ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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れ、連投ですっ。
いや、まじで疲れました。
さてさて、この章も終盤まできましたね。

では、投稿です。
本編をどうぞ。


観測者たちの宴Ⅴ

船室の外に出た古城たちが見たのは、炎上する上甲板と、巨剣を担いだ甲冑の男だった。

襲撃を待ち構えていたはずのヴァトラーは、瓦礫の中に埋もれるように倒れている。

 

「なんなんだ……あいつは!?」

 

「ブレード・ダンブラグラフ……西欧教会に雇われていた元傭兵キュン」

 

仮想人格の那月が古城の質問に答える。

この状況下で口調を崩さないのは、ある意味凄いかもしれない。

 

「ミつけたぞ……クウゲキノマジョ」

 

甲冑の男が、サナに気づいて、錆びたような低い声を出す。

サナを古城と浅葱に任せて、悠斗は甲冑の男の前に立った。 男は目を細めた。

 

「……紅蓮ノ熾天使……。 貴サマ、キズガイエテルナ」

 

「まあな。 お前らに遅れは取らない程度には回復してるぞ。――さてと、相手になってやるよ」

 

悠斗が左手を突き出し、眷獣を召喚しようとした瞬間――。

 

「――優鉢羅(ウハツラ)!」

 

魔力の波動が大気を震わせ、眷獣が召喚された。

現れたのは、青く輝く眷獣だ。 この眷獣を呼びだしたのは、瓦礫から立ち上がったヴァトラーだった。

 

「……悪いネ、悠斗。 せっかくの僕の遊び相手を奪らないでもらえるかい?」

 

その直後、空間に亀裂が走り、其処に甲冑の男を引きづり込んだ。

此れが、ヴァトラーの眷獣の能力だ。 だが、その蛇の眷獣目掛けて、甲冑の男が巨剣を振るった。 強烈な斬撃でヴァトラーの眷獣は斬り裂かれ、断末魔の声と共に消滅する。

 

「眷獣を斬るとか凄ぇな。――龍殺し(ゲオルギウス)の末裔とか?」

 

悠斗はこの事柄を見ながら、感想を述べた。

 

「悠斗!? お前、緊張感がなさすぎだ!?」

 

古城にそう言われるが、悠斗は、そうか?と返すだけだ。

この時古城は、悠斗も戦闘狂じゃないのか?と思ったのだった。

 

「ふむ。 悠斗は、僕と戦った時に見たいだヨ。 緊張感なく、相手を分析する所とかネ。 この男は悠斗が言う通り、龍殺し(ゲオルギウス)の末裔なんだヨ。 西欧教会の暗部。 戦闘だけに特化しタ、異端の祓魔師(ふつまし)。 龍との戦闘に巻き込み、多くの都市を滅ぼした大罪人。 滅多に会えない敵だ。 いいね、最高ダ!」

 

体の奥から沸き立つ歓喜を押さえきれない、という風にヴァトラーが笑う。

それを眺めて、甲冑の男が不快そうに唇を歪めた。 ヴァトラーの異常性に彼も気づいたのだ。

 

「アワれなキュウケツキめ」

 

ヴァトラーが、新たに二体の眷獣を召喚した。

金色に輝く蛇と、漆黒の大蛇。 だが、眷獣たちが放った超高圧の水の刃は男の肉体を傷つける事が出来ず、逆に男が、巨剣で眷獣を屠っていく。

 

「……相変わらずだな、蛇野郎は。 俺らの事も考えやがれ。――逃げるぞ、古城」

 

「に、逃げるって、何処に?」

 

悠斗が見る方向には、手招きしてる銀色のタキシードを着た少年が映った。

どうやら、キラという少年が、脱出ルートを確保してたらしい。

 

「紅蓮の熾天使様、古城様。 後部デッキをお使いください」

 

「助かる。 だけど、いいのか? ヴァトラーをこのまま好き勝手にやらせといて」

 

キラの案内に従いながら、古城が聞く。

あの調子で戦闘を続けたら、確実にこの船は沈むだろう。 それが分かってるので、キラは脱出ルートを確保していたのだろう。

 

「別にいいだろ。 あいつが死んだ所で誰も困らないし。 まあ、あの程度でくたばらないと思うけどな。 あの蛇野郎は」

 

「紅蓮の熾天使様は、アルデアル公の事をよくご存じなのですね」

 

キラが、苦笑交じりでそう言う。

悠斗は、嘆息するだけだ。

 

「まあな。 本気で殺し合いをした仲だ。 奴の強さは、身を持って知ってるからな。 半殺しにしたけど」

 

キラは目を丸くし、感服したように言う。

 

「流石、異名を世界に知ら占める方です」

 

「……好きでそうなったんじゃねぇよ。 誰だよ、紅蓮の熾天使の二つ名をつけた奴。 まあ、あいつが本気を出したら、この島が数分で消滅するかもしれんしな。 その前に、全力で俺が止めるけど」

 

其れでも、市街地以外の被害は凄まじい事になると思うが。

古城は、そんなことは止めてくれよ。と懇願するのだった。

数分走り、後部デッキについて、下船用のタラップが見えてきた。

 

「仙都木阿夜は、俺らで何とかするから」

 

「ああ、こっちは任せてくれ」

 

キラは恭しく頭を下げ、感謝の意を示す。

 

「感謝します。 古城様、紅蓮の熾天使様」

 

「ありがとう、またな」

 

案内してくれたキラに礼を言いながら、古城は右手を差し出し握手をしていた。

だが、悠斗は片手を挙げるだけで応じた。

船上では、今もヴァトラーと脱獄囚との戦闘が繰り広げられている。

浅葱、古城と下り、最後に悠斗がサナを抱き上げタラップを下りた。

古城たちを出迎えたのは、雪霞狼を持ったナース姿の雪菜だった。

 

「先輩方、ご無事ですか?」

 

「え? 姫柊!?」

 

思いがけない雪菜の登場に、古城は困惑の表情を浮かべた。

浅葱からは、武器である雪霞狼の指摘をされると思ったのだが、しかし疑念を向けられたのは其処ではなかった。

 

「……何でナース服?」

 

場違いな服装を見て、浅葱が眉を寄せる。

予期せぬ質問に、雪菜も軽くうろたえた。

 

「え、これは、……その、深森さんが用意してくださったもので……」

 

この時悠斗は、姫柊さん、それはダメな解答でしょ。と思うのだった。

 

「深森さんって、古城のお母さんの?」

 

浅葱がますます怪訝な表情になって古城を睨む。

いつの間に雪菜を母親に紹介したのか、問い詰めてるような眼差しだ。

この仲裁に入ったのは、悠斗だった。

 

「この事件が終わったら、古城を問い詰めればいいだろ。 何で姫柊が、深森さんと会ったのかを」

 

悠斗が深森さんを?と浅葱は思ったが、すぐにその疑問は解消された。

そう、凪沙と仲が良い悠斗は、深森の事を知っていても不思議はないと思ったからだ。

その時、ヴァトラーの戦闘に余波によって、破壊されたクレーンが、破片を撒き散らして落下したのだ。

だが、悠斗が左手を突き出す。

 

「――降臨せよ、朱雀!」

 

朱雀が召喚され、朱雀はその翼で古城たちを包み込んだ。

全ての落下が終了した所で、朱雀は翼を広げ異世界に戻った。

まあ、眷獣を召喚した事に雪菜は目を見開いていたが、なぜ浅葱の前で、眷獣を召喚したんだ?と。

 

「はっはっは、拙者の出番はなかったでござったな」

 

時代劇の侍を連想させる、奇妙な声が聞こえてくる。

戦車の甲羅部分が開いて、その中から顔を出したのは、12歳前後の女の子だった。 赤髪を持つ、外国人の少女だ。

放心していた表情で彼女を見上げていた浅葱は、ハッと我に返った。

 

「その喋り方って……あんた、戦車乗り!?」

 

「然様。 リアルでお目にかかるのは初めてでござるな、女帝殿」

 

赤髪の少女が、深々とお辞儀をする。

戦車乗りとは、人工島管理公社に雇われているフリーランスのプログラマーらしい。

 

「拙者、リディアース・ディディエと申す。 モグワイ殿に頼まれて、お迎えに参上したでござる。 いや、それにしても素晴らしい着物でござるな。 さすがは女帝殿!」

 

「や、着物っていうか、ただの浴衣なんだけど……」

 

浅葱が、憮然としたような表情で呟いた。

 

「……お前の友達も、何気に濃いのが多いんだな」

 

「や、友達じゃないし、あんただけには言われたくないわよ。とゆうか、わたしたちでしょうが」

 

浅葱と古城の目が、悠斗に向けられる。

古城が、いや、と前置きし、

 

「濃いとは言わないぞ。 規格外って言うんだ」

 

「あー、確かに。 それわかるわ」

 

悠斗は、失敬な、と言い、不貞腐れた態度を取った。

ともあれ、現在も絃神島が脅威に晒されている。

 

「女帝殿、力を貸してくだされ。 この島の一大事でござる」

 

リディアーヌが赤髪を揺らしながら、浅葱に言う。

 

「浅葱。 仙都木阿夜の事は、俺と古城に任せろ」

 

「行ってくれ、浅葱。 サナはこっち引き受ける。 お前は島を頼む」

 

古城と悠斗の言葉に、浅葱はゆっくり頷いた。

小型戦車がマニピュレーターを伸ばして、浅葱を引き上げる。 戦車に横抱きされた姿勢のまま、浅葱が古城に向かって叫んだ。

 

「……わかったわ。 その代わり、約束して。 この騒ぎが収まったら、祭りの続きを、ちょっとでもわたしにつき合いなさいよ」

 

勇気を振り絞って今の言葉を言ったのだろう。 彼女の顔が真っ赤だ。 そんな浅葱を見ながら古城は頷き、

 

「ああ、パーッと遊びに行こうぜ。――みんなで」

 

これを聞いた浅葱の顔が強張った。

 

「――馬鹿っ!」

 

怒鳴りながら、浅葱は戦車に乗せられて立ち去っていく。

どうして自分が罵られたか理解できずに、古城は呆然と立ち尽くす。 浅葱に同情するように雪菜は溜息を零し、悠斗は、鈍感ハーレム古城だな。と思っていたのだった。

そんな彼らの背後では、爆音が絶え間なく鳴り響き続けている。

脱獄囚たちとの戦闘は、まだ終わっていない――。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

現在悠斗は、獅子王機関の舞威姫、煌坂紗矢華と合流していた。

どうやら、脱獄囚、シュトラ・Dと激しい戦闘を行っていたらしい。 合流してすぐに、紗矢華の視線が、幼い那月に注がれた。

 

「空隙の魔女……本当に小さくなってたのね。 実物は……なんて言うか」

 

「予想以上に可愛かったですね」

 

紗矢華の言葉を引き継いで、雪菜が感想を述べる。

 

「まあ、見た目はな」

 

「だが、俺たちの恩師には変わりないぞ」

 

古城と悠斗も同意する。

 

「とりあえず、彼女は保護できたのね。 この後はどうするの?」

 

襲撃してきた脱獄囚たちは撃退できたが、事件は解決していない。

那月は幼くなったままだし、仙都木阿夜はまだ捕まっておらず、優麻も重症だ。

脱獄囚も、まだ何人か捕まっていない。

 

「MARに連れて行くよ。 ヴァトラーと煌坂のお陰で、那月ちゃんを狙っていた脱獄囚は、あらかた片付いたみたいだしな。 記憶が戻れば、優麻を助けてくれるかもしれないし」

 

「MARに連れて記憶を取り戻すのを待つ。 確かに、それが妥当だわな」

 

幼くなった那月を見下ろして、古城と悠斗が答える。

紗矢華と雪菜も、古城の案に不満が無かった。

だが、古城たちの判断に異を唱える声が、背部から聞こえてくる。

 

「あの使い捨ての人形を助ける、か。……その気遣いは不要……だ」

 

禍々しい悪意に満ちたその声に、古城たちは勢いよく振り向いた。

闇の中に立っていたのは、白と黒の十二単を着た仙都木阿夜だ。

 

「……仙都木阿夜か。 今度こそ監獄結界から出られないようにしてやる」

 

「……傷が癒えてるのか、紅蓮の熾天使」

 

睨み合う、阿夜と悠斗。

その迫力に、雪菜と紗矢華、古城は息を飲む。

また、古城たちは那月を庇って、身構えていた。

 

「あんたも、那月ちゃんを追いかけに来たのか!?」

 

阿夜は、悠斗から視線を外さず、

 

「そういきり立つな、第四真祖。 我は、空隙の魔女を殺しにきたわけではない。 むしろ、感謝しているのだ。 その女が、脱獄囚どもを引きつけておいてくれたお陰で、宴の支度も整った。 一度裏切られたとはいえ、さすがは、我が盟友()といった所か」

 

その瞬間、紗矢華が困惑を出した。

煌華麟の重量が増したように、突然輝きを失ったのだ。 呪力を送り込もうとしても、何の反応も返ってこない。

武神具としての機能が停止してるのだ。

 

「……魔力が消えた? 嘘!?」

 

紗矢華の動揺に気づいて、古城と雪菜が顔を見合わせる。

おそらく、魔力消失の減少の影響が、この港湾地区(アイランド・イースト)にも及んだのだろう。

 

「――(ル・オンブル)

 

阿夜が、自らの守護者を実体化させる。 漆黒の鎧を纏った顔のない騎士。

漆黒の騎士は、ゆっくりと古城たちに近づく。

 

「先輩!?」

 

「古城たちは那月ちゃんを連れて、一端離れるんだ! 此処は俺に任せろ!」

 

悠斗の前に出た、全身を稲妻で包んだ古城を見て、雪菜と悠斗が叫んだ。

真紅に染まった古城の瞳が、阿夜を睨みつけた。 前に突き出した右手から、黄金に輝く獣が現れる。

 

疾く在れ(きやがれ)獅子の黄金(レグルス・アウルム)――!」

 

雷雲の熱量にも匹敵する濃密な魔力の塊が、巨大な獅子の形を取って出現した。

天災を具現化したような破壊の塊が、雷光の速度を持って、立ち尽くす阿夜に向かって突撃する。 それを見ても、阿夜は表情一つ変えなかった。

 

「さすがだな……まだそれだけの余力は残していたか」

 

感心したように呟いて、阿夜が虚空に文字を書いた。

光り輝くその文字を、雷光の獅子が薙ぎ払う。 その瞬間、

 

「――なっ!」

 

古城が呼びだした眷獣が、突如姿を消したのだ。

衝撃も異音も感じられなかった。 微風すら後に残らない。 まるで、最初から存在しなかったように、雷光の獅子は姿を消したのだ。

否、消滅したのは眷獣だけではない。古城からも魔力の波動が失われる。

第四真祖の魔力を失った古城に残されたのは、男子高校生の肉体だけだ。

 

「先輩の力が……そんな……」

 

巨大な魔力の消失を感じて、雪菜が呆然と首を振る。

阿夜は優美に微笑んで、

 

「これが闇誓書だ。 第四真祖。 ここでは、我以外の異力は全て失われる。 それが真祖の力でもな」

 

彼女の言葉が終わる前に、微かな衝動が古城の体を震わせた。

顔のない騎士の巨剣が、古城の胸に突き立っていたのだ。

がふっ、と古城は血を吐いた。 激痛のあまり声が出せない。 不老不死の力を奪われた今の古城にとっては、その一撃は致命傷になった。

 

「暁古城――!」

 

膝から崩れ落ちていく古城を抱き留めて、紗矢華が叫んだ。

そんな紗矢華の背中目掛けて、黒騎士が剣を振り上げる。

 

「――雷球(らいほう)!」

 

悠斗が右掌から放った雷球が、漆黒の騎士の剣を弾いた。

悠斗は、新たな眷獣の能力で、闇誓書の力を無効化させたのだ。

 

「ああああああああああ――!」

 

そして、叫び声を上げた雪菜が、呪術によって強化した筋力で疾駆した。

彼女が持つ雪霞狼が、眩い破魔の光を放ち騎士の胸元を突き刺した。

 

「雪菜!」

 

紗矢華は驚きの声を上げた。

真祖の力さえ無効化される空間の中、雪菜は呪力を失わず戦えていたのだ。

 

「やはり、そうか。 我の世界を拒むか、獅子王の剣巫。 紅蓮の熾天使」

 

まるでそうなる事を知っていたような口調で、阿夜が微笑する。

空間転移によって、彼女の守護者が移動し、敵を見失った雪菜の雪霞狼が空を斬った。

彼女が出現したのは、雪菜と悠斗の背後に立ち尽くすサナだ。

 

「それでこそ我が実験の客人に相応しい。 わざわざ迎えに来た甲斐があったというものよ。 まずは汝からだ。 獅子王の剣巫よ」

 

阿夜は、悠斗と雪菜の一瞬を突き、召喚したのは、鳥籠の檻だった。 直径四、五メートルもありそうな檻が、雪菜を閉じ込めるような形で実体化した。

そして雪菜の姿が、鳥籠ごと消え去った。 空間転移によって何処かに飛ばされたのだ。 阿夜と黒騎士、そしてサナの姿も消えている。

 

「まさか、あいつの目的は那月ちゃんじゃなくて……姫柊だったのか……どうして……」

 

「……そうか。 那月ちゃんじゃなくて、姫柊を捕まえる為に此処に来たのか」

 

血まみれの古城が苦しげに呻き、悠斗は空を見上げながら呟いた。

 

「暁古城! しっかりしなさいよ、あんた、不老不死の吸血鬼なんでしょう!? ねえ!」

 

倒れる古城を抱きしめて、紗矢華が泣きながら叫んでいる。 涙でくしゃくしゃな彼女を見上げて、ごめん、と呟き、古城は意識を失った。




悠斗君。闇誓書の力を無効化出来ちゃうなんて!(驚愕)
まあ、5年前の事件の時も、この力で無効化してたんで、魔力が行使出来たんです( ̄▽ ̄)

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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