(オマエ)が護ろうとしたクラスメイトたちも、いずれ(オマエ)を置いて大人になる。 そして、(オマエ)のことなど忘れる。 どこにも行けない(オマエ)のことなどな」

 

「ふん……それもいいかもな」

 

那月が寂しげに微笑んだ。

空隙の魔女、南宮那月が、仙都木阿夜を敵対したのは、彩海学園の同級生を護る為だった。 人工島管理公社に雇われた攻魔師としてでも、魔女としてでもなく、友情という不確かな物のの為に、彼女は、犯罪者組織の長を敵に回したのだ。

 

「いっそ、この学園の教師になって新しい生徒の成長でも見守るか……」

 

那月の視線が、悠斗に向けられる。

 

悠斗(・・)、お前は戦闘関連しか知らないんだったよな?」

 

「あ、ああ」

 

この時那月は、思案顔をした。

 

「悠斗、気が向いたらこの島に来るがいい。 お前に学生生活を送らせてやる」

 

那月はこう言っているのだ。

私は、この学園の教師になって生徒の成長を見守る事に決めた。 また、教師の権限を使用し、悠斗を生徒として転入させてやると。

何処か清々しげな那月の表情を、阿夜は憤怒の眼差しで睨みつけた。

 

「愚かな」

 

阿夜の眼球が火の色に染まる。 彼女の背後に、漆黒の騎士が出現する。

那月の背後にも、金色に輝く騎士が浮かび上がる。

那月の隣に立つ悠斗も、この場で最適とされる眷獣を召喚する。 この戦闘の結末は、見るまでもなく解っていた。

この戦闘に那月と悠斗が勝利し、それから5年間、仙都木阿夜を監獄結界に収監したのだ。

また、この事件が、悠斗と那月の最後の共闘になったのだ。

 

「これは、サナちゃんの……南宮先生の夢、ですか?」

 

三人の戦闘に割り込んで、教室に足を踏み入れた雪菜が聞く。

その瞬間、睨み合っていた三人が幻のように消滅した。 後は、夕暮れの教室だけ。

 

「いいや。 (オマエ)の夢かもしれんぞ、剣巫」

 

嘲るように告げる、仙都木阿夜の声が聞こえたのは、雪菜の気のせいか。

たった一人の教室の中央に立って、雪菜は溜息を吐く。

完璧に再現されてるせいで信じがたいが、この校舎は、仙都木阿夜が創った空間であるのだ。

しかもこの世界では、夢と現実の境界が曖昧になっているのだ。

脱出したくても、雪菜の手の中に雪霞狼はない。

 

「姫柊!」

 

立ち尽くしていた雪菜の耳に、懐かしい声が聞こえてくる。

振り返ると、制服の上にパーカーを羽織った男子生徒が、慌てて教室に駆け込んで来るところだった。

 

「無事なの、雪菜?」

 

遅れて入った少女が、雪菜にもの凄い勢いで抱きつく。

 

「先輩? 紗矢華さんも? 怪我は平気だったんですか?」

 

「ああ、もう大丈夫だ。 見るか?」

 

いきなり制服の上着を捲り上げようとする古城。

それを見た紗矢華が、古城の後頭部をどついた。

 

「痛ェな! 軽い冗談だろううが!」

 

「あんたがそう言うと、冗談に聞こえないのよ、変態! 私の雪菜が汚れるから近づかないで!」

 

紗矢華は、雪菜に強く抱きしめる。

また、この空間に居ると、仙都木阿夜の存在も、闇誓書事件も、如何でもいいと思えるようになる。

 

「こんなバカのことは放っておいて、部活行こ、雪菜」

 

「部活、ですか……。 いや、私は、先輩の監視が……」

 

紗矢華に腕を引かれながら、雪菜は困惑して首を振った。

古城は、不思議そうに首を傾げる。

 

「監視ってなんだ? 練習でも見に来てくれるのか?」

 

「え?」

 

古城が担いでるスポーツバックに気づいて、雪菜は眉を寄せる。

 

「先輩……バスケをまた始めたんですか?」

 

「またってなんだ? 弱小だけど、彩海のバスケ部、潰れてないぜ」

 

「でも、魔族の力は?」

 

「マゾ……」

 

なんだそれ、と顔を顰める古城。

紗矢華は、ここぞとばかり微笑んだ。

 

「あなたって、そういう性癖だったの? さすが変態」

 

ダルそうに教室に入って来た悠斗が、紗矢華の言葉に便乗する。

 

「煌坂、変態古城だぞ。 またドジ踏んで、女子更衣室に入りやがれ。 骨は拾ってやるから」

 

「違うわ!……まあ、事故で女子更衣室に入っちゃった事もあるけどさ。 で、でも、あの時悠斗が止めてれば、入る事はなかったんだぞ」

 

「まあ、古城が殺れる所が見たくてな」

 

「って、おい! 確信犯かよ!」

 

悠斗は、明後日の方向を見るだけだ。

 

「ほら、こんな変態と話していたら、マゾが伝染るわ。 早く弓道場に行こ」

 

「伝染るか!」

 

彩海学園の制服を着た、古城と紗矢華、悠斗が仲良くいがみ合っている。

なるほど、と雪菜は息を吐く。

 

「姫柊?」

 

表情を消した雪菜を、古城が心配そうに見つめてくる。

しかし、雪菜の瞳は、彼を映していなかった。

 

「そういうことですか。 これが私の夢、なんですね……。 有り得たかもしれない、もう一つの世界……」

 

でも、と哀しげに微笑んで、雪菜は右手を握った。

存在しないはずの槍の感触が、指先に伝わってくる。 獅子王機関の秘奥兵器、七式突撃降魔機槍(シュネーヴァルツァー)。 どんなに強力な魔女の結界も、全ての魔力を無効化する。

 

「――雪霞狼!」

 

雪菜が槍の名を呼び、その声に応じるように穂先が眩い輝きを放った。

破魔の槍が幻影を斬り裂き、薄闇に包まれた深夜の教室が現れる。 古城と紗矢華、悠斗は消えていた。

雪菜が着ていたのは、制服ではなくナース服。 また、雪菜とサナは、鳥籠のような形の檻に囚われている。

どうやらサナは眠ってるらしい。 絃神島から魔力が消失したことで、彼女を動かしていた仮想人格が消滅したのだ。

 

「お前が望むなら、今の夢を現実に変えることも出来たんだぞ」

 

雪菜の背後から聞こえてきたのは、仙都木阿夜の声だった。

 

「それが、闇誓書の能力なんですね。 自分が望むように、自由に世界を創り変える。 あなたはその力で、絃神島から自身以外の全ての異能の力を消した。――例外も居たようですが」

 

「そう……だ」

 

阿夜が、迷いなく首肯した。

 

「何のために、そんなこと?」

 

「呪われているのは我ら魔女ではなく、この世界の方だと証明する、――その為に」

 

「証明?」

 

雪菜は困惑しながら聞き返す。 仙都木阿夜の真意が理解出来なかった。 異能の力を消失させ、絃神島を崩壊させる。 其れが、何を証明するということだろう。

 

「これは実験……なのだ。 お前と紅蓮の熾天使は実験の立会人だ。 紅蓮の熾天使も間もなく到着するだろう。――観測者なのだよ、お前たちは」

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

医務室の騒動が終わり、古城が扉を開け、悠斗の隣にまで歩み寄った。

また、優麻は限界が来て、その場で倒れてしまったらしい。 それを今、紗矢華が応急処置してる、ということだ。

 

「で、古城。 封印は解けたのか?」

 

古城は強く頷いてから、

 

「優麻と煌坂のお陰でな」

 

「そうか。――反撃開始だな」

 

「ああ。――焔白の夜伯(カレイドブラッド)の血脈を受け継ぎし者、暁古城が、汝の枷を解き放つ――!」

 

古城が重々しく声を上げた。

その呼びかけに応じるように、古城を包む霧が濃度を増していく。 傷を負った古城の肉体が、霧へと姿を変えているのだ。

 

疾や在れ(きやがれ)、四番目の眷獣、甲殻の銀霧(ナトラ・シネレウス)――!」

 

やがて、霧は建物を覆い尽くし、人の体も建物も、大気も全てが銀色の混沌に塗りつぶされていく。

銀色の濃霧の中に浮かび上がったのは、巨大な眷獣の影だった。

眷獣の全身を包む灰色の甲殻。 禍々しくも分厚いその甲殻は、動く要塞と呼ぶに相応しい。

しかし、その甲殻の隙間から覗くのは、銀色の濃密な霧だけだった。 亡霊のような、霧の肉体を持つ甲殻獣。

悠斗は、さて、と言ってから左手を突き出した。

 

「我を守りし四神よ。 汝の力を解き放つ。 全てを無に変えせし神獣よ。 降臨せよ――玄武!」

 

悠斗の隣に降臨したのは、亀の姿をした神々の眷獣だ。

その亀の甲羅には、蛇が巻きついている。――また、周囲の消失していた魔力が力を取り戻していた。 全ての異能を打ち消す、玄武の力の一端である。

古城は霧に、悠斗は玄武の背に乗り、決戦の場である彩海学園を目指した――。




那月ちゃんと悠斗君は、幼いころに会ってたんですね。
魔術の繊細なコントロールは、那月ちゃん譲りなんです(`・ω・´)
また、この時の記憶は、まだ悠斗君は思い出してません。
ご都合主義発動です。

さて、四神全員の封印が解けましたね。まだ、長たちは解けてませんが。
てか、悠斗君。異能が全て無効化出来るとか……。それに、第四真祖の眷獣も使役出来ちゃうんですよねΣΣ(゚Д゚;)

ではでは、感想、評価、よろしくです!!


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