ストライク・ザ・ブラッド ~紅蓮の熾天使~   作:舞翼

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違う作品と同時連載はきついっすな。
でも、気合いで書きあげました。ご都合主義満載です(笑)
では、投稿です。
本編をどうぞ。


観測者たちの宴Ⅳ

港湾地区(アイランド・イースト)の大浅橋に、その船は悠然と停泊していた。

大型船舶の寄港が多い絃神島でも、特に人目を惹きつける豪華客船だ。

その船内に居心地悪く、古城と悠斗は立っていた。 また、古城の右手には、携帯電話が握られている。

電話の相手は、雪菜だった。

連絡が取れなくなった古城を心配してだろう。 彼女には、隠しきれない怒りの声も入り混じっている。

彼女がいるキーストーンゲートの周囲は、脱獄囚との戦闘の痕跡が生々しく残っているらしい。

気絶した特区警備隊(アイランド・ガード)を運ぶ救急車のサイレンや、人々の悲鳴、野次馬たち排除する警官の怒号が電話越しにハッキリと聞こえる。

 

『オシアナス・グレイヴⅡですか……。 それって、アルデアル公のメガヨットですよね? どうして、先輩がそんな所に?』

 

「いや、まあ……成り行きで」

 

『も、もしかして、神代先輩も一緒ですか? アルデアル公と戦闘になったら……』

 

おそらく雪菜は、電話口で顔を強張らせているだろう。

悠斗とヴァトラーが衝突したら、この島に甚大な被害が出てしまうのだから。

スピーカー越しにこの会話を聞いていた悠斗は、唇を歪めた。

 

「俺を蛇野郎と一緒にするな。 まあ、ヴァトラーが那月ちゃんに手を出そうとしたら、戦闘になってたけど。――浅葱と那月ちゃんの安全は俺が保証するから心配するな。 古城は……何とかなるはずだ。 第四真祖だし」

 

『ですが、暁先輩は負傷していて、力がまともに出せないんじゃ』

 

「そこは、監視役の姫柊の出番だ」

 

何とも投げ槍の回答に、雪菜は溜息を吐いていた。

 

『わかりました。 神代先輩は、アルデアル公と揉め事は起こさないでくださいね』

 

「いや、まあ、善処する」

 

悠斗は、歯切れ悪く答える。

 

「後は、古城に愚痴を言ってくれ」

 

「お、おい。 そりゃないぜ」

 

古城の声は、徐々に萎んでいった。

その後古城は、電話越しに雪菜に謝っていたが。 妻に怒られてる旦那のような光景だ。

悠斗が、甲板上へ移動しようと通路を歩いていたら、見知らぬ誰かが近づいて来た。 銀色のタキシードで、見た目は15歳位だ。 小柄で、優しげな少年である。

少年は片膝を突け、悠斗に頭を下げた。

 

「初めまして、紅蓮の熾天使様。 僕は、忘却の戦王(ロストウォロード)の血族、キラ・レーベデフ・ヴォルティズラワと申します。 御身の極東の魔族特区に(まか)り越しながら、ご挨拶が遅れた非礼、どうかお許しください」

 

悠斗は、片手を振った。

 

「そんな挨拶はいらん。 てか、此処は俺の領地じゃねぇから。 第四真祖の領地だぞ」

 

「なるほど。 孤独を好み、領地を持たない。――アルデアル公が仰っていた、人物通りのお方ですね」

 

「……あの野郎、人の事を話しやがって。 はあ、俺は自由に生きたいだけだ」

 

領主になれば、その土地を収める義務できる。

悠斗は、此れが面倒くさい事だから、領地を持たないだけである。

 

「で、俺になんのようだ? 戦うはなしだぞ」

 

キラと名乗る少年は、微笑みながら首を振るだけだ。

 

「そんな事は申しません。 僕と紅蓮の熾天使様が戦闘になれば、結果は目に見えてますから。――僭越ながら、お召し替えを準備致しました。 よければ、湯浴みを、と」

 

今現在の悠斗の服装は、激しい戦闘で、所々に切れ目が入っている。

 

「この事件が解決するまで、風呂には入らん。 てか、この船で風呂とか、想像しただけで背筋が凍る。 俺はいいから、古城の所に行ってやれ。 あいつの方が、俺よりひでぇしな」

 

キラは立ち上がり、

 

「請け賜りました。 僕は、第四真祖の元に向かいます」

 

優雅に礼をして、キラはこの場を後にした。

悠斗はそれを見送りながら、

 

「古城の奴、変な事にならなければいいが。 あいつ、ラッキースケベだからな」

 

ありそうだな。と呟き、悠斗は甲板上へ出向き、夜風に当たりに行くのだった。

 

 

♦♦♦♦♦♦♦♦♦♦

 

古城が風呂から上がり、寝室に移動したと聞いた悠斗は、寝室の扉をノックして返事を聞かずに開け放った。

其処には、のろのろと上体を起こし、カサカサの唇をした古城が映った。

 

「はあ、やっぱりラッキースケベをかましたのか、ハーレム変態古城」

 

「す、好きでやったんじゃねぇ。 てか、ハーレム変態ってなんだよ!」

 

古城が、頼りなく反論した。

古城の隣では、浅葱が顔を真っ赤にしている。 此れで気づかない古城は、ザ・唐変朴である。

ちなみに、浅葱の私服が古城の血で汚れてしまった為、ヴァトラーが用意した浴衣を着ていた。

 

「それで、那月ちゃんが監獄結界の鍵っていうのは、本当(マジ)なわけ?」

 

ベッドをトランポリン代わりに遊んでいるサナに聞こえないよう、声を潜めて浅葱が聞いてくる。

魔族特区の住人だけあって、那月が幼児化している。という異常事態を受け入れてるらしい。

 

「そうだ。 那月ちゃんは、監獄結界の鍵で間違えない。 記憶をなくして幼児化してるのは、脱獄囚の魔女が持っていた魔導書の呪いらしいが。 那月ちゃんは、俺が護るさ。 まあでも、待ってる人の為に死ねないけどな」

 

浅葱は尤も、鈍感な古城でも、悠斗が言った人物は想像がついただろう。――悠斗の帰りを待ってる人物が。

 

「呪い?」

 

「そう、呪いだ。 経験や時間を奪う魔導書だ。 魔導書の名までは分からんが」

 

監獄結界で聞いた脱獄囚たちの会話を思い出しながら、悠斗は答える。

浅葱は眉を潜めた。

 

「それって、固有堆積時間操作(パーソナルヒストリー)の魔導書ってこと? そんなの禁呪クラスの危険物じゃないの?」

 

「そんな危険な物を扱ってるんだから、監獄結界に入れられたんだろ」

 

古城は、幼くなった那月を見ながら言う。

 

「なるほどね……」

 

浅葱が深刻な表情で頷いた。

監獄結界の囚人たちが脱走した。という事件は、古城たちではなく、絃神島全住民にとって大問題の事柄でもあるのだ。

 

「それで古城たちは、優麻さんのせいで、その事件に巻き込まれたってわけ」

 

「流石、電子の女帝さまだな。 其処まで分かるとは」

 

悠斗の言葉に、浅葱はムッとした。

 

「わたし、その呼び名あんまり好きじゃないんだけど。 まあいいわ。 人工管理公社の記録で見たのよ。 5年前に、仙都木阿夜って魔女が闇誓書事件ってのを起こして、那月ちゃんに逮捕されたって、あと一人、少年ぽい人物も映っていたけど。 優麻さんは、その事件の関係者なんでしょ? こんな珍しい名字、ただの偶然じゃないわよね」

 

浅葱が言ってた少年とは、おそらく悠斗の事かもしれない。

 

「そう……か」

 

古城は思いがけない種明かしをされ、きつく唇を噛んだ。

仙都木阿夜と那月、また悠斗の戦闘は、5年前の記録が残っている。 考えてみれば、当然の事だった。

その直後、浅葱を呼ぶ声が届く。

 

「ママ」

 

ベットの上に正座したサナが、焦点の定まらない瞳で浅葱を見ていた。

浅葱は困惑したように、サナに顔を寄せた。

 

「サナちゃん? どうしたの?」

 

「眠い」

 

「ああ……もうこんな時間だものね」

 

深夜零時近くを指している時計を眺め、浅葱は苦笑し、ベットに横たえたサナに添い寝して、三つ編みにした彼女の頭をそっと撫でてあげる。

サナは胸元に顔を埋めて、安心したように目を閉じた。 そのまま規則正しい寝息を立て始める。

 

「浅葱は、那月ちゃんの母親みたいだな。 もちろん、父親は古城な」

 

悠斗は、浅葱と古城を交互に見ながら呟く。

古城は、何でオレが父親?と首を傾げていたが、浅葱の顔は、見る見る紅潮していくのが分かった。

まあ、古城との夫婦生活を想像したのだろう。

 

「そういえば、お前って以外に浴衣似合うな」

 

古城は、この話題を長引かせるのがマズイと思ったのか、露骨に話題を逸らした。

まあでも、古城の言う通り、浅葱の浴衣姿はとても似合っていた。 古城以外の男子なら、落とす事が出来る魅力がある。

 

「……あんまりジロジロ見ないでよね。 今、殆んどスッピンなんだから」

 

「いや、そっちの方がモテと思うし、可愛いと思うだが」

 

「は!?」

 

浅葱はこめ髪の部分で、何かをぶち切らした。

浅葱は履いていた下駄を脱ぐと、それを右手で持ち、アッパーカットの要領で古城の顔面目掛けて思い切り叩きつける。

鈍い音が響き、古城は顎を押さえて苦悶した。

このやり取りを見た悠斗は、何故浅葱をこのような恰好になったのか、何故古城に好意を持ったのか。という大体の予測が出来たのだった。

 

「痛ェな。 何だよ、急に。 つか、下駄で殴るか普通!?」

 

「あんたがわたしに言ったからでしょうが! 地味すぎるから、もう少し見た目に気を遣え、とか何とか。 だからっ――!」

 

悠斗は、呆れたように古城を見る。

 

「古城。 自身が浅葱に何を言ったか忘れるなんて、最低だぞお前。 お前の言葉が、今の浅葱の恰好に繋がってるんだからな」

 

浅葱は、小さく首肯した。

 

「えぇ!? そ、そうなのか?……いや、確かにそうかもしれないけど……」

 

「まったく、浅葱はこれからも苦労するな。 古城は、超がつく鈍感だぞ。 そんな男に、美女が集まってるんだし」

 

浅葱は唇を尖らせた。

 

「わ、わかってるわよ。 そんなこと」

 

その時、眠っていたサナが突然立ち上がり、目を見開いた。

彼女が纏う気配に、古城たちは困惑する。 今のサナは普通の状態ではない。 いや、今までも普通ではなかったかもしれないが。

そんな古城たちが見守る中、サナは大きく息を吸った。

 

「――――ナー・ツー・キュン!」

 

「「「は?」」」

 

可愛いポーズを作って、彼女はベットの上で声を上げた。

古城たちは、彼女の豹変に呆気に取られるだけだ。

右手で作ったピースサインを高々と掲げたまま、虚ろな瞳で歩き出す。

彼女は、腹話術師のように殆んど口を動かさずに、何を呟き始めた。

 

「主人格の睡眠状態への移行を確認。 徐波睡眠で固定。 潜在意識下のバックアップ記憶領域へと接続。 固有堆積時間操作(パーソナルヒストリー)の復旧を開始します。 復元完了まで残り1時間59分」

 

「な、なんだこれ?」

 

「那月ちゃんの記憶が戻った……とか」

 

「いや、バックアップ用仮想人格だな」

 

サナの姿を見ながら困惑の表情を浅葱と古城は浮かべ、悠斗は現在の那月を冷静に分析していた。 流石の洞察力である。

 

「そこの坊やの正解。 わたしは、南宮那月のバックアップ用仮想人格です♪」

 

てへ、と舌を出しながら、可愛らしいポーズを取るサナ。 流石の古城も、この状況に慣れてきたらしい。

 

「いや、キュンとか言ってる場合じゃねぇだろう……」

 

「那月ちゃんの抑圧された潜在意識って、こんな人格だったんだ。……何か以外というか、納得したというか……」

 

浅葱も疲れたように呟く。

どうやら今の那月は、予め用意していた仮想人格で動いてるらしい。

今回のように敵に襲撃を受け、本来の記憶が失われた時、一時的に仮想人格が出現して、記憶を回復させるという特殊な術を自身にかけていたのだろう。

 

「バックアップから復旧……ってことは、このまま元の那月ちゃんに戻るのか?」

 

古城が微かな期待を込めて聞いてみるが、仮想人格の那月は、ベットの上で一回転した。

 

「残念! さすがにそれは無理かもー。 記憶はともかく、この体だと魔力を行使する反動に耐えられないと思うしー。 そもそも、魔力が足りてないし」

 

「……なるほど。 仙都木阿夜が持つ、魔導書を破壊すれば、元に戻るってことだな」

 

悠斗が納得したように呟いた。

 

「そのとおりー。 でもでも、あと十年くらい待てば元の体に成長するから、それまで待つっていう手もあるキュン?」

 

「そんなに待てねェよ!」

 

古城は苛立ちを覚えながら、深々と溜息を吐いた。

その時、船内に埋め込まれていた薄型の液晶テレビが点灯した。 振り向く古城たちの前で、CG映像のぬいぐるみが浮かび上がる。

 

『……ようやく繋がったぜ。 譲ちゃん、聞こえるか?』

 

「モ、モグワイ!?」

 

テレビの中のぬいぐるみを見て、浅葱が呻いた。

 

「……あんた、何でそんな所から出てきてんの?」

 

『譲ちゃんが、スマホの電源を切ってたもんでな。 放送電波経由でハッキングさせてもらたんだ。 悪いが、また厄介なトラブルが起きたみたいだ。 手を貸して欲しいんだが』

 

「あっそう、嫌よ」

 

浅葱は躊躇なく答えて、テレビを消した。

しかしテレビは再び点灯し、土下座姿のモグワイが姿を現す。

 

『そこを何とか頼むぜ』

 

「絶対に嫌。 あんたね、ただのバイトの学生にどんだけ働かせるのよ。 あんたのせいでこっちは、祭り初日を丸っきり台無しにされたんだからね」

 

その時、悠斗がこの会話に口を挟む。

 

「待て、モグワイ。 この違和感の正体の事を言ってるのか?」

 

浅葱は、悠斗とモグワイが知り合いだという事に驚いていたらしいが、それを説明してる暇はない。

 

『お、流石紅蓮の坊ちゃんだぜ。 そうだぜェ、彩海学園の校舎中心に、妙な空間が発生してやがる。 その中で、魔術を使ったデバイスが動かねーし、発動していた魔術もキャンセルされちまうらしい』

 

「……全ての魔術が無効にされるってことか」

 

『いい勘してるぜェ、紅蓮の坊ちゃん。 端的にいえばそうだなァ』

 

「ふーん、平和でいいじゃないのよ」

 

浅葱は軽い口調で言い返すが、悠斗が事の重大を指摘する。

 

「……浅葱、ここは魔族特区だぞ。 この人工島(ギガフロート)は、何に支えられてる?」

 

「あ……」

 

ようやく事の重大性に気づいて浅葱が呻いた。

絃神島は人工島。 超大型浮体式構造物(ギガフロート)を連結させて、太平洋上に構築した造り物の街である。

普通の技術では、人工五十万人を超える巨大都市を海上に浮かべて置くのは不可能だ。

絃神島は、魔術によって支えられているのだ。 魔術が無効化させるという事は、この島の壊滅を指してると言ってもいい。

 

「……浅葱、状況は最悪だ。 もし、このまま仙都木阿夜が儀式を行い続けたら、この島は確実に沈む」

 

「で、でも、どんすんの?」

 

浅葱が、困惑したように悠斗に聞く。

 

「俺たちが仙都木阿夜を止めるから、浅葱には、街の強度計算、強度対策、市民の避難誘導プログラムで時間を稼いでくれないか? それまでに何とかする。――モグワイ、浅葱を管理公社に送る手配はしてあるんだろ?」

 

『してあるぜ。 この船を下りた所に迎えをが来る、それに譲ちゃんは乗ってくれ。 ケケ』

 

その時、モグワイを映していた液晶テレビがブラックアウトした。

甲板上では爆発が起き、オシアナス・グレイブⅡの船体が激しく揺れる。

 

「ッチ、やっぱ早いな。 脱獄囚」

 

舌打ちした悠斗は、この揺れの原因がすぐに予想できた。

おそらく甲板上では、ヴァトラーと脱獄囚が戦闘になっている事だろう。

 

「監獄結界の脱獄者ニャン。 正面から、この船に乗り込んできたみたいニャ」

 

窓の外を眺めて、仮想人格の那月が言う。

その時、夜空が爆炎で真紅に染まった。 濃厚な魔力が大気を満たす。 常軌を逸脱した魔力の波動だ。

おそらく、ヴァトラーが眷獣を召喚したのだろう。

また、炎に包まれた船体の一部が、破片を撒き散らして砕け散る。 何か甲板に、凄まじい勢いで叩きつけられたのだ。

爆発の中央で倒れていたのは、ヴァトラーだった。 脱獄囚を迎え撃とうとしたヴァトラーが、逆に吹き飛ばされたのだ。

古城は浅葱を、悠斗が仮想人格の那月の手を引き船室から飛び出した――。




えー、この小説はタグにある通り不定期なので、何卒よろしくお願いしますm(__)m
まあ、間隔は空けないように頑張ります!!

ではでは、感想、評価、よろしくお願いします!!

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